A 沖部の生物観察 沖部の生物としては , 生態的なわけ方をすると , まずプラン クトン ( 浮遊生物 ) とネクトン ( 遊泳生物 ) があげられる。フ。 ランクトンは , さらに , 植物フ。ランクトンと動物フ。ランクトン に分けられる。 植物プランクトンが盛んに繁殖できるのは , 光のある表層部 に限られ , 水温や成長に必要な栄養物質の状態によって , その 種類や生物量が変わってくる。湖沼や池によって , 植物の生育 環境条件が異なるように , そこにでてくる種類も量もちがう。 ところが , 毎年のそれそれの季節には , 年々の大きな気候的変 動がなければ , ほぼ同じ種類があらわれ , 量も似かよってく る。季節的周期性がみられるのである。 動物フ。ランクトンには , 動物食のものもいるが , 多くは植物 フ。ランクトンや生物の死後有機物の状態になった , 小さい物質 を食物としている関係上 , これらのとどこおるところに集まり やすい。動物フ。ランクトンの一部は , 強い光をさけるかのよう に , 昼間は光の少ない下層に移動し , 夜間には上層に移るもの もいる。 ネクトンは , 自らのカで移動でき , 遊泳する動物をいう。沖 部で主なものは魚類である。この魚類は , 幼生時代は遊泳力は 弱く , むしろプランクトンとしての生活をおくり , 餌も植物プ ランクトンを主食とする場合が多い。体も成長してくると , 動 物フ。ランクトンも捕食するようになり , 体が大きくなるに従っ て , それにあった動物を捕食するようになる。しかし , 中には 植物フ。ランクトンを主食でとおす魚もいる。 このように , 水中の生物は , 生物どうしの間に食うか , 食わ れるかの関係の上に生きている。その中でも , これらの食物関 係の発端は , 非常に小さい植物フ。ランクトンであり , これが , 水中全体の動物をささえている重要な位置にある。 第 3 章生物の観察とその調べ方
2 動物群集の分布と構造の解析の仕方 生物の出現は光や温度 , 栄養条件 , 生物相互の食物関係など に左右されるが , これら要因の効果は後の生物の出現に重大な 影響を及ぼすことになり , したがって生物の遷移が展開されて いくのである。その時々の生物の分布は遷移の上の生活の一端 を表しており , したがって , 時間の経過に伴う分布構造の変化 と環境要因との関連を調べることは , 生物の生態的特徴をつか むいとぐちとなる。 動物群集のとらえ方については加藤 ( 1953 ) の陸上の動物群集 について詳しいところであるが , この母集団の推定の仕方は陸 水生物にもあてはめることができる。また群集の類似度指数を 利用した群集分析法 , 相関図法による分布の解析を木元 ( 1976 ) にしたがって述べる。 * 母集団の推定 沿岸動物や底生動物の定量採集にはすでに方形区の大きさや 表 3 ー 7 諏訪湖の底生動物の深度別分布 ( 渋のエゴから湖心にかけて ( 6 月 ) ) 深度 (m) 0.77 種類数 ゴトウイトミミズ マミズイ ミズ トミ ス。 工・ラ オオュスリカ アカムシュスリカ 全個体数 (n/m2) 全種類数 理論的出現平均個体数 ( % ) 2 イ。 2 動物群集の分布と構造の解析の仕方 58.5 土 3.77 10.4 土 2.33 24. 1 土 3.27 7.0 土 1.95 56.0 土 2.36 0 4.0 土 0.93 40.0 土 2.33 0 1190 3 33.3 0 460 4 25.0
因には光や水温などがあり , 化学的要因には水素イオン濃度 (pH), 溶存酸素を始め , 生物の生きるために必要な化学物質 , 懸濁性有機物などそうとうな種類にのぼる。動物は餌として植 物や動物を食べているが , これら生物との食物関係や , 同じ餌 を求めて仲間や他の動物と競う関係 , また動物は子孫を継ぐに は雌と雄の関係がある。植物は光や栄養物質を求めて , 仲間と 張り合わなければならない。ようするに , 動植物は , 生きるに は多くの生物とのつながりを必要とするのであり , このような 生物的要因がある。 したがって環境といわれる要因は計り知れない数にのぼる が , その内のいくっかで間に合わせられるものではない。ここ では一般によく測定される要因について , できるだけ手近な器 具を用いる方法を主として述べる。これら要因を理解するため に , 主なものについて個々に述べていくが , すでに述べたよう に , 諸要因は常に関連しているので , 総合的なとらえ方をする ことを忘れてはならない。 トを第 雄蛇が池 ( 千葉県東金市にある人工堰止め湖 ) 図 2 ー 2 第 2 章生物の生息している環境と調べ方 29
* 生物の生息している環境と調べ方 湖沼や池は地形的に凹地に水がたまったものであり , それら 水域ではいろいろな生物が生まれ , 育ち , 生活をおくったのち に , そこで死んでいく。植物は適度の光や水温を必要とし , ま た各種の栄養物質が成長に使われる。動物においても , 適度の 水温状態のなかで食物として植物や動物 , そして有機物を摂食 し生きている。ところが動植物の種類は , 水域によっても , そ の水域の中の場所によっても異なり , さらに季節によっても見 られるものは同じものとはかぎらないし , 年々においてもそう である。これは生物が生育し , 代々を受けつぐには , その生物 が直接ふれる環境からの働ぎかけが受け入れられなければなら ない ーロに環境といっても , 数多くの要因があって , 要因一 つ一つは生物の種それぞれによってすべてちがった受け入れが あるように , 非常に複雑な関係になることはいうまでもない。 これら生物に関係する要因を大まかにわけると , 物理的要因 ( 気候的要因 ) , 化学的要因と生物的要因とがある。物理的要 て 湖 訪 諏 図 28
・サンショウウォ類 / イモリ類・・ ・は虫類・・・ 沿岸生物の採集と分布の調べ方・・・ 2 ー 4 3 ー 1 3 3 ー 2 ー 1 C 1 2 * 底生動物の採集と処理方法 222 水辺に集まる鳥の種類と見分け方・・・ 水辺の鳥の分布・・・ * 水草群落内の動物採集法 225 3 ー 2 ー 2 3 ー 2 ー 3 3 ー 2 ー 4 3 ー 2 ー 5 サギ類・・・ シギ類・・・ カイップリ類 / バン類・・ カモ類 ( 水面採餌ガモ ) ・ カモ類 ( 潜水採餌ガモ ) ・ 深底部の生物観察・ 底生動物の深度別分布・・・ 動物群集の分布と構造の解析の仕方・・・ * 母集団の推定 240 * 動物相の分類 244 第 4 章湖沼の生態系・ 1 2 3 4 5 6 も 湖沼生態系の構造・・・ 湖沼の生物生産と生態的遷移・・・ 湖沼の生物現存量と生態ビラミッド・・ 基礎生産と分解及び エネルギーの移動効率・・ 湖沼生態系の物質循環・・・ くじ ・ 219 ・ 221 ・ 222 ・ 257 ・ 254 ・ 251 ・ 249 ・ 240 ・ 239 ・ 238 ・ 266 ・ 262 ・ 237 ・ 236 ・ 235 ・ 234 ・ 232 ・ 231 ・ 227 ・ 226
はじめに 森にかこまれた山中の , いわゆる山紫水明の湖沼は , ロマン チックな詩情をいだかせるに十分であるが , そこに起こってい る自然現象を調べようとすると , 興味深いものではあるが , な かなか苦労のいることである。昔の人びとは漁労といった生活 に結びついた知識をとおして眺めていたが , 前世紀における博 物学の台頭により , 水の中の現象がしだいに明らかになり , さ らに , 今世紀になって記述的な湖沼学から分析的な生態学的湖 沼学へと変貌した。それは , 湖沼という生物を取りまく環境や 生息場所と生物との相互関係や , 生物同士のはたらき合いが , ーっの生態系のできごととしてそれそれが観察や研究の対象に なったのである。 湖沼生態学の目標としては , 水体の生物生産や , 生物同士の 相互関係に重点がおかれているが , 生物サイドの現象に対して も , 環境の無生物的な条件との結びつきを無視しては , 実際に 水体の中で進行している現象の実態はつかめない。それ故 , 無 生物環境に対する生物の個体群や群集の構造と機能 , すなわち 植物や動物の種類の量やそれらの分布 , ならびに食物環とそれ につながる生産と分解などの関係を明らかにする細かい観察手 段が , まず最初に要求されるのである。 近頃になって多くの湖沼は , 社会情勢の変化で人間により普 通の動物や植物以上に湖沼生態系に影響を与えられるようにな った。湖周辺の都市化や工業化という人間集団活動が , 湖沼生 態系の物質収支のノくランスを大きくくずしてきている。すなわ ち , 環境の汚染や破壊が至る所の湖でなされ , 急速度の富栄養 こうした湖沼の生物生産性 化が一斉に進行しはじめている。 はじめに一
動物は植物を食べるか , 他の動物を食べるかによって生活 し , 自分自身では無機物から有機物を合成することができな い。それゆえに消費者と呼ばれる。消費者のうちで , 直接的に 生産者をたべる植食性動物を一次消費者 , 一次消費者を食べる 肉食性動物を二次消費者といい , さらに二次消費者を食うもの を三次消費者とわける。湖では , 動物プランクトン , べントス ( 底生動物 ) , 植食性の魚類が一次消費者で , 動物フ。ランクト ン食およびべントス食の魚類 , 魚食性の魚が二次消費者 , 魚を 食う水鳥類は三次消費者である。 さて , これら植物にせよ動物にせよ次々に死んでいくが , 枯 死体あるいは死がいの死んだ原形質の複雑な化合物を分解し て , 緑色植物 ( 生産者 ) が利用できるように無機化してしまう のが細菌 ( バクテリア ) と菌類 ( カビ ) であり , これらは分解 者と呼ばれる。そして生産者 , 消費者および分解者は生物群集 を構成している。 以上のように生態系のなかで , 生物は食うものと食われるも のの関係にある。つまり生物群集の各々の構成成分は , 主とし 太陽エネルギー→生産 = : , 消費者 図 4 ー 3 2 ) 2 炭酸ガス・水・一 動物プランクトン・ 極物プランクトン・ 栄養塩類 べントス・魚類 大型水生極物 1 湖沼生態系の構造 ( →物質の運動方向 , エネルギーの運動方向 ) 湖沼生態系における物質とエネルギーの運動 分解者
ZP トン PP 438 トン AP 昭和 46 年 7 月 ~ 8 月にかけての諏訪湖での生態ヒ。ラ ( 倉沢ほか , 1976 より作図 ) pp : 植物プランクトン , AP : 水生植物 , Ⅱ : 細菌類 , ZP : 動物プランクトン , B : 底生動物 , F : 魚類 これらは全生物群集の現存量の 60.2 % および 20.1 % に したがって基礎生産者は 80.3 % となる。 さらに , 諏訪湖の生態ヒ。ラミッドの底辺には , 細菌類も含め 図 4 ー 10 相当し , となり , 第 4 章湖沼の生態系 2 命 5.6 % の利用効率となる。 たり , 第二次消費者としての魚類は第一次消費者に対しては 魚類の現存量は 6.1 トンで , これは全生物群集量の 0.8 % に当 18.8 % に相当する。 なる。そして基礎生産者から第一次消費者に至る利用効率は 集量に対する割合は , それそれ 5.4 % , 11.1 % および 16.8 % と 存量は , 39 トンおよび 69 トン , 総計 108 トンとなり , 全生物群 第一次消費者と規定された動物プランクトンと底生動物の現 でヒ。ラミッドの底辺は 82.5 % となる。 存量は全湖で 16 トンで , 全生物群集量の 2.2 % に当たり , それ 基礎生産者と類似した位置におかれることになる。細菌類の現 をもっからである。それ故に食物連鎖上の位置関係からすると て多く , 消費者であるワムシ類その他の主要な餌としての役割 ずであるが , 流入有機物が多量にある諏訪湖では細菌量が極め る必要がある。というのは , 細菌は本来機能的には分解者のは
めて , リンの収支を算出すると , らの除去量が 106 トンとなる。 湖への供給は 131 トン , 湖か 以上 , エネルギー及び物質の移動を述べたが , 生産者による るものであり , 系の自立的パランスも望めなくなる。 好気的な消費者はもちろんのこと , 生産者も存在をあやうくす 分解者の好気的から嫌気的への変化を生むことになり , もはや にみられるように , 有機物排水の流量増加は , それにもとづく ーの増加につながらないので , 重要でない。近年の一部の湖沼 ず , また , 化学合成自栄養性バクテリアにしても潜在エネルギ 消費者は有機物を食べてちがった有機物に変形するにしかすぎ 生産者と分解者が重要な役割を持っことになる。それに対し , が分解によって無機化される。ようするに , これらの関係では らされた物質は , その系が恒常状態であればほぼ同じ量の物質 うに , 矢印の方向へと物質は動いている。生産者によってもた 始まって , 消費者や分解者の生物群の関係を図 4 ー 15 に見るよ 自らの物質代謝のためのエネルギーを太陽から得るところから 消費者 肉食動物 生産者 植食動物肉食動物 分解者 ザプロビ性 指標生物 トロフィー 指標物質 他の生態系 から入って くる物質 大型植物 光合成自栄養性 徹生物を食べ る徹小動物 徹生物を食べ る原生動物 ・腐栄養性 ・ : : 原生動物・藻 腐性 徹小動物 光合成自栄養性化学自栄養性也栄養性 . バクテリアバクテリアハクテリア・ トロフィー性 溶存無機栄養塩 溶存有機物・ : う有機残滓 : : ・ サプロヒ 図 4 ー 1 5 トロフィー性・ザプロど性をめぐる生産者 , 生態系か ら出てい く物質 消費者 , 分解者の関係 (Caspers U. Karbe, 1966 , 津田 1972 より引用 ) 268 5 湖沼生態系の物質循環
食物連鎖・・・ 深水層・・・ 震生湖・・ 深底部・・・ 深度図・・・ 深度図の作り方・・・ 信頼限界・・・ 水温・・・ 水温季節変化・・・ 水温垂直分布・・・ 水温測定の器具・・・ 水温の垂直変化・・・ 水温の測定方法・・・ 水質・・・ 水質階級・・・ 水生昆虫類・・・ 水生植物・・・ 水生植物群落の分布・・・ 水素イオン濃度・・・ 水面海抜高度・・・ 菅沼・・・ 諏訪湖・・ 諏訪湖魚類目録・・・ 諏訪湖の漁業・・・ 諏訪湖の主要漁獲種・・・ 諏訪湖の水温分布・・・ 諏訪湖の成因・・・ 諏訪湖の透明度・・・ 成因・・・ 生産者・・・ 生産層・・・ 生産力・・・ 静水帯・・・ 生態系・・・ 生態的遷移・・・ 生態ビラミッド・・ 生物学的水質判定法・・・ 生物群集・・・・ ・ 245 , 247 ・・・ 10 , 18 , 24 , 255 ・ 253 ・ 255 , 266 ・・・ 16 ・・・ 50 , 238 ・ 31 , 32 ・・・ 31 ・ 243 ・・・ 33 ・・・ 34 ・・・ 33 ・・・ 37 ・・・ 36 ・・・ 36 ・ 279 ・ 198 ・ 147 ・ 147 ・・・ 42 ・・・ 14 ・ 372 ・・・ 16 ・ 304 ・ 273 ・ 290 ・・・ 35 ・ 274 ・・・ 38 ・・・ 15 ・ 251 ・ 254 ・・・ 20 ・ 222 ・ 250 ・ 255 ・ 260 ・ 277 ・ 251 生物生産の制限要因・・・ 生物的要因・・・ 生物の保護・・・ 堰止め湖・・・ セッキー板・・・ 遷移・・・ 全従属栄養細菌の重量・・・ 繊毛虫類・・・ 溯河性魚類・・・ 相関図・・・ 双翅目・・・ 総生産量・・・ 大正池・・・ 堆積・・・ 高浜のエゴ・・・ 田沢湖・・・ 窒素化合物・・・ 窒素循環・・・ 窒素循環量・・・ 地すべり・・ 地盤運動・・・ 中栄養湖・・・ 抽水植物・・・ 抽水植物帯・・・ 調和型栄養湖・・・ 調和型湖沼・・・ 沈水植物・・・ 沈水植物帯・・・ 鶴が池・・・ 挺水植物・・・ 挺水植物帯・・・ 底生動物・・・ さくし 産生動物の採集・・・ 底生動物の現存量・・・ ・ 18 , 20 , 295 ・ 266 ・・・ 29 ・ 294 ・ 16 , 17 ・ 118 ・ 212 ・ 120 ・・・ 89 ・ 260 ・ 256 ・・・ 40 ・ 16 , 17 ・ 16 , 17 ・ 267 ・ 266 ・・・ 48 ・ 299 ・ 266 ・ 16 , 30 ・ 149 ・ 165 ・・・ 24 ・ 149 ・ 157 ・・ 222 ・・ 257 ・・・ 23 ・ 149 ・ 157 、ん