夏のように水全体が非常に安定をし動かなくなる季節は , 表 層と底層との差は大ぎくなるが , 春 , 秋のように上下の温度差 がなくなり , かっ全体がまざりやすい時期では , その差はほと んど見られなくなる。 * 溶存酸素量の測定方法 DO 測定器として , 酸素電極を使ったメーター , デジタル , 記録により , 正確にすばやく測定できる機器や , 化学分析のウ インクラー法があり , 広く使用されているところである。 では , 操作法がきわめて簡単で , しかも現場で迅速にできる簡 易測定法であるポナールキット DO 法 ( 和光純薬 , 同仁薬化製 造発売 ) を取り上げる。それは , 我々が生物の生活を観察する 際に , その生活反応や , 環境として , それそれの要因を測定す るが , 生物の動きや反応にあった測定は , たとえ簡易法であっ ても , 非常に効果をあげる場合があるのである。 ポナールキット DO 法は , 原理としては , 安定化された金属 イオン ( 2 価 ) を DO によって 3 価のイオンに酸化し , これを キレート試薬により定量するものと書かれている。したがっ て , 所定の定量ビンと試薬 A , B, C, D があって , 試薬はすべ ・本法の精度 ・測定方法・・・ ・・・錠剤法 検水本法山 s 法 ・測定範囲・・ ・・・ 1 ppm 単位 A 3.5 ~ 4.0 3.72 ・測定可能 pH 域・・・ 3 ~ 10 B 8.0 ~ 8.5 8.02 ・所要時間・・・ ・・・ 10 分位 C 1 1 . 0 ~ 1 1 . 5 1 1 . 1 0 ・ DO ( 溶存酸素 ) 測定操作法 ① 検水を測定ビン ー B 錠 ( 1 錠 ) を加え - て溶かし A 錠 ( 1 錠 ) を加 2 ~ 3 分放置 えて溶かす ④ ゞ C 錠 ( 2 錠 ) を加え - ー D 錠を 1 錠ずっ 褐 - て溶かし 第加えて淡黄色とー なるまで加える一 ー 2 ~ 3 分放置 D 錠の消費錠数で ppm を求めます。 1 錠 = 1 ppm 〔例〕 D 錠 7 鉱で色が変わったら 7ppm です。 ポナールキット DO 法による溶存酸素測定法 図 2 ー 16 ( 和光純薬 , 1974 ) 水の化学的性質とその測定方法 ィ 6 4
セットには , 表 2 ー 1 に示すような pH の幅広く測定できる標 こで対象としている一般 準液および指示薬が組まれている。 湖沼や池であれば , pH 5 ~ 10 の測定ができる標準液と指示薬 で十分である。 測定手順と特に注意することを述べると , 1 ) 最初に試験管に目盛り (5ml) まで試水を取るが , 前も って試験管を試水で洗う。試水を試験管にとるときには , 泡立つようなとり方はしない。空気との接触が大きいほ ど , その影響がでるからである。 2 ) 指示薬を専用の駒込ピペットで 0. 25ml 加え , こても 泡立っことのないように十分に攪拌する。ビペットの先を 試水や手でさわって汚さないように注意する。 3 ) 比色箱の前列中央に試水を置き , 左右に試水の発色に近 い標準液を入れ , pH を判定する。もし , 試水が濁りや着 色により判定しにくい場合には , 標準液の後列に , 別の試 験管に試水を入れ , 重ねて見ると判定しやすくなる。 T . B . P . R . C ・ R . T. B . 1.2 ~ 2.8 3.0 ~ 4.6 4.0 ~ 5.8 5.4 ~ 7.0 5.8 ~ 7.4 7.2 ~ 8.8 8.0 ~ 9.8 9.6 ~ 11.0 10.6 ~ 12.0 表 2 ー 1 指 pH の指示薬とその測定範囲 薬 ( チモール・プルー ) B ・ p ・ B . ( プロム・フェノール・フ・ルー ) B. C ・ G ・ ( プロム・クレゾール・グリーン ) B . C. P . ( プロム・クレゾール・パープル ) B . T. B. ( フ・ロム・チモール・プルー ) ( フェノール・レッド ) ( クレゾール・レッド ) ( チモール・フ・ルー ) T. P . L . ( チモール・フタレイン ) A ・ G. R. ( アリザリン・ゲルプ R) 小 pH 測定範囲 6.8 ~ 8.4 ※ よく使用される範囲 第 2 章生物の生息している環境と調べ方
- ◆酸素ビンを用いた植物プランクトンの光合成測定法 先に , ウインクラー法による溶存酸素測定法で説明した ように , 100m ーの酸素ビンを 1 点につき 6 本用意し試水を 満たす。 2 本を 1 組として , 1 組は直ちにウインクラー法 で定量し実験開始時の溶存酸素量を求める。もう 1 組のビ ンはアルミホイルでビン全体を包み , 少しの光も中に入ら ないようにする。これは暗ビンとよぶ。さらに 1 組のビン はそのままの状態で実験に移る。これは明ビンとよぶ。明 ビンと暗ビンは試水を採水した水中の層に , 4 本共に同じ 水位にあるように一定時間放置する。放置時間は植物フ。ラ ンクトンの密度によって異なるが , 富栄養的水域であれば 1 時間から数時間で十分である。それ以上長く放置するこ とは , ビン内の水の変化が大きくなりすぎるのでよくな い。一定時間後 , 直ちにウインクラー法で溶存酸素量を求 める。同時に測定しておかなければならないものに , 水温 , 水面と水中の照度 , 植物フ。ランクトンの量とクロロフィル 量がある。呼吸量および生産量のだし方は , 最初の溶存酸 素量を記号で C とし , 明ビンを L , 暗ビンを D とすると , 純生産量 = L ー C 呼吸量 = C ー D 総生産量 = 純生産量十呼吸量 以上は放置時間中の呼吸量であり , 生産量であるので , これをもとに 1 時間当たりの光合成速度や 1 日の光合成速 度を求める。 このようにして求めた生産量も , 植物プランクトンの量 的な変化や生理的な光合成の能力に影響されるものであ る。したがってさらに追究するには , 植物プランクトンの 現存量や , クロロフィルの測定をしなければならないが , フ。ランクトン 専門的に深く入るのでここでは省略する。 “ 8 1
表 2 ー 2 ウインクラー法による溶存酸素測定法 試薬① 塩化マンガン溶液 ( 固定 1 液 ) ② ョウ化カリ・カセイソーダ溶液 ( 固定 2 液 ) ③ 20 % 塩酸溶液 ④ デンプン溶液 ( lg / 100m / ) ( 指示薬 ) ⑤ 0.02N チオ硫酸ナトリウム溶液 ( 滴定液 ) ⑥ 0. IN ョウ素酸カリ溶液 ( チオ硫酸ナトリウム標定液 ) 器具① 酸素ビン ( 約 100m ~ 容量のビンを用い , 容積を測る ) ② ビュレット (50ml) とビーカー , 攪拌ガラス棒 ③ 固定 1 液 , 2 液 , 指示薬 , 塩酸用に各駒込ビべット 1 本 操作① 酸素ビンを試水で洗って静かに試水を満たす。 ② 固定 1 液に続いて 2 液を 0. 5m ~ ずつ加え , 栓をする。 ③ ビンを 30 回位転倒を繰り返し攪拌 , 暗所に 2 時間放置。 ④ 塩酸 2ml を加えよく転倒して攪拌。 ⑤ ビーカーに移し滴定液を加え指示薬で終点をきめる。 算式 02(mg/l, ppm ) = 80X0.02X100Xn + ( V ー 1.0 ) n は滴定液の量 , v は酸素ビンの容積 図 2 ー 15 ウインクラー法による溶存酸素測定 第 2 章生物の生息している環境と調べ方
* 湖沼生態系 生物の生活を考えるとき , 生物としてそれが生息している無 生物環境 ( いわゆる環境 ) は切り離して扱うことができない。 生物と環境とは互いに作用し合って一つの有機的な構造をつく り , これらの間にエネルギーと物質の安定した循環のシステム が存在している。このような生物的部分と無生物的部分とを包 含する自然を生態学では一つの系として認識し , これを生態系 ( ェコシステム ) と呼んでいる。湖もまたーっの生態系であ 生態系の研究には , まず湖沼生態系の質的構造を明らかに し , 次いでそれらの構成要素の量的測定を行うことである。そ して , 各構成要素の代謝研究を基にした生物生産の測定を行 い , エネルギーの流れ , 物質循環などの生態系の機能を明らか にすることが必要とされる。 湯ノ湖 ( 日光 ) 図 4 ー 1 2 ) 0
他の月では , 表面と底の温度差はきわめて小さく , 水温の循環 状態にある。 菅沼の水温の垂直変化をみると , 8 月の表面水温は 20 。 C を 超え , もっとも高い時期にあたるが , 水深 35m 以下では 5 。 C を割り , 完全停滞期に入っていることが明瞭である。それ以後 には表層では循環が始まり温度差がなくなると同時に表層全体 の水温が降下し , 躍層も小さくより深層へと移り , 12 月にはほ ぼ全体が同じ温度に低下する。 浅い湖沼では , 晴れた静かな日中では成層しやすいが , 夜間 の温度低下や風により上下の温度差がなくなる。深い湖では , 深層水は 1 年中ほとんど変わらず 5 。 C 以下の状態にある。 水温の測定方法 表面の水温測定には , 棒状温度計がもっとも手近で , しかも 正確に測ることができる。温度計の全体を水の中に入れて , 直 射日光をさけて 2 ~ 3 分おく。水銀 ( アルコール ) が落ちつい たところを見はからって , 目を直角の位置にして読みとる。 表面より深くしかも目標とする深さの水温測定には , 最高最 低温度計を使って測定できる。温度計をロープにつるし , 静か に目標の深さに沈め , 2 ~ 3 分ほどたって安定するのをまって 再び引き上げる。温度計は必ず水の中で読みとるが , 水温が 40c 以上の時は最低値の温度を , 40C 以下であれば最高値の 温度が水温を表している。これは , 淡水は 4 。 c の水がもっと も重く , それよりも水温が高くても低くても軽い性質があり , したがって , 水全体が 4 。 c 以上にあるときは , 底から表面に 向かうにしたがい水温は上昇し , 水全体が 40c 以下であれば , 底から表面にかけて水温は下がるが , 表面が凍ると 00C とな り , この水温が最低限度となる。 この温度計は , 深さを増すほど水圧の影響が大きくなるの で , 補正をする必要がある。補正するのには , 湖沼の水温が表 面から底まで温度差のない時期に , 各水深 ( 水圧 ) との関係を 36 2 湖沼や池の水温とその測定方法
1 ー 4 実験ー植物プランクトンの光合成の調べ方 湖沼や池にはさまざまな生物が生活しているが , われわれが どんなにきめこまかな観察ができたとしても , 各生物の基本的 な性質を知らない限りは , その観察の内容に新しい発見があっ ても , 見抜くことができない。植物フ。ランクトンが動物全体を 支えているとはよくいわれるが , その植物が基本的にどれだけ の活動力を持っているのかについては , その目的のための実験 を組み立てなければならない。 植物フ。ランクトンは光合成を行うが , その過程では太陽から の光エネルギーが固定される , すなわち有機物が作られる ( 有 機物生産 ) 。一方では , 生物として生きるために有機物が消費 されるが , エネルギーとしてみれば使いずみの役に立たないェ ネルギーが放出されることになる。これらの基本的な現象をと らえることは大変むずかしいことであるが , しかし , 植物の有 機物生産と同じ量の酸素放出量があり , また有機物消費量と同 し酸素消費量があることはわかっているので , この酸素量を測 定し , 光合成量を求めることによって知ることができる。 測定方法 : ポリバケッ 10Z ~ 20Z 容量のものを二つ用意し , のポリバケツに水を満たして直接この水に植物フ。ランクトンを 増やすか , 別の大型容器で増やしたものや , 池沼で植物フ。ラン クトンが多量に発生している水を使ってもよい 二つの容器に 同じ水をとり , 実験開始前に , 一方の容器は光を当てなくする ため , 容器の外壁とふたをアルミホイルで覆い , もう一方の容 器は光を当てるので , ふたをしないでおく。 測定は夜中から始め , 一日を 1 ~ 3 時間間隔にあらかじめ定 め , 溶存酸素量 , 水温 , 気温を測定する。光を当てる水の溶存 酸素量から , 「日の出」から「日の入り」までの酸素量の時間 変化量を計算する。これがみかけの光合成量 ( 純生産量 ) にあ たり , 光を当てない水の溶存酸素量から , 同じく酸素量の時間 ーーイ 1 プランクトン
自然科学への招待ー 6 湖沼の生物観察ハンドブック もくじ 第 1 章日本の湖沼の分布と分類・ 1 湖沼数や面積などによる分布と分類 11 2 湖沼の成因による分類と分布・・・ ・・・ 15 3 湖沼生物とその生息環境による分類と分布・ ・・ 18 第 2 章生物の生息している環境と調べ方 ・・・ 27 1 湖盆形態の調べ方・・・ ・・・ 30 2 湖沼や池の水温とその測定方法・・・ ・・・ 33 * 水温の測定方法 36 3 湖沼や池の中の光と透明度の測定方法・・・ ・・・ 38 * 透明度の測定方法 40 4 水の化学的性質とその測定方法・・・ ・・・ 41 4 ー 1 p Ⅱ ( 水素イオン濃度 ) とその測定方法・・・ 42 * p Ⅱの測定方法 42 4 ー 2 溶存酸素とその測定方法・・・ * 溶存酸素量の測定方法 46 第 3 章生物の観察とその調べ方・ A 沖部の生物観察・・ 1 フ。ランクトン・・ ・・・ 44 9 ~ 1 -4 LO LO
分布・・・ ・・・ 20 有機汚染・・・ 有機物収支・・・ pH ・ 20 , 42 pH の指示薬・・ ・・・ 43 有機物生産・・・ pH の測定方法・・・ ・・・ 42 有光層・・・ 平面図のかき方・・・ ・・・ 32 湯ノ湖・・・ ß中腐水性・・・ ・・・ 63 べン毛藻類・・ ・・・ 67 溶蝕作用・・・ ペン毛藻類の形態的特徴・・・ ・・・ 67 溶存酸素・・・ 変遷・・・ 溶存酸素分布・・・ ・ 255 溶存酸素量・・・ 棒状温度計・・・ ・・・ 36 溶存酸素量の測定方法・・・ 母集団の推定・・・ 溶存リン・・ ・ 240 補償深度・・・ 幼虫の生活型・・・ ・ 254 ポナールキット DO 法・・・ ・・・ 46 * ら * 匍匐型・・・ ・ 199 ラン藻類・・ ラン藻類の形態的特徴・・・ 摩周湖・・ 陸封型・・・ みかけの光合成量・・ 硫化水素・・ ・ 115 水色・・・ ・・・ 20 流入河川の汚濁化・・・ 湖の栄養度・・・ 利用効率・・・ ・ 282 水草・・・ 両生類・・・ ・ 148 水草採集用網・・ 緑藻類・・・ ・ 176 水草の形態的特徴・・・ リンの収支・・・ ・ 155 水草の深度分布・・・ ・ 150 水の化学的性質・・・ 類似度指数・・・ ・ 41 , 48 水の中の光条件・・・ ・・・ 38 類似マトリックス・・ 水の華・・・ ・・・ 19 , 280 , 287 冷水魚・・・ 無光層・・ 冷水沼・・・ ・ 266 メタポリズムの材料・・ ローソンの計算図・・・ 面積・・・ * わ * * や * ワカサギの食物関係・・・ 柳久保池・・・ ・・・ 16 湧池・・・ 輪虫類・・・ ・ 273 ・ 263 ・ 114 ・ 266 , 267 ー 0 -4 -4 8 8 1 人っ -4 ・、 4 4 4 ・ 16 , 30 ・ 120 ・・・ 48 ・ 296 ・ 261 ・ 213 ・・・ 82 ・ 267 ・ 244 ・ 244 , 247 ・ 124 ・ 251 ・ 11 , 14 ・・・ 48 ワ 1 よ さくいん ) 9
主な図表・写真さくいん 第 1 章日本の湖沼の分布と分類 各栄養型湖沼の分布・・・ 日本の面積 , 最大深度および水面海抜高度別湖沼数・・・ 日本のおもな湖沼の成因による分類・・・ 珪藻類の酸性種 , 不定性種 , アルカリ性種・・・ 各湖沼型で種類の多い珪藻・・・ わが国の生物生産からみた湖沼標式とそれらの特徴・・・ 湖の富栄養化に伴う植物プランクトン優占種の変遷・・・ 地域別の湖沼の栄養型による分布・・・ 動物プランクトンの塩分耐性範囲と出現状態の比較・・・ 第 2 章生物の生息している環境と調べ方 魚群探知機を使った深度図の作り方・・・ 湖の平面図のかき方・・・ 菅沼・北岐沼の水温垂直分布の季節変化・・・ 諏訪湖の日中の水温季節変化・・ 人工池における日中の水温と気温・・・ 諏訪湖の透明度とクロロフィル量の季節変化・・・ 雄蛇が池の透明度 , クロロフィル量 , 懸濁有機物量の季節変化・・ 諏訪湖の日中の pH 季節変化・・・ pH の指示薬とをの測定範囲・・ 諏訪湖の日中の溶存酸素の季節変化・・・ ウインクラー法による溶存酸素測定法・・・ ポナールキット DO 法による溶存酸素測定法・・・ 酸素飽和度の計算図 ( ローソンによる ) ・ 第 3 章生物の観察とその調べ方 湖沼生物の食物関係・・ 湖沼の代表的なフ。ランクトン・・ 諏訪湖のフ。ランクトンと環境要因の垂直分布・・・ 諏訪湖のプランクトンと環境要因の垂直分布と日変化・・・ 諏訪湖の植物プランクトンの季節変化・・・ 諏訪湖の動物プランクトンの季節変化・・・ 階級別の水質・・・ べン毛藻類の形態的特徴・・ 368 主な図表・写真さくいん 1 よ 1 人 1 亠 11 、 1 ワ】っワ】ワ】 11 ワ】 00 ュ・ュ - -8 ワ】 00 - ュ・ 0 ( 0 ー 00 っ 0 00 っ 0 っ 0 00 4 ・ -4 ・ -4- イは・ 4 ・ -4 ・ っ】 -0 ー 8 0 14 CO 「ー