五十嵐 - みる会図書館


検索対象: 日本現代文學全集・講談社版 79 村山知義 三好十郎 眞船豊 久保榮集
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1. 日本現代文學全集・講談社版 79 村山知義 三好十郎 眞船豊 久保榮集

女デメンたちも、せっせと仕事をつづける。 波多野 ( 關に、傅票をわたして ) んだら、これ、會計さーーーあんたは 2 唐澤 : : : それは、それは。 いやあ、お眼にかけるほどの設備 うの實行組合の分、全部だから : なんぞありませんがね : 關さうかね : : : ま、お預りして、ひとつ、唐澤さんに : ともしゅう 五十嵐 ( 野積みを仰ぎながら ) 下から見ると、また壯調だね、友衆。 波多野見えてるぜ、あすこに : ( そばに五十嵐がゐるからといふ表情。 ー産業會館の窓から、ちゃうどこいつが眞っ正面に見えてね・ : 關いやあ、今はいけねい : 相良あ、それでかーー・・惡りいもん見えたもんだな。 寅に ) あとで、おら、きつばり話つけるからな : 五十嵐 ( 唐澤に ) 腐ったですよ、畜産組合の爺さん連のテンボと來寅それだなあ。 たらーーー馬の傅染性流産の報告たけでーー・ーさうさな、三十分もか唐澤 ( 五十嵐に説明しながら ) えゝと、ここではーー・あ、いま向う かったかな。 でやってをる檢査の濟んだあとの亞廱をですねーー莖の伸び加減 いろつや 相良腐ったのは、こっちですぜーーー理事會と除幕式の間に、體お や色艶などで、一等から五等までに、檢査員が選り分けますが 空きんなったら、てつきり養鯉亭へそも : 唐澤は、は、は : : : 悪いお供だなーーーひとっ御注意しとくかな、 關 ( 思ひ切り悪く、不合格品を片づけながら ) 等外だべかなあ、これが 今度、五十嵐老にお眼にかかったら : : : しかしねえ、このあなた ・手傅へや、寅んべ、見てゐねいで : ( 五十嵐が何かいふ。 ) ・ : その外顴のほぼ揃ったところを : をいまだに子供だと思って、相良君をつけておよこしになるから唐 いいですな、御老人も、は、は、は : ・ え ? あ、、農林技手です、農産物檢査所の : : : ほぼ揃ったとこ 五十嵐困るんでねえ、それがーー木工場と相良組の關係を、いく ろを、かういふ工合に、デメンに結束させてをるんでして : : : 結 ら言っても昔の友衆に還元しちまふんでねえ : : : ( シガレット・ケ 束といふと、すこし友さん向きの言葉だが : じよじようだん ースをとり出す。 ) 相良常、常談でせう・ーー・材木だって、トロッコで倉庫さ蓮ぶ前に 唐澤あのーー・ここはーーー絶對禁煙でして : ・ や、結束しまさね、やつばり : 五十嵐さうか、失敬、失敬 : : ・ ( 仕舞ふ。 ) 唐澤あゝ、さうか、は、は、は : 唐澤ーーーしかし、爭はれないもんだねえ、友さん : ・ : ・ ( 五十嵐に ) 相良外聞わりいから、よして下さいよ。だいたい、五十嵐木工場 お父さんて方は、三度の飯より競馬がお好きでしたからねえ 檀那とわしらの : の共同經營ちふのは、 お逹者な時分 : 唐澤は、は、は : ・ : むきになるからいいね、は、は、は : のんき 五十嵐いやあーーそんな暢氣なもんぢゃないですよ。今考へる 三人、笑ひながら、結束場から温湯タンクのはうへ歩み寄る。 このタンクをみ と、一足遲かったんだなあ、僕の歸って來たのがーー稻作限界が唐澤 : : : で、その結束した生莖を : : : えと どんどん北進しようっていふときに、あんなーー・ーねえ、唐澤君。 て頂きませうか : 農場のはうさへうまく行ってりや、誰が畜産なんかに : つぎ。 波多野おい、その馬車、早くのけないかい 唐澤 : : : 轉向するもんかですか、は、は、は : ・ ハイキ、・ハイキーーーっくそう、・ハイキ ! ( 舞臺の蔭 寅へい。 ひづめ いなな 五十嵐 ( ちょっと、いやな顔をする。 ) へむかって、長い革の手綱のさきをふりまはす。蹄の音。嘶き。馬車とと

2. 日本現代文學全集・講談社版 79 村山知義 三好十郎 眞船豊 久保榮集

那の馬っちふのは、ロだけかと思ったら : ・ 五十嵐、やにはにモーニングの上着を脱ぎ捨てて、奔馬にむかって走五十嵐莫迦いへ : 怪我人をとり卷いて、人びと、事務所のはうへ行きかける。 り去る。 相良あぶねい、檀那 : : : ( とめようとするが、間に合はない。 ) 待ち準造 ( だしぬけに ) 莫迦やろ。 ばをい 人びとは、その罵聲が、誰に向けられたのか分らないまゝに、驚いて なせい : 足をとめる。 まっえ ( 秀松の背中を押して ) お父う : ・ ( 動かない。 ) 準造ーーず分ひとり、大つきい面すんな。 ( 五十嵐を睨みつける。 ) 秀松だ、だめだ、だめだ : 唐澤何んだ、君は・ : すべては、一瞬間の出來事である。 いなな 準造おらがーーーすっころがってもーー・手綱離さなかったから 入り亂れた蹄の音、一聲高い嘶き。 馬とまったんでねいか。 らしい。 喧噪のあとの、しいんとしたポーズ。 庄作渡 : ・ 奔馬にひきずられて、太腿をすり剥いたらしく跛をひく渡準造を、五唐澤失敬なことをいふな。あんな暴れ馬をひき込んで、さんざ迷 十嵐と庄作とが肩に支へて出て來る。 惑をかけときながら : 五十嵐まあ、いい、君ーーとにかく、事務所へ・ 準造痛てて : : : 痛てい : 庄作さあ、波、歩かねいかい : 相良檀那ーーーわし代りませう。 ( 肩をかへる。 ) 人びと、事務所のはうへ去る。 唐澤 ( 恐縮して ) どうも、こりや : : : ありがたうございました、お この見當だら、事務所さ正面衝突だったんでねいか かげさまで : 職工 1 い、惜しいことしたな。 五十嵐 ( 塵を拂ったり、ハンケチで手を拭いたりしながら ) いやあ : 唐澤 ( 準造に ) すり剥いたのか。氣をつけなくちゃいかんぜ : : : 花職工 2 あの窓硝子さ、ガッチャーンと鼻面つつこんだら、驚きや がったべになあ、唐澤のやっーーえゝ、波多野さん、は、は、は 火は、朝から鳴ってをるんたからな。 ・ ( 職工 1 と、機械場へ去る。 ) 庄作へい。 準造痛てて : 波多野 ( 舞臺の蔭 0 みんな、馬おつばなして置くんでねいど : 五十嵐 ( 波多野に、うしろから上着を着せて貰ひながら ) 君、君 : : : すまっえ ( 事務所のはうを見ながら ) えいねえーー・モダンでねいの、五 十嵐の若けい檀那なら : ぐ手當を。 よたれ 灰唐澤はあーーーとにかく、事務所へ : : : しかし、驚きましたなあすゑほれえ、涎垂れてるよ、まっえさん : 山 女デメンたち、笑ひころげる。 大した腕前ちゃないですかーーーねえ、相良君 : ・ いっちゃう 五十嵐いやあーー・高等學校の時分、馬術部にゐたもんだからね波多野どうだね、一挺、メッケ地主の向う張って、五十嵐さんさ 5 喰ひさがるか、は、は、は : 8 3 相良 ( 準造に肩を貸して歩きながら ) あゝ、たまけたーーわしら、檀秀松ま、鏡と相談しやがれちふんだ、この南瓜づら、は、は、は うはぎ だが、つひにとり靜められた びつこ をんイ おやち はなづら かをちゃ

3. 日本現代文學全集・講談社版 79 村山知義 三好十郎 眞船豊 久保榮集

384 場ぐらゐのスケールのとこへも、割り當てが行きわたるさうだが しかし、昔ながらの小枠浸水も、ベルギーでは、たしかに一 亞廬製品に限っちゃ、大量註文の獨り占めちゃないのかね。 風景でせう・ : 相良 ( くすっと笑って ) どうでしたね、あんたが、あちら〈お出で唐澤いやあ、それにしたって、知れたもんですよ・ : 逸見庄作が、檢査場へ、おづおづと出て來る。 のときは : あ、さう、わたしが、あちらへ行ったとき庄作あのう : : : 順番、まだですべかーーーわしと渡と、もう、は、 唐澤え、何 ? 長げいことーーー朝から待ってあるすけんど : は、大統領みづから案内してくれましたがねーーー・はあてな、ベル 波多野あ長、まだだ。 ギーは王國だったかな : ・ 田所どこだね、君は。 五十嵐こりやいい、は、は、は : ・ 秀松、だんだんに近づいて來た五十嵐と臂澤に、檢査場から挨拶す庄作はあーー、東二線實行組合のもんで : る。 どうしたんだね、東二線は、もう濟んだ筈だぜ。 田所 波多野いやあ、こいつらは、事務の整理上、あと廻しにしたんで 秀松こらあ、どうも : : : まだ、お暑いでねいすか。 すってーー會社ーー共同運搬でないすから : 田所 ( 檢査して ) 五ーーー四等。 舞臺の蔭で、俄か また、大空にうち上げられる花火、二つ三つ。 唐澤どうだね、君んとこは ? に、けたたましい馬蹄の音、ののしり騷ぐ人聲、足音。 秀松はあーーまあ、どうかかうか等外を出さねいちふとこで : 舞臺の人びと、一齊に視線を向ける。 : で、タンクから出して、あゝいふ具合に ( 構 秀松 ( 五十嵐に ) ・ 内の一方を指さして ) 乾し上げた莖をですね、二三ヶ月、倉庫にス唐澤 ( 叫ぶ。 ) どうした、どうした : トックして置きましてね、それからーーーあ又、いま御案内します庄作 ( 驚いて ) あっ、おらはうの馬だなーー渡、何してる、渡 ! ( 駈け去る。 ) がーー機械場のローフアに噛ませると、纎維は柔軟ですが、木質 波多野抑へろ、早く、抑へろ・ : 部は硬いから、ポキポキ折れるでせう。そいつを、今度は、ムー ( 手つきをしすゑ ( 叫ぶ。 ) あれい、あぶねいーーすっ轉んで : ランといふファンの廻ってをる機械のところへ ・引き摺られて て ) かう手に握って持ってゆくとーー・ほら、碎けた芯ばかり刎ね女デメン 2 ( 叫ぶ。 ) あゝ : : : あ長 : : : あ、・ : で庄作の聲おらが留めるーー・手綱はなせ、渡、手綱あ : 落されて、つまり必要な纎維だけが手もとに殘りますね。 まっえ ( 叫ぶ。 ) 庄作さあんーー・あれい、だめでねいのーーーほれえ、 すから、亞廠は、歩どまりが、一割五分からーーー・やっとまあ七八 こっちさ向いて來たようつ ! 分ですかな。農家が丹精して作ったもんが、よくって一割七八分 人びと、はじかれたやうに、舞臺の奥へ飛びすさる。近づく馬蹄の ここへ持って來る蓮賃などは、法 しか實用にならんとすると 音。ちぎれちぎれの叫びごゑ。 外に高いものにつくしーーー會社としても、どうも利が薄いわけで 工 1 ・ 2 、機械場から、とび出して來る。 してね : 何んだ、何んだ。 五十嵐は、は、は : : : うまいからねえ、唐君と來ちゃ : : : ほか職工たち ・ ( 手で、とめに行けと合圖するが、言が出な の化學工業なんかだと、ちつぼけなーー・たと〈ば僕んとこの木工唐澤おい、君たち : ・

4. 日本現代文學全集・講談社版 79 村山知義 三好十郎 眞船豊 久保榮集

もに姿を消す。 ) 表皮と芯の間にクテリアが出來て分離するんでしてね : ・ 、傅票をもって、事務所のはう ~ 行きかける。五十嵐と唐澤のま〈相良 ( 足もとの生莖の屑を拾って、試めして見ながら ) なるほど、生の に、小腰をかがめる。 まんまだと剥がれないちふわけか : 唐澤どうだねーー團體奬勵金が、とれさうにないかね。 波多野、職工 1 をよんで來る。 關いやあ、それどころで : : : 人わりいなあ、主任さんも , ーーおら唐澤 ( みて ) いかんぢゃないか、どうしたんだ、これは : : : ( 寒暖 はうの實行組合の内情ご存じでねいすか : : : あの、もう、は、お 計を指さす。 ) 聞きか知らねいどもーーわし、こねいだの農會でも提議したんで職工 1 はあ。 すがなあ : : : ちか頃、大ぶ方々でーーーおらはうの東二線にかぎら唐澤えゝ ? みづは ずーー會就肥料のこと : 職工 1 暗渠の水捌け惡りいですもんな。 ぶどま 唐澤 ( 五十嵐を氣にしながら ) あゝ、聞いた、聞いた : 唐澤こんなことをされちゃ、歩留りに影響するからな。 あの、わし、ちょっくら御相談ありまして : 職工 1 したら、暗渠修繕して貰へないすか。 唐澤事務所で待っとれよ。 唐澤何い。 まあ、いい。 あとで事務所へ來い、晝休み ・ ( 行きかける。 ) に。 關へい、どうぞ、一つ : 相良 ( よびとめて ) あ、關さん、關さんーーーどうせ歸り道だらう、 職工 1 はあ。 ( 機械場へ去る。 ) うちの木工場へ寄ってくれないかいーーー大つきい檀那が、用ある唐澤 ( 寒暖計をタンクに投げ入れる。 ) って言ひなさるからーーー何んでも、高臺の水田のことでな : ・ 一アメンとりしたら、わしら・ 關はあ。 ( 去る。 ) 唐澤うん ? ( 考〈て ) あ、つづけていい。エキゾーストの熱いの 田所 ( 波多野に ) あとは ? を送らせるから。 波多野えゝと : : : あとは昨日の、ろ號線の殘りがーー晝まへにす デメンとりの群れ、再び立て積みにかかる。檢査場へは、船津秀松の みますかな。 馬車が半身を見せ、積みおろした生莖が檢められてゐる。 唐澤 : ( 五十嵐に ) で、この温湯タンクのなかに・ーーえゝ、三十田所 ( 檢査して ) 四等。 二三度ですがね、温度はーー ( タンクのなかから、寒暖計をひき上げ秀松 ( まっえに ) 早く持って來ねいかい、あと : てみる。舌打ちしてーー機械場 0 おい、阿久津ーー ( 返事がない。 ) まっえ ( 生莖を運ぶ。 ) ( デメンたちが生莖の唐澤 地ちょっと呼んでくれないか、波多野君。 : ベルギーは、こいつのーーー御承知のとほり、世界的な名 灰立て積みをしてゐる三・四號タンクをみて ) おい、おいーー・水の殘っ 産地でしてねーー , ーあちらでは、お隣りのオフンダが水面より低い たまんま、つぎのを入れちゃいかんぜ。 といふくらゐで : : : 緩漫な流れを利用して、いまだに小枠浸水を デメンとりへい。 ( 仕事をやめる。 ) えゝ、小型の枠に莖を人れて、幾つも河へつけておくんです 唐澤 ( 五十嵐に ) 失禮。ーーえゝと かうして浸けたまんま、三 さうすると、朝夕の水温の違ひとかーーーえ長、枠ごとの莖 しん 3 四日置きますとね : : : 莖の纎維と、木質部ーーっまり、芯ですか の條件の違ひで、とっても手間をくふし、且、遲いのでしてね っ あらた なま

5. 日本現代文學全集・講談社版 79 村山知義 三好十郎 眞船豊 久保榮集

英馬先生、ストーヴのそばさ連れてくべか。 アヤ子ーー・・やだあ。病氣のときは、すぐお醫者さ行けって、母あ 8 3 寺町さうさう。 ーー泉、君は、みんなと一緒に行っていい。 ちゃん、言ったもん : ・ 英馬はい。 元氣出せや、な、アヤちゃん。 ( 駈け去る。 ) 寺町よくなるよ、もうぢき : 寺町 ( 苦が笑ひしながら ) 校長にねーーー僕がよけいなことを言っち アヤ子ーーー・自動車さ乘ってかう : ・ まってね。ほかの總代はみんな、この雪のなかを歩いて、滿洲移寺町し様がないな・・ーー ( ロのなかで ) 敎はって來てるんだから。 民を見送りにゆくのに、駒井だけ、驛まで自動車で行っちゃ、意 すまないけどね、船津さん、一圓ばかり : 味をなさんてね。 秀松う , ーー・そらあえいけんど、電話かけたはう早くねいかね : いしよっぽど痛むのかね。 寺町この邊だと : ・ ( 大したことはないといふ表倩。 ) 寺町なあに : 秀松あゝ、向ひにもあるって。 まっえ ( 憎々しげに ) 誰の子だい、あんたーーーいくぢ無いねえ。 いし ( 眼がほで ) あんた。 いしまっえ。 ( 睨む。 ) 秀松構はねいさ、こったら時や : いがらし まっえ ( 構はず ) わしの小せい頃だらな、あんたのおっ母さんなん寺町うん、あれは、五十嵐農場の五十嵐さんの工場だったね。 ど、冬でも : アヤ子やだあ、先生ーーー五十嵐さんさ寄ったら、母あちゃんに叱 いしばか言ふんでねいって。 ( とめる。 ) れるもん : さら 秀松 ( 思ひ出して ) あ乂、先生とこ、お父つあん、加減えくねいち 往來を横ぎって木工場の職長・相良友吉が、年をとった職工・森田音 ふけんど、どうだね。 造をつれて、店さきへ來る。 寺町あ、ありがたう どうも捗々しくなくってねえ。それよ相良こんちは。 いま、檀那がね : ・ 、今度、道の方針變ってねーーどっちか、やめなきゃならな秀松あ又、友さんかい。 いらしいんだ、新學年から : 相良 : : : 窓から見てなすったんだが、早川農場のーーそれーー何 いしなあしてねえ ? んの娘さんでねいかい。 寺町師範出が餘るもんだからね、夫婦でやってるものは、まあ、 秀松さうだよ。 片つぼーーー遠慮しろちふわけかな。 相良お困りのやうだから、迪れて來いって、言ひなさるんだが : いしあ乂れ、ねえ、をしどり先生が、片羽もがれたら、どうなる秀松そらあ、どうも : ・ 0 いし檀那がかね ? 秀松困るでねいかなあーーーふうむ、いっとう文句出にくいとこか相良うーー , ・けふは、若けい檀那も來てられるけんどな : ・ ら、やるちふんたな、なるほど。 寺町あゝ、お手數かけて、すみませんーー、駒井、先生があとでよ アヤ子 ( 效果的に泣きながら ) ーーお醫者さ連れてって、先生ーーう く話してな、お母あさんに叱らないで貰ふからーー・いいだらう、 ちさ、電話かけてえ : 行かう。 寺町大丈夫、大丈夫。ー , ー暖まってれば、すぐ癒るよ。 アヤ子やだあ : : : やだあ : はかばか かたは なほ

6. 日本現代文學全集・講談社版 79 村山知義 三好十郎 眞船豊 久保榮集

紫にならねいべか。 寅んだら、ま、おめいとこの雜貨な、ことし不作でも、掛け賣り 2 まっえ莫迦だねい、あんた , ーー鈴蘭とちがふんでねいの。 止めねいやうさしろや。 笑ひごゑ。 すゑよしーーわし、とって來るよ : : : ( 立つ。 ) あね いしえいねえ、あんたらの齡ごろが、いっとうーー ( 秀松に ) もう由三郞姐っこ、氣いつけれ、歸えりに臍さぐられて、溝んなかさ 十日せば、霜來るなあ。そのあと、かあっと照ってけれねいば、 叩き込まれつど : まめ 荳も思はしくねいって : 眞 ( 由三郎を指さして ) その犯人だら、あんつくそうだからな。 笑ひごゑ。 靑年團 1 ( 萩をとらうとするすゑに ) 公共心ねいな、こいっ : すゑへんだ。 まっえキミちゃんだらな、みかけさよらねい男あさりなんだよ、 とっても : 高司 : そらあ、逸見と渡が、自分勝手な眞似こきやがるからよ んで、關のやっ、實行組合のこと、まるって投げ出しつまっ いし默ってれって、まっえ。 たんでねいか。 左市 ( うたひす。 ) さても可愛や、螢の蟲はーー、あ。 二三人、唱和して : 準造んだからよ、そらあーーーおら惡りくねいなんて、いっ言った さしづ 實驗場の指圖なんど、あったら金かまはねいで作れちふんだ唄ーー晝は草葉に、身を焦がしーー・い。 ら、どこに、おめい、なあーー - ーおら、惡りいと思いばこそ、ひき靑年團 2 おら、さっき訷瓧裏で、たまんねいとこ見たもんな、ま うけようちふんでねいかい、關のこと。 っぴるまーー・・警備班も、らくでねいって : 笑ひごみ。 三五人さ、さんざ勸めときやがってな、こいっ : あか 高司おら氣にくはねいのな、だいたい五十嵐の小作が、メッケ地キミ ( 赧くなって ) 莫迦いひなさいよ。 主の金なんど借りることねいべ、何んもな : ・ 唄ーー夜は細道、とぼとぼとーーお、 寅それだってえ。 忍び男のためとなる 笑ひごゑ。 高司 ( 見まはして ) まだゐるかあ、逸見ーーおめい、合せる面あっ たら、ここさ面もって來い。 市橋よせ、よせ。女からかっても仕方ねいべ。 庄作何い。 ( 立ちかける。 ) 由三郞えいど、えいどうーーー市橋も、そこ、つれいとこだな。 笑ひごゑ。 市橋ほっとけ、ほっとけ。 キミみんな、もっと仲よくしなきや、だめぢゃないのーーーお百姓靑年團 1 ( 茶碗をつきつけて ) ま、一杯えくべ、コロンタイ女史 に、早川も五十嵐もないわよ : おらだって、せんなら、支部靑年部の三羽烏でねいかい。 高司何だあ。好きで喧嘩なんどしてるんでねいど。すっこんでれ八十八そこさえけば、おらなんど、おっかあ孝行の模範農場たど めつけ てんさい え、腐れ女。 ・ ( うたふ。 ) ほかの亞廱より甜菜よりも、わたしや手がけた荳 あご がえいーーーちゅわ。 三五おらたちゃ、あす食ふ顎のしんべいあんだからな、精米所の お孃さんみていな悠長づらしてらんねいよ。 笑ひごゑ。 おや はや へそ どぶ

7. 日本現代文學全集・講談社版 79 村山知義 三好十郎 眞船豊 久保榮集

、カ 子供ーー・天狗さん、顔みせれや。 8 果物屋えいから、出せってや。 ふてい奴らだな、餓鬼のくせ子供ーーー面とれ、面とれ。 して。 子供ーーー煙草吸ひていべ、天狗さん。 袋物屋 ( 果物屋に ) あんたも、お守り袋買ひなせいよ。お宮で、盜紋服 ・ : 今度ら、札幌でなら、眞崎っちふ自由勞働者が、最高點 難よけ受けたらえいべ。 だったすもんな。惜しいことなさったな、あんたも立てばーーーさ 小さな子供やだあ。浮かさる金魚買ってけれねいば、もう、は、 うだ、農場と製材組合と借家人かーーー大した地盤でないすか、五 風呂さへいらねい。 十嵐さんの後ろ楯なら : しらみ 母親えいとも。虱に食はれて死んづまふど。 行列は、鳥居の前で勢揃ひするために、ちょっと淀む。列のうしろの 等々。社殿から聞えて來るお囃子にまじって、酸漿の音、ラッパの はうでは : 音、ふくらましたゴム風船の笛の音、石疂にきしむ跡齒の音、ぼっく わっしよい、わっしよい : かんだか りの鈴の音。笑ひごゑ、泣きごゑ、叱るこゑ、濁った聲、甲高い聲。 みこし と、輿を揉んでゐるけはひ。 その音と聲の交錯のなかへ、村ぢゅうを一巡した輿の行列が歸って 子供 顔みせれ。 來る。 子供 もう、は、お宮さ歸るんでないかい : 三寶の鹽を撒きつくした羽織紋付の男のあとから、一本齒の足駄を穿 いて、鉾を杖にした猿田彦。子供の群れ、口々に囃しながらついて來天狗うるっせい餓鬼だな、ほうれ。 ( 面をはづすと、手代木良一であ る。 る。 ) 子供 ( 節をつけて ) 天狗の八十八、保の天狗。天狗の八十子供ーー、・・わあっ、おっかねい。 子供 八、保の天狗 : あれい、天狗さん、變ったど。 めん 子供 子供ーー天狗さん、面とれ、面とれ。 ことしの天狗だら、靑年團でねいかい。 ・ : もうこれで、お役ずみですからーーーひとつ、社務所のは 猿田彦のあとから、徒歩の主、それぞれ白仕丁の肩に擔がれた太紋服 き・かを、 しらき さいせん 鼓、榊、袋に人れた大傘、賽錢をうける白木の櫃など。つづいて、フ おも しゅばしょ ロックや羽織袴に編笠の村の主だった人たち。そのなかに、五十嵐木相良いやあ、あいにく檀那がーーーほれ、けふは畜産の種馬所のは 工場の相良友吉の顔も見える。 うへ支廳の方々を御案内なさるもんでーーーわたしが出たんでは、 相良 ( 絞服のひとりに ) : : : だしぬけにね、どうだ、友衆、おまへ 名代にも何んにもならんのですが : 道會に立候補しないかでせう たまげましたよーー供託金ぐら紋服とんでもない : ゐ立て替へてやるぜと、かうですもんな、は、は、は : ・ 行列の先頭は、烏居をくぐって、參道を奧へ歩み去る。お捻りや米の 絞服いかにも、五十嵐の若ご主人らしいんでないですか。 袋を、白木の櫃に投げ入れるもの、かしは手を打つものなど。 とぎよ 靑年團の制服を着つらねた逞ましい肩に躍る輿の渡御。 相良何んでも東京の大學でいっしょだったちふ人が、いま民衆黨 わっしよい、わっしよい : のーーーあれで、幹部ですかなーー・そこから話が : : : ( 語りつづけ聲々 る。 ) 行列、人垣のなかを參道へ去る。 はやし みやうだい みこし めん よど

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おもてざた しのまるって、人變ったみていなんでねいのーー・飮めもしねい酒 まあ、手代木さ頼みこんで、表沙汰さなんねいやう : ・ 0 なんど飲んで : ッタ莫迦いひなせいーーーこいつが何んちゅはうと、檀那さんやわ し : 秀松 ( 駒井ッタといっしょに、櫓の下にゐる。踊りが、ひとくさり濟んだ ところで ) ・ : ・ : さあて、酒にするべな、お待ちかねの。 飮ん關したつけ、さっそく五十嵐さんさも使ひ出しまして : でひと踊りしたらな、さあっと引きあげるんだど、えいだか ッタんだら、五十嵐のさし金だか ? 時節柄、十一時までちふ申し合せだもんな : 常談でねいーーおら : いし謝まんねばだめだよ、あんた 八十八なんぼ、あんだーー酒 ? とんだことさなんでねい 秀松一升壜、五本あるって : の、怪我のエ合でなら : ・ ッタすかねいなあ、この野郎 ( 酒の座へ ) あ、そっちや構は 八十八一人あてかあ ? むしろしやらぎ どっと湧く笑びごゑ。 ーー踊りの輪が崩れて、てんでに莚や床儿や切 ず、やってなせいよーーーおめい、こねいだの農會でもな、おらの 株に陣どり、茶碗に酒をつぎ廻す。 こと面あて言ひやがったさうだども : ッタあのな : : : ( 何か言ひかけるが、ざわめきに消される。 ) 關そ、そらあ : 秀松 ( 手をふって ) ちょっくら靜まれや : ッタちゃあんと、子之が聽いて歸えった。 ・ : あのなあ、わしがよけい事して、時間のびるとなんねい 地帶さなれねいべか、この村 からな・ーーそれだきや、氣いつけて下さへ : 關そ、そらあ、話ちがふんでねいですか : ッタが、立ち去らうとするところ手代木詫びりやえいんだ、この野郎 : 野天の騒宴が、ひらかれる。 へ、靑年團の服裝をした手代木が、おなじ服裝の二三人と、關爲吉を 關いや、これだきや : ひき立てて來る。 ッタおらとこ、金貸し商賣にしてんだもんな。 ーー逸見が、現金 亂暴すんでねい、こいっ : 買ひしたの、おらのせゐだか ? 靑年團 3 どっちがだあ : 關 ( 押へる手をふりはらって ) よせちふにーーーこれだきや言はせてけ 手代木來ねいか、野郎ーーーあ、奧さん、こんつくそう、いま、お れーーーおら、何んも、東二線のことばっか言ってやしねいーーー・・村 宅の子之さん怪我させてな : ちゅうがちうたんでねいすかーーー競爭多いですもんな、製廬も製 ッタ怪我させたあ ? 糖も。 村ぢゅう氣い揃へて、會瓧肥料つかはねいば、奬勵地 秀松どこ ? 帶の指定うけられねいべちうたの、どこ惡りいべか ? みけん かっ 手代木眉間と足なーーー・すぐ救護班で、輻田院さ擔ぎ込んだども秀松おい、おい、えい加減にしろや、關さん : ・ こし ( 關に ) 詫び言はねいか、やい。 關んだら、そもそも農民組合なんちふもんやめて、實行組合ば拵 關 ( 小突かれながら ) ーーどうも、は、申しわけねいです、何んと れいた共存共榮の精さ合はねんでねいですかい。 もーーー・けんど、いきなり人っらめいてー・ー今日だら、祭りでねい ッタロへらねいなあ、こいつ。 おら、女でえく分かんねいど ですかーーーあんまりしつつこく言ひなさるもんでな : : : やっと、 もな、その共存共榮ちふのは、人ば撲ぐることたかね : おらゐては、奬勵 へんみ

9. 日本現代文學全集・講談社版 79 村山知義 三好十郎 眞船豊 久保榮集

波多野悪りい癖だよ、君の : : : 査定委員はな、亞廠の不作ぐれ ドつくれねいな、關さん。 ゐ、君に言はれねいでも知ってるべさ。ーー、・第一、ちゃんと委員 關いやあ、わしとこ三年越し奬勵金とったくれゐだし : 會さ、唐さん出てられるもんな、生産者側を代表して : 波多野 ( 關のロ眞似して ) ほかの奴らとは譯ちがふかい、は、は、 へえ、生産者側かね、唐澤さんが ? し 關こらあ、面白れい たら、わしらは何んだね ? 關おぼえたかい、あんたまで、ふ、ふ、ふ : : : ま、見てなさへ 波多野生意氣いふな、生意氣。ーー・・僕あ、さっきから見たったが ね、この邊なんど ( テープルの横の生莖を、靴尖で蹴って ) 莖倒れた まっえ ( すゑに ) ほれ、せん、新聞さ出てあったべ。東京のーーえ まんま蒸らしたんでねいかいーー・・ー大體、亞っちふもんは、まっ えとな、何んとかちふステンショの前さ、大の銅像立たさったっ とこってりした枇杷いろの艶出て來ねいば、本もんでねいよ。 てなーーわし、東京の人だば莫迦でねいかと思ったら、こんだ、 不服だら、あとのもんと代れ。 ここの市のまんまんなかさ、種馬の銅像おったてるちふんでねい 仕方ねいなあ、どうも : の。どうするべ、わし : : : は、は、は : 眼ざとい客は、すでにライトがはひったときから、女デメンの群れ 女デメン 3 若けい人らはな、歸えりに寄って、えく見るとえい にまじって、默默と働いてゐる逸見しのを見出したであらう。彼女 は、もう、誰の眼にも隱しおほせない體になってゐる。女デメンは服 女デメン 2 何さ。 さき 裝もまちまちで、三角頭巾もあれば、古手拭をかぶったのもあり、腰 きやはん しるしばんてん 女デメン 3 種馬の銅像だらな、尖つぼのとこ、いっとう丁寧に拵 切りか印半天の下に、多くは脚絆地下足袋だが、しのは、むき出しの らってあるべさ、は、は、は : ・ 脚に穿き古した白足袋ひとつである。まっえの登場から、なほのこと : ・あっ、は、は、は : ・ すゑ半可くさいねえ、をばさん、 彼女は片隅にしりぞいて、人眼に立つまい立つまいとしてゐる。た が、今、しのは、地に這ふやうな勞役に耐へかねて、急に眼まひがし まっえ、女デメンたち、笑ひころげる。 たらしく、肩で息づきながら、地べたへ蹲まる。 波多野 ( ふり向いて ) ちっと、うるさいど : 女デメンたち、笑ひやんで仕事をつづける。 女デメン 2 ( みて ) どうしたの、あんた。 何んでもねいの。 しのう又ん 田所 ( 檢査して ) これあ、等外だね、君・ : 關 ( むっとして ) ( え、さうかねーーーおら、あんたなんどのまだ出女デメン 3 困ったねえーー , ・・歸えして貰ったら、どうだペ。 しのえいのーー大丈夫、わし : 張って來ねいうちから、亞廬納めてるけんどな、等外品なんて一 遍も出したことねいもんな : : : 波多野さん、ちょっくら主任さんまっえ ( 意外な人をみ出して ) あれい、しのちやでねいの ここさデメンに出てたのかい、あんたーーーいま何處にゐるんた 灰呼んで貰へねいすか。 山 い、あんた : ・ 波多野そうら、始まった。 今年や、いったい 等格査定のことお訊きしていもんでね。 製線所主任・唐澤克己が、モーニングを着た市の五十嵐木工場の若主 人・五十嵐重雄と、もとの職長・相良友吉を案内して來る。 に亞廱えくねいんですからなーー去年だら等外ちふとこでも 8 3 まっえ、唐澤の姿を見ると、あわてて檢査場を通りぬけて逃げ去る。 うめいこと格差つけてーー五等さ上げるのが順當でねいすか。 ばか びは へんみ きがら

10. 日本現代文學全集・講談社版 79 村山知義 三好十郎 眞船豊 久保榮集

虍作駒井さん・ : うさ肩入れましてーー・ー金ひき上げにかゝってるすけんどな : : : 農 ッタおらに任せとけーーーよけいな口利いたら、承知しねいど 場から : 照子はあ : ・ 市橋なんどに智惠つけられてえ・ : 照子、感情を隱してひき返して來る。 ッタあとで考げいたら、よしたはうえかったすどもーーーあすこの ッタおとり込みのやうで : 小作の衆の舊債をな こっちでなら親切のつもりで、一部ひき 照子いゝえ、失禮。ーーー・まあ、どうぞ。 ( 對坙する。 ) うけてやったですけんどーーーしたつけ、五十嵐が何いふかと思い ふるなじみ しゃう ・ : なんせ畑いそがしい盛りでなーー天氣えいば、逸見のや ばーー , ・だいたい、古馴染の小作いたぶるなんちふこと性に合はね つ、夜なかまで手え離されねいちふしーーま、やっとで、今夜 いから、ちっとばり割わりくっても、ありや駒井さ讓ったなんて お郛、承知で : ねえ , ーーは、は、は : : : ま、どうでごぜいませう。 ・照子はあ。 あのうーー主人でしたら、今夜、札幌のはうへ發庄作んで、話急に變りましてーーー何んとも、は、 おうやう ちますもんで・ーー新聞で御承知かも知れませんけど・ーーあちらの ッタ默ってれや、おめいはーーー・こちらさんも、また、鷹揚なもん 實驗場の場長會議に : でねいすかねえーー假りにわしとこで引き繼がねいとしましても ッタそらあ、どうも : ・ ( 時計をみ上げて ) 十一時の直通でごぜい な、この頃なら、印ついて損こかねい小作なんどあるもんでねい わんぐ ませうかしらーーしたら、一旦お歸りになります・ヘな、お發ちの すもんなーーこいつも、だらしねくてねえ、年貢の不納が、追っ かけ追っかけ六百圓ばっか、證文さ書き換へになってるんですっ 照子はーーーはあ。ーーー事によるとーーー今、電話を待ってをります てえーーー順序いへば、このはうから、ちびっとづつでも : けどーー・ー時間に、あたくしが、荷物だけ驛のはうへ・ 庄作わし、さきに檀那さんの印つきなした分からちうて、なんぼ だいせうづ ッタさうでごぜいますか , ーーしたら、また出るちふのも、あれで 損んだか知らねいすけんどーーしたら、五十嵐さ話して、大小豆 奧さんに訊いてお貰ひします・ヘか、あんまりえい話でもねい 抑へるちうて : ですけんどな、は、は、は : 照子 ( 眉をしかめて ) まあ・ーーそんなことになってるんですの ? 照子あのう : ッタそれに、ま、しのちゃのこともーー、・いや、それ言ひ出したら ッタ實はーーもう、は、期限も切れましたしなーーー逸見に連帶の 話汚ねいすけんど、は、は、は : : : ひとつ、庄作さけれてやった 印つきなした分を、何んとか一つ : ・ ( 帶の間から、證文を出して ) 僅かなもんでねいすか、こ 庄作わしーーー何ちうたらえいかーー申しわけねくて , ーーこの春、 ちらさんにせばーー・・言ってみりや、奧さんの御宰領で、ダイヤの 灰檀那さんから口利いてお貰ひしたときたらーー・・・まさか、こったら 指輪ひとっ落っことしなしたと : 山 ことさ : 庄作駒井さん、また出ますべーー奧さんだら、ご迷惑だし : 照子ーーーあのうーーーそのお話しでしたらーーー改めて : ッタあれだ、この野郞ーー・・祭りの晩に酒くらやがってえ、雨宮さ んさ取りに行けちうて、人おどかしたんでねいか、こいっ : 四ッタそれがなあ、奧さんーーご存じでごぜいませう、ほれ、五十 4 嵐農場ーーあすこの若けい檀那が、この頃なら、えらく畜査のは庄作常談でねいーーーそったらこと言はれたら、わし、檀那さんさ はん きた