写真 - みる会図書館


検索対象: 民俗調査ハンドブック
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1. 民俗調査ハンドブック

2 〃 3 民俗写真のとり方 ( イ ) 写真の記録性と限界 科学というものが , 再現可能の原則をはしめから仮定した学問であるとすれ ば , 写真は , ものごとを再現するということで科学の思考形式とまったく一致 する。その上再現の仕方が対象物と並行して同時に行なわれ再現が瞬間に成立 する。そのうえ確実で , 精密で , だれにも容易にできるところに特色がある。昭 和 30 年 ( 1955 ) に刊行された朝日新聞社の『日本民俗図録』で , 柳田国男は 「今度の民俗図録が出るについて , もう少し夙く , 我々の学問に写真を利用す る気持が起らなかったかを , 感しないわけにはゆかぬ」「この写真の一つ一つ を細かに観て行くにつれて , 私など愈々今までの観察ぶり , 又記録法の不完全 さを反省せざるを得ない」といっている。写真の最大の特性がものごとの再現 , つまり記録性にあるにもかかわらず , 一方 , 写真はまたさまざまな嘘をつく。 まず , 立体的な空間の世界を写真は平面に置きかえる。現実の色から白黒の トーンに直したり , 天然色カラー写真といえども , 今のところまだ現実の色を 正確に再現できない。レンズと人間の眼の違いもある。望遠レンズは , 物と物 との間の距離感をなくしてべったりとつまった感しにするし , 広角レンズはそ の逆に狭い場所も広くうつり距離感が強調される。写真の遠近感というものは , 実のところ二つの眼で見ている人間のそれとはちがう。ーっ眼のカメラで写し たものに実際に遠近感はなく , 人間が経験から補って , いわば錯覚によって遠 近感を感しているわけである。シャッター・チャンスによっては , 笑っている 人も泣いているように写るし , 高速度シャッターを使えば動いているものも止 って写る。このように写真にはカメラの機能から自ずと生まれる独自の表現様 式と限界があることをあらかじめ心得ておくべきであろう。 ( ロ ) 民俗写真撮影の心構え 柳田は先の図録でさらに言葉をついで「我々の理想は , 巧者な人の写真に見 られるような , ポーズとか , 絵でいえばコンポジションに該当するものが必要 条件ではなく , シチュエイションを好く表わすようなスナップで , あるままの 姿が撮れるように努力することにある」といっている。あるままの自然な姿を 撮ることが民俗写真の理想であるという。人間の眼は一応 180 度ほどの広い範 囲を見渡せるが , 実際にものをシャープにとらえているのはごくわずかで , 関 心のある対象にしか注意がそそがれない。 35mm 判カメラのレンズでいえば , 50m m , 6 x 6 判のカメラでは 75 m m , または 80 m m が標準レンズとなってい るが , これは画角が 50 度前後で人間の明視できる視角とほば一致するように

2. 民俗調査ハンドブック

2 ア 2 Ⅳ民俗調査の補助技術 設計されている。ただし , 写真は人間の眼とちがい画角 50 度範囲のものを瞬 時にしてすべて見てとってしまう。自然なままの感しを肉眼よりはるかに克明 に写しとるのが標準レンズである。自然なままの感しをとらえるには , カメラ 位置も問題となる。ごくありふれた眼の高さで写真を撮るべきで , 日常的な視 角をはなれた特異なカメラーアングルは避けねばならない。工ドワード = ウェ ストンによれば「写真の構図とは対象の強い見方である」という。良い写真と は , 対象の本質を正しくつかんでいる写真であって , いわゆる芸術写真である 必要はない。 ( ハ ) カメラとレンズ 民俗写真の目的にあったカメラとレンズは , どのようなものを選んだらよい か。多くの民俗研究者は , レンズ交換式の 35mm 一眼レフを使用しているよ うであるが , やはりこれがいちばん利用しやすいように思う。これらのカメラ には , アサヒペンタックス S P や , キヤノン F T ・トプコンスーパー D ・ニコ ン F ・ミノルタ SRT などがある。いわゆる馬鹿ちょんカメラの多くは一眼レ フではなく , 二重像合致式連動距離計付の E E ( エレクトリックーアイ ) カメ ラで , 露出の心配なく撮影を進められる利点がある。むろんレンズ交換式 35 mm 一眼レフにも , 自動露出機構を組みこんだカメラがある。アサヒペンタッ クス E S ・キヤノン EX AUTO ・ニコマート E L などで , これらのカメラは 露出操作のわずらわしさから解放される。 連動距離計式のカメラの利点はピント合せが容易です早く , 軽量で , スロー シャッターによる手ぶれが少ないことなどであるが , 近接撮影には不向きであ る。民俗写真は近接撮影の必要がしばしばあることから , 多目的な用途に適し た一眼レフが , カメラ台数を限るとすればいちばんよい。自動露出機構のカメ ラで注意すべき点は , 逆光や明暗のコントラストの激しい被写体の撮影の場合 である。これらの被写体ではそのまま自動露出にまかせると , 明かるい方に露 出をひつばられてかんしんの写そうと思うものが露出不足となり暗くなる。明 かるい海や雪景をバックに物を写す場合 , 窓際の物を被写体とする場合 , 逆光 線の場合などは , 暗部の露光に合わせて露出を 2 倍 ~ 4 倍 , 余分にかけなけれ ばならない。そのためには ASA を故意にセットしなおして ASAIOO であれ ば 50 とか 25 に , ASA 幻 0 であれば 100 とか 50 にして露出の増加をはかり , 撮 影後再びもとの正しいフィルム感度に置きなおさなければならない。また , 絞り 優先の自動露出のカメラでは , 暗い被写体を撮るときいつのまにか 30 分の 1 以下のスローシャッターで切れているときがある。絞りをもっと開いてできる だけ早いシャッターを切るか , 三脚を使うかしないと手ぶれを起す危険がある。

3. 民俗調査ハンドブック

702 Ⅲ民俗調査の方法と基礎知識 痕跡図ー木造建築では , たとえば柱と梁という具合に二つの部材をつなげる ために柄と穴をつくる。それを仕ロという。一方の部材を取り除いても , 他方 の部材にはかならず仕口が残る。これを痕跡という。北側の部屋や土間まわり などの人目を構わないところでは , 穴を埋めないでそのままにしておくことも 多いが , 表まわりでは埋木をするのが普通である。柱・梁・差物・鵯居・敷居 というふうに丁寧に観察するのである。たとえば , 座敷と寝部屋境の壁を取り払 って引違戸を入れた場合について考えてみよう。板壁であれば , 向いあった柱 どうぶち , 3><2cm の胴縁という角材を 30cm 間隔にわたして , これに板を打ちつけ る工法が多い。だから痕跡としては , 向きあった両方の柱の面に 30cm 間隔に 並らんだ穴が残ることになる。しかも引違戸を入れるためには , 溝のついた鴨 居と敷居を新たに入れなければならない。それは部材の材質の違いや肌ざわり によっても分るし , 材の新しい時に作った仕ロと , 古くなってからの仕ロでは 刃物の切れ味が違うということからも判別できるものだ。図にはすべての痕跡 を記載するのだが , とくに重要と思う痕跡についてはスケッチをして寸法を入 れておく , さらに痕跡に白墨でくま取りをして写真を撮る。相対する部材の痕 跡が合わない場合も多い。それは一方の部材が , 別の建物の古材を転用した可 能性を示めす。そうした判断はかならずその場で下すようにしたい。痕跡がな いときには , ナシと明記し , 化粧合板で柱や壁を被せているときにはその旨を 記入しておくこと。 構造図ーこれは建物の骨組 , すなわち柱と梁の取り付き具合・梁と桁または 梁と梁の上下関係・扠首の位置などを示す図面である。時間がかかっても一度 は試みてみたい図だが , 写真で代用してもよい。 立面図ーこれも写真で代用することが多い。 写真撮影予備調査の段階では , 建物全景と土間の梁組などのスナップぐ らいでよいが , 本格調査時の撮影はできるだけ多く撮ること , その民家が明日 にでも消滅してしまう可能性があるのだから。レンズは 35mm でもよいが , 民家の場合はどうしても敷地に余裕がないから 28mm を使うことが多い。そ の場合にはレンズを水平に構えないと歪みがひどくなるから注意したい。民家 は軒が深いので露出のきめ方がむずかしい。曇り日を狙うのがよい。外観はか ならず真正面から撮る。室内ではフラッシュかストロポが絶対に必要である。 土間梁組のように多数の部材が交差している場合 , 被写体の距離によって陰影 が強く出すぎるから , 各部材を平均に写すには三脚を据えて開放で撮る技術を 身につけておきたい。なお , 柱や梁は煤けているからガイドナンバーの 2 倍ぐ らいを見積ること。また主屋のほかに付属屋・屋敷林・井戸・祠など写すべき

4. 民俗調査ハンドブック

3 民俗写真のとり方 2 / 3 レンズは標準レンズが見た目の自然な感しに近い表現をとれるし , 近接撮影 でも画像にゆがみが少なくてすむのでよいが , さりとてどうしても画角がせま く被写体を充分画面に入れきれない場合がある。広角レンズは 60 度あるいは それ以上の画角をもっていて , 広範囲のものを写し込むことができるが , 広角 になればなるほど像のゆがみもひどくなるので , 35mm くらいの広角レンズ の使用をすすめたい。広角レンズの利点は , 被写界深度が深く , ビントの合う 範囲が標準レンズよりずっと広いことにもある。カメラのレンズにはどれも被 写界深度目盛りというのがついていて , レンズを絞れば絞るほど , 焦点を合わ せた距離が遠ければ遠いほど鮮明に写る範囲が多くなることが一目でわかるよ うになっている。たとえば 50mm のレンズで 3m のところに焦点を合わせ絞 りを 11 にすると , 2 m から 5 m までほほ、ビントが合うが , 同し条件で 35 m m レンズであれば 1.5m からまでピントが合うことになる。被写界深度は , 焦 点を合わせた距離の前方は浅く , 後方は深く , レンズの焦点距離が短いほど深 いという性質がある。したがって 35mm レンズで 3m の距離に焦点を合わせ 絞りを 11 にすれば 2 m 以上の距離のものにピントをいちいち合わせる必要 はないということになる。動きの早 いもののスナップにはこれは有利なこ とである。被写界深度をうまく利用す れば , このように鮮明に写る範囲を広 げるだけでなく , 逆にレンズの絞りを - 、 開いてシャッタースピードを早くし , 焦点を合わせた被写体のバックをポカ シて被写体を浮き立たせることもでき る。 ( ニ ) 利点の多い高感度フィルムの 使用 フィルムはできることなら感度の 速いフィルムがよい。 ASA 100 より も 200 , 28 よりも 400 , 400 よりも 650 がよい。感度が速ければ速いほど 絞りも絞れるしシャッタースビードも 早くすることができるからビンポケや 31 図撮影 例① 〔注〕高感度フィルムなら , 手ぶれの心配をしないですむし , 暗い フラッシュをたか ず , 自然な感じでとれる。 ( 神島ゲーター祭り ) 場所でも撮影することが可能である。

5. 民俗調査ハンドブック

785 13 民俗誌の作成 資料の整理今まで述べられてきたような方法で , 集められてきた資料は , なるべく早い機会に整理しなければならない。市役所・町村役場でえた戸籍・ 住民票 , 農業関係の諸統計 , とくに 1970 年世界農林業センサスによる調査地 域に関する諸資料 , また世帯数などの統計は , 共同調査を実施した場合は , 調 査担当者が速やかに全調査員の手元に置かれるよう図表化をすすめておく必要 がある。再三くり返されているように , これらの資料は , 民俗を支える地域性 を知る上でのもっとも基礎的な資料であるから , 個々の民俗要素を調査地域に 即して再構成して行く際 , どうしても手元に置いておかねばならないのである。 次に調査票を作成した場合 , この整理にはずい分時間がかかる。調査票作成の 責任者によるチェックが行なわれたならば , 共同作業で整理にとりかかろう。 その地域に適応した調査票だから , おのずと地域の特徴が探れるよう按配され ているが , とくに家族構成・家系・本分家関係・つきあい関係・祭祀組織など の性格を明らかにするのに役立つはずである。こうした基準を定めた社会調査 の導入は , 従来の民俗調査では採用されていなかったから , 不慣れを感ずるか も知れないが , 民俗調査の基礎資料があまりにも不斉ーであった点を反省して , 民俗誌作成の上で不可欠の作業としなければならない。 さて聞書きの整理は , それぞれ個人差があるだろう。多くの人はノートを用 いているので , ノートを項目ごとに分解しなければならない。そこで面倒でも 一々分類してカード化する作業が課せられる。とくに共同調査をした際には , 調査内容が共有のものとして , たえず情報交換されねばならない。そこで聞書 きの結果は忠実にカードに写し替えておく。カードは当該調査に用意した共通 の堅紙の用紙で , 項目と記述が一定の書式で無駄のないように表わされている ように , あらかしめサンプルを提示しておき , 相互に疎通し合うよう配慮すべ きだろう。 写真・テープの利用はもちろんなされるが , とったテープは , 昔話・民謡・ 方言などの分野を除いては , 補助的のものが多い。単独で調査している場合は まだよいが , 共同調査の場合には , できるだけ全員が利用できるように , テー プごとにタイトルとその概要を摘記して目録化する作業が必要である。写真に ついては , 共用のアルバムに密着したものを貼りつけ , 閲覧に供しておき , 民 俗誌に活用したいものである。 なお文書類は , 現地で目録化するのが基礎作業だが民俗誌に必要な部分は , 写真にとっておき , それぞれに必要なテーマにそって利用できるよう整理して

6. 民俗調査ハンドブック

5 民 具 03 民俗資料採集調査記録用紙 10 ー 2 撮影者 加写真 10 ー 1 写真番号 . イ 2 イー 2 ク 10 ー 3 撮影月日 - 3 , め / 3 ( 写真 ) ( 92 ページ表 , 93 ページ裏 ) を . み農ネ - も : ル秘。 欲ル - 上集て丘 - - 主色 ,.. 任 . 主弖前 - - 手九 } タ奮現竓吐て冫ー毛毯鋼外 5 と鐶ド回オれて - 印凵口、味・は、鐓 / - に - ら米牙れい 農日壅町行すいま冷咥べ川ダ乞 ? 当 をを。をは也らみ和物で匹菫二を ラ夲全釈て耕起 ( T こ後、じラ 2 : ワ - 小収確まリ 2 し . ら欲と用 " て田ド ーここて上 - ら米田のは会てサ三下ックフ上・」テ 2 た。 調査月日 ー談話者 調査者 昭和 3 年 9 月 / 3 日 住所 - -. 君県ま - カサを

7. 民俗調査ハンドブック

9 芸能 したものに多い。これには奉納年月や立願者・絵師の名などが明記されている 馬と異なり祈願というより奉賽や記念の意味をこめて専門絵師に描かせて奉納 して芸能の様子が描かれていることがある。いわゆる芸能絵馬であるが , 小絵 神社の拝殿や絵馬堂・額堂あるいは寺院の堂に掲げられた額絵馬にはときと るいは禁止弾圧の有無とそれにより芸能はどのように改変したかなど。 尋ね , これらを援用して沿革をたどる。時の為政者による芸能の保護奨励 , あ 文書などの文献史料や仮面 , 諸道具などの遺物資料や近隣の類似芸能の有無を はきわめて困難である。社寺の年中行事や歌本などの古記録・古人の日記・古 歴史的なこと民俗芸能の歴史を個別的にその発生から明らかにすること つづけるものである。 木主水や八百屋お七などの長文の物語歌を踊り子の囃子言葉に呼応しつつ歌い もある。口説歌は七五七五の詩型をもつ事的な歌謡で , 盆踊では音頭取が鈴 盆踊歌は近世調といわれる七七七五調のものが主であるが , 口説歌を歌うもの 若舞曲・題目立・人形芝居などの浄瑠璃 ( 義太夫節・説経節・文弥節 ) がある。 謡・田楽歌謡・田歌・和讃・盆踊歌 , 各種の風流踊歌などがあり , 後者には幸 に大別できる。民俗芸能の歌謡は前者に神楽歌・催馬楽・延年舞曲・猿楽歌 章とからなるが , 音楽の歌を主とする歌い物と詞章の語りを主とする語り物と 歌謡ー歌謡は曲節をつけて歌われ , 一定の楽器を伴奏とするので音楽と詞 として校照する。これらの伝本は写真にとっておく。 のように記入してゆく。また同種の伝本がいくつかある場合には , 善本を底本 写しておき実際の歌 ( またはその録音 ) を聞きながら歌本と異なる箇所に房注 合には , 現行の歌と異同を校照する。方法はあらかしめ調査ノートに歌本を筆 ともに伝承されてきたため誤りの少ないこともある。歌本が古い伝書である場 りする。むしろ歌本などによらずロ伝によって歌われているものの方が曲節と らに少ない。あっても虫損・破損があったり , 意味不明の箇所や誤脱があった たものが多く , その詞章を書きとめたものは少なく , 舞譜・曲譜に至ってはさ 台本・歌本・舞譜・曲譜などー民俗芸能では歌や語りはロ写しで伝承してき 芸能と観客とのかかわり方は調査対象としても見落せない。 れる。祭りの庭に集う氏子や信仰者が祭礼行事や芸能に参加することも多く , その間は一たん演技をやめて , 舞台に平伏して讃め詞を受けるという例もみら とがある。地芝居・万作踊・田植踊などでは見物の中から讃め詞がかかると , ある。また舞台にハナ ( 纒頭 ) を投げたり , 讃め詞をかけたり舞人を励ますこ 囃したり , 曲の進行をうながしたり , 芸能の庭を盛大にする役割をもっことが 衆や高千穂夜神楽のせり衆などのように芸能の直接の演者ではないが , 舞人を

8. 民俗調査ハンドブック

ア 88 Ⅲ民俗調査の方法と基礎知識 以上の構成となっている。多くの写真と図表が用いられているが , 現在の世帯 表から , 近世の宗門人別改帳や水帳までたどり , ムラの家々の系譜と階層性を 浮彫りにさせている。とくに地主・小作関係 , 本分家関係の家々の結びつき方 , これらがつきあいの関係にどのように現われているか図表化することによって かなりくわしく追求されている。大正年代の各家に保存されている「作業日誌」 から , 当時の農作の状況 , 生産暦の復元を可能にしていることも貴重である。 調査村落に近世以来の文書類が , 大量に保存されていたこと , これを有効に活 用することによって , 伝承を支えてきた地域社会の構造を分析できたことがこ の民俗誌を水準の高いものとしている。 次にあげるのは , 茨城県勝田市下高場を調査対象とした民俗誌で , 勝田市史編 さん事業の一環として行なった調査に基づいている ( 『北関東一村落における ムラとイエ』 1973 ) 。構成は , 第 1 章調査の課題と調査地の概観 , 第 2 章村落 の組織と運営 , 第 3 章家族・親族組織と親分・子分関係 , 第 4 章信仰と村落組織 , 付録に下高場関係地誌抄録となっている。この調査は , 調査票と聞書きを中心 とし , 戸籍・住民票・農業関係諸統計を有効に利用することに努めている。調 査員はのべ 24 名で , 第一次調査 9 日間 , 第二次調査 5 日間 , それに基づき約 3 カ月間にわたる分析・報告と討論の積み重ねの結果編集された。民俗誌の構 成からいうと , いわゆる社会伝承に偏重している点は片手落ちだが , 伝承の母 胎であるムラと , それを構成している家の態様の理解を目的とする。そのこと によって , 民俗要素を複合的 , かっ構造的にとらえる。つまり民俗資料の個々 をムラと家のレベルで総体的にとらえ直そうという試みとみられる。当該調査 地のかなりの特色を示す家族・親族と親分・子分関係の分析では , 家族構成・ 家族生活 , 隠居 , 相続・分家・婚姻 , 本分家関係 , イプシオヤ・イプシゴ関係 ( 擬制的親子関系 ) , 親類とつきあいの項目について , 丹念なまとめ方をしてい る。意図した点は , たとえば盆のとき盆棚に参るオタナマイリの行事が親族関 係とどう関連するかといった点や田植のヨイ ( 結 ) とこれに加わる社会関係な どの分析を通して , つきあいの特徴が明らかにされている。 最後に三重県下 , 伊勢湾上の孤島神島の民俗誌をあげたい。本書は写真家の 萩原秀三郎が , 縦横にカメラを駆使し , 夫人が聞書きを担当し両者の成果を 一書にまとめている ( 『神島』 1973 ) 。全体の構成は , 写真がかなりのスペース を占め , それらは実際を観察した結果として , 印象深く表現されている。とく にいわゆる儀礼伝承 ( 人生儀ネい年中行事 ) に関する写真の多いことはやむを えない。この写真が生かされたのは , 神島の年中行事についての解説の後 , と りわけ中心を占めるゲーター祭り ( 31 図 , 213 ページ参照 ) について考察した

9. 民俗調査ハンドブック

5 民具 に関する伝承など , 民具についての禁忌や俗信・言伝えなどを記録する。 採集ーここでは調査に伴って民具を採集した場合に採集状態を記録する。 採集状況の記録は考古学の発掘記録にもあたるもので , 採集者・採集地・採集 年月日および採集当時の状況について記録をする。 以上 , 基本的な記録の項目と内容について述べたが , こに調査者氏名と調 査日時の記録欄を加え , 各自の調査目的と民具とを勘案して , 記録票を作成す ることが必要である。なお , 記録票の規格は B 5 判の大きさで表裏とも使用で きるものが便利で , 用紙は野外でも使用できるように , 使い易く破れ難いもの を選ぶ。 スケッチの効用スケッチは写真では写しえない細部にわたる構造や材料 の工作法 , 民具の組合せ , 着装法などの分解図として用いるほか , 計測部位や 部分名称の表示 , 潜在民具の形態復元などの手段として用いる。特に計測部位 の表示については , 各民具についての統一的な計測法が確立していないので , スケッチを用いての表示が不可欠である。スケッチの方法としては絵画的な表 現は別問題であり , 個々の民具について細部にわたる綿密な観察を行ない , 見 たままの民具の特徴を簡潔にわかりやすく描く。特に特徴的な部位については , 全体の民具の素描とは別にさらに詳細に描いて , 細部にわたる工夫の姿を明ら かにする。こうしたスケッチとは別に計測は民具の各部についてできるだけ詳 細に行ない , スケッチに計測値を併記し後日これをもとに正確な実測図や模 造ができるように配慮する。また , 小型の民具では調査用紙に直接のせて輪郭 をなぞったり , 鉛筆を用いて乾拓の要領で写しとるなどの方法がある。 スケッチはこうした記録のための目的にとどまらず , 作図することにより , 一層民具に密着した実感としての把握が期待され , 単なる聞書きや観察ではえ られない効用が期待できるものであるから , 必ず実施するようにしたい。 調査記録の整理 このように作成された調査記録は , そのままカード化し て分類整理をするほか , 必要に応して分類カードを作成して整理をする。 民具の分類の要件としては , 時間・地域・材質・技術・機能・用途・職能な どが考えられるが , 一般的には地域分類と他の分類とを併用することが多い。 こでは文化庁の用途別分類について述べることとする。 文化庁の重要民俗資料指定基準では , 民俗資料のうち有形の民俗資料につい て , ( 1 ) 衣食住に用いられるもの。たとえば衣服装身具 , 飲食用具 , 光熱用具 , 家 具調度 , 住居など。 ( 2 ) 生産・生業に用いられるもの。たとえば農具 , 漁猟具 , 工匠用具 , 紡織用

10. 民俗調査ハンドブック

14 民俗資料の収集保存と展示 民俗資料収集調査票 受入番号 - ノ -. 調査地番号 ~ - -- - - 分類番号二 - 整理番号クイ 調査地 立地 用途 使用者 入手経路 製作 分布 由来変遷 堺玉 6 比食も叫男曾大字言前 山村丘陵地 名称 -. ~ なノゞ - ラ - -- - 別名 - - 川沿村海村市街 標準名 - -. 使用目的 ( 時・場所 ) - 粘の水守 - 物三田 - 可む 使い方 - 上 , 』第のュ : りてを収阯 - -G の - ノ飼 - 咥三 》メカスなと - 亀肥を午て梓ロこむ ) 使用年代現在使用中一 -2 ? -- - 年前頃から -- - 年前頃まで使用した 以前の民具 - 道幻菫籌ま - 以後の民具 - ー上ク土 ( 理旺 ). -. 前後の民具との違いユウ - をう指麪 : IR. 、新早も - 併用具・付属品ミレ - 同しものの所有数 - -- ーーー主 氏名 - 雑語王 - 年齢 - 0 女職業 - まー - 階層 -- - 史ー 自家製誂・⑩ ( 購入先、リ ' イ代価照借用 製作年代人一個の製作時間 - -- . 住所 -- - 職業 - ー 製作者氏名 27 図民俗資料収集記録用紙 禁忌・俗信等 - - 砂里 6 とツメ - 嫗區丞三面 由来伝説ーバラ - 塗前莖の渡のを同穩の命ル鱸に 郡下市町村内のみ 製作工程ー 製作用具 材料ー - 彭物 - 甲、全の - う文壅 - 〔注〕 (1) 裏面には写真貼付・スケッチ欄をもうけ , 写真番号・撮影者・撮影月日を記載するととも に , 写真・スケッチをもとに形態・寸法と部分名を記入する。 ②また採集状況などを記入する備考欄と , 調査月日・談話者・調査者名の記入欄も必要であ る。