いざり 躄人になるか、ゴルフ下手になるかのどちらかを選ば ねばならないとすれば、私だって迷ってしまう。 ・・ウード ( ウス ( 一八 ギリスの = ーモア作家イ ) ティ 《ゴルフの美女》の心を射止めるには、アドニスほどの美男でも、ヘラクレスほどのカ持ちでも、 クロイソス (? 玳のデ ) ほどの金持ちでも、またビタゴラスほどの賢人でもある必要はない。 ゴルファーであればいい。ただし卓越したゴルファーでなければならないが。 私はゴルフ ・リンクスでは一種の尊敬をかち得ている。皆は若干の畏敬の念をましえて私のことを 《ゴルフの公明正大な裁判官》と呼んでいる。私がこの高貴な球技のルールのあらゆる条項を知りつ ・バンクスを通して宣告され課せられるべナルティは、断固とし くしているからだ。世話役のジョー うやうや て上告の余地はない。だから秘書たちは私に恭しく挨拶をするし、プレーヤーたちもかしこまって 私の見解に耳を傾けるのだった。 だが一度私がドライバーを振り上げると、すべてが一変する。秘書たちはくるりと背を向けて、空 ゴルフ・ビュ 木の兵隊の行進
スポールディングは、クラブ・ハウスのバーに肘をついていたアメリカの客に、声をかけた。 テ「やあグラント。 モントレー ( アメリカ、カリフ ォル = ア州の町 ) の連中は元気かい ? それからバクストン・クラブはど ー丿ングをするって聞いていたけれ 語うなっているかな。なんでもあそこのリンクスには石油採掘のポ ど」 て べ 苦笑いをうかべたままグラントは何も答えなかった。 す 「きみのところのリンクスではプレーしなかったが、 私 カップ 杯を争ったとき、ばくはモントレーに居たんだ」と、スポールディングは続けた。 森 のグラントはグラスを空けると、低くつぶやくように一一一口った。 「バクストンのリンクスは三十マイル東に移転したよ」 ロ 「何だって : : : 」と、スポールディングが聞き返した。 マ サイクスは彼の肩にそっと手をおき、こうささやいた。 9 「その位にしておけよ。スポールディング。 ないしゃないか」 マドローナの森 ( 私はすべてを語ろう : : : ) しくらアメリカでもすべてがうまくいくとは限ら リーディングとコールターがカリフォルニア
ウ = ストンル ) のゴルフ・クラブはイギリス西部で最高のリンクスを所有している。しか もその広さはほば二百エーカーに近い。しかし五十年前にクラブが創設された頃、そのリンクスの広 ・、キ、世 さは二エーカーを越えず、ホールもわずかに六を数えるだけであった。当時の九名のメンノー 間から尊敬はうけているもののありあまる莫大な資産は有していない階層、いわゆる、静かかる階 層に属していた。 現在のクラブ・ハウスのラウンジの陳列ケースには、分厚く金メッキの施された風変わりなドライ こんじき くーは、なにか有名な選手権に バーが展示されている。クラブを訪れる人は、その金色に輝くドライ / おいて劇的な役割を果たしたに相違ないと想像するのである。 くーはたしかに尋常ならざる役 しかしその人は、それが誤りであることを知るだろう。そのドライノ 金割を果たしたのだが、それはリンクスにおいてではなく、むしろウエストンのクラブの草創期にさか のばる異常な事件においてなのである。 ☆ 黄金のドライバー
☆ レッド・ロックス・ゴルフ・クラブのリンクスには、まさしくその名の通り、最終グリーンに隣接 して赤味みがかった陰気な色あいの岩があり、自然のままのハザードを形成していた。 青あざみがはびこり、小さいとはいえ生命力のある這い枝がいたるところに触手を伸ばしている、 お世辞にも立派とは言い難いゴルフ・ 丿ンクスだから、プロのゴルファーも最近ではさつばり姿を見 せなくなっていた。ただアマチュアだけが、そこが土地の唯一のゴルフ ・リンクスであるという理由 だけで、何とか我慢してプレーをしていたのである。 ビーター・ヘブンの不屈の意志がなかったなら、現在開催されているようなアマチュアによるゴル フのコンべでさえ、行なわれなかっただろう。おそらく彼はこのために自分の資産の一部を犠牲にし たはずで、そこにこそ私はまたしてもゴルファーの最も狂信的な理想主義者の見本を見てみたくもな るのだった。 厳正な選抜過程を経て現在に勝ち残っている二人の対戦者は、それぞれに名を馳せたゴルファーだ の小柄で気難しい性格のポドホイゼンは他人とすぐに悶着をおこすのだが、ともあれすぐれたプレー ャーにかわりがなく、リンクスの楡の木の下にすっくと立った姿などはプロ・ゴルファーそのもので 5 あったが、ユダヤ人独特の狡猾さから、彼はアマチュアの規定を巧みに守っていたのだった。 スタージェスは、ショープシャー地方出身のスポーツマンに典型的に見られるタイプの人間で、無 にれ
「しかし仕方ないしゃないか」と、彼は寂しく考えた。「私だってもう六カ月以上給料をもらってい Ⅱないのだ」 沈んだ雰囲気をさらにやりきれなくさせるようにもう一週間も雨が降り続いていた。執拗な、激し い雨。低い所のバンカーはすでに水没し、ウォーター ハザードは拡大を続けていた。 ッターは手書きの案内ビラの前に立っと、それを引きちぎった。州主催のチャンピオン大会の案 内だった。そう、それは確かに開催されるだろう : : : 隣のゴルフ・リンクスにおいて : ホワイト・イーグルズ 紙の切れ端がなおも壁にこびりついていた。太い文字でクラブの《白鷲》の名が読みとれた。 大した皮肉だ。もう久しい以前からこの勇敢な白い鷲は翼を失っているというのに : カウンターの上には、「リッター様親展」と書かれた、クラブ支配人パイクロフトからの手紙が 置かれてあった。「親展」とあるものの手紙の内容には何ほどの秘密もなかった。西部ガラス会社の アーウイン・べレトンがゴルフ・リンクスの百エーカーほどを買収したいと申し出ているのだった。 リンクスの地盤の砂が大型ガラス製造に適した成分だからという理由で : しかしまだ八十エーカーほどは残る。かなり手狭にはなるだろうがコースを按配すれば、まだまだ いけるたろう。 ノターは返事の下書 クラブがまだ栄光に包まれていた頃に催された大宴会のメニューの裏側に、リ " きを走り書きしてみた。ノ ( 彼よ皮肉をこめて、三ロッド ( 一。 ' ドお ) くらいのミニ・ゴルフ場の造成を提 案していた : : 。だが、あまりに皮肉が見えすいていると思い直し、下書きを破り棄てた。 ボウ・ウインドウ 突風があまり激しく張出し窓を揺るがせるので、よろい戸を下ろそうとリッターは窓に近寄った。
モハティ教授はおばっかない手つきで小さな人間の姿を描いてみせると、それに円と放物線を描き 加えた。 このように本当のバック・スウイング 「これが完璧なアーチだ : ・ といつのは : 誰もその話を聞いていなかった。モハティ教授自身もそのことを知っていた。彼にしても自分のバ ック・スウイングに関する理論が誰かの興味をひくとは思っていなかった。ただクラブ・ハウスに、 るゴルファーたちの関心を少しばかりそらせて、一同の上に重くのしかかっている不安をわずかでも やわらげようと望んでいるだけだった。 「ベストとかコレラのような、要するに疫病みたいなものさーと、タッカーがつぶやいた。「大して : 。ただしかし、そ 気にすることはない。なにしろインドや中国でも猛威をふるっているというし : れが突然こちらで、しかもこの近くで発生したのだから : : : 」 「いったい何の話だね ? タッカーーと、クレインが訊ねた。「さつばり見当がっかないのだが」 「人殺しのことさ。それとも皆が噂しているように《ゴルフ・リンクスの殺人者》とでも言ってお ゴルフ・リンクスの殺人者 こちらのは正しくない :
93 ゴルフ・リンクスの殺人者 かんに舌なめずりしていた。 カーテンの背後には目もくれず、レティは電話のところに急いでいた。
夢だということはわかっていた。本当はべッドに寝ていて、幻だけが眼の前に展開しているという ことは、自分でもよくわかっていた。ただ、一種の夢うつつの状態の中で、それが今にも悪夢に変わ りはしまいかとひたすら恐れていたのだった。 工舞台は簡潔で、広々としていた。ただ色彩だけがあいまいだった。たしかに夢の中では色彩の感覚 ロは鈍くなる。 フ 広いゴルフ・リンクスだった。遠くに二、三本。ヒン・フラッグがはためいていてホールの場所を示 ッしていた。芝のそろった細長いマウンドが斜めに走り、その向こうに屋根が見えていた。おそらくク ドラブ・ハウスの屋根だろう。だがその屋根の形がタイの寺院のような曲線を示しているのはなぜだろ ン ア そう、なぜなのだろうか ? : : だが答えはすぐに返ってきた。あれは僧侶たちが虎除けに建てたパ ス ゴダなのだ。しかしゴルフ ・リンクスにあんな。ハゴダが移築された話などきいたことがない。だが、 夢の中では、驚くことなど起きたためしがないのだ。 空には雲が灰色に低く垂れこめており、マウンドの向こう、地平線上に、広大な荒れ地が広がり、 ミス・アンドレット・フロジェ
エドム》ゴルフ・クラブのオールデスト・メンバーたる彼が偉業を達成したそのホールで はなくなってしまうのだ。 詩人がつねに語 0 ているように、やがて苦悩の刃この哀れな老人の老いた心臓に突き立つに至 0 しかもその心臓は、悲しむべきことに、もはやかっての堅牢さを失っていた : ☆ 四月のある朝、リンクスに姿を見せたクラブの秘書のウールスレーと医師のトレントは意外な光景 に驚いて立ち停まった。 つばめ 「燕とともに早くもリンクスに舞い戻って来た人物がもう一人いましたね ! 」と、ウールスレーは 言った。 ツィード の上下に、アルプス帽を耳まで深く被り、ゴルフ ・バックを肩にはすかいに背負ったカー ターモールが彼らに親しげに挨拶を送ってくるのが見えた。 トレントは眉をひそめると不満足な面持ちでつぶやいた。 「昨日、いつもより多目にストリキニーネを欲しがっていたのに : : : 。面倒がもちあがらなければ 好いのだが」 カーターモールに医師のその言葉は聞こえなかったが、考えていることは判った様子だった。 「ヤプ医者先生。心配はご無用ですぞ ! 」 《セント・
今は亡き、プラム・ホワイトが主宰していた素敵な雑誌《ホワイトのゴルフ・ウィークリー》はい ずれ廃刊になるだろう。こればかりは残念でならない。なぜなら、私はこの雑誌のおかげでまったく 驚くべき統計報告を知ることができたからである。ホワイトは、「殺人リンクス」という見出しでの せたので、私は最初、刑事物の記事だろうと思いこんだ。 しかし実際は大違いで、事例別に、数字や名前や、日付や場所が並べられてあるだけだった。 第 : : : 番。打球に注意しておらずポールに当たって死亡した者。 : : : 名。 ル 一第 : : : 番。カミナリに打たれ黒焦げになって死亡したゴルファー。・ る第 : : : 番。石だらけのハザードで、弾ね返った打球を受け、重傷を負ったゴルファー。 ま第 : : : 番。リンクスにおいて原因不明で死亡したゴルファー。・ 原因不明とは ? この言葉には何と神秘的な重みがあることだろう ! 詳しい話をききたくなって プラム・ホワイトが会長をつとめている《オールド・ジャーマイン》ゴルフ・クラブのある、 ーンに出かけた。しかしすでに遅きに失していたのだ ・ス = ' トランド東 ) 也方のはずれシンバ ロー・ランス ( 南部の低地地方士 「第・・ : : 番。ティー 盗まれるポール ・ショットのポールに当たって死亡したゴルファーやキャディー