19 2.1 瑞浪市化石博物館 図 2.3 展示室 ( 瑞浪市化石博物館 ) 〇〇 ⑦◎ 〇⑥①① ⑨⑧ 図 2.4 展示室の配置 ( 瑞浪市化石博物館 ) . メイン・テーマ : ①瑞浪の地層と化石 , ④地質柱状模型 , ⑥デスモスチルスとパレオパラドキシア , ④地質と地形模型 , ④ そのころの生物 ( 海の生物 , 陸の生物 ) , ④日本のサメ・世界のサメ , ②まわりの様 子 ( 岩村と可児 ) , ③そのころの海と陸 ( 古環境・古景観・古地理 ) , ④古瀬戸内海 , ⑤新生代の日本 , ⑥瀬戸湖と古木曽川 , ⑦コハクと昆虫の世界 , ⑧地のめぐみ , ⑨ 瑞浪の自然 . サブ・テーマ : ⑦瑞浪化石の分類 , 〇岐阜県の地質と化石 , 〇古生物 の生活 , 〇化石のいろいろ , ①瀬戸内海 , ④学習ひろば . 図 2.5 野外学習地 ( 瑞浪市化石博物館 )
98 第 2 章自然史系博物館のすがた しがあり , 楽しみながら学べるという工夫がある . この他 , 初夏 , 秋と季節に あわせた虫を知る会などが催されている . 機関誌「こども昆虫学会誌」はその 名前まで誇り高く , 楽しまれている . この他 , 講師を派遣しての講演 , 野外指導も行われ , 好評を博している . 最 近では自然保護に関して , この館の発言は重いといえる . 昆虫についての相談もこの館の主要な活動の 1 つである . とくに害虫 , 農業 や家庭での害虫をどのように処置したらよいか , さらに , 食品の性質や保存に ついてまで質問にていねいに答え , 幅広く利用されている . カバーする分野は狭く , 展示もけっして新しくて機能的なものではないが , 手づくりの楽しさ , 美しさがある博物館である . そして博物館の基本的な機能 を果たしているといえよう . 虫をはじめとしてもう少し広く自然の好きな人たちが , 自然を好きな人たち を相手にリーダーとしての役割を果たしている , そんな感じを受ける博物館で ある . ひだ自然館 岐阜県吉城郡上宝村福地 上宝村福地は日本最古の化石産地の 1 つで , オルドビス紀ーベルム紀の化石 を豊富に産する . この地で旅館・土産物店を経営する山腰悟氏によってつくら れた私立の化石博物館である . 地史展示館 , 化石センター , 博物館の 3 つに分 かれ , 民俗資料館を併設する . ここ福地は恵まれた自然の中の温泉であり , 観 光客も多い . ひだ自然館は観光施設の中心になっている . それぞれの館は次のような内容をもっている . [ 地史展示館 ] 地球誕生から現在までの地史を化石とパネルを使って説明し ている . [ 化石センター ] 福地産の化石を一堂に集めたもので , この化石について 充実した展示となっている ( 図 2.49 ) . [ 博物館 ] 北アルプスの動物を使ったジオラマ , 各種の動物 , 各地の化石な ど自然史がテーマで , 内容はバラエティに富んでいる . この館は日本有数の古生代の化石産地の特性を十分に活かしている . 展示に
99 2.6 私立博物館 図 2.49 ひだ自然館化石センター はここをフィールドとした学者をはじめ , 多くの専門家の協力の様子がうかが われる . ただ , 残念なことにつくられてから時間がたっているせいか , いささ か雑然としている . 新しいデータも加えられているが , 古くなったことのほう が多く見受けられ , 整理・再構築が必要であろう . 真新しい展示でなくても , 素材のよさで十分に人をひきつけられるのだから , まちがいのないデータの提 供をしてほしい . この強みは化石産地の中にあることである . 博物館の裏山には遊歩道がつ くられており , 野外展示となっている . 床板サンゴ , 四放サンゴ , 層孔虫など を含む石灰岩が露出していて , 化石を現地で見ることができる . 化石を多産する一の谷などは , 国指定の天然記念物となっているので立入禁 止であり , その他の地域でも採集はむずかしいので , ひだ自然館とこの遊歩道 で化石の観察をするのがよい . 自然の中で体験できる貴重な自然史館である . ぜひ手を加えて , 面目一新を はかってもらいたい . 計画されれば専門の人の協力も得られるであろう . どこ からも補助がないと聞いたが , なんらかの形の援助が望まれる . 寺院で行われ るように , 改築のための寄付をつのることなども考えてよいのではなかろうか .
四五億年時間は生命の存在と意義をどう変えたのか ! 総合科学としてとらえた現代の「進化」像 冓座進化乞。 柴谷篤弘・長野敬・養老孟司ー編 ①進化論とは ・ダーウイン以前から現代進化論の最先端まで プ進化思想と社会 ・進化思想は人間観、社会観にどのような衝撃を与えたか 3 古生物学からみた進化 ・化石が語るいきいきとした過去の世界 形態学からみた進化 ・生物の体制の進化をみる 3 生命の誕生 ・宇宙の起原から化学進化、生物進化。ーー生命の歴史を考える ⑥分子からみた進化 ・分子の世界から生命の謎に迫る グ生態学からみた進化 ・生きものの生活の歴史をみる ・ <LO 判上製カバー装 / 平均 240 ページ・各巻定価 2472 円 ( 税込 )
3.3 博物館の機能 図 3.6 化石の洞くつ ( 瑞浪市化石博物館 ) 149 もしれない . 大型映像も採用する館が増えている . 適切なソフトを十分に用意 できるならば , テレビを含めた映像に慣れている世代に対しては適切であろう . 展示に 2 つのレベルを設定することがよく行われている . たとえば小学生に も理解されるレベルの内容の展示と , 専門の人にも通用するような大人向けの 展示とである . また , ストーリー性をもった展示と , 「もの」主体の分類展示 に区別する場合もある . 望ましいことは , 同じ場所にあって両者を同時に見ら れることである . いわゆる 2 重展示として別館に , また分類展示として分離し てある場合があるが , 成功例は少ない . 来館者は 2 つに分けて展示してある意 味を十分理解していない . 鳳来寺自然科学博 , 岩手県博など考えて工夫されて いるが , 実効は少ないように見える . 展示は本来「さわれる」ほうがよい . しかし実際には , 破損・盗難などを考 えると , きわめてむずかしい . 瑞浪市化石博で開館当時試みたことがあるが , 結果として多くのものにカバーをかけることになった . とくに再現性のないも の , あるいは少ないもの ( 化石 , 希少生物など ) については不可能である . ただ , 笠岡カプトガニ博の場合のように , 野外の復元模型にさわるなと要求するのは 無理というものだろう . 展示は室内だけでなく屋外でも行われる . 自然史博物館の立地条件の 1 っと して , その館が自然の中にあることがある . 野外の事象がそのまま展示となる のである . 瑞浪市化石博 , 阿南町化石館 , ひだ自然館などでは , 博物館のテー マとしたものがそのまま周辺にある ( 図 3.6 ) . 観察し採集することができる . それに近い条件をそなえた館として石油の世界館 , 大谷資料館 , 久慈琥珀博物 館などがあげられる . すぐれた展示のための環境をもっているのであるから ,
82 第 2 章自然史系博物館のすがた 図 2.39 桑島の里記念スタンプ 豪農の家 ( 山口家 ) には化石が展示されている . 以前から植物や淡水貝が産出 していたが , 1985 年に恐竜の歯の第 1 発見が高校生によってなされ , 1987 年 に第 2 発見があった . さらに 3 種類の恐竜の足跡化石が見つかって , この地の 名は一躍ポピュラーなものとなった . 化石は古い民家の中になんとなく窮屈そうに いづらそうに並んでいる . 建 物もよいし標本も立派であるが , どちらから見ても「そぐわない」ということ だろうか . 野外の恐竜模型も同様に異質なものという感じを受ける . 展示の方 法 , 説明なども , もう一息といったところである . しかし化石は , 恐竜の他に 魚類 , カメ , 昆虫 , 貝類 , 植物など百数十点があり , 化石の好きな人でなくて も十分楽しめる場ではある ( 図 2.39 ) . 出作り農家 ( 藤部家 ) には , 出作り農業関係の民具を生活を再現しながら展示 してある . 仏教の道場 ( 新田家 ) は養蚕 , 紬・麻布などの織物 , 山村の衣食住の 展示室である . この 2 つはいまや消えてゆこうとする農山村の跡を残す大切な 資料で , 見ごたえがある . この施設は観光客を招く手段としてつくられたのだろう . 恐竜の発見はその 目玉ができたということで , 当事者にとっては大喜びだったろう . また , 村立 の化石の博物館 ( 恐竜館 ) が 1992 年 7 月に開館した . 場所は桑島の里の対岸で ある . どんな内容であるのか , ことの関係はどうなるのか注目される . 似た ものが 2 つあることにならないのを願う . ここに限らずこの種の郷土館によく見られることとして , 「いいかげん」す なわち , 目的・方法を十分に検討せずに適当に構成し , 展示のみがされている という例がある . きっちりつめてものごとがなされていないのである . 材料と なる「もの」もよいし , 入れものとなる「建物」もよい . 民具などにとっては 第の愛
第 2 章自然史系博物館のすがた 最初に述べた , 前進的 ( pr 。 gress ⅳ e ) であるということはこの館のすぐれた特 性である . 失うことなく , また逆に暴走することなく , この特性を生かすこと 30 が必要であろう . 最近 , 来館者が少なく ( 年間 4000 ー 4500 人 ) , 閉めてあることが多いというこ を改善してほしいこと , できれば展示替えをしてほしいことなどがある . ( たとえば学名などにいくっかの誤りがある ) , 新しいデータを取り入れて展示 てる . あえて注文をつければ , 専門的なレベルをもう少し上げてほしいこと 地域にあって , そこの材料を使ってつくられた博物館で , たいへん好感がも ていないが , かえって手作りのよさを残しているともいえる . たことになった . 展示の工事は地元の業者によって行われ , あまりあかぬけし る . 化石を保存する , 教材資料としてそれを生かす , この 2 つの目標が実現し をつくられ , 完成したという . それらはたいへんわかりやすい説明になってい 展示には地元の先生方が学術専門委員として協力され , パネルその他の原案 うようなこともあったが , 見直しがされて博物館がっくられたのである . その後 , これに使用された標本は転々とし , いくっかの標本が失われるとい り , その方々がこの研究に従事されたのである . 校の先生として在任され , その影響で多くの古生物学者・地質学者が育ってお 市には , 戦後しばらくの間 , 故鹿間時夫元横浜国立大学教授 ( 古生物学者 ) が高 この近く飯田 もらい , 1967 年に 1 冊の本 , 『阿南町の化石』がつくられた . ってたくさん採集されていた . そして , その標本を専門家に託して研究をして これより先 , この地域から出る化石が , 地元の富草中学校の先生・生徒によ 1977 年の開館である ( 図 2.10 ) . 示室 ( 延床面積約 382 (2) からなり , 館長 ( 兼務 ) の他に 1 名の職員がいる . 材料としてつくられた化石の博物館である . 独立した 2 室からなる小規模な展 この館は伊那谷の南部にあり , 瑞浪の地層とほば同時代の富草層群の化石を 長野県下伊那郡阿南町富草 阿南町化石館 2.3 自然史系博物館
2.3 自然史系博物館 余というのは , 鳥のコレクションとして立派な数であろう . 33 とにかく見ごたえがある . 展示は構成がしつかりしていて , 多くの実物標本 が示され , 見やすくっくられている . リーフレットや展示解説に英文が添えら れているのは , 鳥というテーマで , 東京に近いこの館では外国人の訪問も予想 されることへの配慮である . 欲をいえば , もう少し規模が大きくてもよかったかと思われる . 展示のス ペースが全体の 37.2 % というのは , まずまずの比率だが , もう少し面積があ ってもよかった . 「人と鳥の共存」のコーナーは手狭で , ややしりきれとんほ の感じがする . Q & A のコーナー , 特別展のスペースももう少し広いほうがよ い . 収蔵・研究の面積比率 ( 両方で約 15 % ) ももう少し大きくとってあったほ うがよいと思われる . よくまとまった博物館である . 山階鳥類研究所とタイアップしての活動は , 自然保護の問題も含めて , 日本の自然史界のために重要であろう . 基本的な活 動を積極的にリードしてほしい博物館である . いわき市石炭・化石館 福島県いわき市常磐湯本町向田町 常磐地方での地質学・古生物学研究の歴史は長い . 江戸時代から石炭が発見 され , 採掘されていたからである . 1968 年 , フタバスズキリュウが発見され , その他にも多くの化石の発掘があった . 石炭産業の衰退にともない , それを記 念として残したいということと , 化石発見が結びついて 1984 年に開館した . 第三セクター方式で運営され , 延床面積は約 4800m2 である . 館員は 7 名であ る . 学芸員はいない . 館内の展示は化石展示室 , 石炭展示室 , 模擬坑道 , 生活館に分かれ , 屋外に 岩石園がある . 化石展示室はフタバスズキリュウなどの地元産の化石標本を主 としているが , マメンチサウルス ( 中国産恐竜 ) , オオナマケモノ ( アメリカ産 ) なども展示している . 展示はダイナミックで , なかなか迫力がある ( 図 2.12 ) . この館の目玉の 1 つは模擬坑道である . 人間の錯覚をうまく利用して , エレ べーターの速度を遅くし , 音と映像で地下 600 m まで降りたように感じさせ ている ( 実際は 2 階から 1 階へ降りるだけである ) .
2.3 自然史系博物館 49 図 2.21 四賀村化石館の展示 のためには華やかさがほしいという感じがする . 実力のある館だから , 実現可 能と思われる . 四賀村化石館 長野県東筑摩郡四賀村 見る機会に恵まれなかったので , 実体は不明であるが , ぜひいつばいにしてほ プランマップを見ると , 1 階には展示に匹敵する広さの収蔵庫がある . 中を を増やして , 自前の展示にしてほしい . したことは理解できないことではないが , 本筋ではない . 将来はぜひ収集標本 の剥製 , おもにプラジル産の化石などを借用して展示しているのである . は信州ゴールデンキャッスルという施設にある . その標本の一部 , 世界の動物 身の大衆酒場「養老の瀧」創始者木下藤吉郎氏はコレクターで , その所蔵標本 類は見ごたえがある ( 図 2.21 ). 2 階には 1 階とは異質な展示がある . 四賀村出 は約 270m2 , 1 階の展示は地域の材料を使って行われていて , 2 つの海生哺乳 リーフレットには展示 , 研究 , 普及を活動の 3 本の柱とするとある . 展示室 学芸員はいない . も多い . 1990 年の入館者数約 2 万人 , 館長は村の商工観光課長の兼務である . 建 ( 延面積約 830m2 ) の小さな館である . 付近は松茸の産地で , 遊びに来る人 て , 1989 年 4 月に開館した . 松本市からバスで 30 分ほどのところにある 2 階 シナノトド , 貝類 , 生痕などこの地方の新第三紀層から産した化石を材料とし 1988 年に発掘されたハクジラの全身骨格を展示のメインとし , 有名な化石
第 2 章自然史系博物館のすがた 16 図 2.1 中央自動車道工事の際の化石採 館員 4 名と嘱託 1 名である . 標本 20 万点以上を所蔵する . 1991 年 3 月までの 約 17 年間の入館者数約 120 万人である . 小規模だが博物館の基本をおさえ , 十分に機能を果たしている . 1974 年に博物館登録した . つくられ方 1971 年に始まった中央自動車道の工事が最初のきっかけである . 瑞浪地方 の地層と化石については , それまでに多くの研究があり , 成果が発表されてい た . 陶土・褐炭 ( 亜炭 ) ・ウランなどの資源についての調査も行われていた . と くに瑞浪市にある多くの化石産出地は , 県指定の天然記念物となっていた . 建設工事にともない , 1971 年秋より調査・採集が行われることになり , 専 門家 , 地元の研究者 , 行政からなる調査団が編成され , 地域の人びとも資料収 集・整理に協力した ( 図 2.1 ) . 1972 年 4 月 , 市の予算に調査費が計上され , 化 石調査団が博物館の調査・研究も兼ねることとなった . この間 , 重要なこととして , 当時の横須賀市自然博物館長羽根田弥太先生か ら , 市長・教育長が博物館の基本理念について教えられたことがあげられる . 図 2.2 移動式標本棚 ( 瑞浪市化石博物館 )