3.3 博物館の機能 公立の場合はその点では一種のサービス機関である . 159 このような複雑な構造・ 機能をもった組織をどう運営していったらよいか , 答は 1 つではない . それぞ れの館がそれぞれに共通するルールを下敷きとして運営する他にないだろう . そこに博物館としての共通性とその館の独自性が生まれてくるというものであ る . 気がついたいくつかの点を指摘しておこう . ( 1 ) ソフトな対応 複雑であるから , それをうまく運営するにはソフトな対応が必要である . 行 政によくあるような硬直化した考えでやろうとするとうまくいかない . 枠から 多少はずれても目をつぶる度量も必要ではないだろうか . ( 2 ) 職務の内容が多様であるから , 相互に理解しにくいことが多い . 学芸員の仕 事は管理職員にとって異質であろうし , 管理職員の仕事に学芸員はなじみが少 ない . しかし , 1 つの機関として動いている以上 , 相互の理解が最低必要であ る . とくに学芸員の仕事の内容は他から見てわかりにくい面があり , 理解され にくい . 第 1 に理解してもらう相手は館の管理職員である . そして , 同じ機関 に属する他の職員である . 小さい館では , 仕事の分担をはっきりして運営して いたのではとてもやっていけない . 相互に助け合い , 協力し合う , こまわりの きく運営が必要である . 学芸員だからということで , 研究室・収蔵室にこもり きりということは許されない . 学芸員の仕事の他の側面である教育は , 現場で 人びととつきあうことから始まるのである . ( 3 ) 「腰かけ」でない 管理職員は博物館を「腰かけ」と考えないでほしい . かって「博物館ゆき」 窓ぎわ族の行き先と考えられた時代があったが , 今は違う という言葉があり , のである . 出先へ飛ばされたといった考え方でなく , 行政の最先端 , 市民と接 する場所にいてサービスするのだと考えてもらいたい . そして博物館を理解し , 他の職場へ移ったら博物館を支持し , PR してほしい . ④博物館ネットワーク 行政や企業の中では異質な存在であっても , 同様な組織が全国に , いや全世 界に多数あることも事実である . 共通な構造をもち , 同様な機能を果たしてい こまわりのきく運営
62 第 2 章自然史系博物館のすがた まひとつのようである . この形式をそなえた館をいくつか見たが , いすれも十 分に機能を発揮していないことが多い . これからは設置・利用方法を再考すべ きスペースではないだろうか . 同様なことが体験学習室についてもあり , うま く利用されているケースもあるが , 運営がむずかしい場合があるようである . 特別展は各分野のバランスをとって行われているが , 自然史分野は 2 年半に 1 回の割合である . この他トピック展があり , 移動・巡回展が行われたことも ある . しかし後者は移動展示先の設備の問題などで休止されている . 研究は地域の材料を中心に行われている . 化石のクジラの場合なども同様で , その成果は学会に発表され , 展示にも利用されている . 担当の学芸員はその分 野の専門家を目ざしていて , よい対応といえよう . 運営上の活動として , 東北の博物館をリンクしていろいろな問題を扱うこと が行われている . この種の協力が広く , 深く行われるようになれば効果が上が るだろう . 資料の貸借のレベルをこえて , 特別展を共同で組むことや , 資料の 整理方式を統一することなども考えられよう . すなわち博物館ネットワーク ( 159 ページ参照 ) をつくることである . 最初にもふれたように , この館の自然史分野は規模が小さい . 本来人文系と 自然史系は方法論の違いもあって融和しにくい面がある . とくに 、ここの場合の ように , ウェイトに差があるときはむずかしいだろう . 館から眺める岩手山を含めて , この博物館はよい自然の中に立地している . そして , 岩手県は日本でも有数な自然に恵まれた県である . 地質はおもしろく , 海・山にある動物も植物も豊かである . この自然を材料にして自然史分野を拡 充すること , そしてさらに独自の自然史館へ拡大してゆくことが望まれる . 2 つの博物館がっくられ , その後合併し , さらに 1966 年に新館がっくられた 戦火によって 5000 点の収蔵品とともに焼失した . 1936 年 , 沖縄郷土博物館が首里につくられた . 那覇市首里大中町 沖縄県立博物館 「もの」も「人」も十分に用意できるはずである . 戦後 , 残ったものを集めて その館は第 2 次世界大戦の ( 図 2.30 ) . この間アメリカの援助が大きな助けとなっている . 1972 年 , 祖国
2.8 計画中・建設中の博物館 のはどうか . ④ [ 展示のテーマ ] 新しいねらいであるが , 消化されているか . 113 ねらいは新しく , 多くの専門スタッフを集めて着実に作業が進められている ようである . ただ , 最近報ぜられたように , 研究機関としての役割りにウェイ トが置かれることになると , 展示 , 収集 , 普及・教育など本来の博物館として の機能に欠けるところができはしないかと , 少々気にかかるところである . 県立琵琶湖博物館 ( 仮称 ) 滋賀県草津市下物町烏丸 琵琶湖をテーマに 1995 年開館を予定している館である . 湖と人との共存関 2 △計 24000m2 で , 琵琶湖に 係を追究する . 本館 19500 m2, 水族館 4500m , ロロ 面して立つ予定である . 総予算 230 億円 ( 建物 150 億円 , 展示 50 億円 , 資料収 集 30 億円 ) である . 現在のスタッフは 15 名である . この館は「琵琶湖と人」のテーマのもと , 基本的な性格として次の 4 つをも っ . ( 1 ) テーマ博物館 , ( 2 ) 参加型博物館 , ( 3 ) 知識・情報収集型博物館 , ④ア ミューズメント博物館である . 事業として①交流・サービス , ( 2 ) 調査・研究 , ( 3 ) 情報 , ④収集・保管 , ( 5 ) 展示があげられている . 従来のものと違。た新 しい発想・ねらいをもち , それに沿った活動を目指している . 展示は 4 つに分かれている . メインは総合展示で 3 つのプロックからなる . ①琵琶湖の自然史 , ( 2 ) 琵琶湖の歴史と民俗 , ( 3 ) 琵琶湖の環境であり , 地史 から始まり生物部門と人文部門をからみあわせて湖と人間の新しい共存関係を 明らかにしようとしている . 第 2 は水族館で , 魚類と水鳥を飼育する . 琵琶湖 をはじめ周辺の川にすむものから , 世界中のものを含み , 保護・増殖の意味合 いももっている . この他 , 屋外展示として ( 1 ) 化石の森ーー現代の森 , ( 2 ) ムラ , ( 3 ) 環境水路 があり , 総合展示の 3 つのプロックに対応する . 屋内一屋外の動線は自由であ る . もう 1 つのエピローグ展示は総合展示の一部で , 情報提示 , 対話交流型の 展示である . 管理・運営について , 県立・県営 , 学芸員・技術スタッフの充実 , 参加型ー 館外の協力 , 弾力的体制・運営をあげている .
5.7 っくってみたい博物館 219 調査・研究 ネットワーク 教育・研究 情報提供 データベース 交流 示儀ク 球 ロ 展大グ サービス提供 イベント・ ソフトウェア 計画 収集・収蔵・ 補修 管理・運営・ 企画 図 5.25 国立地図学博物館の機能 [ 調査・研究 ] 地図情報システムの研究も含む . [ 国際的ネットワーク ] 情報のデータベースをつくり , 国際的地図情報セン [ サービス提供 ] リファレンスサービス , 出版 , 販売など . [ 収集・収蔵・補修 ] 資料・データの収集・保存 . 地図情報の国際的体系化 [ 管理・運営・企画 ] 施設管理・運営の他 , イベント , 売店 , レストランな ど . 国立地図学博物館は民族学博物館 , 歴史民俗学博物館に次ぐ , 第 3 の国立の 博物館を目指すだけあって大きく , しかも地図学 , さらに広く地理学に関して の完成度の高い計画である . とくに情報に関してのウェイトが大きいように見 える . 計画を推進しておられる西川治先生によれば , 世界初の天文台ならぬ 「地文台」をつくろうというのである . 一般の人たちの関心の深い展示について , 誘致構想の資料 ( 大山市 ) で見てみ よう . まず , シンポルとしての大地球儀 ( 直径 12.7m , 地球の 1 / 100 万 ) があ る . 透明な特殊材料でつくられ , さまざまな地球の姿を展開する . 各階の展示 ターとする . をはかる .
158 第 3 章博物館の基本と機能 にか行事をやればよい , そしてそれが成功すればよいといった考えがある . そ れは博物館にも , それをつくった行政サイドにも , そして一般の人たちにもあ る . いいたいことは , バランスのとれた博物館活動をしてほしいということで ある . 最近 , 情報サービスということがいわれるようになった . 博物館は本来情報 をたくさんもった機関である . 情報を集め , また , それを出すべきである . 情 報発信源としての機能はこれからさらに要求されるだろう . それに応えるだけ の実力は博物館にあるはずである . コンピュータを使っての作業が多くなるだ ろうが , 大阪自然史博や東山公園植物会館に見られるような , 学芸員や係の人 の受付カウンターでのサービスは消えることはない . むしろ「人」と「人び と」のつながりの場として , より重要なこととして評価されるだろう . 最後に , 博物館は教育・普及という与える立場でなくて , さまざまなニーズ にこたえ , 「人」と「人びと」とがつき合いをするコミュニケーションの場を 提供するものであってほしいと思われる . 博物館の運営 これまで述べたことでもわかるように , 博物館は複雑な構造をもっている . さまざまな要素のからみあった複合体といえよう . 考えてみれば , 「もの」と いう , 考えようによってはなんとも理解しにくいものをもち , 展示室 , 収蔵庫 などさまざまな要素をもった特殊な部分が「建物」の中にあり , 「人」はまた , 学芸員という他にはない職務をもった人が中心に存在している . 機能も多様である . ふつうの維持・運営は行政や企業のやり方でよいであろ うが , 教育・研究の場として異なる機能をもち , しかも大学その他とは違った 運営のしかたが要求される . 教育の面では不特定多数の人を相手に , 「展示」 という特別な施設をもち , 一方では「教育・普及」の行事がある . 研究の面で は「収集」したものを「保存」し , 「研究」するという , これもまた複雑な活 動である . このように博物館は他と違った , まったくユニークな組織体なのである . 基 本的には無料であるべきものという考えもある . 入館料をとっても採算がとれ ることは少ない . 私立の場合は別にその面での手当を考えなければなるまい .
第 5 章博物館の未来像 集めるにあたっては記録が必要である . いつどこで採集・撮影したか , その ときの状況は , 他にいっしょにいた , あったものはなにかなどである . 生育・ 産出条件のわからない資料は価値がうんと下がってしまう . また , 記録をする ことが , それについての研究のはじまりであるからである . ない . 196 ときが来ると思わざるをえない . 1 つの解決はなんらかの援助・協力を得られ と思っていたわけだが , 年月が経ってくると負担になってくる . いつかやめる くっかの問題をあげてみよう . 運営費・手間ははじめから覚悟して , もちだし 版画館」 ( 図 5.10 ) を運営している筆者の経験からすると想像以上である . い 持・運営してゆくのはまたたいへんである . 「わたくし美術館」の 1 つ「半原 一般に公開するためにはしかるべき設備が必要である . そして , それを維 ョンを増やし , 活動を盛んにすれば内容は充実してゆく . あなたは学芸員として博物館活動をしているのである . さらに続けてコレクシ こまでくればもう立派なミニウムができた . そして , 育・普及活動である . 解説をして興味をもってもらい , イ中間になってもらったとしたら , それは教 そしてみんなに見てもらう . 家の人 , 友だち , 近所の人たちなどにである . たらテープに編集する . 説明も加えたらどうだろうか . 写真ならアルバムにすればよいし , 鳥の声だっ 段を使ってもよい . 並べてみて , 見やすいように , わかりやすいようにする . りしておく . 展示もしてみよう . 1 つのボール箱の中でもよいし , 飾り棚の 1 標本は保存しなければならない . ラベルがまちがったりしないようにきっち る . こうして基礎的な自然史資料ができあがったことにな がここでも重要である . をつける . 種類が増えてくればリストをつくる . 産地がはっきりしていること まず , それぞれが同じか違うか区別するところから始まる . 続いて名前 ( 学名 ) かけて行ってそこの標本と比較し , 学芸員の方に教えてもらうこともできる . 次は調査・研究である . 本を調べたり , 学校の先生にたずねる . 博物館へ出 剥製・液浸などである . などをまとめる . 植物や動物は保存の処理をしないといけない . 月告葉・展翅・ さくよう 集めたものは整理をする . 改めてそのものについて大きさ , 特徴 , 採集記録
1.2 博物館 自然史系博物館 12.3 % ( 約 580 館 ) 美術館 7.4 % ( 約 350 館 ) 理工館 7.7 % ( 約 360 館 ) 動・水・植 5.1 % ( 約 240 館 ) 9 総合 ( 約 130 館 ) 2.8 % その他 ( 約 440 館 ) 9.4 % 人文系博物館 ( 約 2600 館 ) 55.3 % 開館年 区分 * 設立者 床面積 建設費 運営費 図 1.5 日本の博物館の数と比率 ( 1988 ) ( 里見 , 1988 ) 表 1.1 日本の博物館の一般的性格 ( カッコ内は % ) 1981 年一 ( 29.1 ) , 1976 ー 80 年 ( 17.2 ) , 1971 ー 76 年 ( 12.3 ) その他 ( 44.0 ) , 登録博物館 ( 28.5 ) , 博物館相当施設 ( 27.5 ) 公立 ( 63.1 ) , 私立 ( 33.8 ) , 国立 ( 2.8 ) 1000 m 以下 ( 50.7 ) , 1 開 1 ー 20 m2 ( 22.4 ) , 2001 ー 6000 m2 ( 17.8 ) 1 億円以下 ( 46.0 ) , ト 2 億円 ( 16.0 ) , 2 ー 3 億円 ( 7.2 ) 10g 万円 ( 42.6 ) , 10 万一 20 開万円 ( 16.0 ) , 20 万一 30 側万円 ( 7.2 ) 入館者 1 人当りの運営費 4 円以下 ( 61.1 ) , 1000 ー 2 0 円 ( 19.0 ) , 20 開ー 3000 円 ( 7.8 ) 職員数 3 ー 4 人 ( 48.7 ) , 2 ー 4 人 ( 13.8 ) , 4-6 人 ( 8.5 ) 館の種類歴史 ( 45.9 ) , 美術 ( 17.0 ) , 人文総合 ( 7.6 ) , 理工 ( 5.7 ) , 自然史 ( 4.5 ) 入館者の階層一般 ( 65.3 ) , 専門家 ( 14.8 ) , 子ども ( 13.1 ) 入館者数 2 万人以下 ( 48.7 ) , 2 万一 4 万人 ( 13.8 ) , 4 万一 6 万人 ( 8.5 ) 観覧時間 21-30 分 ( 31.5 ) , 51 ー 60 分 ( 21.8 ) , 31 ー 40 分 ( 20.8 ) * 163 ページ参照 . また公立館 , 「その他の館」に区分される館 , そして歴史館の占める割合がそ れぞれ多いことである . 床面積は 1000m2 以下で , 1 億円以下の費用でつくら れたものが多い . 職員は 3-4 人 , 年間の運営費は 1000 万円以下である . 入館 者は一般の人が多く , 年間 2 万人以下である . 観覧時間は 21 ー 60 分である . 1986 年以前に開館した館が対象であるから , その後 1000 館くらいはオープ ンしている . 経済的成長が著しく規模が大きくなり , 制作単価も上がっている
第 2 章 自然史系博物館のすがた ケーススタディ 材料として取り上げる博物館は , 次のように区分される . 広い意味での自然 史プロバーの館 , 県立博物館 , 郷土博物館 ( 合併館 ) , 私立 ( 個人 ) の館 , 大学博 物館 , 計画中の館 , 関連分野の館である . 実際に取り上げた博物館の総数は 60 である . いずれも筆者が見聞し , その館についてなにがしかの感想をもっ ている館である . とくに筆者と関係の深い館である瑞浪市化石博物館 , 豊橋市 自然史博物館は設立当初からかかわり , 運営も含めて博物館活動に参加してい て , 良きにつけ悪しきにつけ , その内容がわかっている . したがって , 別個に 取り上げて 1 項目とし , くわしく述べることにした . 記述の内容はおおむね次のとおりである . アウトライン , つくられ方 , 特徴 , 博物館の現状 ( もの , 人 , 建物 ) , 活動 ( 4 つの機能ーー収集・保存 , 研究 , 展 示 , 教育・普及 ) , 運営 , 問題点などである . 基本的な数字その他に関しては , 共通なレベルで扱ったほうがよいので , 『全国博物館総覧』 ( 日博協 , 1978 ) , 『博物館情報・検索事典』 ( 丹青総合研究所 , 1986 ) によった . に過不足があり , 内容は不均一である . 2.1 瑞浪市化石博物館 ( 岐阜県 ) この館に関してはすでに何回か述べた ( 糸魚川 , 1979 , って , 最近のデータも加えてまとめることとする . アウトライン 1982 , しかし , 1987 ) . データ したが 1974 年 5 月に開館した , おもに化石をテーマとした単科博物館である . 瑞 浪地方には新生代の地層が広く分布し , 多くの化石を産し , 古くから有名であ る . 研究もよく行われている . 地域の自然をテーマとした館で , 面積 906 m2,
2.4 県立博物館 73 0 森林ゾーン 公園ゾー ン 施設ゾーン 文化情報コア シンや 広場 図書館 知識の森 県民の森 文書館 1 、 1 創造の森 伝承の森 果樹園 図 2.35 徳島県文化の森構想配置 ( 両角 , 1991 ) この館の特性は文化の森を構成し , 他の 4 館 ( 図書館 , 近代美術館 , 文書館 , 21 世紀館 - 一文化情報コア ) と一体のものであることである ( 図 2.35 ) . さらに 外側を取り囲んで , 公園ゾーン , 森林ゾーンがあり , またシンポル広場には野 外劇場がある . 徳島県文化の森は恵まれた自然環境の中にあり , 21 世紀を見 こした新しい型の総合施設といえるだろう . ここには各館を機能的に一体化し , 文化情報サービスをするシステムがある . データベースシステムとして 21 世紀館にある大型コンピュータを各館とオン ラインで結び , 利用・情報提供をしている . 管理・運営は文化情報コアの役目を果たす 21 世紀館が中心となって行われ る . しかし , この館が他館の上位にあるのではない . 柔軟で機能的・効率的な 管理・運営をするためのものであり , 各館は独立性・自主性を保持している . 全体で 300 億円以上を投じてつくられたこの施設は開館以来 10 カ月で約 100 万人 ( 博物館は 19 万人 ) の人を迎えたという . ある意味では 1 つの実験と いえるだろう . これから先の活動に注目したい . 博物館についていえば , 全体の中でどのように位置づけされ , 他館とどのよ うな関連をもって活動してゆくか問題となろう . モットーにあるように , 地域
106 第 2 章自然史系博物館のすがた う数はこの館の性格をよく表わしている . 内容は深く , また多くの部門がある ことも反映してバラエティーに富むが , 全体にかたさが目立ち , おもしろさに 欠ける . 静的でもあり , 一般受けしないだろう . 立地条件がよいだけにより多 くの来館者をむかえる努力が望まれるところである . 日本の大学博物館 ( とくに国立大学 ) のモデルであるが , その次が続かない . なぜだろうか . 基本的には文教政策があるのだが , そこには日本の基礎的・系 統的研究の軽視という底流がある . この基礎的な研究は , このような大学博物 館で行うにふさわしく , 成果も上がっている . ぜひとも継続し , また発展させ , 他の大学へも波及させていかねばなるまい . 大学博物館の存在意義をもっと PR し , このような学問分野の重要性をもっ と認識してもらう必要がある . 国際化の時代において諸外国の大学博物館とネ ットワークをつくることもできると思われる . すでにスペースが不足してきていると聞く . 時間がたてば当然おこってくる 問題である . その他 , 運営についてもルーチン化して , 型にはまってくるよう なこともおこってくると思われる . ぜひソフトな対応をして , 基本的なことは もとより , さらに広い視野に立って他の大学をリードしてほしいものである . 館の構成員の方々 , 館を利用される内外の研究者 ( 100 名をこすといわれる ) , そして第 7 次という将来計画委員会の方々に期待したい . 名古屋大学古川総合研究資料館 名古屋市千種区不老町 1990 年に発足した年代測定資料研究センターの一部で , 旧古川図書館を改 装した建物 ( 延床面積約 4000m2 ) を使用している . 資料室は約 1800m2 , 展示 室は 423m2 である . 現在 , 資料専任スタッフは助手 1 名である . 1970 年に理系学部・研究所から自然史科学資料研究センターの構想が出さ れ , 設立運動が始まった . その後 , 1978 年に , 全学の多くの分野を含む総合 研究資料館構想に変わり , 1984 年にスタートした . 旧古川図書館の大部分を 流用することによってスペースを確保することができたのが発足の第 1 の理由 である . しかし , 文部省に認められることはなく , 人・予算の両面できびしい 制約があった .