自然史博物館 - みる会図書館


検索対象: 「自然史博物館」を変えていく
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1. 「自然史博物館」を変えていく

3 ー 4 より広域の地域間をつなぐ 5 、←西日本自然史博物館ネットワーク発足にあたって一 山西良平伏阪市立自然史博物館館長、洒日本自然史博物館ネットワナク事務局長 ) 1 「環瀬戸内」ネットワーク 世紀の変わり目であった 2000 ~ 2001 年、関西の自然史系博物 館 7 館が手をつなぎ、「環瀬戸内地域 ( 中国・四国地方 ) 自然史系博 物館ネットワーク推進協議会」を設立して活動しました。その 2 年間、 「絶滅危惧生物ネットワーク」「里山総合学習支援ネットワーク」「イ ンターネット GIS システムの整備」を柱とした事業に共同で取り組み むとともに、大阪でのシンポジウム「博物館を使いたおす一自然史系 博物館の役割と未来ー」、自然史系博物館が空白の大都市である広島 を敢えて選んで実施した講演とフェスティバル「瀬戸内の自然ー自然 史博物館で学ぶあなたの町の自然」などのイベントも開催し、自然史 系博物館の存在を社会に広めようと、各館が力をふりしぼって取り組 みました。 これは文部科学省の「科学系博物館活用ネットワーク推進事業」の 一環として委嘱されたものですが、自然史系の博物館としてはおそら く初めての相互連携の試みでした。大阪市立自然史博物館はその事務 局館を担当しましたが、連携によって得るところがいかに大きいもの であるかを、身をもって経験することができました。事業の成果は冊 子『「地域の自然」の情報拠点自然史博物館』 ( 環瀬戸内地域 ( 中国・ 四国地方 ) 自然史系博物館ネットワーク推進協議会編著、高陵社書店発行、 2002 年 ) に収録されています。 1 10 第 3 章地域との連携

2. 「自然史博物館」を変えていく

なぎ、その核となる自然史系博物館がつながることで相互に扶助して いく。西日本自然史系博物館ネットワークは、社会の中で自然史博物 館に対する期待を受けとめて、様々な形で実現していくために必要な 組織として今後も発展を図りたいと考えています。 地域の 地域の学校団体 学校団体 学校 Os 友の会 (NPO) 学校 地団 学 地域の 団体 : ー 0 、 000 団体 友の会 (NPO) 学校 0 トー 博物館 博物館 友の会 (NPO) 博物館 図 4 広域ネットワークのイメージ図 広域のネットワークで小さな拠点もその周辺の市民コミュ二テイもそのメリットを受けることが できる 124 第 3 章地域との連携

3. 「自然史博物館」を変えていく

自然に少し興味があるだけの初心者から、高度な専門知識をもった ハイアマチュア、さらには専門家まで。さまざまな活動スタイル、さ まざまな地域性、さまざまな対象へのこだわり。博物館コミュニティ が、こうした幅広いニーズに応えていくためには、何が必要でしよう。 その答えの一つが、博物館周辺で活動するさまざまなサークルの存在 です。 3 博物館コミュニティにおけるサークルの意義 ここでは、自然史関連の観察、調査研究、保護活動など、自然と関 わりのある活動全般を行う博物館以外の団体を、すべてサークルと呼 びます。サークルは、アマチュアが自然に関わった活動を進めていく うえで、とても重要な場を提供します。さまざまな活動の入口であり、 さまざまな人と交流して情報を得る場であり、一人ではできない活動 を展開する場でもあります。 前述のように博物館コミュニティとの関わりのなかで活動すること によって、サークルは博物館という場や施設、標本や文献といった資 料、学芸員のもつ専門知識などを利用することができます。一方、博 物館コミュニティとしても、さまざまなサークルが周辺に存在するこ とは、さまざまな角度からユーザーを呼び込む窓口になります。博物 館を舞台に多様なサークルが活動することは、すなわち博物館コミュ ニティ全体の窓口を広げることにつながるのです ( 3 ー 1 のイメージ図 また、地域の自然の情報センターであるべき自然史博物館は、常に 地域の自然に関する情報を求めています。こうした地域性の強い情報 は、個別のサークルの協力なしには十分集めることができません。 サークルはしばしば特定の生物群などに特化した活動を展開してい ます。その中には、プロの研究者を交えた専門性の高いサークルも存 在します。さらに、特定のフィールドを決めて、その場所を中心に活 動しているサークルも少なくありません。こうした多様なサークルの 3-2 博物館とサークル 87

4. 「自然史博物館」を変えていく

図 3 設立総会 ( 2003 年 9 月、大阪 ) く、過疎化による農山村の荒廃も相俟って、人々と自然とのつながり は希薄になる一方です。このような深刻な現状のなかで「新しい時代 における自然と人間とのつき合い方の『礼儀』『作法』の再構築」をめ ざした「自然史文化」が提唱されています ( 中瀬勳「 21 世紀の自然史系 博物館に求められているもの」、前掲の『「地域の自然」の情報拠点自然史博 物館』 124 ー 139PP. に収録 ) 。そこでは市民や関連団体、行政などによる「協 働」「パートナーシップ」が新しい担い手として着目され、それを育成 する役割が自然史系博物館に求められています。西日本自然史系博物 館ネットワークはこのような自然史文化の構築をめざす連携組織とし て誕生したところです。 1 1 6 第 3 章地域との連携

5. 「自然史博物館」を変えていく

るようになります。実際、 1 回目のフェスティバルよりも、 2 回目のほうが、 水槽などを使った生き物の展示が増え、来場者が参加できるような形の 企画が増え、見て参加して確実に楽しいものになっていました。 2 回の開催で、大阪自然史フェスティバルは、それなりに軌道に乗 ったようです。今後も、大阪自然史フェスティバルを続けていきます が、一応の枠組みはできあがったのではないかと思います。 そこで、一定の段階に達した今こそ、あらためて初心に立ち返り、 そもそもフェスティバルの目的が何であったか整理し、目的がどの程 度達成されたかを検討し、これからの展開の可能性について考えてお きたいと思います。 1 そもそもの大阪自然史フェスティバルの思惑 大阪自然史フェスティバルを開催しようと思い立った最初のきっか けは、とても単純なことでした。 大阪市立自然史博物館には、約 1800 世帯規模の友の会があるほかに、 数多くのサークルが博物館と密接に関係しながら活発に活動していま す。学芸員の仕事の少なくない部分が、サークルの運営やサークルと のやりとりに費やされています ( 詳しくは 3 ー 2 参照 ) 。しかし、友の会 会員の多くは、博物館の周辺でどんなサークルが活動しているかを驚 くほど知りません。そんなサークルがあるなら、もっと早く知りたか ったという不満を聞くことすらあります。せめて、友の会会員に博物 館周辺にどんなサークルがあるのか伝えたいと思いつつ、有効な手段 を思いつかずにいました。ーっーっのサークルを友の会の会報で紹介 することも考えたのですが、サークルの数はあまりに多いのです。 そんなことを考えつつ時間が経った 2002 年のこと、なにかイベン トをしようという話が持ち上がりました。そこで、思いついたのが大 阪自然史フェスティバルです。博物館周辺で活動しているサークルを 一同に集めて、友の会会員に来てもらえばいいんだ ! そこから手探 りでの大阪自然史フェスティバルの企画が始まりました。 96 第 3 章地域との連携

6. 「自然史博物館」を変えていく

存在は、初心者向けになりがちな、博物館の観察会や、友の会の活動 では飽き足らない層にとって、一つのステップアップの方向を提供し ます。より専門性の高い方向を目指す人は、そうしたサークルを通じ、 さらには学会などより高度な専門家集団への道が見いだせます。地域 に根付いた活動がしたい人は、地域を中心に活動しているサークルに 活動の場所を求めることができます。 また博物館の立場からすると、友の会の規模が大きくなったとき、 個別のサークルは特定分野の普及教育活動のターゲット集団としても 重要になります。大きすぎないサークルは、効率的な自然史科学の普 及や、さまざまな働きかけがしやすいのです。さらに、資料収集・調 査研究での協力を求めることを考えたときにも、専門性が高く、人数 も手頃なサークルは、有効に機能するパートナーになり得ます。 このように、博物館と友の会にサークルを加えた博物館コミュニテ ィを考えたとき、多様なサークルの存在は、博物館コミュニティに多 様な窓口を提供すると同時に、多様なステップアップの方向性を提供 します。もし、あるニーズに対するステップアップの道、すなわち適 当な友の会活動やサークルがなければ、新たなサークルを立ち上げる ことでの対応も可能になります。サークルの存在は、柔軟に博物館コ ミュニティを発展させていくうえで、なくてはならないものです。 4 大阪市立自然史博物館におけるサークルの位置付け 現館長が新人学芸員として採用されたとき、「博物館は開かれた大 学」「サークル育成は学芸員の仕事」と、当時の館長や学芸課長から 言われたそうです。それに基づいて、自らも大阪湾海岸生物研究会と いうサークルを立ち上げたといいます。これは、大阪市立自然史博物 館のサークルへのスタンスをよく表しています。サークルの育成は、 学芸員の重要な仕事の一つなのです。既存のサークルをさまざまなス タンスでサポートすることもありますし、博物館ユーザーの間からで きてくるサークルの世話をすることもあります。必要とあれば学芸員 88 第 3 章地域との連携

7. 「自然史博物館」を変えていく

2 ー 1 子どもと博物館をつなぐ 佐久間大輔 ( 大阪市立自然博物学芸員 ) この章で紹介するのは、展示室の楽しみ方をちょっと改善する試み です。なかでも、子ども向けのメッセージ発信を重視した取り組みを 紹介します。私たちがあらためて今、子ども向けの取り組みを重視し たのには、二つの理由があります。ーっは、前章で紹介したような遠 足での混雑という、けっして十分でない博物館体験の中でも、少しで もしつかりと子どもたちにメッセージを伝えたいと思っていること。 もうーっは、大人経由の子どもへのメッセージ発信だけではなく、子 ども自体の興味をもっと直接掘り起こしたい、と思っているからです。 これらは、学校との連携を強める中で浮かび上がってきました。前 者はもちろん、後者も学校利用をきっかけとして、子どもたちをリピ ーターへと取り込むための工夫だとも言えます。博物館に通う子ど も、博物館で学習していく子ども、大人になってもずっと学習してい く市民を育成する上で大切なステップです。平塚市博物館の浜口哲一 さんは遠足博物館、放課後博物館という対置を試みていましたが、実 際、多くの博物館はその両方の役割を担っています。両方を担ってい るからこそ、遠足できっかけをつくり、「一回見ておしまい」ではない、 継続的な学習への誘導という一連の取り組みが可能になります。再来 館したくなる、放課後に何度も来たくなる博物館になるために、子ど もへのメッセージ発信の改善をしてみたのです。 自然史博物館の展示室では、どのようなメッセージ発信がふさわし 52 第 2 章子どもに楽しく、きちんと伝えるために

8. 「自然史博物館」を変えていく

おわりに 0 つなぎ役としての NPO の重要性 2002 年に出版した『「地域の自然」の情報拠点自然史博物館』は、 西日本各地の博物館学芸員自らが、共同事業を通して自然史博物館の 今日的なあり方を探り、あるべき姿を再定義する試みでした。それは 自然史系博物館の機能を学術的あるいは社会教育的な役割をふまえっ つ、さらに自然の保全や再生をめざす環境の情報拠点として、活動の 場として社会的に機能する姿といえます。 この議論をふまえ、大阪市立自然史博物館は二つの NPO の輪の中 に自らを位置付けて活動を展開しています。すなわち、地域に根を張 り大阪周辺の自然好きと博物館とを結びつける「特定非営利活動法人 大阪自然史センター」、そして環瀬戸内地域 ( 中国・四国地方 ) 自然史 博物館ネットワーク推進協議会の理念と経験を受け継ぎ、さらに未来 の自然史博物館活動を開拓して行くべく設立された「特定非営利活動 法人西日本自然史系博物館ネットワーク」の二つです。博物館は、 市民のために存在する教育・学習施設であり、より多くの市民と、よ り緊密な連携のもとでこそ、よりよく機能できると考えています。そ のためには、こうした広く、強いつながりを持っための「つなぐしか け」が重要だと考えています。博物館側に連携を強く意識するしつか りとした担当者と、博物館の外にはあっても博物館と市民の間にあっ て様々な調整、サービスの提供を行う「つなぎ役」の両者がいること によって、効率的でスムーズな事業展開が可能になる、というのが私 たちの得た教訓です。 本書は主に 2004 年までの活動 ( 科学系博物館教育機能活用事業 ) を中心に、その試行錯誤にまみれた経験を事業ごとにまとめたもの です。上述の二つの NPO との連携の上で、様々な対象と博物館とを おわりに 125

9. 「自然史博物館」を変えていく

3 ー 5 広域ネットワークと 、、、地域ネットワークをつなぐ ー = ′一日比一伸子。 ( 橿原市昆虫館学芸員 ) ) , ヾ・佐暠大輔 ( 大阪市立自然史博物館学芸員 ) 1 はじめに 2000 年から 2002 年にかけて活動した「環瀬戸内地域 ( 中国・四 国地方 ) 自然史系博物館ネットワーク推進協議会は、各地域の自然史 系博物館を地域の核にして、その地域間を結ぶネットワークとして企 画されました。 3 ー 2 、 3 ー 3 で述べてきた「地域と結ぶ」核になる自 然史系博物館を、相互に扶助するための広域組織というイメージです。 それでは、地域の核が十分に確立されていない場合にはどうすればい いのでしよう。自然史系博物館はどこの地域にでもあるわけではなく、 そうした地域にも自然を愛する人、自然を学びたい人はたくさんいま す。私たちもこれまでの経験から自然史系博物館空白域における自然 史博物館へのニーズを知っており、広域サポートができないものかと も考えていました。 広島で 2002 年に行ったシンポジウム「一日だけの自然史博物館」 はこの空白域のニーズへの一つの挑戦でした。各地には「自然史系博 物館をつくる会」などの運動もあります。しかし、もし博物館が「活 動する機関」としてでなく「ハコモノ」と世の中から見られているの であれば、その実現に向けた支援の広がりは、厳しい状況にあるでし よう。博物館活動の実態が見えないと理解はなかなか得られません。 わたしたちは、自然史系博物館ネットワークとして、広島のような「自 然史系博物館空白地域」に出前をし、実際の活動を見せることにした 3-5 広域ネットワークと地域のネットワークをつなぐ 117

10. 「自然史博物館」を変えていく

方向を考えることができます。 また、観察会などの行事自体を共同で開催するということも考えら れます。実際、フェスティバル後、自然史博物館といくつかの団体で 共催行事を実施する機会が増えています。しかし、まだまだ協働して、 分担して、自然史科学の普及を図っていくといったスタンスにはいた っていません。また、博物館施設など、人的資源をもっている団体が、 他の団体の観察会などに講師を派遣するといったやりとりも考えられ ます。共催行事にしても、講師の派遣にしても、現段階では単発の繰 り返しにすぎません。もっと簡単に、相互に連携して観察会を開くな ど、活動を展開できる仕組みづくりが望まれます。 行事を共催するのではなく、単独でそれぞれの団体が活動を進めて いくにしても、複数の団体の企画や活動ノウハウの共有の機会がある といいかもしれません。フェスティバル自体をそういった機会にでき ればいいのですが、一般の入場者向けの展示や企画が多くなりがちな フェスティバルの場では、ゆっくりと意見交換するのが難しいという 現状があります。団体同士の交流のためだけの企画を別途もうけるの も一つの方策として考えられるでしよう。 大阪市立自然史博物館が、サークルなどの他団体に提供できるサー ビスにはさまざまなものがあります。それを広く知ってもらうのがフ ェスティバルの一つの目的でした。それはある程度達成されているも のの、結局はそれぞれの団体がよく知ってる学芸員に個人的に依頼す るというレベルにとどまっています。これは、博物館側の広報の問題 であると同時に、受け入れシステムの問題です。この点を含め、博物 館は他団体との関係を維持し、他団体の活動をサポートする仕組みづ くりをしていく必要があるでしよう。 フェスティバルの弱点として、一過性という問題を繰り返し取り上 げましたが、ネットワークを作るきっかけを与えるという意味では、 フェスティバルはきわめて強力な仕掛けとして機能します。この利点 108 第 3 章地域との連携