、木の実にくだもの。植物は、おなかをすかせた動物た 生きのびるために 植物は、自然のいとなみの中で、とても大きなやくわり ちのごちそうです。けれども、植物が食べつくされて、ぜ をはたしています。それは、ほかの生物のいのちをささえ んぶなくなってしまうことはありません。いったい、どう ることです。植物は、わたしたち人間や、動物たちの、大 してでしようか。 植物には、動物にはないふしぎな力があります。それは、 切なたべものですね。 まきばでは、ウシが一日じゅう、草をもぐもぐと食べて のびつづける力です。みなさんは、草むしりをしたことが います。庭や林では、カタッムリが、ひとばんのうちに ありますか。草は、むしっても、むしっても、またはえて やわらかな葉をなんまいも食べてしまいます。穀物に根っ きますね。これは、むしったのこりの茎や葉が、のびてく るからです。このとき、とくに大きなはたらきをするのが、 ①ノロジカ 葉の部分です。葉は、光をつかって、のびていくのに必要 ②ウシ ③ノウサギ な養分をつくりだします。このふしぎな力は、植物がかれ ④リス ⑤ハムスター るまで、なくなることはありません。 ⑥モリネズミ ほうほう 植物が生きのびるための、もうひとつの方法は、動物を おいはらうことです。動物をおいはらうには、いろいろな やり方があります。イラクサは、ひふをひりひりさせるし るを出します。ノバラやアザミは、はりやとげで身をまも イラクサ
トリカプトの花にあなをあけて、蜜を吸うマルハナバチ 蜜がある花をえらぶミ ツ / ヾチ 花の蜜を吸う つばいになって、花粉をはこぶのをやめてしまうでしよう。 春の野原や林で、オドリコソウをみつけたら、花をつん とくに、チョウや甲虫は、なかまに蜜をもってかえる必要 で、根もとのところを吸ってみましよう。ちょっぴりあま い、蜜のあじがします。花にくる虫たちは、ほそいストロ がありませんから、じぶんのおなかがいつばいになってし まえば、もう、ほかの花にはとんでいきません。だからと ーのような管をつかって、この蜜を吸っています。この管 ふんかん のことを、吻管といいます。吻管の長さは、花の形とうま いって、蜜が少なすぎると、虫はがっかりして、べつの種 類の花にとんでいってしまいます。 くあうようになっています。 なかには、蜜がのこっているかどうかをおしえてくれる、 たいていの花は、 ミッパチが蜜を吸いやすい形になって しんせつ 親切な花もあります。左上のマロニエの花を見てみましょ ミッパチがはたらきもので、花粉をいち います。それは、 みつひょう ばんよくはこんでくれるからです。また、細長い形の花に う。蜜標が黄色で、いいかおりがするのは、さいたばかり で、蜜がたくさんある花。蜜標が赤くて、べつのにおいが は、マルハナバチがやってきます。それは、マルハナバチ の吻管が、ミッパチより長くなっているためです。蜜がお するのは、受粉がおわって、蜜がない花。虫は、このしる くの方にある花には、もっと吻管の長い、チョウがやって しをすばやく見わけて、花をえらびます。 きます。ひらたいおさらのような形の花には、ハナアプや こんどは、右上の絵を見てください。これは、マルハナ バチが、トリカプトの花びらにあなをあけて、蜜をのんで 甲虫 * がとまります。 ひとつひとつの花の蜜は、少しずつしかありません。 これでは、花は花粉をはこんでもらえま いるところです。 もし、花に蜜がたくさんあったら、虫はすぐにおなかがい こまったどろばうですね。 せん。まったく、 * 甲虫・・・テントウムシやコガネムシなど、かたい羽が背中をおおっている虫 こうちゅう 16
花をぶんるいする 野原にさく、かわいいヒナギクの花は、どこの 国でも、どこの野原でも、おなじ形をしています。 それは、世界じゅうのヒナギクが、おなじ種類だ からです。 人間とおなじように、植物にもしんせきがあり ます。しんせきどうしは、とてもよくにています。 おなじしんせきの植物をひとまとめにしたものを、 か 科といいます。ヒナギクは、タンポポとおなじ、 キク科のなかまです。おなじ科の花を見てみると、 花のつくりがいっしよなのがわかります。キク科 の花は、小さな花がたくさんあつまってできてい ますし、キキョウ科の花は、どれもつりがね型を しています。こうした科がいくつもあつまって、 顕花植物 ( 花をつける植物 ) という、大きなグル ープをつくっています。 ひょうほん 花をつんだら、ノートにはって、標本をつくり しんぶんし ましよう。まず、花を、すいとり紙か新聞紙には さんで、おもしをのせます。そして、花がたいら になってから、ていねいにノートにはります。長 くとっておくためには、上からセロハンをかける と、いいでしよう。 ずかん 花の名前をしらべるときは、植物図鑑をつかい ます。図鑑には、植物の絵がのっていますから、 しらべたい植物とにている絵をさがします。だい じなのは、花だけでなく、植物全体を見ることで す。葉の形や花の色、茎ののびかた。植物がはえ ちゅうい ている場所にも注意しましよう。よく観察してい れば、みなさんもきっと、花にくわしくなれるで しよう。 セリ科 たくさんの花があつまって、 かさがひらいたように見える ⑩イワミッパ @野生のニンジン キンボウゲ みつけた日 円 87 年 5 月 25 日 みつけた場所日のあたるはらつば けんか
み、べつの花がさきます。夕方には、マッョイグサ⑩がさいて、明るい色と、 あまいかおりで、夜の虫たちをさそいます。 あたりがねしずまったころ、くらやみの中で、サポテンの花@がひらきま す。この花は、たいへんうつくしいので、セレニケレウスという、ギリシャ めがみ しんわ 神話の月の女神の名前をもらっています。また、夜の女王とよばれることも あります。このみごとな花は、たったひとばんしか、さきません。 このように、花は、あさからばんまで、こうたいにひらき、じゅんばんに 虫に花粉をはこんでもらいます。もし、ぜんぶの花がいちどにさいたら、た くさんの花が、虫たちをうばいあうことになってしまいますね。 たいていあ花はとじています。 雨の日は、蜜と花粉をぬらさないように はね 虫たちも、どこかにじっとかくれています。雨にぬれると、やわらかな羽が からだにはりついて、とべなくなってしまうからです。 ⑩アカタテハ ⑩ヨーロッパタイマイ ⑩ペニモンマダラ ⑩ガンマガ ⑩コ工ビガラスズメ ④スガのなかま
花びら , こに花粉が はいっている 花糸 おしべ 6 、 めしべ 子房 このなかに胚珠がある がくへん
花のいとなみ 花と虫たちの 1 年 文と絵ウナ・ヤーコプス 訳塚原真里子 あむすく
おもてがどんなにさむくても、あたたかい部屋の中なら、 花をそだてることができます。部屋で、花をそだてるとき は、わたしたちが、せわをしてやらなければなりません。 ひりよう 水と肥料をやり、光にあて、ときどき葉をふいてやりまし ねったい よう。部屋でそだてる植物は、たいてい、熱帯の国からき ています。冬に花をさかせるシャコバサポテン⑦、はなや かな色と形のアマリリス⑩、どちらも部屋を明るくしてく れます。 クリスマスのころ、花屋さんにポインセチアがならんだ ら、よく観察してみましよう。赤や白の花びらのように見 えるもの⑧は、じつは、葉なのです。ポインセチアは、葉 が花のやくめをしているのですね。このような、にせもの ぎか の花のことを、偽花といいます。偽花のまんなかにある、 小さなめだたないもの⑨が、ほんものの花です。 このように、花はい年じゅう、わたしたちをたのしませ てくれます。けれども、花がきれいだったり、 いいかおり がしたりするのは、人間のためではありません。花粉をは こび、たねをつくるてつだいをする、虫たちのためです。 地球には、毎年くりかえし花がさき、たねがみのります。 それはみな、虫たちのこうしたはたらきのおかげなので
ルハナバチは、キツネノテプクロの花 にもぐりこんで、あらしや、よっゆか ら、身をまもっているのです。 みなさんは、バラの花でできた家に すんでみたいと思いませんか。とくに グローリア・ディ③のように、きれい な花にすむことができたら、どんなに たのしいことでしよう。花びらのあい だにいる緑色の虫②は、ハナムグリで 花の家 のようになると、その中に、クモが巣 す。ハナムグリは、バラの花粉を食べ 森にいくと、よく、こびとのばうし をつくることがあります。また、カニ て、生きています。 のような、キツネノテプクロの花①を グモ⑤は、巣をつくらずに、フランス かおりのよい花には、このように こうちゅう みかけます。かわいい花ですが、中に ギクの花⑥の上で、えものをまちぶせ よく小さな甲虫がすんでいます。アザ ゆびをつつこんだりしてはいけません。 ミの花や、おさらのような形の花も、 します。カニグモは、からだの色が、 ようちゅう ひとつは、花に毒があるため、もうひ フランスギクとそっくりですね。それ 小さな虫や、その幼虫のすみかになり とつは、花の中に、マルハナバチがか で、ミッパチ⑦は、カニグモに気がつ ます。 くれているかもしれないからです。マ かないで、つかまってしまったのです。 野生のニンジンの花④がかれて、玉 24
花にまつわる話 ものがたり れきし 花の歴史や物語には、おもしろいも のがたくさんあります。たとえば、オ オバコ①は、むかしは、ヨーロッパに しかはえていませんでした。ところが、 ヨーロッパから北アメリカに、人びと がうつりすんだとき、オオバコのたね も、その人たちのふくやくつにくつつ いて、いっしょに海をわたりました オオバコのたねはじようぶで、ふまれ ても馬車のしやりんにひかれても、ヘ いきです。そのため、あっというまに アメリカじゅうにひろまりました。白 人がとおったあとにはえてきた草なの で、インディアンはオオバコのことを、 「白い男のあしあと」とよんでいます。 チューリップ②は、もとは西アジア たび の植物でした。あるとき、ひとりの旅 びと 人が、チューリップの球根をオランダ にもってきました。すると、人びとは たちまち、チューリップの花にむちゅ うになりました。なかには、たったひ ぜんざい とつの球根を手にいれるために、全財 産をなげだす人もいたそうです。 花の名前は、花の色や形をあらわし さん ていることがあります。たとえば、オ えし、ご ニュリ③は、英語でタイガーリリー といいますが、そのわけは、下の絵を 見るとよくわかりますね。 花の名前は、国によってちがいます。 おなじ花にいろんな名前がついている がくしや とふべんなので、学者は花をぶんるい せかいきようつう して、どの花にも世界共通のラテン 語の名前をつけることにしました。 * ・・・「タイガー」はトラ、「リリー」はユリという意味です 25
訳者あとがき いつも、ふしぎに思うのは、花が、人間の目にもきれ いに見えることです。花がきれいなのは、人問のためで はなく、虫をよびよせて、花粉をはこんでもらうためな のに、本当にふしぎですね。また、花のかおりには、わ たしたちの気持をやさしくしたり、元気にしたりするは たらきもあるそうです。 むかしは、人問も、ほかの動物や虫たちとおなじよう に、花とたすけあって生きていたのかもしれません。で も、いまのわたしたちは、花からいろんなものをもらう だけで、花をたすけるのをわすれているような気がしま す。それでは、いったいどうすれば、花をたすけること ができるでしようか。その答えは、きっと、花をよく見 たり、せわをしたりしているうちに、花がおしえてくれ ることでしよう。 花のいとなみ 0 1995 Printed in Japan ISBN 4 ー 900621 ー 03- X ウナ・ヤーコプス (lJna Jacobs) 1934 年ドイツ北部バルト海に面したロストッ クに生まれる。ミュンヒェンの大学で、動物学、 植物学、地理学を学び、 1958 年理学博士の学位 をとる。後、数年間、家族とともにアメリカに 滞在。 1967 年ミュンヒェンに帰ってからは、生 物学の分野の書籍の翻訳、および児童向けの本 の執筆をおこなう。 1975 年からは絵も描きはじ め、 1978 年以降自然をテーマにした絵本の著作 にとりくんでいる。この Elle 「 mann 社発行 の lJh 「 en シリーズでもく太陽〉、く地球〉 ( あむ 1995 年 8 月 25 日初版発行 学部卒業。現在はドイツ語の翻訳に従事。 1959 年東京生まれ。 1982 年早稲田大学第一文 塚原真里子 ( つかはらまりこ ) すく既刊 ) 、く蝶〉などを担当している。 T EL03 ー 3 四 3 ー 8689 振替 00150 ー 6 ー 114525 〒 101 東京都千代田区神田小川町 3 ー 1 ト 2 ー 811 発行所ー ( 有 ) すく 発行者一竹村昌子 訳者一一一塚原真里子 著者 - ーーウナ・ヤーコプス 印刷・製本一株精興社