☆ 謎を解く鍵を発見したのはキャディーの少年だった。 十七歳のビル ・ハンターは近くの小さな農場主の息子で、上級の学校に進学するため血のにしむよ うな苦労をしていた少年だが、その苦労もようやく報いられようとしていた。 「あと一、二年もすれば」と、学校の教師は期待をこめて語るのだった。「ビルは奨学金を獲得して 大学で学ぶようになるだろう それは十月のある晩のことだった。クラブの解散とパックの遺産となった保険金の受け取りの拒否 を決めたメンバーたちがバーに集まっていた。 ーマンが居なかったのでビルが代わりをひきうけていた。 突然、ビルは発泡性エールを満たしたジョッキを置くとこう叫んだ。 ・ : あれは八月の十日でした」 支配人のプリスコンプ氏は少年に怒りの眼を向けた。その悲劇の日付は、思い出すたびにやり切れ ドない気持ちだった。ましてや、それを思い出させたのがキャディーとあっては : 金「それがどうしたのかね ? ビル・、 ノンター」と、彼は不機嫌をあらわにしながら言った。 しかしビルはひどく興奮している様子だった。 「ソームズさんは、風を切る大きな音を聞いたと言っていましたね ? たしか」 「言っていたとも。が、もうその話は沢山だ。その位にしておきたまえ」と、プリスコンプ氏は少 「そうだ !
で ☆ 一一大佐のべントレーは再びケンシントン・ 七黙 0 てリーディングの言葉に耳を傾けていた。 「全部本当のことですわー彼女は言った。 勝 あなた 決「こう言っても、貴女は痛くもかゆくもないだろうがね」退役将校は冷たく言った。「つまり、私が、 あなた この世のいかなる卑劣な人間よりも、貴女を軽蔑しているってことだが : : : 」 それには答えずに彼女は、一通の電報の頼信紙を差し出した。 ズ》の隣りのクラブです。この意味がおわかりですか ? 」 「少しはね : : : だがもうひとつはっきりせんー 「連中のゴルフ・リンクスは貧弱なものです。それに連中の金庫も食い荒された牡蠣みたいに空っ ばなのです。《ニローカ》は、《プルー・サンズ》を呑みこもうと、虎視眈々なのです , 「しかし、こいつを呑み込むのはそう易々とはいかんだろう」と、リーディング大佐は冷ややかに 言った。 ダウナーさんがサンズにやって来たのはバッティングと結婚するためな 「どういたしまして : のです。きっと彼女はそうするでしよう」 「ヘイ ! 」と、大佐は叫んだ。「で、きみはその : : : 危険な敵方の娘を愛してしまった ! 」 「そうなのです : : : 」 ーク近くの小路に停車していた。メイジー・ダウナーは
「 : : : あなたはそのサディストの狂人が私だとおっしやるのですか ? : : : 狂っているというのなら それは : いいですか、 「むしろ私の方だとおっしやりたいのでしよう ? しかしそれは違う。私は正気です。 グラントさん。あなたの隠しておきたいその事実がどうしてわかったかご存知ですか ? スウイング なのです。あなたのその独特のスウイングは、あらゆるリンクスであなたの勝利をもたらしてきたわ けですが、他ならないそのスウイングのフォームは、中国の首斬り役人の動作そのままなのです , 「ホーラーさんー声が弱々しくなっていくのを抑えきれずにグラントは訊ねた。「しかし誰がそのこ とで私を訴追できるというのでしよう 「できますとも、グラントさん。裁判官にはわたしがなりましよう。判決はこうです。あなたは今 日からゴルフ ・リンクスに姿を現わしてはならない。のみならず今後一切ゴルフ・クラブを手にする こともならない。 よろしいですか。もしこれに背いたなら広東での血なまぐさい出来事は、前代未聞 の事件として世の注目を集めることになるでしよう。そうなればエリー ・グラント氏の出場は、何に もまして忌み嫌われるに違いないではありませんか ? 」 「では : : もう私は一生ゴルフができないのですか」と、グラントはカなく言った。「ジョン・ホー ラー。あなたほど残酷な裁判官はありません」 おおがらす : そうです〃ネパー ・モア〃です。断して 「エドガー・ポーの『大鴉』と同しくらいに容赦ない 許しません。もし再び : グラントの醜悪な表情が激しく歪んだ。私は彼の眼に涙が光るのを見たような気がした。
女 の : どういうわけか : : : その、それができなかったのです : : : 」 ノーから人々が 四それ以上彼からは何も聞けなかった。突然遠くで叫び声があがったからだった。・、 口々に何か叫びながら大あわてで走り出てくるのが見えた。 それからのスタージェスは傷ましいばかりの失敗の連続だった。スタージェスの敗北はしだいに濃 厚になっていった。 ポドホイゼン自身も、最終ホールを八対十の二ストローク差でスタージェスをおさえた時には、む しろ戸惑いの表情さえうかべていたのである。スタージェスは、まるで何かにおびえているかのよう に蒼白の表情のまま、頭をたれてその場を足早に立ち去っていた。 再び雨が襲ってきた。ギャラリーはちりちりになっていった。クラブ・ハウスに向かう何人かの姿 が雨の中にかろうして見えた。 黒服の若い女は青あざみとタンポポの球穂のむら立っ方に去って行った。 クラブの秘書のホーヌングが近づいてきたので、私は彼女を知っているかどうか訊ねてみた。彼は 首を振った。 「初めて見かけるひとですね。いえ、そもそもどうやってリンクスにやって来られたのか、見当も つきません。実を言うと、あのひとの姿に気づいたとき、そのことを伺おうかと思ったくらいですか ら。しかし : 彼はあきらかにためらっていた。彼はあごを撫でながらたたずんでいた。 「しかし ? 」 「そうです。 こうべ いた
ばくは聞いたんだけど、王様や王子様、それにお日様の友だちはみ んなこれを使ったものなんだって」 今度はアシュトンがそのクラブを詳しくしらべていた。 ちりば 「グリップには純金の装飾が施されている : と、彼は感嘆の声をあげた。「それにここに鏤めら ルコ れた貴石は、最高級の土耳古石だ。これに似た球戯棒がエジプトのピラミッドから何本か発見されて しるということだが : : : 」 事「ビラミッドですって ? 」と、ヒュー少年が叫んだ。「ラム小父さんは、よくピラミッドの話をして くれんだ ! 」 レ 「ヒュー君」と、カーランドが口を開いた。「隠しておいた方がいいね、このドライノ ・、ーは。きみの ク お父さんに見つけられたら : ン 「うん、でも、もうばく、お父さんのことなんか怖くないんだ」と、少年は微笑みながら答えた。 「ラム小父さんが言うんだ。こんどひどい目にあわされそうになったら、小父さんを呼べばい、 ん「そうするとどうなるのだね ? 」と、カーランドは訊ねた。 父 「ラム小父さんが、噛み殺してくれるって、そう言ってたんだよ ! 」 ム「本当か ? それは」怒りにふるえた声が響いてきた。 ジーン・クレイバーが小舎の陰から姿を見せた。 「なるほど」と、彼は言った。「息子がこっそり邸を抜け出して来たのは、こんな所で、出まかせを 並べたり、ドライバーを盗んだりするためだったのか。おまけにラムとか何とかいう奴まで持ち出し 175 「だからラム小父さんだよ ! 、って」
125 《白鷲》の幸運 ・ガールのことを思い出しているのです」 、え」と秘書は答えた。「あのキャディー 「メギー・トラップかね・ : ・ : 。可哀そうな娘しやった。あんなことが起こったときにはわしも大変 に驚いたものだった。なにしろわしはあの男まさりの大したカ持ちの娘が好きだったから」 「何か彼女の身にあったのですか ? 」と、リッターは訊ねた。 : そうか、きみは 「ではきみは新聞で読まなかったのかね ? あれはもう二、三年前のことだ。・ 確かカナダに出張していた。いいかねきみ ! あれは気性は激しいがやさしい娘だった。それがいっ たいどうしたことなのか、ピカデリーの雑踏の中で、ちょうど車から降りてきたばかりの上流社会の 婦人の首をひねって殺してしまったのじゃ。レディ・コバドーアとかいう」 ア ! それはここのメンバーだったミス・パプルのことですよ ! 」 「レディ・コバドー : そう言えばそうだった : ・・ : 」 「何ということだ ! 「そしてメギーはどうなりました ? 」リッターは不安そうな面持ちで訊ねた。 。あのときには、わしも心を痛めたものだったが : : : 」 「絞首刑になったよ、きみ :
たが、わしの何度か聞きおよんでいるあのジム・ギャラ ( ー氏本人ならば、折り入っての話がしたい と思ってこうして出向いて来たのだが : 「スチュアー ーンステイプル。あのゴ : 高らかな笑いが返ってきた。 : 。たしかにそうに違いない。三十年以上前のゴウフのプリンス。それが今はごらん プランテーション の通り、毒虫の這いまわる三つの村と腐れきった三つの農場があるだけのこのおぞましい島の地 方役人になり下がっている。若気の至りとはいえ、こう持ちくずしてしまっては ! いやはや大した ていたらく。違いますかな ? 」 とすると、安ビールと粗悪ウイスキーの匂いを無遠慮に発散させているこの薄汚れた老人は、かっ ての英国ゴルフ界の栄光であり、スコットランドの人々からは《ゴウフのプリンス》と最高に名誉の ある称号を奉られたあの有名なスチュアー ーンステイプルその人なのだろうか ? ジムが、《お会いできて嬉しく存します》と例の決まり文句を口ごもりながら言うと、地方官は冷 ややかに笑った。 「そのようなあり来たりの挨拶は、この際ご無用に願いオし : それはそうと、あなたは浜の一 番美しい場所に上陸された。湾の最も奥深くの、まあ帽子でいえば白の美しい前立て飾りの部分です な。火山によって造られ、人間のカで開拓されたこの広々とした空間をごらんいただきたい。・ こでは《バダン》と呼ばれている。つまりスポーツ競技場といったほどの意味ですな」 はじ そして再び彼の笑いが弾けた。 「ゴ :
「『例の品物の袋はあるぜ』と、サムが言った。『ウイルのやつは見えないが』 「『ウイルも緑のチョッキでカワウソの帽子を被っているのか ? 』とわしは訊ねた。 「『そうとも』と、ミーターが答えた。『ウイル・クリークは紳士方のようにめかしこむのが好きな んだ』 「『では、やつはそこだ』と、わしは赤みをおびた小さなぐちゃぐちゃのかたまりを指さしながら言 う「『まさか、 っこ、こやられたのだ。 いや違いねえ』と、サムもそれを認めた。『だがいオし言。 ぶつ 語ま、しかしそんなことはどうでもいいさ。とにかく品物の袋はあるんだ。こいつが肝心だ』 て「とにかくサム・ミーターの頭が、これほど働いたのは初めてだった。わしも抜かりなくこう言っ べ すオ 「『こんな姿になってしまったやつに金を払ってやるのは無駄っていうもんだ』 「『そうだった。気がっかなかったぜ』とミーターはすなおに答えた。『そうなるとこいつはまった のくボロい儲けになるな』 「わしらはそれぞれに袋を背負った。ずっしりと重かった : 。それから大急ぎでもと来た道をも ロ ドどっていった。体力のあるサムは先に立って進んで行ってしまったので、二人の距離はどんどん開き、 マ やがてわしは彼の姿を見失ってしまった。 「ところがマドローナの森に近づいたとき、突然やつの悲鳴が響いてきた。何かが逃げ去っていく ような音と、枝の折れる音が聞こえた。
私は・ハース博士がしっと注目している計器盤に眼を向けた。針が揺れながらある数字に向かって動 いていた。 「計測値をたしかめるのしや」とフェン博士が叫んだ。 とも 別の計器盤に弱く赤いランプが点った。 ース博士は、まるで珍奇な動物でも見るように私を見ながらつぶやい 「もう疑いはありません」・ 「つまり、ねえきみーと、フェン博士は言いにくそうにロごもった。 「どういうことなのです ? 」私は訊ねた。 「つまり、その : : : きみが放射能を持っているということなのだよ」と、彼は答えた。 ース博士が 「ラジウム治療か何かを受けたことがあるのではありませんか ? 」思い切ったようにバ 口をはさんだ。 チンキのお世話になったことさえありません」私は思わず笑いながら答 「それどころか、ヨード・ 響えた。 ー君、きみは大変に危険な要素となるだろうが」とフェ 「原子爆弾なるものが存在するなら、 とにかく残って食事を一緒にしていきなさ 影ン博士が言った。「しかし今はまだそんな段階ではない。 い。ゆっくりと話し合おう」 「博士 ! そら、どうです ! 」
-4 生まれてこのかた、スティープ・レタービーは一度もゴルフ・クラブというものを握ったことがな かった。試しに手にしてみることさえなかったのである。 彼は《クレロン》紙の通信員で、センセーショナルなインタビュー記事に関してなら腕利きのつも りでいた。 しかし、名士たちとのインタビューに関する限り、彼が近づけたのは召使いや使用人たちばかりで あったし、たとえ実際に会うところまで漕ぎつけたとしても有名スターたちは、巨大なボクサー犬を けしかけながらこう言う始末だった。「坊や、足もとの明るいうちに退散した方が身のためだ。こい つはとても気が立っているからー ド・、ンヨ 生まれのイギリスの劇作家、批評家はかって彼にこう一一一口ったものだった。 「お若いの、あと三十年もしたらやって来たまえ。わしが百十五歳になった頃だ。そのまえにきみ はその記事の書き出しを今からこう書いておけばいいだろう。『穴のあいた椅子に腰かけたショー氏 は、サクソフォンを吹き鳴らしながら記者を迎えてくれた』と」 誰かが、いや何ものかが彼に憐れみをかけてくれたに相違なかった。ロンドンに感冒が大流行し、 帰ってきたゴルファー ( 亡霊の棲むグリーン )