正月をしに山下りし菜亠円く小鳥行く空 6 0 3 裏からおとづれる此頃の花菜一うねの さく 雛飾る朝の渚をあるき貝拾ふ 瀬戸に険く桃の明方の明日の船待っ ずわ枝の桃の立っ垣の外までちる藁を ふむ 住宅地になる杭の草靑むかどかどを曲 る けふも西風の睛つみ草に行く日なく 喙きそめた櫻の下の人の寄る中にゐる 人々のひだるうさくらちりくる坂下り てゆく 名殘りの土筆をつむ松三本のよりて立 つかげ っゝじ険きそろふ花に雨の落ちくる箒 ひとり歸る道すがらの桐の花おち 一もとの折れて菖蒲切花にする朝の雨 雹の降りたまる靑草の上靴す・ヘりて行 きぬ 散歩に出た道すがら田に水を引く人ら とあるく 鮎の初漁の日橋のそこらまで出でぬ 門・ヘ栗の花おち一人二人の草鞋捨て行 雨もよふ風の野を渡り來る人聲のタベ 濱でまたしばし住む實になる濱茶 蚊帳に來た蝉の裙のべに一ト鳴きす 夜も鳴く蠅の灯あかりの地に落る聲 神輿舁きの水飮みに來る鈴鳴る朝から 西瓜船のつく時分町の日蔭をたどりて 行く 一樽の酒菰のまゝ秋になるいく日を過 ごす 干し殘るゆうべの藻屑の白き蜻蛉のゆ きぬ こほろぎ 壁土を捨てた雨の濕りの蝉の出る こをんな 鮎をき長に一ト走り小女の崖おりて行 コスモスくねる枝々の蕾をもち起き來 る 焚火にかゝる茸やくオキの炭を一とく 菌とりに出そろへば口々の頬かむり 柑子高く藁始末する藁かぶりゐる 家々の菊大方は黄菊険く海の照り返す 橋を渡り師走の町飾りする見て戻る 葉鷄頭幹の太しき虫枯れ姿 朝夙く鳥籠を下げて來し霜の上に 富士の暮れ殘るフォームに下りいそぎ てあるく 裁物をする側夜のふけし火鉢の火いち る 山まで蜜柑色づきぬ壁を色ぬる 壁の干割れ正月の短尺を掛けがてにす る 野の果て見ゆる山の頭の晝過ぎ影なく 寺の甍を中に湖べ山村の雪ふゞきする そちこちの山の尖りの春さきは霞みて あらす 停車場廣場に出でし雪はあとなき乘物 を待っ 車中一眠りして一人になり蜜柑手にふ るゝ 藪からさす枝の低くも雪のけふ來ん 野に出でゝ二人づつになり話す梅を見 にゆく たちもの 大正十五年
「さうか誰と行った。」「一人で。」「ハ 、一人で行ったか。そい て立て膝を兩手でだいて小さくなって生る。今迄の寄席は皆廣かっ つは己よりはえらい。 ハ、、、、」と蓬亭は笑って、「それから無たのでいつも三藏の坐る處から高座までは大分距離があったが、こ 暗に行き度くは無いか。」と尋間するやうに聞く。三藏は一寸困っ の廣瀬亭は狹い。後ろの方に坐っても高座はすぐ鼻先きにある。高 たが「そんなに行き度くも無いサ。」といって除ける。「さうか、そ座からもすぐ目につくと見えて皆三藏を見る。小光の弟子で光花と もたれ れ位に強い處があればい、。」といってそれから「僕は三四年前大いふ切前の前を語った子供上りの丸つぼちゃなどはちっと三藏の方 阪に居た頃親戚の藝者屋の家にゐてあゝいふものの内幕はよく知っを見て罪の無い笑顏すら見せた。「あの人は何處へでも來るのね てゐる。其爲め道樂をせうといふ考へはあまり無いし、した處で別え。」と若し樂屋で皆が自分を評し合ってでもゐはしまいかと考へ にたいした刺戟も受け無い。君等でも内部の事情を知るのはよいがて三藏は極まりが惡かったが亦何だか得意でもあった。中入に便所 溺れてはいかんぞ。」と蓬亭は荒々しい言葉で而もいつもの通り親へ立つ。此處の便所の位置は樂屋の橫手に在る。三藏は何心なく ありがた 切な忠告をした。三藏は其忠告を難有いと思ふよりも、蓬亭が藝者っッと這人らうとするとパタ / \ と小刻みの草履の音が聞こえて内 屋のうちに居ったといふ話に興味を持った。羨ましいと思った。願から戸が開く。見ると小光だ。三藏はハッと呼吸がつまるやうに覺 ムだんぎ える。驚いて目を瞠って、白粉でよごれた平常着の襟をくつろげて はくは小光のうちにでも同居して見度いと思った。 今化粧を終ったらしい首を突出してゐる妖艶な姿に見とれる間も無 しやが く、「お待遠様。」とろく′ \ 三藏の顏は見す嗄れたやうな聲で挨拶 ふきぬきてい 小光は小川亭が濟んで吹拔亭へ挂った。三藏は近くなったので得し乍らついと擦れ違った。白粉の香ひか油の匂ひか知らぬが鐃い香 が三藏の鼻を撲つ。三藏は其の素氣なく行ってしまった後ろ姿を怨 意になって行った。其次は本所の廣瀬亭といふのヘ挂った。本所と めしさうに目送する。一寸でもい、から笑顏を見せて貰ひたかっ いふ處へはまだ一度も足を踏み入れたことが無かった。町名も人に た。が「お待遠様。」といふ義太夫の文句以外の聲を聞いたのがせ 聞いて、其から地圖を廣げて略見當をつけて出挂けた。此邊と思ふ 處を探し廻ったが寄席らしいものが無い。交番で聞く。「此邊に廣めてもの心遣りだ。と自ら慰める。 瀬亭といふ寄席はありませんか。」巡査は怪し氣な目をして三藏を 六十四 見下してゐたが「ある。」といったばかりでロを閉ぢて默ってゐる。 「どう行ったらいですか。」 . と聞く。「ウ、廣瀬亭か。」と言って 便所を出て歸りにふと耳を欹てると樂屋で話聲が聞こえる。「握 又一寸默ってゐたが「この先の四ッ角を右へ曲って行くとすぐ右り屁をしたな。」といふ下劣な男の聲がする。「何かは握った事があ よそみ 、、ゝ」と甘えたやうな女の聲 側。」と餘所見をし乍ら低い聲で言ふ。大分薄暗くなった町を心細るが屁を握った事はまだ無いわ。へ が續いてする。其女の聲はすこし前「お待遠様。」といったのによ く思ひ乍ら行くと四ッ角に出る。右へ曲ると角い行燈が見える。嬉 しやが く似てゐて嗄れてゐる。併し我敬愛する藝術家の小光がそんな尾籠 しい。行って見ると果たして竹本小光と大きな字で書いてある。這 入る。若竹や小川亭や吹拔などは學生が多かったが此處は職人や老な言葉を吐くわけが無い。誰か外のものであらう。三藏は斯く考へ まちか 人などが多い。遙々本鄕西片町から出挂けて來た書生さんは誰の目ながら座に歸る。程なく御簾が上る。いつもよりも目近く美くしい にも目立っと見えてじろと人が見る。三藏は帽子を目深に冠っ 小光の眼の光りがサッと三藏を射る。さっきは笑顏さへ見せなかっ 俳諧師 よぜ まふか そばた わが にを
坐ってゐる席の後ろの障子の透間から「旦那只今は有難う。」とい 其翌晩は蕎麥屋で一一合餘りの酒を飲んで思ひ切って早く出挂け かやばちゃう ふので驚いて振返ると、何の事だ自分の橫に坐ってゐる角帶を締めた。けふからは茅場町の宮松亭にかゝってゐるのである。まだ暮れ しを一ゐ た若旦那らしいのが鷹揚に振返って點頭く。すると光花が「おッ師切らぬので閾の上に鹽が高く盛ってあるのが目につくばかりで下足 匠さんが一寸樂屋まで來て下さいましって。 : え、すぐなのよ。」は一足も挂ってをらぬ。三藏は躊躇した。と同時にすぐ此寄席の隣 わざ といふ。すぐ行くかと思ってゐると態と十分も經ってから悠々とし りに草津といふ料理屋のあることを思ひ出した。これは小説太棹の て出挂けて行ったのなぞを見た事もあった。其後よく氣をつけて見 うちにも出て來た料理屋であった。此瞬間三藏の頭には大膽な考へ いとま ると偶然にも自分の坐りなれた處はさういふ馴染客・とか色男氣取り が閃く。別に考慮する遑も無く寄席の前を通り過ぎた足がすぐ草津 のものなぞの坐る處らしく、自分獨りの爲めの秋波かと思ったのがの門を這人る。「らっしゃーーーい。」といふ下足の男の勇ましい聲が たん 何そ計らん此邊一帶のものの上に公平にあびせかけらる、ものなら 打水のしてある玄關橫から起こると、一人の女中がちらと姿を見せ こちら んとは。三藏は斯ういふ事を明かにした時は少なからず氣色を損じて「おやお客様。」と獨り言を言って「どうか此方へ。」と澄した顔 た。何だ女義太夫なぞ、矢張り一種の賣女だ、藝術家がちゃんちやをして先きに立つ。 らをかしいや、と自分で勝手に冠らせた稱號を自分で罵倒して僅に 三藏は夢中になって其あとに從ふ。廊下傅ひに行って段梯子を登 溜飲を下げた。さうかといっ・て共の日から斷然足を運ばぬことに極る時三藏は氣がついて内懷に手を入れて見る。ある / \ 。 銀貨や紙 まかなひかた めたといふわけでも無い。相變らずラムプを消しては出挂ける。さ幤で膨れた蟇口がちゃんとある。三藏は育英會寄宿舍の賄方と心 でつくは うしては不快なことに出會して感情を害してゐる。 易くなって其周旋で或金貸しから今朝十圓の金を借りたのである。 あが 三藏は初めて料理屋に登る。同級生の會合なぞで一二度行ったこ あが 六十八 とはあったが一人で登ったのは初めてである。頗ぶる手持無沙汰で 二十一歳の暮には流石に感慨が多かった。三藏は處女作をどうすまごイ、する。女中はまだ十八九の一寸澁皮のむげた女であったが る ? と自分で自分を責めたが尚筆を取る勇氣が無かった。強ひて相變らず澄した顔をしてゐて口數を利かぬ。「おあつらへは ? 」と よそみ 自ら勵まして書きかけたが舊によって中止した。二十二歳の新年は料理札を突きつけたまゝで諭淡に餘所見をして居る。三藏は困まっ 水臭いやうな下宿屋の酒をよく飮んだ。俳句は作ることは作ったが たなあと思ふ。これからどうなることかしらと思ふ。初めて吉原へ 去年程は作らなかった。ラムプを消して出挂けることは依然として 行った時も困ったが、當の敵が十風及び細君を通じて既に親しいも 變らなかった。 ののやうな感じのしてゐた錦絲であったのと、其錦絲が又た初めか 一月十五日であった。例の如く寄席に出挂けて見ると大入りにつらざっくばらんで心が置けなかったのとで暫くの間止まなかった武 き客留と張り出してある。氣がつくと今日は藪入だ。大入りには不者顫ひも程なく止んでしまったが、今日は此調子ではどうなること こ、ろ・と 思議は無いわけだが何だか自分獨り疎外されたやうな氣がして癪に だか甚だ心許無い。一度下へ行った女中は又上って來て這入り口の ゆかた 障ってならん。すぐ其足で錦絲の許へ出挂けた。ところが錦絲も病所へ浴衣を置いて何とかいったやうであったが充分に聽き取れなか 氣で入院中とかで桃助とかいふ顏の汚ない妹女郎が名代として現は った。「何 ? 」と三藏はぶつきら棒に聞きかへすと女はニッと齒を れた。 出して厭な笑ひやうをしたばかりで又下りて行ってしまった。三藏 さすが らなづ みやうだい
一通りでないことがあったのかと胸騷ぎがするのであった。又た言を抱くやうにして又た泣かずには居れなんだ。泣きやめてゐた達坊 ふことをきかんので、お母さんに叱られたのかときいても、さうぢは、却って私を慰めて、もうお泣きなや、と言うてくれて、明日又 ゃない / 、とかぶりを振る。黒でも來たのかなと言うてもイ、工と た二人でげん / \ 摘みに行かうや、といふた。私は尚悲しうなって 言ふ。もう兄さんがもんたけれ、おとなしくおし、というてもイヤ泣き入った。 ぢやが / 、と言ふことを聞かぬ。そんなことお言ると兄さんも知ら んけれ、とあちらへ行かうとしたら、兄さんも知らんことちゃがと お母さんはお父さんのお死にた後、いろ / \ 苦しい中で唱歌の先 袖をつかまへた。兄さんも知らんことて何ぞな。弟はしやくり上げ生になられて、この桑原村へ來られたのは一咋年の春のことであっ ながら、與平ちゃがと言ひ / 、與平と喧嘩をした始終をきれえ \ に た。初めは一軒の家を借って居られたけれど、用心がわるいといふ ので、其後この與平の内の間を借って、私と達坊と三人で移った。 話した。達坊が一人で遊んで居た後ろへ與平が來て、兄貴は何處へ 住たと聞くけれ、城下へ住たと答へると、逹坊には譯のわからんこ與平と中ようして居られるのを見たこともあったけれど、去年の夏 とを口の中で言うてゐたが、己と茅花撒きせうかと言ひ出した。お病氣をされた時から、様子がをかしいと氣づいたのであった。赤子 が出來るのちゃと知ってから、どうしたことかと何がなし私は悲し 前等とはいやちゃ兄さんとするのちゃと言ふたら、與平が腹を立て て何やら大きな聲をして叱りつけた。さうして與平が、己はもうおう思うてゐた。けふも山田の伯父さんとこの話をしたら、お母さん 前等の父親ちやからさう思へ、父親をお前等なぞといふと、これかは始めからしまひ迄泣いて居られた。私も泣きたかったけれど、も ら棒でなぐりつける、お父さんと言ふのぢや、と言ふたけれ、アシ う涙は出なんだ。 のお父さんは外にあったのちゃ、今はお寺に行ておいでる、お前ち ゃない、と言ふと、小癪なこと言ひくさる、と達坊の頭を拳骨で擲 った、達坊は負けてゐないで、泣きながら與平に手あたり欽第物を 投げつけたら、尚怒って坊をつき倒した。起きて見たらもう何處へ 往たか姿が見えなんだ。餘り齒掻いので、げん / 、東や茅花をむし りノ、泣いて居たのぢやさうな。それで、達坊は、兄さん、與平 がお父さんと言へといふたぞな、と繰返し / 、殘念がって言ふた。 與平がまアそんなことを言ふたのかと、私も口惜しうて堪らなん 花だ。逹坊は尚、うちのお父さんはもっと / \ 背の高いえゝ人ちゃっ なたな、今はお寺に行ておいでるのぢゃな、とせがむやうにいふた。 島逹坊でもお死にたお父さんのことは忘れないで居る。よく覺えて居 るのに : : : どうして與平なぞをお父さんと私等から言へやう。どう おして與平がそんなことをいふかと達坊は知るまいけれど : : : それを 3 考へると情ないつらい悲しいこと許りが胸に湧いて來る。私は達坊 ( 明治三十八年四月 )
四日陰睛 二日睛 0 和予ハ寒山詩をよむ。虚子ハ國へ送る手紙を書す。晝後靑木の處にて朝、明日會せんとて内藤翁を訪ふ不在。山本、靑木と共に雜談茶菓 を喫す。 離談、虚子森々の袷を借りて共綿入を質入し五拾錢を得たり。 夕飯後山本、靑木來り共に吉原へ花見に行かんとて出づ。上野のあ書後四人上野へ散歩、美人を評し衣帶を品し興あり。櫻早や六分通 りハさきたり。今四五日の間恰好のながめなるべしゃ。歸途梅月に たりにてしきりに謠をうたふ。行路の人之を見送る。門を人れ・ハ仲 町の兩側にハうつくしき暖簾を軒につるし同じ形つきたる提灯を無て菓子を食ふ。 數にかけたり。町の中にハ一筋ひし / \ と櫻を植込めり。廻すに竹夜またノ \ 鳴雪翁を訪ふ。在宅。明日會をひらくにつきて墨水、洒 垣を以てし瓦羅斯及び紙張の手燭めきたるものを低くたて火ともし竹、古白、爛腸、露月、紅綠に案内状を出す。 たり。人ハ絡繹聲ハ嘩囂未だ花咲かずといへども、春ハ此一廓に餘歸途上野の夜櫻をながめ、藪蕎麥にて酒を飲む。判紙朱墨、筆等を れりといふべし。江戸二の河岸を入りて江戸二に出で角町京一一京一買ふ。今日ハ終日外出なりし。 等經めぐりぬ。 虚子しきりに曰く、明晩小土佐の語り物先代萩ならバ予獨りにても つる仙へおしかけんと其意氣なかど、奪ふべからず。 淺草へ出で長始終徒歩し本鄕にかへり、藪蕎麥にて酒をのみうどん 梅月を出でゝ御成道の古本屋に元祿版の七部集などひやかしかへ を食ふ。時已に十一時前。 る。道すがら小土佐の家の前を過る前、其弟子なる土枝子と小登八 三日陰細雨 ( 之のみは想像 ) の二人に遇ふ。予等の處々へ行きしを知り居りし 神武天皇祭の由己れ等にハ何の關係もなし。 か、しきりに顏を見るに、予ハ汗を流しぬ。虚子大に素徒だなと笑 朝日本新聞瓧より薄謝とて金二圓を送り來る。虚子ハ晝前寓を出で ふ。予をして日記をか、しめバ大書特筆すべきなりと大笑す、已に て新聞を見に行きし由。 予は内にありて臨濟慧照禪師録を抄録す。 一一回も手紙を出したらバ向にも大分それと氣づき居るや居らずや。 そハ兎も角若し普通の人たらバ何ぞ彼等に遇ふて喫驚せざらんや。 晝後吾一人出で & 内藤へ行く。土居藪鶯氏あり。同氏作の櫻百句を 先生批評せらる。予ハ其句のきゝ難きにこまり中途にして歸る。歸吾が情の脆きたゞちに赤面したるも豈に謂なしとせんや。其くせ虚 途日本新聞社に赴き發句を渡し、かっ紅綠に遇ひ陸實氏に紹介をた子ハむくノ、として大悟を氣どりたる風情ありしハいかにや。 初櫻味の面のはづかしき のむ。陸氏に遇ひ新聞瓧に採用の方をたのむ。之を考へて置くべし と仰せらる。 醉に乘じて筆をとる時 春の夜の鼠落ちたり臺所 夕飯後南鍋町ハ京橋區寄席つる仙に小土佐を追ひける團登千歳、染 の助、三輻、等例の如し。熊梅といふを始めてき & ぬ。矢張ためな今日拾ひたる一二句 東照宮の前にて り小土佐ハ三勝半七なりしが風邪も大分なをりておもしろかり 木蓮花櫻の中にさきにけり 虚子 し。雨ハふる。泥中をひく下駄にてかへりしためたびハよごれはね ハ上る、苦しき事なりしよ。 篝たく杉の木の間の櫻哉 夜の雨やぬれつゝ辿る猫の戀 時計臺の下に四五本の櫻哉碧桐
一番室に通されし窓低な花菜 二人で物足らぬ三人になって白魚 女が母と來て箸つきし白魚 お前と酒を飲む卒業の子の話 千潟を見下ろし此の風に吹かるゝ二人 一杯な女の話になる萎びた蜜柑を掴み 鸛が小さい白い鳥でシビ浸って行き っじの白ありたけの金をはらひぬ 母が亡き父の話する梅干のいざこざ 綿ぬきの塵はたきさもなげに立たれけ り八十八賀 靑い實が出來た苺の葉傷み 花が了ったっゝじ枯れるのか てもなく寫生してしまひし石竹がそこ にあり 女が平氣でゐる浴衣地とりちらし 花が喙いてゐた苺の土に實をすり 筍藪に立ち離れてゐたるが淋し 桐猫が子を産んで二十日たち此の懊 しん 浴衣の襟心なしにするこの夏 の枝立った無花果が葉になりつぼむやと 3 仰ぎ 子規庵のユス一フの實お前達も貰うて來 暴風になる夜のほととぎすこゝに住む ちゅうどく 酒の中毒のもろ肌になる哉 ありたけのカ子猫が育っ朝々 白いねり土に鍬あてる草よ撫子 道に迷はず來た不思議な日の夾竹桃 女なれば浴衣の膝づくる皺 車に積んだ石竹の下の灯一つ 葭戸にして叱らねばならぬ妻也 下女より妻を叱る瓜がころがり 十五日の小計の蚊遣香二タ箱 親子連れが下りて來る雲に打たれたる 顔石槌登山、常住 同、虎杖橋 眞白い岩にかこはれてゐる小さき裸 夾竹桃赤いものを振りすてんとす 舍監外出す手の團扇捨てたる也 手拭を頭にいつもあちらむきをる舍監 九段一杯なタ日小鳥の聲落ち來る 燒酎足にひく事を覺えて淋しかりけり 秋子は育たぬ親猫の年ふけ 新の元日で出あるいた砂川 若者の世話此秋も悔ゆる事なし 芙蓉見て立つうしろ灯るや さら綿出して膝をくねって女 靑梅さら綿手して割きょげにはこび さら綿包み塵紙なるほどく也 ことしの菊が玉碎の部屋中 編み手袋のほぐるればほぐす 全集にせねばならぬせねばならぬ鷄頭 が伸び 枝豆を買ふ熱鬧のタ明りなる哉肘折温泉 吹き剥がれた戸の一天の稻妻 子規居士母堂が屋根の剥げたのを指ざ し日が漏れ 秋夜弟妹一々なっかしみて逝きし也 動物園にも連れて行く日なくタ空あき っ 秋睛公園の外廓に沿うて人らせはしく 櫻のすいた梢の空がいや高く靑く 櫻のすいた梢我れべンチでも仰がれ うぶすなの森の新の元日の刈田をわた
390 間吾等乃命なりけり 虚子、司の鏡臺にかざりありしいり物 ( 此處でハ豆いりといふよし ) を見つけ出し之を瓦離ノ、とかミつかミっ時を過しぬ。一時前別れ て各床に人りぬ。共後ハいはすもがな、後にてきけパ虚子は尚床に ハ入らで火鉢をかこひっゝいろ / 、乃話をせりとなん。吾ハ此間よ り乃つかれありし爲め三時頃より六時迄一息に寢人りぬ。八時前同 樓をたち出づ。きぬえ \ 乃わかれ何ともなし。 日本堤に出でしに日ハかう / 、と照りて朝風涼しく面をはらひ淸き 事限りなし心もすが / 、しく生れかハりし思ひあり。虚子乃曰く嘗 って謙信乃早世ハ房事を禁じて男女色共堅く退けたりけれバと云ひ し醫ありしときしが、それハ或は然らん。假令ひ房事は猥褻にし はしがき ろ人間の生命に於て大關係ある者ならん、吾等昨夜の事よりして三 學校へも通ハず手につく仕事もなくされ・ハとて自ら勵んでする事も年位命ののびる心もちなりと共言大に然るべし。吾妻橋外にて、田 なし誠にふらイ、とうき世を蜉蝣乃定めなきに事よせたるハ今の吾舍じるこを食ひて朝めしをすまし氣のむくにつれて向嶋乃長堤をの 等が身上也あとを逐ふものハ債鬼と光陰とのみ雲にうき霞にむぜびたり / 、、と拾ひありきぬ。詩人の快豈に之に如くものあらんや。 瓢然として筆硯其行く處を知らず吾之を知らず人ハ之を知らず朝の いつの間にか白髪就をもあとに見て木母寺に少憩、紡績會就を過ぎ 鐘つきゃんで待乳山の麓に流れよりたる屍そも吾なるべきかタの柳て千住に出づ。共間發句をぼっ / 、吐きぬ。千住にて蜜柑を買ひ歩 漁村の畑暖かに棚引く處一椀の飯に天地を味ふ乞食の姿あら・ハそも きながら之を食ひ大橋を渡りて右に田甫路に出で道濯山に登り歸寓 吾なるやしらじ今日ありて明日なき吾等いづ地に花の雲をや探らんしぬ。 世は形なき陽炎乃燃ゆる時なるを 晝後靑木を訪ひ散歩に出で梅月に菓子を食ふ。上野へ行きてかへ 若し人ありて此日記をよむ事あらバ天の一方に吾理想の佳人たてる る。日くれて後天岸氏來らる。歌舞紀座乃外題先代萩の筋を云ひ傍 と心してよ穴賢 ら團州九蔵等の藝評に及ぶ。氏默して之をきくたゞちに歸らる、し 一三ロ 三月六日午後四時 桐仙 バらくして兩人顏を合せて共に曰く今夜のさびしさハと嚢中を探れ 漂ふかいざようか花のゑひ心 ・ハ尚二圓餘あり。共に行き度ナアと大息をつきぬ、虚子乃日く、餘 り行き度ハなけれど今夜ハ此まゝこ、に寢る事かやと思へバさびし くてならぬ故行き度もなるなりと、誠に然る也。然れども一旦金乃 三月五日睛 事に及べ・ハ下宿屋に尚二圓六十錢やらね・ハならず、二圓ハ内藤先生 身ハゅめと共に吉原乃廓にあるぞおかしき。司の座敷に、たのしみ へもかへさねパならず、之等を思へパ決して行かるべきにあらず、 を煮っゝ四人舊を話し新を追ふ放談哄笑一杯二杯さんざめき合ふ此予ハ然るにあらねどもそんなに行度もなく却て今夜ハ其儘寢たくも ( 禺居日一記 寓居日記三
外套著しま妻との夜中 ゴロ / 、ころげる又この籠のがうな やどかり 寄居虫海につぶてして戻りけり 鴨來る頃二頭減りし牛 にな 蜷に寄居虫交る父は笑はず 炭挽く手袋の手して母よ 姉の淋しさの杉菜野づらよ 用ある手紙ついぞなきこの冬 子供勉強しすぎる鶯日暮鳴き 足袋つけし水灰こぼれけり 母と子と電車待っ雛市の灯 蕪を責くらす火鏝二本よ 雛市通り昆布などを買ひ 食好み忘るゝ壯健な冬 びる 大正六年蒜掘て來て父の酒淋しからん 牡蠣飯冷えたりいつもの細君 野蒜ひたりて渡し舟の水垢 牡蠣船の障子手にふれ袖にふれ 彼岸の牡丹餅の木皿を重ね 馬車の居眠りさめしすれすれ冬木 彼岸のおうつりの紙に墨つき 緋蕪の漬かり納屋にての父 大の子の秋田だよりの雪解川 火燵櫓の眞仰向な朝 長話して夜が更ける初めて掻餅をやき 火燵のかげに物がくれなる汝れ 溪仙を賣らうかチウリップを枯らし 火燵の上の履歴書の四五通 白魚並ぶ中の碎けてゐたり 火燵にあたりて思ひ遠き印旛沼 土筆ほうけて行くいつもの女の笑顔 甥の肉づき膝正す藍色火鉢 村へ戻らぬ誰彼よ土筆 雀の胸高の杉菜いきれり 茶店の地べタ足もとの土筆の包み プリッチ 船橋の傾きょ春凪の浮氷 板の間に打ち開けた土筆あるじが坐る 荷つく迄四角な窓の一人也 鍋から土筆を食ふ箸をとり 下痢して寢る子髮臭ふ冴返り 子守があるく芽ふく楢林 嫂との半日土筆責る鍋 桃が赤い隣で囚へられて行き 金剛登りはいつでも出來る早桃が散り 人が床ふむガタガタな桃林 下女庭にばかりをる柚の木春枯れ 雨のしぶき戸細目の三ッ葉 二人が引越す家の圖かき上野の櫻 試驗勉強の机壁に押しつけ ゅうべねむれず子に朝の櫻見せ 疲れてゐるからの早起火のない長火鉢 引越しの夜のほのぬくい寢間を定め 君を待たしたよ櫻ちる中をあるく 入學した子の能辯をきいてをり 鏡の間にある花見車の作り物 お前が見るやうな都會生活のあさり汁 一杯な人のうしろにて縁側の春雨 八重の櫻の建物會社の敷地 日の透る舞臺の橋がかりに立ち 靜かな瓦斯の下にて煙草乾く哉 大きな長い坂を下り店一杯なセル地 貝は拾うてくれる寄る海苔を踏み 熊手があたる蛤が樂みな一人 十のこ 海苔の簀の中にこゞんでしまひ 内廊下にまはり窓があいて居る柳
小米さんはもうお腹がこれだって本當なのでせうか。」と兩手で膝 6 七十一 をを抱へるやうにして見せて「はあ、さうなの。相手は御醫者様だとも そうがみ 小光は總髮の銀杏返しに結ってゐるのが仇つぼくて、薄っすらと いふし學生の方だともいふし、どうせさうはっきりわかりつこは無 いでせうよ。何にせよ隨分早いのね。まだ十八にもなりますまいに白いもののついてゐる額の廣々としてゐるのも美くしい。三藏はフ ね。 ・小光さん ? 小光さんは堅氣でせう、えゝえゝあまり厭なムプを隔ててまぶしさうにちら / 、と見る。これは高座では分らな そばかす 噂は闘きませんよ。」お若は盃をか〈して、顏をしかめながら一寸かったが薄い雀斑がある。難とい〈ば難だがそれも其上に無造作に 櫛で頭を掻いて「そりあねえ、どうしても商賣が商賣ですから。い薄化粧をしてゐるのが却って美しくも見える。「旦那お盃をお師匠 くら堅氣だといったってさうお邸のお壤様のやうには行きませんさん〈。まあお師匠さん其處では困ります。お傍〈行って上げて下 ゃ。 : 」お德は新たらしいお銚子を持って來てお若に何か耳こすさいな。それは / \ 大變なお待兼ねなんでしてね。ホ、、、、」 しな わざ とお若は今までと違って少し品をして笑ふ。三藏は此お若の言葉を りをする。「あさう。」とお若は態と大きな返辭をして「どうしま ひそか こども せうねえ旦那、今下にお座敷のあいた藝妓が一人居りますんですっ聞いて小光はどんな顔をしてゐるであらうかと私に其方を見ると小 うるに て。其でも呼びませうか。」といふ。三藏は大に困る。何だか吉原光の視線とはたと出逢ったので狼狽へる。けれども少し濕ひのある て臺の物を強ひられるやうな感じがして厭あな心持になる。今迄自眼に優しい光りを湛へてちっと自分の顔を見入って居ったのは身に 分の爲めに親切な女中と思ってゐたお若の顔が俄に何處やら錦絲の入みて嬉しい。三藏は盃をさす。お若は酌をし乍ら「ねえ、どう 遣手のお藤婆に肯たところがあるやうにも思はれる。どう返辭をしか。いえそこでは困ります。はあ邪ですわ。ホ、、」と笑って 「私の傍に居て下すっては全く邪魘ですわ。」とくり返す。「まあ隨 たものかと無愛想なお德の顏と汚ないお若の顔とを見くらべてゐる ほか 分邪險な姉さんね。」と小光も笑ひ乍ら立上って「ちゃあ邪魔にし 時廊下に急がしい足音が聞こえたと思ふと他の女中の聲で「お徳さ かた ない方のお傍に參りませうね。」となれノ \ しく三藏の傍に少し蒲 ん、お師匠さんがお見えになりましたよ。」といふ。三藏ははっと 隲く。お若もお德も思ひがけが無いので驚いて振り返ると「御免下團をよけて坐る。い匂ひがぶんとする。三藏は此前廣瀬亭の廊下 さい。」と靜かに障子を開けて現はれたのは小光である。「おやまあで出逢った事を思ひ出す。「いっか廣瀬亭の廊下で逢ったね。」と三 みは お師匠さんですか。」とお若は立上って「よくいらしって下さいま藏は突然口を利く。小光は一寸驚きの眼を瞠ったが「あゝさうでし したのね。どうかこちらへ。」とさっきから敷いたまゝで空しく人たわね。」と旨くばつを合はす。「しどいわねえ。」とお若は調子外 待顏であった座蒲團を一二藏の傍に敷く。「まあ旦那でゐらしったんれに大きな聲を出して「二人で旨く私をかついでらっしやるのね。 なかうど ですか。どなたかと思ひましてね。お斷り申しましたですけれど何初めてだって仰しやるもんだからお仲人の氣で獨りで氣をもんでた : もう何處かで逢ったんですって。」と妙な眼つきをして だか氣になりまして、一寸御挨拶だけに。どうも姉さん有難う。姉のに。 さん有難う」と二人に挨拶して末座に坐った、一寸こぼれた鬢を「ねえお德さん遣り切れ無いわねえ。」とお德の方を向く。お德は 掻き上る。三藏は此場合默ってゐる譯に行かぬので、お德やお若の「全くですわねえ。」と冷やかにいふ。小光は盃を兩手に持ちながら 「旦那今晩聽きに來て下さいましね。」とちっと三藏の顏を見てい 手前甚だ極りが惡いのを思ひ切って「どうかこちらへ。」 ふ。「あ乂行くよ。今晩は何やらだったのね。」「酒屋ですわ。」「酒 うろた
る。三人田に赴く。予の新聞瓧に事あるにつきあひしなり。歸途近所になけれバ、つゞまり淺草の東橋亭 ( 吾妻橋 ) の朝太夫をきくと 8 て出でしも道わろくて行けず、中途上野の下にてひっかへしぬ。 ( 山 藪蕎麥にて酒をのむ。森々のおごる處也。 此朝四時前湯島あたりに火事あり。予一人出で見れバ火は此時消本 ( 獨り以前わかれたり ) 夫より常盤舍〈、行き新海非風子も在りて 十時過ぐる頃迄離談、多くハ非風子の昔語なりけり。歸途藪蕎麥に へぬ。興なかりけり。 てまた / 、酒をのみぬ、大醉せり。本日池内政忠氏より虚子に手紙 昨日と今日と梅野にむけ都新聞を郵送す 來り、廣島にて可全小兄、井手正雄氏になにか話したりしをきかれ 廿五、廿六日無事 て吾を放蕩生と見こまれ虚子に吾と別居をすめらるなり。 廿六日にハ予ハ圖書館に赴く。 それにつき虚子の目的變更などの事あり、何分吾の傍にあるハ危し 廿七日芝池内へ行き金一圓を貰ふ。朝ハ予一人圖書館行。 と思へバ三度の食事も忘る、許なりと、吾が松山にありし頃少しく 此夜森々來る。予は森々の衣物をかりて、今迄着たるものと、質に 入れしものとをとりか〈たり。いよど、袷一枚羽織一枚の身となれ藝妓にかゝわりてよからぬ風説一般にたちしより、予の信用 ( 松山 人に向て秋毫もなき矢先予が東都にありて放蕩をなすときけ。ハ、何 りけり。 人かそを疑ハんや。獨り疑ハざるのみならず、噂よりハ二倍も一二倍 廿八日陰暴風屋上の煤落つる事夥し も高くとるならん。然る處虚子ハ予と寢食を同うす、若し虚子が松 予ハ晝前圖書館にて東鑑のうっしとりしものを他の紙に寫しか〈た り。蓋し鎌倉右大臣の性行をしらべん爲め也。晝後常盤舍〈行き沐山にありし時の事を知れ・ ( 勿論予と同穴の狐とならんを氣配ふ ( 自 然の勢なり。吾ハ虚子に於てよりも池内政忠氏に向て罪の大なるを 湯してかへる。歸途岡埜へ行きもなかを買ふてかへる。 覺ゅ。 夜鳴雪先生を訪ふ發句、劇、淨瑠璃のはなし盛也。 二人が今日の交情に於ては遂に離るべからざる也。假令ひ虚子ハ吾 廿九日陰夜雨 を振り捨つる事ありとも予ハ到底之に對抗する事能ハず、虚子が、 晝後山本、靑木一一人來る雑談、菓子を食ふ。 夜常盤會〈行き五州の處にて小談虚子金一圓を借る。雨をついて兩袂を拂ふて一暼吾を冷視するの日ありとせバ吾 ( 涙を流して其に 國新柳亭〈赴く小染の忠臣藏八つ目本藏下屋敷の段かなりにこなしすがるの時也。其女々しきを笑ふ事なかれ。其力なきを嘲る事勿 たるに小土佐の白石噺吉原の段、風ひき十分になをらずしていっこれ。知人の涙 ( かくの如き時に於て餘熱あり うにおもしろくなし。失望藪蕎麥にて一杯をひっかけか〈りて直ち虚子の中學に通ふ時 ( 學事之れ務め敎課之れ勵まんとする、一箇單 純の好丈夫なりし。然れども彼がいふ如く文學を嗜むの因ありて予 に寢につく。 の如き放樂慚惰の友なる縁に引かれて僅かに數年のうち、吾が仲間 卅日陰日暮れに大霰ふりぬ初雷 書後吾一人常盤舍に赴く、虚子 ( 發句を作る、吾 ( 森々と共に上野入の一人となれり。文學に志すもの若しく ( 詩人、小説家たらんと 〈散歩す秋色櫻已に笑ひあすここゝの初櫻さきたり。二人驚くばかする、或 ( 單獨衆生に執着せざる禪士の地位より見れバ今日の性行 りなり。夕飯後山本、靑木二人來る山本紋付羽織を着たり。四人正豈に其好執鞭ならざらんや。然れども一度び浮世の義理にか〈り、 に吉原の櫻見に行かんと立ち出づる頃内藤翁見えられぬ。こゝに萬父母兄弟の安危に溯れバ、虚子の行爲豈に其惡爼豆ならざらんや、 事瓦解のはしとなりぬ。何處か義太夫き長に行かバやといたるも然れどもかくなりし以上 ( も ( や何とも致方なきなり。若し其罪を