スタージェス - みる会図書館


検索対象: ゴルフ奇譚集
8件見つかりました。

1. ゴルフ奇譚集

女 の : どういうわけか : : : その、それができなかったのです : : : 」 ノーから人々が 四それ以上彼からは何も聞けなかった。突然遠くで叫び声があがったからだった。・、 口々に何か叫びながら大あわてで走り出てくるのが見えた。 それからのスタージェスは傷ましいばかりの失敗の連続だった。スタージェスの敗北はしだいに濃 厚になっていった。 ポドホイゼン自身も、最終ホールを八対十の二ストローク差でスタージェスをおさえた時には、む しろ戸惑いの表情さえうかべていたのである。スタージェスは、まるで何かにおびえているかのよう に蒼白の表情のまま、頭をたれてその場を足早に立ち去っていた。 再び雨が襲ってきた。ギャラリーはちりちりになっていった。クラブ・ハウスに向かう何人かの姿 が雨の中にかろうして見えた。 黒服の若い女は青あざみとタンポポの球穂のむら立っ方に去って行った。 クラブの秘書のホーヌングが近づいてきたので、私は彼女を知っているかどうか訊ねてみた。彼は 首を振った。 「初めて見かけるひとですね。いえ、そもそもどうやってリンクスにやって来られたのか、見当も つきません。実を言うと、あのひとの姿に気づいたとき、そのことを伺おうかと思ったくらいですか ら。しかし : 彼はあきらかにためらっていた。彼はあごを撫でながらたたずんでいた。 「しかし ? 」 「そうです。 こうべ いた

2. ゴルフ奇譚集

ほんとう 「真実だからこそまずいのだ。以前にもそんなことを言った人間は少なくなかったさ。しかもその 連中は三流新聞のヘポ記者なんかではなかった。いいかね、ウッドハウスとかサマーセッ の名を持ち出すまでもないと思うが、そういう連中は今までにも掃いてすてるほどいたのさ。しかし 彼らは読者に笑いというものを提供していた。少なくとも微笑くらいはうかべさせたものだ。ところ がきみはどうだ。お得意の訳のわからぬ学問めいたたわごとで読者に恐怖心を起こさせるばかりしゃ キ / し、刀 よ、、。ばくに言わせれば、きみは不治のガンに冒されている患者に向かってありのままを宣告して はばからない冷酷な医師のようなものだ ! 」 かってこれほどピーター・ヘブンが激しく私を責めたことはなかった。私はすっかり驚いていた。 「スタージェスのことをどう思う ? 」と、また彼は唐突に訊ねてきた。 折からレッド・ロックス・ゴルフ・ リンクスではアマ・ゴルファーの大きなコンべが開催されてい て、翌日が最終日だった。二名のプレーヤーが決勝に残っていた。オランダ人のポドホイゼンとイギ リス人のスタージェスの二人が : 「スタージェスの調子はとても良いようだ。ただ : 言いよどんだ私をへプンは冷ややかに笑って言った。 の「どうやらきみもばくと同し意見らしい。スタージェスの調子は申し分ない。だが、彼は実力を出 しきれないで終わるだろう , 「それなら、勝利をほば手中にしたゴルファーにありがちのことだ。ばくは、記事の中でそのこと は詳細に書いておいたさ」

3. ゴルフ奇譚集

そんなときふと私は、黒い服に身をつつんだすらりとした若い女性が、銀色のチェア・ステッキを 四無造作に振りまわしながらパッティング・グリーンに向か 0 て進んで行くのを見た。彼女は、額に上 げていたサン・グラスをかけ直しながらプレーの場に近づいて行くのだった。 折しも、深い静けさが。ハッティング・グリーンを訪れたところだった。重い、息苦しくなるような 静けさ。キャディーがホールからビンを引き抜き、パターがまさに行なわれようとしているときの、 あの静けさだった。 ホールから五インチのところまで寄せたポドホイゼンが、自分のポールをマークし、いよいよスタ ジェスがプレーに入ろうとした。 スタージェスのポールはカップから三フィートのところにあった。 例の若い女性はグリーンから少なくとも十五ャードの所に、ギャラリーの一団から一人離れてたた ずみ、スタージェスの背後から彼の動作を凝っと見つめているのだった。 ふる 突然、スタージェスの背中に顫えが走り、やがて痙攣したように激しく揺れ動くのが見えた : 驚くべきことだが、このときスタージ = スはスプーンを手にしていた。アドレスに入ってクラブがポ ールの狙いをつけにいくとき不思議なほど震えているのを私は見逃さなかった。 彼の体は静止したが、スプーンが振子のようにふらふらと揺れていた。やがてポールが打たれ・ : ポールは三ャードもオー ーしていた。 思いがけないこの失敗に、ギャラリーの間からため息に似たどよめきが起こった。くるりと背を向 けたポドホイゼンのほくそ笑む表情が見えた。

4. ゴルフ奇譚集

よく知られている。たとえば鳩の群れが飛び立っとか、蛙が飛び出してくるとか、上空を通りがかっ た鳥が叫んだとか、そのようなものである。だが中でも見逃せないのは、リンクス上にある人影があ らわれたことに起因する場合である。その人影についてスコットは『魂の盗人』と称してさえいる。 この最後の数行には二度にわたってアンダーラインが引かれ、しかもあまり強く引かれているた め、鉛筆の青い線で紙が破れているところもあった。この事実は、最終日のプレーが行なわれている 間、勝敗そのものよりむしろスタージェス本人に私の注意を向けさせるには充分であったといえるだ ろう。 試合そのものは興味に乏しいものだった。どことなく緊張感に欠けていたのである。 ポドホイゼンは持ち前のビリャードのチャン。ヒオン風の正確さを発揮しようとしていたが、失敗を くり返していた。彼のロング・ショットのポールは、あきらかにホールからそれて飛んで行った。グ ーンに寄せてから、彼はどうにかそれを挽回していたのである。 他方、スタージェスの出足は申し分なかった。私はビーター・ヘブンに冗談の一つでも言ってみた い気分になりかけていた。と、突然、第五ホール終了を目前にして、スタージェスは急速に崩れた。 女 のそのあまりに顕著な崩れ方に、思わず私はわが眼を疑ったほどだった。 空は重苦しくどんよりと曇り、時折り雨が落ちてきた。短いが激しい雨だった。そのたびにリンク スでは、ゴルファーや愛好家、それに手すきのキャディーたちからなる四十人ほどのギャラリーの門 に色とりどりの傘が開き、地上に星座を見るようだった。

5. ゴルフ奇譚集

。しかし、いずれにせよ彼は勝利を自分のも 「きみの記事のことなんか悪魔にくれてしまえ ! のにできないだろう。・ : ・ : 話が脇道にそれてしまったようだ。しつはスタージェスがきみのこの前の 。ひどく動揺して 記事を熱心に読んでいるのを見かけたのだ。何度も何度も繰り返し読んでいた : ・ いる様子だった」 「しかし、ある種のゴルファーたちがとりつかれている呪いについての示唆を別にすれば、あの記 事にこれといって刺激的なことは書かなかったはずだ」 へプンはグラスをひと息にのみほした。 「きみは明日の最終日を観に来るだろうね ? 」 「たぶん : ・ 「それならスタージェスのことをよく観察したまえ。どうしてこんなことをきみにすすめるのかば くにもわからない : もしかするとばくも他人と同しように呪われているのかも知れないが、しか し : 彼はここで深くため息をつくと、つぶやいた。 「なぜかわからないが何かが起こりそうな気がしてならない : 風が嵐のように激しく吹きすさびはしめ、思いなしか無気味な暗闇がゴルフ でいた。 何か恐ろしいことが : : 。ンヤ ・リンクスを包みこん

6. ゴルフ奇譚集

8 スタージェスが突然倒れたのだった。動脈瘤が破裂し、ほとんど即死状態で昏倒したのだった。 ☆ 私が帰りの自動車のハンドルを握った頃はもう大分遅くなっていた。篠つくような雨が降りしきり、 タイヤは水やぬかるみの泥をしきりに跳ねあげていた。 突然、ヘッド・ライトの光束の中に人影が浮かびあがった。人影は道路の中央に立っていた。それ がリンクスで見かけた不思議な女性であることはすぐわかった。彼女は例のチェア・ステッキのよう なものを手にしていた。それは信号のように青く異様に輝き、奇妙なカープを描いて振られているの サン・グラスを外していた彼女は、大きく見開いた恐ろしい眼を私に向けていた : ☆ その夜、僅か十四キロメートルそこそこの距離を行く間に、私は三度までも死にかけた。まず、最 初、こちらに向かって突進してくるトラックを危ういところで避けた。つづいて急カープでは、もう 二フィートほどで谷底に転落するところだった。そして三度目、暴風で根こそぎにされた大木が、私 の車の通過とほとんど同時に車道いつばいに倒れこんできたのである。 ☆

7. ゴルフ奇譚集

☆ レッド・ロックス・ゴルフ・クラブのリンクスには、まさしくその名の通り、最終グリーンに隣接 して赤味みがかった陰気な色あいの岩があり、自然のままのハザードを形成していた。 青あざみがはびこり、小さいとはいえ生命力のある這い枝がいたるところに触手を伸ばしている、 お世辞にも立派とは言い難いゴルフ・ 丿ンクスだから、プロのゴルファーも最近ではさつばり姿を見 せなくなっていた。ただアマチュアだけが、そこが土地の唯一のゴルフ ・リンクスであるという理由 だけで、何とか我慢してプレーをしていたのである。 ビーター・ヘブンの不屈の意志がなかったなら、現在開催されているようなアマチュアによるゴル フのコンべでさえ、行なわれなかっただろう。おそらく彼はこのために自分の資産の一部を犠牲にし たはずで、そこにこそ私はまたしてもゴルファーの最も狂信的な理想主義者の見本を見てみたくもな るのだった。 厳正な選抜過程を経て現在に勝ち残っている二人の対戦者は、それぞれに名を馳せたゴルファーだ の小柄で気難しい性格のポドホイゼンは他人とすぐに悶着をおこすのだが、ともあれすぐれたプレー ャーにかわりがなく、リンクスの楡の木の下にすっくと立った姿などはプロ・ゴルファーそのもので 5 あったが、ユダヤ人独特の狡猾さから、彼はアマチュアの規定を巧みに守っていたのだった。 スタージェスは、ショープシャー地方出身のスポーツマンに典型的に見られるタイプの人間で、無 にれ

8. ゴルフ奇譚集

ロで夢想家、試合で勝っても自分が打ち負かした相手にいかにも申し訳なさそうに握手を求めていく 1 といったところがあった。 ・リンクスでの彼のゴルフを 私はペンプローク西叨しやダンフリース ( ン ス。 ' 仆ラ ) にある名門ゴルフ 見たことがあったが、そのときの彼は、グリーンで。ハターを手にしたゴルファーにありがちな奇妙な 失敗をおかさなかったから、ビーター・ヘブンの突然の、また予言めいた思いがけない発言には考え こまざるをえなかったのである。 私は最近の《ゴルフ》欄に書いた自分の記事を読み返してみた。思いあたるふしはなかった。ただ クラブ・ハウスのロッカー・ルームにスタージェスのトレンチ・コートが掛かっていたとき、ポケッ トからその記事を載せた新聞がのぞいていたことを思い出しただけだった。 その新聞は何度も読み返され、おそらく一度は揉みくちゃにされてから再び広げられたらしく、折 り目が何本も走り、しわが一面に寄っていた。しかも私の記事には青い十字のマークがつけられ、ア ンダーラインされているところもあった。 ・『グリーンの呪い』という一言葉は、ウォルター・スコット ( 一七七一ー一八三一一、ス 0 , トランドの詩人、小説家 ) の血筋をひく レスリー・ スコット氏から借用したものである。ゴルフ界の羨望の的であるカップを多数獲得してい る卓越したゴルファーである氏は、リ ンクスにおける《不可解な現象》に関し、傾聴に値する見解を 公にしていた。一流と称されているゴルファーをもふくめ多くのゴルファーが、一般人なら一笑に付 してしまう《不可解な現象》を信しているというのである。 「ゴルフのプレーヤーが、プレー中にごくささいなことで突然調子を乱してしまうことがあるのは