( 長柄のモリで魚を突いてとる船 ) とチャカ , ーー船方同士がいがみ合杉枝ふうんーー・おら困ったなあ。姉ちゃんすっかりヒステリんな ってりゃあ、よろこんでるんだ。げんにおつつあんは總選擧でも って、新藏さんをクビにしろって、お父つつあんを責めてるだ 市長選擧でも自主黨を應援したじゃねえか。そうしといて今んな って、その犧牲を納屋ん者に 君子まあ、卑怯でねえか、そんなこと ! 笹島金澤君 ! この話は今日はもう止めとくべえ。お互いにいい杉枝でもお父つつあんはクビにしねえべ、かけがえのねえエンジ てえこたあ山ほどある。一度や二度の話合いで片附くこっちゃね だもんな。そんで、新藏さんがどうしても、うんていわなきや え。それよりお前に聞きゃあわかるべえが、新藏はいってえ松枝 あ、姉ちゃんを東京の叔父さんとこさあずけるらしいよ。 をどうする氣なんだ ? 君子ふむむーー 金澤ーーーそりゃあ、新藏にじかに聞いて貰うだな。いくら仲よく 杉枝おら、そうすっと困るだあよ。姉ちゃんが東京さ行ったら、 たって、おらにゃあわかんねえ。 お父つつあん、今度はおらに婿養子取れつつうに違えねえもん。 笹島ふむむーーそういういい方するだかーー金澤君、松枝はな、 君子いいでねえか、相手さえよけりや。 おらにとっちゃあ、可愛いい娘だ。君がここで盡力して、新藏に杉枝船主の養子んなろうつつう人に、ろくな人ねえにきまってる もん。 ウンといわしてくれりゃあ、おらも納屋の者の待遇について、考 慮すべえ。 君子そうたあきまらねえべ。 金澤そんな無茶なーーーそりや全然、別問題でねえか。 杉枝ううん、そうだよ。ちゃんとした人なら、斷るにきまってる 笹島まあ、とっくり考えて見るがいかっぺえ。 ( 去る。 ) だよ。おら、本當は、洋裁かタイプライターならって、東京さ行 君子 ( 臺所で、聲のみ ) あれ、杉枝ちゃん。お父つつあん、今 , ーー って、どこかへ勤めようと思ってただが、姉ちゃんが東京さ行ぐ ことんなったら、おらの計畫は、すっかりだめだもんな。 杉枝 ( 聲のみ ) ううん、おら、お父つつあんのあとつけて來たの。 君子ーー困ったなあ。 君子へえ ? ま、上んなよ。 ( 茶の間に現われる。 ) 杉枝 ( 顔を出し、金澤に ) こんちは 杉枝おらプ一フプフしてんのやだ、勤めてえんだっていったらばよ 金澤上んなよ、さあ。 オ、お父つつあん、そんなら田崎の漁業協同組合の事務員になれ つつうんだよ。 杉枝うんーーーお父つつあんがよオ、姉ちゃんとえらい喧嘩して、 家から飛び出して來たから、新藏さんとこさあばれ込むんでねえ君子いいでねえの、それも。ゴム長はいて、帳面持って、水揚げ した魚のカンカンの數字付けるだよ、きっと。 かと思ってよオ、あとつけて來たら、ここさ來ただよ。ここから 新藏さんとこさ行ったでねえかね ? 杉枝でもなあ、漁業協同組合っうは船主ばっかの組合だっぺえ ? ん金澤新藏はまだ銚子から歸ってねえ。今日は用あって、歸りにや金澤ーーうん、銚子のも田崎のも、今んとこはそういう形になっ 死 てるだなあ。 ここさ寄ることになってるだから。 杉枝そいで水夫組合といつも衝突してるだべえ ? 杉枝ふうんーー君ちゃん、どうしてここさいるだ ? 5 金澤うん、まあそうだな。 君子おら「わだつみプリント瓧」の臨時雇だよ。
2 6 ンス 定行今日は午後一二時から初まるつつうでよオ、りよう止めで、引 定行うん、まあな き上げて來ただよ。 「ドカン」の音は、以後幕切れまで、絶え間なく績いている。實新藏これがそのカネ子だ。 カネ子よろしくおねがいします。 彈射撃の現場からここまでの距離は約十里である。 傳次納屋の者ん中にゃあ、戰爭知らねえもんもいんだかんなあ定行〈え。 ( ほかの二人も輕く頭をさげる。 ) 新藏カネ子がここさ來たことは、ほかの者にや祕密だぞ。いいか 金澤さん。そこで相談だがな、もういつまでもやっさもっさ 太一郞うん、一着マんちの宏なんかな、戰爭終った時、七つだっ やってるなあ、我慢できねえかんな、彼女の家じゃあ承認してる たんで、はあ、戦爭の恐ろしさ知んねえんだよ。おら驚いたよ。 こんだし、思い切って、田崎さ連れて來ちまうべえと思ってな、 金澤それがもう沖さ出て働いてるだなあ。畳圖愚圖していられね 機をうかがってたつうわけだよ。何しろ陣地を敵のとりでの前ま えぞ。どんどん日はたって行くだなあ で押し進めて、肉迫攻撃をやつつけべえつうわけでね、食いぶち 油紙をかぶせた柳行李を背負い、洋傘をさしたカネ子が、濡れて は入れつから、片がつくまで、ここさ置いてくれ。なあに、ほん はいってくる。健康な、生き生きした娘である。 の二、三日で片がつくかも知んねえしな。 どうしただ ? お前 新藏あれつ、カネ子でねえか おら、來ちま金澤うん、いいともさ、そんなこと。 あんた、ここさいたの ? カネ子あっ ! お吉男一人んとこさ置いたらあぶねえぞ。何しろ若え男一人に女 っただよ。いっ來てもいいつったもんだかん 一人でねえか。 新藏うん、そりやいいさ。いいにきまってるさ。ただなーー金澤 金澤おい、ばかにすつな。おらそんな男でねえぞ。 君にこれから相談すっとこだったんでな、びつくらしただよ いいだよ、今相談すっから。さあ上れーーーまたわざわざ、えれえ新藏 ( わざと ) うん、それもそうだなあ。そこんとこに氣がっかな かったよ、おらーーところで、このおばさんが、その名も高き野 天氣の日に來ただなあ バラのお吉こと、澄川お吉。田崎主婦の會々長だ。 カネ子歩って來ただよ、銚子からーー人に會うと惡いと思って カネ子よろしくおねがいします。 お吉仲よくやつべえや、なあ。ともかく、おらとこであずかるべ 新藏ゃあ、そりゃあ、えれえこった、えれえこった。そんなにビ え。どうせ主婦の會に〈えって活動してもらわなくちゃなんねえ おい金澤君、まず紹介しべえ。これ クつくことねえによオ。 んだし が例のカネ子だ。以後お見知りおきを願いてえな。この瘠せつぼ 新藏うん、そうだ。それにきめべえ。いくらローソクでも男は男 が金澤書記だ。 だ。それにここは目にもっきやすいしな。さて、そうときまった カネ子初めましてーーーよろしくおねがいいたします。 ら、カネ子、ズプ濡れでねえか。早く行李ん中から何か引きずり 新藏 ( 傅次等三人を顧みて ) お前たちにゃあもう暫く見せねえつもり 出して着換えろよ。 だったが、ここさいたんじや仕様ねえーー、 ( カネ子に ) これみんな お吉さ、こっちさ來て、着換えなせえ。 ( の部屋〈連れて行く。 ) 仲のいい若え者だーーお前たちもう知ってんだろう、おらのロマ
ウ、理髮屋田崎軒の姑テルが出て來て、座につく。 健二郎 ( 目を開けて、低い聲で ) , ーーうむーーーすんだかーー仕様ねえ テルじゃ、まあ、あんまり遠慮しても何だからーー ( 下座にすわ 新藏、お前たちやア、おらがいかんといってもーーー誰が何て る。 ) いおうとーーー勝手に一しょになったーーーおらあ、もう、どうなっ ても構わねえーーーお前は、自分で、本當にやりてえと思ったこと リュウま、床屋のばんばにそこさ坐られたら、おらたち坐るとこ をやり通すだ ! 誰のいうことも聞くな ! その代り、 ねえもん。そっちさ上ってくんなさい。 ( ひとり言の ウメんだ、んだ。さ、ばんば。 やり初めたこたあ、トコトンまでやりとげろ ! ように ) うん、それだけだ。 ( また目をつぶる。 ) テルそうか、仕樣ねえな。 ( 座を變る。 ) 鹿島所でと、主、大海社から來ねえのか ? みんなは呆然としている。 新藏が不意に立ち上り、カネ子の手を引っ張って、立たせる。 新藏呼ばねえよ、あんな乞食禪主ーーー船着くとは、御幤とザル持 って、魚もらいに來やがる。おら、無宗敎でやるだよ。三々九度新藏これが私の女房のカネ子であります。これから、おらたち二 つうのをやって、そいでオー・一フィつうこんにするだ。 人は一しょんなって、どんなことにも、ぶつかって行くつもりで 鹿島 ( 不滿げに ) ふむむ。お前のこった。ま、そんなとこだべな。 あります。お父つつあんのいう通り、やり初めたこたあ、トコト ンまでやりとげるつもりであります。 ( すわる。 ) シマ子まあまあ、當人のやりてえようにさせて置くだよ。 カネ子は感激で、眞赤になっている。 太郎えれえめかしたなあ。頭からテカテカ後光さしてつぞ。 金澤敏夫が三島レイ子をつれてくる。 新藏うん、田崎軒の若主人がよオ、どうでも光らかすだってきか ねえもん、なあ、ばんば。 金澤おそくなった。すまねえな。 テルそりや、お前、一世一代の結婚式だもんなあ。しゃれるだけ新藏組合書記が時間ルーズじゃ、仕様ねえな。 しゃれるが當然だべさ。おら、油、うんとなすくってやれってい金澤うん。プリント仕事の話でなあ。注文がややこしくってな あ。 っただよ。 ( 隣の部屋から、銘仙の羽織を着せた十歳ぐらいの少女を連れ 出し、その酌で、三々九度の盃をさせる。 ) カネ子あれツ、レイちゃんー 武井ええ、これを持ちまして、矢島新藏、小島カネ子兩人の婚儀金澤うん、そこでな、この人、この家わかんなくて、ウロウロし てたもんでな は成立いたしました。 カネ子レイちゃん、早く來ねえから、間に合わなかったでない 鹿島こりやまた、えらい簡便なこったが、ともかく、めでてえこ の。 ったよ。 レイ子もう、すんじゃったの ? 第武井ついては、菅井のじいさまに、めでたく「高砂や」を謠って もらいます。 カネ子うんーーー宣言はすんだけど、披露はまだこれからよ。早く ん 上んなよ。 死菅井 ( 謠う ) 高砂や、高砂や、この浦船に、帆をあげて 皆、手を締める。ただ一人、健二郞は手を動かさない。 新藏ようーー皆さん、この人は、カネ子の親友で、この着物を貸 7 してくれた人です。三島レイ子といって、房總・ハスに勤めていま 武井矢島のとつつあん、こいでめでたく、すみましたで なおうみ ごへい
6 6 健一いうよ、おらあ。いつまでだってもいうよーーおやじさんだ健一年寄りでなくも、わかんねえよオ。 って、大むくれだあな。ほんとにまあ、先が見えねえつつうだ菅井おらたちの頃にゃあよオ、まず婿が仲人につれられて、嫁ん か、くそあまの色に溺れたつつうだか、みんなに顏向けなんねえ 家さ連れられてってよオ、そいで嫁を自分の家さ連れてくる。そ ことになっちまってよオ。 こで三々九度の式を擧げてえ、そいから次の日に御披露する。ど 黐太郞まあまあ、健一、そういったもんでもねえて んな貧乏な船方でも、どっかから金を掻き集めて、二の膳、三の 玄關に菅井のじじいが、大聲を擧げながら來る。 そいだけやっても、はあ、今じゃ 膳の御馳走をしたもんだ。 こんたびはめでてえこって ! 菅井矢島の父つつあんー 皺くちゃ婆で、光道路の土方だもんなあ。ゃんなかったら、乞 食でもしてんべえよ。 ステ子まあまあ、菅井のじいちゃん、よう、おいでなすった。さ あさあ、上んなせえまし。 ( 皆に向い ) 菅井のじいちゃん來てくれ健一そうよ。それがどうだ。嫁人り道具っていえば、行李一つに たから、謠の方はまず安心だよオ。 傘一本。あらしの最中に、はあ、銚子から押しかけて來てよオ、 菅井矢島の父つつあん、めでてえなあ。一つ納めてくんな。 ( 引物 そいで二カ月の餘も、さんざん寢てから、今んなって式も披露も を置く ) 一しよくただあ。 こんな事あ、矢島の家始まって以來、初め てのこったよ。なあ、とつつあん。 健二郞 ( 引きつったような笑いをちょっとして ) ああ。 黐太郞健一、これが時世時節というもんだで。こうきまったから健二郎 ( 無言。 ) にゃあ、いいかげんにあきらめるもんだてーーーなあ、菅井のじい健一こんなこんでなくばよオ、お歴々の親方も、みんな呼べるに ちゃん。 よオ。何しろ名を賣った船頭竿張りの息子だからなあ。 菅井そうともさ、健一、お前の嫁取りん時あ、大したこったつけ 菅井え、何だ ? なあ。 健一何が時世時節でえ。タヌキ屋さ婿にへえるっちゅういい話蹴 ってからに、どこの馬の骨とも知れねえ流れもんの女 健一ま、平の船方の嫁取りとしちゃあ、田崎に例を見ねえな。座 ステ子 ( 奧の部屋を指して ) およしよ、カネ子に聞えるでねえの。 敷にへえり切らねえで、家中ゴッタ返しよ。それもこんな吹けば 菅井花嫁は奧にいるだか。そいで花婿ははあ、どこさいるだ ? 飛ぶようなケチな家じゃあねえもんなーー・馬鹿な野郎だ。「タヌ 健一どうせッムジ曲りの莅婿だあ。どっかわかんねえ、うろつい キ屋」のあの客座敷ブッコ拔いて、床の間しよって坐れる身をよ オ。 てらあ。いずれ御披露がすむ迄にゃあ、現われてくべえよ。 菅井 ( 聲を低めて ) 大した女だってえじゃねえか。山サの組合で、 シマ子まあまあ、それもこれも、因縁事だべえさ。曵年の人は好 さんざあばれて、そいでクビんなったって、本當か ? ききらいありて、變屈で、押しが強くて人に憎まれ、とあるから ねえ。 健一本當よ。その上、壽司屋の女中で磨きをかけたってえア・ハズ 田崎機關士組合長前島潔がはいってくる。背の高い、堂々たる男。 レだあな、しよっちゅう、ケ一フケフ笑ってやがらあ。 菅井おらたち年寄りにゃあ、はあ、當世式の嫁取りは、わかんね前島今日は、おめでとうごぜえます。 えなあ。 武井よう、前島さん ひら
金澤何で八十萬圓も使うことあるだ ? ありゃあ、おととし九十 手なのができんぜ。 九里の船方たちが、命がけの闘爭をした揚句、當然取れることん 傅次すげえなあ ! いぬをう なった金じゃねえか。全體の金額とその分け方をきめるだけのこ 銚子で仕入れたサツマアゲやハンべンを、海鹿島、大吠方面のお んに、そう何度も出かけて行って渾一動する必要はねえはすだよ。 得意先に行商して、その殘りを人れたポテを背負ったお吉が歸ってく る。金澤がそのあとからついてくる。瘠せた身體に、擦り切れたジャ お吉怪しいだよ、そこがーーーそれたけじゃねえ、高射砲をうち始 ム・ハーを着、ゴム長をはいている。蒼ざめた顏。 と陸に無電機を据えつけることにな める時刻を知らせんのに、告 お吉傳ちゃん、ご精が出るね。 ってよオ、その費用として六百萬圓を補償金から天引きにするこ とにきめただと。 傳弐え ? お吉ご精が出るつつうことさ。 ( ハンべンやサツマアゲを、店先の小 金澤ふうん・ーー船主がたいげえ讀み書き辯舌ができねえのが、い さな臺の上に並べながら君子に ) まだ出掛けねえでええのけえ ? けねえだよ。おかげで鞄持ち階級が勢力をふるって仕様がねえ。 あいつらさんざんくすねて、いろんなもんを天引きにしてよオ、 君子まだちっと早かんべえ。時計とまっててわかんねえだけんど よオ ( 金澤に ) 今日は。 そのあとを勝手に割り當てきめて、船方たちにゃあ、天下りに割 りつけてくんだな。 金澤ようーー編物、専門家になったべなあ。 君子手はたしかに上っただけんど、手間が安いだかんなあ。 お吉ほんによオ、補償金が今じや船方たちの最後のたのみだによ オーーー何しろどこんちでも、洗いざらい質屋さ持ってっちまっ 金澤田崎にゃあ、はあ、毛糸買って、手間出して編んで貰おうな て、もうはあ、何にもありやしねえ。何とか補償金で年を越そう んつう金持はいねえよ。銚子だらちったあいべえけんどな としてんのがみんなだかんなあ。いってえ一軒あたり、いくらぐ 君子ジャケッ一枚編んでたった二百圓の手間じゃあなあ。五日も 六日もかかってよオ。その注文だって、次から次、取れるつうわ れえなんのかなあ。 ( 機械を片づけ、去の間にはいって着換え初める。 ) けじゃねえし 金澤去年よりや、ちったあ多かん・ヘえけどな、期待しねえ方がよ かんべえなあ。 お吉 ( 金澤に近寄り、聲を低めて ) さっき銚子の水夫組合の事務所さ 寄ったとき聞いただけんどな、タヌキ屋の鞄持ちの龜さんがさ、 お吉何だ、組合書記がなさけねえこというでねえか 例のドカンの浦償金 ( 九十九里濱の高射砲陣地から海へ向っての實彈 こりゃあ、一番ひでえ目にあってる船方たちが、ドカンの補償金 演習が、沿海の漁業に及ぼす損害を終戰理費から出して補償する金 ) の の總額や割り當てについて、一ト言も口をきけねえような處理委 うけお 員會を作ったのがそもそもえらい間違いだったよ。 問題、田崎のこたア一人で請負ったような顏してよオ、東京との 海間をしつきりなしに行き來してんべ ? 金澤處理委員會は船方みんなも投票してでき上ったもんだから、 今になって文句をいう筋道もねえしーーー困ったそ、こりやア。 ん金澤うん、何でああしよっちゅう行くだか お吉そいで、三カ月間にもう四十五回も行って、大藏省と農林省お吉やつばり處理委員のきめ方が間違ってただね。結局、船主、 に掛け合ったで、その運動費に八十萬圓も使ったっていってるた つまりは鞄持ち階級と自主黨の顏役にいいようにされちまっただ 3 3 かんね。
前島よう、武井さん、お前が仲人だってなあ。えれえこったなあ が、なんぽかあったに、みんな振り飛ばしちまった ところでよ。 ( 包紙を出し ) これちっとばっかだが、田崎機關 ステ子ふむ、そいえば三年ばか前だっけか、じいちゃんも張りに 士組合員一同からのお祝いつつうわけでな。志だけだけんどな。 出かけたつつうでねえか。おら思い出したよオ。 武井そいつあ、どうも だけんどな、機關士も漁業從業員だ菅井ば、ばかこくな。おらにゃあ、れつきとしたかかあがある かんこんそうさい ヾこ 0 し、組合に含まれてるだから、今度つからは、冠婚葬祭につけ て、水夫組合として、統一してやった方いいと思うだけんどな。 輻太郞んだ、んだ。土方して食わしてくれてるかかあ、あるもん 前島うん、そらそうだけんどな、やつばり、何しろ、機關士は固 なあ。浮氣したら、罰當るべさ。 定給も貰ってるだし、何かにつけて、話合いがしいいもんでな、 ステ子はははははーー - ーそのお吉がよオ、主婦の會の音頭取ってる ついかたまるようなこんになるだよ。 だよ。臺所にいっから、じいちゃん、挨拶に行かねえだかね。 武井そりや、そうだべけんどもよオ、水夫組合ん中に機關士部が 菅井何いうだ。見たけりや、いつでも見られっさ。狹い田崎の町 あるつつうなら話わかつけどもよオ、水夫組合と別にあるように でねえか。 なっと、うまくねえもんな。ーー・統一だよ。統一的に動くつつう 新藏がよごれたトックリ・ジャケツのままの姿で、風呂敷包をかかえ こんが大切な時だよ。 て歸ってくる。 前島そりや初めつから、そうにきまってるだよ。新藏とも、そう 新藏 ( うれしさで、はちきれそうである。 ) うわあ、やっと揃った ! いう方向さ行ぐように相談してるだよ。 大汗かいたぞ。よう、前島ーー・菅井のじいちゃん、よう來てくれ 武井よろしくたのむぜ。機關士は水夫組合ん中の大勢力だもんな たなあ。謠、うめえとこたのむぜ あ。 篇太郞おら、酒呑みの代表だで さいはい 菅井 ( ステ子に ) 臺所の方は、誰が配振ってるだ ? 新藏よしよし。そんかわり、木遣りをうめえこと歌ってくれや ステ子何しろ水夫組合の實行委員の嫁取りで、實行委員會々長が 太一郞はどうした ? 仲人だつつうで、主婦の會が引き受けてよオ、四人ばか來て、や武井來ねえな、まだ。 ってるだあよ。 新藏納屋の會の代表者、來なくちゃうまくねえな。酒呑みの代表 太郎まあ、押しも押されもしねえ闘士だもんなあ、新藏も まで來てるによオ。 菅井主婦の會つつうは何だ ? シマ子太一なら臺所の方さ來てるだよ、さっきから。 ステ子知んねえかね。半年も前から出來てんのによう。男は水夫新藏臺所 ? こっちさ來させつだ。お客だぞ、今日は 組合さへえるが、女は船さ乘んねえから、へえれねえ。だから女 ( 叫ぶ。 ) おおい太一、こっちさ來うーー紋付羽織は酉松、袴は武 だ んは女で主婦の會をこしらえべえってんでよう、じいちゃん知って 彦、ちりめんの帶は藤次郞、着物は輻松ーーえれえこった。嫁取 死 んべえ、サツマ揚げのポテ振ってる澄川の後家 るなあ、最後まで人に骨を折らせつぞーーおおい、女の連中、誰 菅井うん、あのばんば、目ん玉でかくて、いい姿してつから、五 7 か手傅って、花婿に着せてくれやーーみんな、ちょっと待ってて 6 十んなっても、色氣あってよオーーーのちそいにほしいつつうロ くれや。花婿の着付けだあ、これからーーーカネ子いるか ? ( 隣の
92 死んだ海 新藏へ、片目の輻が何、改まってタンカ切ってつだ。あああ、き 十三人もいつでねえか。こりや珍しいや。 たねえなあ、何だその面ア、醉っ拂ってんなーーこりやクリーニ エンジ一機關が故障してるつつうことを聞きつけたで、みんな跳 ング屋さ持ってってもきれえにゃあなんねえぞ。 び出して來ただかんなあ、たのもしいぞ、やつばし機關士組合は よオ。 禧太郎何だ ? クリーニング屋だ ? へ、おらなんかはな、も う、はあ、すっかりクリーニングがきいてて、きれえなもんだ。 前島團結力があんなあ、やつばしおらたちはーー船方たちゃあ、 さらしクジ一フだ。さ、酢でも味噌でもつけて食ってくんねえ。 こうはいかねえもんなあ。 エンジ二でもよオ、田崎の機關士組合は全部で二十七人いつだ前島おい、輻太郞、ともかくもだ、おら、さっき武井さんさ會っ て、今夜、機關士組合はここで通夜するからって、話あついてん ぞ。そのうちの十三人じゃあ、まあやっと半分っうとこでねえ 、 0 だ。みんなは靑年會の寄り場の方へ行ってらあ、あっちさ行って くれ、な。わかたな。 エンジ一ゅうべ銚子さあがって、あっちさとまってるもんもあん 太郞おう、さすがは機關士組合長前島だ。そう事をわけていう だぞ。甚太郎なんざあ病氣で寢てっし なら話あ解る。よし、行く、おらあ行くぞ ! ( 勢い込んで出て行く。 ) エンジ三修一は横濱さ行ってるしょオ。 エンジ一冬職もはあ、今月で終りだで、丁度いい時期だしょオ。 エンジ一どうだ。ただこうやって、まあじ、まあじ、顔見合って ここで一つ皆の氣持まとめてブッけペえや。 たって仕樣なかんべ。どうせ通夜すんなら、一つ、機關士組合總 前島つまり皆のいってることは夏職の給料を冬職なみにあげてく 會を開くべえよ。こいだけ揃ゃあ、いつもの總會より、よっぽど れつつうこんだな。皆のいってることまとめて見ペえや。 集りいいだぞ。 エンジ一うん。つまり、一月から七月までの冬職が月給六千七百 前島うん、そりゃあいい。何しろ、こんだけ顏揃うのは珍しいこ 五十圓に對して、八月から十二月までの夏職がただの三千七百五 んだからなあ。丁度、それ、こねえだっから、皆ブップッいって 十圓つうは無茶だかんなア。なるほど、八月から十二月までは漁 た夏職の給料の間題よオ、あいつを相談すっぺえ。皆いってたな あ、ブップッ が少ねえさ。從って出る度數も少ねえさ。だから一般の船方は樂 戸口に杉田輻太郞が現われ、ズカズカはいって來ようとする。 だべえよ。だけんどおらたちエンジはその間も、エンジンの手入 れ、次の冬職のための準備、何だかだと忙しいだ。それでいて月 一鯤太郞よう、みんな、集まってつでねえかよオ。 給が、三千圓も安いつうは滅茶苦茶な話だよ。なあ。 エンジ一おう、片目の輻か。エンジでねえもんは立ち入り禁止 エンジ四は船主の弟で、その立場からの配慮をしなければならない男 だ。出てってくれ。 である。 輻太郞何たとオ ここは田崎漁船從業員組合の事務所だぞ。い エンジ四だけんどもよオ、親方も苦しいだからなあ。エンジはと っ機關士組合が買い取っただ ? 使いてえなら使いてえと、實行 もかく固定給貰ってんだから、ほかの船方よりもずっといいだし 委員會さ申込んで許可受けなきや駄目でねえか ? 何だ、新 なあ。 藏いつでねえか。お前はエンジの中から出てる雎一の實行委員だ エンジ一親方が苦しけりゃあ、こっちはなおのこと苦しいだ。お ねえか。いつ、そういう交渉しただ。
103 死んだ海 主婦が集まるつうは全くむずかしいよ。この田崎じゃあ海へ出て に一着、外套が四年に一着の支給。靴は自分持ちか。お花見、潮 漁をする以外のこたあ何から何まで、みんなカミさんの肩さブッ 干狩り、成田山の祭の時など、客がうんと乘った日は百圓の大入 かぶさってるんだかんなあ。 り袋か。こんなこってごまかしてるだな。 ( 紙片をカネ子に渡す。 ) カネ子んだ。おら、初めてここさ來た時、「工場勞働者の新鮓な これに對する對策は議題にしべえ。報告は以上だ。いいな。 血液を漁村に注ぎ込む輪血管である」とか何とか、金澤さんにえ太一郞うん。 ( 氣負い込んでうなずく。 ) らい詩的ないい方でおだてられてよオ、その氣になってたらとん新藏機關士組合のストの批判だ。こいつにやまいったよ。あの晩 でもねえ、亭主と腕組んで歩く名物女にゃあなれたけんど、腹の 急にあんなことんなっちまったでな。おらも苦しかったよ、あん 底からの友逹にゃあ、なかなかなれねえなあ、まあ、このエ合じ 時あ・ーーーま、ともかく、やってくれ。 ( 投げ出すように ) こっちゃ ゃあ、井戸端會議も移動主婦の會として認めて貰わなくちゃあ、 あ被告だかんなあ。 結局、無活動であった、つうこんにされちゃうなあ。 金澤おら、問題は二つあると思うな。いや、三つかなーーまず一 金澤そりやいいさ。井戸端利用して、ドンドン話してくれりゃあ つは水夫組合と獨立してやられたつつうこと。第二はみんな下船 な。 してもいいという絶對の強味を持っていながら、夜店の叩き賣り 新藏何ぼそうでもよう、たまにゃあ集まれよ。恰好つかねえでね みてえに、だんだんさげて安協しちゃったこと。それから、もう えか。 一つ間題にしてえことつつうは、その絶對の強味というのが、魚 カネ子だからやってるよオ。おら來てから、もう三回集まったで 取りをやめて、運送船のエンジになっちまうということから出て ねえか。 來ているつうこんだ。 新藏三、四人な。 新藏そうだよ、そいでおらも困っただよ。まず第一の間題だがな 金澤何だ、もう主婦の會の方に移ってるでねえか。 あ、水夫組合と機關士組合の問題は、厄介なこんだよ。結局、水 新藏そうだっけなあ。ま、いいや。みんなどうせあとで議題にな 夫組合を徹底的に民主化してよオ、筋金を入れてよオ、實踐的な つだからーー次に房總。ハスの件 もんに鍛え直さねえことにゃあ、うまく行かねえと思うな。そう 金澤田崎から行ってる娘たちにも會ったし、三島レイ子の紹介 でなきゃあ、いつまでも船方とエンジの經濟條件の違いというこ で、銚子で女車掌四人に會って話を聞いただがね んが癌になって、氣持が一つにならねえもんなあ。 新蔵何だ、女ばかしに會ったのか ? 金澤その水夫組合の民主化の間題がよ、三カ月も前から、船頭竿 金澤 ( ふざけを感じないで ) この次は運轉手や事務の方の人にも會う 張りの選擧制の問題を、いろいろと出して見るんだが、實行委員 つもりだ。 ( 紙片を出し ) 數字は皆ここに書いてある。ひでえ勞働 會じゃ苦い顏してソッポ向くし、大衆は、いいこんだか、とても 強化と搾取だよ。しかもこういうひでえこたあ、船方の全くお話 という氣持でついて來ねえもんなあ。 にならねえ歩合制がすぐそばにあるから行われているんだと思うお吉三カ月前と、はあ、何の變りもねえなあ。 と、責任を感じるだよ。 カネ子おら、よく解んねえけんどもよ、 けんどなあ 新蔵 ( 紙片を見ながら ) ポーナスの最高が一一千八百圓。制服が三年 おらこんな氣すんだ
よオ。 爭絶對反對つうとこまでは行ってねえな。 金澤 ( 振り向いて ) おう、新藏か。 新藏〈え、龜島さんも戰爭反對けえ。おらあお前は自主黨で、戦 新藏何だ、金澤さんか。 爭大賛成かと思ってたによオ。 金澤丁度」」や。お前んと一」話があ 0 て來かか 0 たらよオ、途中お吉そうそう、馬二匹 = フジオ」米に、相當驅り込んだちゅう一。 でこのおばさんに誘拐されてよオ。 ねえか、家來使ってよオ。 新藏ほうー・・年はと 0 一」も野づ , 0 吉、殘ん 0 色香を振りしぼ龜島ばか 0 くな。デ「とばす ( 」ねえ。」」〈、萬一だ、たとえ一 か。どうりで暗いとこで、モソモソしてると思ったよ。 時は小さなとくをしたことがあったとしてもさ、戦爭みてえな大 お吉それどこでねえよ、新蔵さん、 ( 電燈をつけ ) まあ上んなよ、 きな損になるもんはねえよ。おらの親方のアグリ船もよ、四そう 話があつだから。これが本當なら、組合でもほっとかれねえたか のうち三そうまで黴用されてよ、南方の海の藻屑となり果てた ら わ。それで政府のくれた補償金がいくらだ、たった一一一萬七千圓 新藏ほら、そりや大事じゃ、一大事じゃ。 ( 上る。 = 一人首を集めて、 だ。當時船三ぞう造るにゃあ百八十萬からかかっただぞ。そんな 小聲で話し初める。 ) 大金がどこにあるだ。みんな財産税に取られてよオ。復興金融金 龜島が通りかかって、中を見て立ちどまり、足音を忍ばせてはい 庫さかかって金借りて、やっと船仕立てりゃあ、利子に責められ ってくる。土間の眞中まで來て、大聲を出す。 る。親方が參っちまやあ、こっちまでおまんまの食い上げでねえ 龜島ああれえ ! 組合の實行委員と主婦の會の會長が、三人首を か。戦爭反對だよ、おらあ斷然 ! 戦爭賛成は大資本家と、銀行 集めてコソコソ話たあ、おだやかでねえぞ。何事けえ ? 屋と、そいつらに飼われてる政治屋だよオ。 お吉あ、び「くりした。龜島さんけえーーなあんね、今ちょ 0 くお吉あれまあ、一」りゃあお「たまげたよ。戦爭 ( 」あんなにもうけ ら君子のこんでね たお前が戦爭反對けえ 龜島ほう田崎隨一の美人に婿取りの相談けえ ? 花婿は誰だい ? 龜島おらだって、月日と共に進歩するだあよ。世の風潮を見るに 金澤書記かい ? 愛の問題なら、わしとこさ一應相談して貰い ゃあ、映畫が手つ取り早いだかんな。おらが映畫見るなあそのた てえな。 めさ。 お吉おことわりすべえ。お前みてえな千三つさかかったら、話は お吉おら映書なんて、もう一年ぐれえ見たことねえよ。 めちゃくちゃだよ。それより龜さんは映晝の話でもしてる方が安新藏おらも見ねえなあ、一 = 一一年 全たべ。何しろお前が映畫語り出したら千葉縣一の通だかんな金澤おらもひまなくってよオ 龜島ああああ、そうそうたる田崎漁船從業員組合の實行委員會メ ん龜島日本映畫なら、まあ、ちっと前だが「風雪一一十年」っうのが ム・ ( ーと主婦の會會長が、そんな文化程度じゃあなげかわしい話 見られたな。二・二六事件、軍部の横暴、軍隊の階級性、歸還兵 だぞ。まったくーー・おらが片棒かついで説き廻って、公民館をお 5 の問題なんか取り上げてるだが、ちいっと慾張り過ぎただな。突 3 っ建てたでねえか。それがどうだ。さつばり活用されてねえ。た っ込みがまだまだ足んねえよ。戦爭はいやだつうとこまでで、戦 にやるのは浪花節ばかりときちゃあなあ。主婦の會もさつばり
魚群を取り卷きながら網を投げ込む。 投げ込み終れば二そうを寄せで、 おもりつな 沈子綱を集め、うき綱も程よぐ締め、 こうして魚を閉じこめるだ。 納屋の者 4 網あげる時んなれば 船頭竿張りもエンジもねえ、 みんな一しょに船ばたさ並んで、 ャッサー、ヤッサー、たぐり込むだ。 風でも出れば、いわえた船がこわれるで、 早く上げきろうと、いくさのような騷ぎだ。 てぶね 納屋の者 1 手船が網の中さへえってきて魚を積む。 日の落ち方にまた一と戦。 その合間合間に エンジの新藏が話してくれる 多喜二の「カニエ船」の話 工場の勞働者たちの話 納屋の者 2 網をあげ終れば 利根の川口さ向って 三ぞうづれで船は歸る。 「銚子の川口テンデンしのぎ」 夫婦ガ岩、一ノ島のあたり、 海と川とがせめぎ合い、 おのが船一つを何とかして うまぐ乘り入れべえと思うだけ、 連れの船のことは考えていられねえ。 ん納屋の者 3 魚の水揚げすませっと 音前の停留場から ちっこい電車さ乘って田崎さ歸る。 3 おらたち納屋の者の中から三人、四人。 いくさ 番のために船さ殘される。 船さ寢るのが續けば シ一フミは着物一ばいにふえる。 納屋の者 4 天氣になれば網干しだ。 りようがあろうとなかろうと、 濡らした網は干さねば腐るだ。 朝早くトラックさ積んで、 君ガ濱さ突っ走って、 廣い濱いつばいに網を干す。 納屋の者 1 トラックと一しょに走りながら、 網を肩さのせてかつぎ出す。 二間ずつ間をおいて 重い網をドカリと肩にのせ、 力のねえもんは泣きながら 砂の上にかつぎ出す。 遠くから見れば、ムカデがヨチョチ歩いてるようだ・ヘ。 納屋の者 2 擴げた網は一一三時間でかわぐ。 それをまとめで、トラックさあげる。 夏の日ならば砂は燒げるよう。 息をつぐ間も汗を拭く間もなく、 砂の上をかげ廻る。 りようがなければ、これもただ働き。 納屋の者 3 グッタリと疲れた身體を 暗い納屋の中さ投げ出して、 生げすの中の魚のように、 重なり合って寢倒れる。三疊に七人、八人。 納屋の者 4 親方んちの雜用もおらだちの仕事。 それで十五、六の子供なら、ただ食って寢るだけ。 一同これが、おらたちの暮しだ。