けです。ドイツの六千萬の民衆は世界各國の經濟的奴隷となるでせ 資本家側は悉く席から立ち上った。最後の一言は漸く打ち消され う。マルクの暴落は勞働賃銀を引下げることになり、延いては生産た。勞働者側は嘲笑の拍手を送り、新聞記者逹は資本家の不統一を 費を低下せしめ、諸外國市場では我が輸出品は競爭の勝利者となる罵倒した。議長は慌てゝス一フウ氏の挨拶の終ったことを告げた。そ ことが出來るでせう。そこで外國市場は關税を設けて獨逸商品を壓して勞働者側から提出された議案を讀みあげ、決定した討議順序を 迫するでせう。マルクの暴落と賃銀の騰貴が平行しない間は、國内報告した。 の民衆の生活は眞に安定し得ないでせう : : : 」 議事一、凡ての普通勞働時間を八時間とす。 勞働者の側から盛んな拍手が起った。スラウ氏は昻奮して顏面は 資本家は默って居た。勞働者も默ってゐた。新聞記者は鉛筆を持 キラ / 、輝くやうに思はれた。資本家代表は露骨に演説を妨害しは って人々の顔を覗いてゐた。扉のところに押しかけた傍聽人は靴の じめた。ベルリン實業聯合會書記長アルフォンゾ・テー一フー氏は扉音をさせた。鼻をスウ / \ ならした。 の處に入って來た記者をまねいて大聲で云った。 突然、勢ひょく四五人の勞働者がやって來た。彼等は公園から決 「吾々は討論で多分讓歩するだらうよ。レーニンの宣傳が、資本家議文を持って來た。勞働者側の委員から動議が提出された。資本家 仲間に支持者を得たからね。時に君、公園の迚中はこっちにやって側は、吾々も誰かに決議文を持って來させるから一緡に讀み上げた 來る形勢はないかね ? 」 らいゝだらう、と皮肉を云った。スラウは決議文は讀まなくても、 「連中は△スプルヂョア、つまりあなた逹を打ち倒せ : : : と唄って共産黨の機關新聞「ローテファーネ」にもう出てゐると云って頑張 居ますよ。」 った。 もう一人の記者が云った。 「ちゃ我々は歸って大會にさう報告するがい、か ? 」 「今夜はきっと奥さんに會へますまいよ。此處は軍隊で固められる さう云はれてからやっと動議は通過したのだった。 でせうからね。物妻い勢ひでさア。あなたは民衆のデモンストレー 0 衝突 ション・ 議長が私語を禁ずる木の槌を叩いた。もう誰もスラウ氏の演説を 夕方から示威行進が始まった。人間が拵へたス 1 プのやうに、街 きいてゐなかった。彼の工場委員會の主張は、たゞル 1 テル一派と 一杯に擴がりながら行進した。 先頭には制服の巡査が進んだ。皆ホルン氏の部下だった。モット 對抗するために過ぎなかったからだ。そして勞農ロシアの侵人を惧 れたからだ。 ーを掲げた布は、人間の頭を掬ひあげるための網のやうに見えた。 「 : : : 世界はドイツに不幸の酒杯を捧ぐることを止めよ。ドイツの 突然、先頭に銃聲が起った。恐ろしい喚聲とともに大きな波のや 民衆は偉大な理智性の極限まで忍耐した。一一千年間、東方蠻族の侵 うに群集が押し返して來た。 入を防いでゐた境界はヴィスチュラ河であった。・、 カ今や此の境界線 狙撃したのは共和護衞軍だった。彼等は完全に武裝されて居た。 市 辷査達は掩護 は一フィン河に移らんとしつ又ある。ラインは革命の渦中にあるでは舊近衞將校の一人が、解散を命ずる信號旗を掲げた。巛 幻ないか ! 全獨逸に充滿して居る過激主義に打克っ道は、我々資本物がなかった。群集は先頭が見えないのでドン / 、前進しようとし 3 た。巡査は戦鬪準備を整へてゐる護衞軍の前面に押し出された。
器が何を云ってゐるのか聞きとることが出來なかったので、直ぐに 一、ワルター・スフウ氏は危險人物なり。行動内偵のこと。 2 又譯の分らぬ混亂の中に陷った。が、中央の大旗のあたりから低い 革命歌が起り、それは次第に周圍に擴って行った。遂には全體を覆 歴史的な協議會は開かれた。 ふ怒濤のやうに高まって街の方へ響いた。歌の切れ目 / \ で擴聲器 脚にけだもの長彫物をした、四間位のテープルの兩側に相對して が放送され演説が聞えた。 並んだ。一方の高い窓から陽が輝らした。埃がテープルの上を舞 ひ、記者逹の吸ふ煙草の煙が日射の中で渦を卷いた。部屋は狹く空 議場 氣が汚れた。ホテルでは石炭の缺乏を委員逹に痛感させるために、 勞働者と資本家が、現在のドイツの混亂した妝態を救ふために協スチームを通さなかった。新聞記者は立ったま、に筆記してゐた。 議會を開くことになった。協議會の主唱者は資本家だった。政府は勞働代表は椅子に反り靴をならして、なるたけ資本家を輕蔑しよう 喜んで賛成した。・・・の幹部も喜んで賛成した。此の三としてゐた。資本家は微笑しながら、それを默殺した。 組は今の勞働者、兵士、農民の革命的な氣持ちを變へなければ、大 會議は、勞働代表から提出した要求條項に就て討議する形式を取 變なことになるだらうと考へた。彼等はもとど、資本主義制度の支った。大臣の挨拶の後に << ・・・の會長、あばたのアブナ 持者だったので革命が恐ろしかった。そこで革命の眞似事をしなけ ・カン氏が立ちあがった。 ればならぬ。さう見せかけねばならぬ。ルーテル氏は云った。 「吾々は困難だった歴史的戦爭の中で、互を理解し援助し合ふこと 「勞資の協力に依ってカイゼル一派を倒した。私は瓧會主義は平等を忘れなかった。勞働者も資本家も共に危機に臨んでゐるのである の原則の上に立っことだと思ふ。若し平等の原則さへ確立さるれば が、吾々の偉大なる精神は、再び協力する道を拓くことになった。 勞働者の一流的要求は實現される譯です。同時に我々は現在の地位斯くて我が國の産業の恢復は急速に來るであらう : ・ : ・」 から退く必要はなくなるのです。私は勞資會議を開催する機運に逹 カン氏の演説にはル 1 テル・トフストの一團がお義理で拍手し してゐると思ひます。」 た。記者も勞働代表もス一フウ氏も此のきまりきった演説に對して輕 雇主組合内で、此の提議に反對したのは、たゞ一人アルゲマイネ・ 蔑、否、憤慨したらしかった。ルーテルが出席して居なかったので エレクトリック・トラスト瓧長ワルター ・スラウ氏だけだった。彼 ワルター・スラウが資本家側を代表して立った。 は全産業を完全な工場委員會の統率の下に置くと云ふ英國流の考へ 「私は資本家といふ階級的立場から意見を述・ヘませぬ。杓子定規の を持って居た。そして、ルーテル氏がマルクの思惑をやって益よ、 ゃうなきまりきった方法では、吾々は危機から脱れることは出來な 暴落させて居ることを暗に指摘した。結局 ( ル 1 テル氏の意見は民いでせう : : : 」 主黨内閣を動かして勝利を得た。ルーテル氏はワルター・スラウ氏 スラウの演説は、挨拶を通り越して、自己の意見をのべてゐた。 の意見がサンヂカリズムの影響を受けて居るのに驚いた。そして、 資本家側は當惑して沈默した。 共産黨に軍資金を供給してゐるのは、スラウかも知れないと疑ひは 「 : : : 我が國の復興を妨げるものは第一に、帝國主義諸國です。一 じめた。彼は其の小さな眼でス一フウ氏を觀察して居たが、たうとう部の意見に依って惹き起された戦爭の非難を、吾々の子孫まで受け 彼の小さな手帳に欽のやうに書き込んだ。 ねばならぬ理由はありませぬ。吾人は數ヶ月の賠償金を拂ひ得るだ
その最後のものの美しさをよくよく噛みしめ得るものは、あえてい治の周密な批評ひとつみても明らかだが、この長篇が戦後に再刻さ うならば、轉向者という烙印をおされた前科者ではなかろうか、とれたとき、卷末に山田淸三郞が解説を書いて、つぎのように論じた のである。 いうのが森山啓をして『遠方の人』を釋放直後に完成させた一フィト 「橋本英吉が、プロレタリア作家として認められるにいたったの モティ 1 フだったにちがいない。そのまっすぐな延長線上に『誰に は、前記の『棺と赤旗』だった。これは炭山のストライキをあっか ささげん』『暮春』のような謙抑な私小説ふうの作品が書かれたの ったものである。 ( 中略 ) 英吉はこの一作で、プロレタリア文學に も必定である。同時に、作者はともすればみのがされやすい老年の おける鑛山文學の新生面をひらいてみせた。日本プロレタリア文學 美しさと靑春の美しさとを表裏一體のものとしてとらえた『萱原』 『靑春』のような抒情的な客観小説を書くことにも成功したのであは、すでに宮島資夫の『坑夫』のようなすぐれた鑛山文學をもって る。「柳はいづこよりの風にも叩頭す、實のなきことを恥づるが故いたが、それは未組織な坑夫を主人公とし、未組織時代の鑛山勞働 に」というふかい自己苛責が、よくそれをあがなわしめたのである。者の世界についてえがいたものであった。英吉が『棺と赤旗』でし めしたものは、あきらかに意識的に資本に對立し、資本とたたかう 橋本英吉 炭山勞働者の姿である。 ( 中略 ) その作品は題材のうえから二つに大 ここでちょっとお斷りしておけば、伊藤永之介、本庄陸男の二人別することができる。それは作者じしんの體驗にもとづくものと、 直接體驗にかかわりのない、そして觀念によって、つまり頭でかか の收録作品については、紅野敏郎、山田昭夫らとも相談しながら、 その最終責任は私自身の負うところだが、森山啓、橋本英吉の二人れたものだ。このことは、勞働者出身であるこの作家の、いい意味 での野心からくる取材はんいの廣さをしめすものであるが、讀んで の收録作品は、作者自身の選定にゆだねたのである。したがって、 前述のように自選短篇集『遠方の人』と本卷との收録作品がたいへ實のあるものは、やはり前者であると、わたしは信じている。頭で かいた英吉の代表的な作品は、『金融資本の一斷面』と『市街戦』 ん似通うことにもなる。なぜこんなことを改めてお斷りするかとい えば、昭和初年代のプロレタリア文學運動時代の作品として、橋本であろう。前者は、金融資本に産業資本が支配されていくその操作 の過程を、電力會瓧の合理化問題を通してえがいたもので、理づめ 英吉は『眼』『市街戦』『メキシコ共和國の滅亡』の三作を自選して いるからである。年譜によれば、橋本英吉は昭和五年に作品集としで、知的な作品である。『市街戦』は、第一次大戦直後のドイツに おける勞働者の革命鬪爭をあっかい、その中でアメリカ投資團の野 て『炭坑』『市街戦』『勞働市場』の三册を刊行している。いま私の 手許には『市街戦』『勞働市場』の二册しかないが、前者には『眼』望や瓧會民主主義者の暴露などをおりこんだもので、素材について 『市街戦』はじめ八篇の作品が、後者には『メキシコ共和國の滅亡』はよくしらべられてあり、てぎわよくまとめられてはいるが、やは りつくりものの感じをまぬかれない。そこへいくと、體驗をもとに 解はじめ十三篇の作品が收められているが、そのなかから作者自身が 『棺と赤旗』をすてて『市街戰』を選んだ理由が、必ずしも私にはしてかかれたものは、何といっても、作者の呼吸や體臭といったも 作 のが、じかにせまってきて、ふかいしたしみと信賴感でよみ、かっ よくのみこめないところがある。 著者は昭和十年六月に長篇『炭坑』をナウカ瓧から上梓した。こ味うことができる」 私は單に山田淸三郞の意見に賛成だという理由によって、このな の長篇が著者の代表作のひとつであることは、當時書かれた中野重
への基礎が出來た。勞働者代表諸君が我々と協力しようとする奪い た一月ばかりしてから、變な嚀を聞いたのよ。それはね。看護婦っ て云ふのは嘘で、いくさをやるんですって、それが嫌なら戦線の後行爲に感謝する。」 ルーテルは記者團にさう演説した。が、もう一つの重大な事實を で淫賣見たいな事をさせられるんですって。どっちにしたって堪ら ないと思ったから、そこから逃げ出したの。直ぐ捕まって監獄に入わざと言はなかった。それは彼をも惱ましてゐる外國資本の援助 れられたのよ。」 だ。これが無ければ何にも出來ないのだった。其の爲めには國内の 彼は默って聞いてゐられなかった。彼女が醉った勢ひで話してゐ安定、殊に勞資間の鬪爭を緩和して、外國資本團の信用を得ること るので、彼には聞いてゐるのが苦痛だった。それと同時に、僅かのが絶對に必要だったのだ。安定の曙光は少しづ見えはじめた。 彼が新借款の交渉を續けて居たアメリカ資本團が、話が長くなれ 支配階級のために拂った數千萬人の種々様々な形の變った犧牲が、 ばなる程態度に少し宛硬化して行った。それは媾和會議の雲行やド 彼をしつけ暗くした。 ィッの國内の革命騷ぎのためだった。然し資金の洪水に弱ってゐた 「俺逹と同じゃうなもんだ。もう其の話は澤山だ ! 」 それ以上、彼女の身の上話を聞くのは、堪らなかった。無數の男個々の資本家は、蔭では此のヱサを横取りされまいと競爭をしてゐ るのだった。そして遂にアメリカ資本團は一つの投資團に塊ってし や女逹が誰も知らない不幸や屈辱の中を通って來たのだ。 まった。 彼は、踊りは餘り好きではなかったが、ヒルダを件れて行った。 よく睛れた日だったが寒かった。ルーテルは大切なお客を不愉快 勞働者や失業者で埃臭かった。彼女の奇妙な姿は人眼を惹いた。一一 にしはしまいかと心配してゐたのだが、船に乘って見ると思ったほ 人は其處で泥醉して抱きあって、夜明けに歸って來た。 どでもないので安心した。 船には三人の投資團の代表を主客として、ルーテルの友逹で同時 四奴の新しいもくろみ に雇人である人逹が乘り込んでゐた。彼は此の新借款は幾分か社會 勞資協議會の結果が發表され、勞働者逹は工場に出はじめた。電主義者逹から惡く言はれる心配があった。で、なるだけ祕密に行は 車も動きだした。煤煙が冬の空に低く漂った。民主黨政府は勞資協うとしてゐたので、他に誰も乘せなかった。 七百七十噸の眞白に塗られた船は、波の間から娘のやうに赤い腹 議會の結果に「滿足」の旨を聲明した。資本家側が讓歩したのだ。 資本家や政府の力が弱い時代はそんなに長くはないから、一時的屈を見せながら、川を下って行った。石炭や肥料や材木等を積んだ眞 伏したのだ。媾和會議がす、み、賴みにしてゐるアメリカの資本が黑に汚れた貨物船の間をぬって行く様子は、思ひきり翼を伸した白 い鳥のやうだった。ルーテルは「白鳥號」と呼んでゐた。白鳥號は 入って來さへすれば、勞働者をやつつける算段だ。 ルーテルにとっても會議の結果は大體滿足だった。多少、資本家運河に入って行った。もう晝食の時間に近かった。サロンには日光 が一ばいに溢れ、温室咲きの草花がその中で息をしてゐた。花束に が讓歩し過ぎたやうに思はれた。が、然し決裂に比ぶれば何でもな 市 顔を埋めるやうにして、アメリカの番頭の一人が眠ってゐた。彼の い犧牲だった。勞働者がどし ( ー就業し、交通機關が動きはじめ、 前には一杯のソーダ水が置いてあったが、手をかけたまゝだったの 産業復興の望みが表れた。 3 「ドイツ民衆の幸偏は、産業の復興にある。勞資會議で完全な復興で四本の指はレモンで黄色く見えてゐた。彼は前夜ウイスキーを呑
鐵板で前部を包んだ護衞軍のトラックから機關銃のロが覗いてゐ 「御意見は如何でせうか ? 」 4 るのだった。兵卒逹は機關銃に守られながら巡査の武裝を解きはじ など乂、暇をとってゐたのだ。 めた。唯一のピストルは取り上げられた。反抗した幾人かも手錠を 政府は待ちきれなかった。反動化したとは云へ、民主黨政府だ。 はめられてトフックに積まれた。群集は街一杯に擴がってゐた。組腐っても鯛だ。勞働者とのるかそるかの喧嘩も出來なかった。また 合旗が角のやうに頭の上に突き出てゐた。街の一方は掃かれたやう それだけの實力はなかった。 に靜かだった。人影もなかった。空の電車が止まってゐた。商店の 「夜になれば勞働者は盛り返して來るだらう。」 金文字と窓硝子が沈默を續けてゐた。 だから、早く結果を發表して呉れと賴んだ。 群集がそこから散って終ふまでには三十分以上もかゝった。少し 市街戦が生んだ芽 殘った人逹も、やがて始まった戰鬪のためにキレイに散ってしまっ た。ギャルソン父子商會と書いた家具店の窓から、水兵が突然狙撃 アドルフ逹は其の日、何の準備もなかった。黨は少し間違ったの をはじめたのだ。其の隣りからも銃聲が起った。不意を狙はれた。 だ。彼等は明日だと思ったのだ。今日は何事も起らないだらう、會 共和護衞軍はうろたへながらト一フックまで逃げ歸った。歩道には家議の結果に依って明日は大きな渦が起るだらうといふ豫想だったの と家との間を走る水兵帽のリポンが踊った。それは丁度餌をくはヘ た燕のやうに家の中にとびこんだ。機關銃は敵の掩護物に網のやう アドルフ逹は、譯もなく蹴散らされた。夜になってから指令が來 な穴をあけてゐた。これには水兵逹も手が出せなかった。彼等は家た。地區では動員でごった返した。少數ではあったが小銃やピスト の中から露路に逃げこんだ。 ルも揃った。殘った勞働者逹は最後の根據地とするために・ハリケー 同時に、ホテルの附近でも戦鬪がはじまってゐた。こ乂では一隊 ドを築き出した。 の巡査が戦かってゐた。散った群集は再び盛り返して、方々の街路 ヒルダは立派な一挺のピストルと彈丸を持って來た。彼女は男裝 を廻ってやって來て居た。時々勞働者は喚聲をあげて現れたが、直してゐた。グレゴリ 1 はそれを俺逹に寄附しろ、と云ったが彼女は ぐに追拂はれるのだった。 承知しなかった。ヒルダは醉ってゐなかったので憂鬱な顔をして部 政府は無論、護衞軍に武器を與へたのだ。巡査や水兵逹は二挺の屋に籠ってゐたのだが、騷ぎで飛び出して來たのだった。 機關銃と小銃とピストルしか持ってゐなかったのだ。勞働者逹は次 「危ね工から止しな。」 第に下町の彼等の集の方へ追ひやられた。然し彼等は頑強に抵抗す グレゴリーはそのピストルが持ちたかったのだ。アドルフは默っ ることをやめなかった。協議會は夜になってもまだ續いた。勞働者てゐた。又、ヒルダも默ってゐた。そのま乂四十人あまりの一團 の反抗を鎭める唯一の方法は、雇主が讓歩し協議の結果を發表するは、靜かに指定された橋の方へ歩いて行った。 みかげいし ことだった。ところが雇主側はたゞ沈默で通す戦術を取ったのたっ 橋は眞暗だった。そのうちに、ぼっと花崗岩の欄干や彫物が浮い 、た。彼等は自分逹が頑ばれば、元も子も無くすることは分ってゐて見えた。人々は默って驅け廻ってゐた。石は悉く剥がれて積みあ た。一時的に屈服するにしても、讓歩の範圍を最少限に止めて置くげてあった。河の向ふは建物だけしか見えなかった。誰もゐないや 肚だったのだ。その手に引っかゝって < ・・・の幹部逹は、 うに靜まりかへってゐた。
3 のだった。半哩ばかり沖に居る巡洋艦は筒口を町に向けてゐた。町 の後には荒原がある。共の向ふの油田地に大きな砲彈を落すことは 政府軍の陣形はポロイ、の齒のやうになってゐた。市民兵が夜に何でもない仕事だった。水兵を乘せた一フンチは續いてゐた。 なると陣地から逃亡したからだ。彼等は苦しい行軍や勞働に堪へら 山腹にあったシェラマドレ軍のテントには大きな唸りをたてなが れなかった。逃亡した跡には數粁の空隙が出來て連絡が絶たれた。 ら砲彈が落ちて來た。彈は空氣を掻きまぜ、波を震はし、テントや 官軍は全油田を放棄して退却した。勞働者は石油の運搬や仕事を人家を空高く吹きあげた。水兵逹は、彈丸を土の中で破裂させない 休んでゐた。彼等はさういふ戦爭の結果が、いかに自分逹を苦しめ練習に日を送ってゐたのだから、彼等に狙はれた凡ゆる物は粉碎さ るものか知ってゐたのだ。輸送鐵管には用心棒が張番してゐた。役れた。砲彈の前には人も獸も財寶もなかった。シェラマドレ軍が狼 人逹は軍隊が居なくなったのでストライキを壓迫する事は出來な 狽しはじめると、輕機關銃から小さな彈丸が一分間に五十發の早さ い。勞働者が反抗して來たら靜めて呉れる者が無いのだ。だから會で降りはじめたのだ。しかし彈丸は、タンクやオイル・ ( イプを避け 社は用心棒を狩り集めた。 て通った。若しそれ等のどれにでも命中しようものなら何萬弗の財 石油勞働者は部落を作って、小屋の中に住んで居た。エリドー や寶は燃えて終ふのだ。だから彼等はさういふ資本家の所有物を狙は 仲間逹は、彼等の集會に出席して演説をしたり報告したりした。勞うとしなかった。 働者は大統領と資本家の關係は解らない。が、アメリカやイギリス シェ一フマドレ軍は、町から退いて油田地に陣地を構へた。林のや やぐら の資本家には深い憎惡を持ってゐた。「外國人を驅逐して、俺達だけうに櫓が並んでゐた。丘から谷〈下り、又丘〈は連なってゐた。 でやるやうにしよう ! 」と話すと賛成し拍手した。委員會や警備隊その間には網の目のやうに輸送管が張られてあった。その中には油 が出來た。そして油田地方の中心地に集合して示威運動をやった。 がひとりでにタンクへ流れてゐた。砲彈はそこには屆かない。騎兵 資本家逹は別の所に集まってゐた。「軍隊は安協しなければならは夜になると勢ひを盛り返し、水兵を町の方〈追ひ返した。彼等は ない。」とロでは言った。だが、腹の中では「今に見ろ ! お前さ脊中に日本から來た一九〇五年銃の彈丸を打ち込まれた。 んは油井から追拂はれるだらう。」と考へた。共の時が來るまで、 大統領は新しい軍隊を送って來た。彼等は河を渡って、突然騎兵 彼等は顏を突き合せて、ビフテキを喰ひ酒を呑んでゐるつもりたっ の橫から彈丸を浴びせかけた。騎兵はまた油田地の谷底に退却して た。けれども石油が出なければ、彼等は困るのだ。損害は日々大き援軍の來るのを待った。シェ一フマドレ軍の司令官は、 くなって行くのだ。略奪戰爭を續けるか、油を出させるか、二つに 「若し君逹がこれ以上追撃するなら、油井に放火する決心だ ! 」 一つだ。彼等は矛盾に突き當ったま又數日を過した。 さう、アメリカ軍に云ってやった。だがアメリカ軍は默って答へ なかった。 一四 勞働者逹は部落から去った。彼等はテントを買って來て、油田の いかり 巡洋艦は沖の方に碇を下した。白い水兵服の男逹は、彈丸と小さ外に密集した。そこから委員逹が兩軍の司令部に決議文を持って行 な機關銃とを一人々々持ってあがって來た。小さな銃は一分間に五つた。 十發の彈丸を、アメリカ植民地の人間の胸に打ち込むことが出來る 兩軍共、互ひに陣地を固守して退かなかった。應援の軍隊がどち
「君、うてるのかい。」 「たうとう俺の考へが當りやがった ! 」 6 アドルフは兎に角、小銃を渡した。從いて來た二人の勞働者は と、コールタールの沁みこんだ茶色の顔を撫でながら、鈍重に言 った。 ビックリして此の娘の様子に見入った。 「一番こっちの男よ。ほらへルメットだけ電燈で見えるでせう ? 」 二人はカフェーに飛び込んだ。夜が更けて居たにも拘はらず、客 小銃をとり上げた。狙ひは外れなかった。ヘルメットは高い花崗で滿員だった。彼等は二人だけの部屋に入った。何も話さない先 岩の段々を轉落して、スカートのやうな天幕の上に辷り落ちた。敵に、アドルフはその首を抱いてキッスした。それから彼女の元氣を は亂れた。こっちの見當はつかなかった。第二彈もヘルメットを射つける爲めにビールを呑んだ。彼は海軍の話をした。ジ = ットフン 落した。 ドの沖の大海戦で、旗艦が英艦から撃破され、まさに溺死しようと 彼は、此の時はじめて彼女の過去を知りたく思った。護國女子靑する司令長官を、彼の乘った嶇逐艦が煙幕を張って救助した話をし 年團員だったらうか ? 然し彼女は文字を知らないといふグレゴリ た。それから現在の話をした。黨の話をした。然しさう云ふこと ーの話だった。彼女は酒呑みでヒステリー見たいだ。とすると淫賣は、彼女にはよく分らないらしかった。何故、他人の爲に自分を犧 婦か ? 或は共産主義者か ? 今まで決してそんな素振りもしない牲にするかが彼女には不思議だったのだ。彼女はたゞフン / 、と聞 し、見當が付かなかった。かういふ疑問は新しくアドルフを惱まし いてゐた。が、彼が彼女に何か關係のある戀の話でもすると、眼を た。彼はヒルダのプローニングを握ったまゝ散って行く護衞軍を見輝かして熱中するのだった。彼女は始めは何も話さなかった。少し ながら考へた。然し彼はヒルダの銃に押しつけた首を見た時に決心醉って來ると、ポツリ / \ 話しはじめた。 した。 「 : : : 學校に行ったことがないの。敎會には二三度行ったきり。お 「どっちだってい乂のだ。俺は此奴がすきだ。此奴はきっと立派な母さんが死んだのは小さい時で覺えてないけど、お父さんは八つの 同志になるだらう ! 」 時に出て行ったきり歸って來なかったの。泣いてると孤兒院に連れ 十一時半頃やっと休戦になった。協議會の結果が發表されたの てって、又其處から方々の家庭にやられたの。女中もするし女工に だ。それは九ケ條のうち、主要な四項だけが承認されてゐた。後のもなるし、何でもしない事ないわ。」 五項はまだ審議中だったのだ。 言葉を切って酒を乾した。頬は欽第に生氣づいた。そして銃で汚 一、勞働時間を八時間とする事。 れたま又の指で、彼の指をつ又くのだった。 一、雇傭事務局を勞資同數の委員管理とする事。 「戦爭の時には、ポッダムに居て、肉屋に奉公してゐたの。併し肉 一、勞働組合を勞働者の公的代表と認むる事。 屋は肉が無くなったので廢業しちゃったわ。紹介所に行ったら兵隊 一、工場は勞資同數の委員により管理する事。 になれってすゝめるの。兵隊は嫌だって云ったら、そんなら、看護 反抗を指導した共産黨は、解散の指令を出した。 婦になれって云ふから喜んちゃったわ、そこには澤山私逹見たいな アドルフはヒルダと一絡に姿を隱した。彼は地區の委員で、後始女が居るのよ。鐵砲をうつ稽古をさせられたの。私、直ぐうまくな 末をグレゴリーに托して出かけたのだった。それに對してグレゴリ ったわ。それから一月ばかり兵隊の眞似ばかりさせるの、何故だと 聞いたら、看護婦ってものは兵隊も同じだって返事よ。それからま
煮え返ってゐた。日陰になった預の半面は、黒い蟻のやうにうごめ 「何だって、君やヒルダさんをこんな處に引張り出すんだ ! 」 いた。すると白い顔の半面は泡のやうに消えたり潰れたりした。四 怒ったグレゴリーの咽喉がゴクリと鳴った。「美顔術の先生」は 始めて見たグレゴリ ーの形相に恐れて逃げて行った。そして女逹の方の入口からは、黑い流れのやうに勞働者逹がまだ入りつ、あっ た。其れ等の勞働者は皆隙を見付けて四方に溶けこんで一層激しい 間に割り込みながら、 「奴等話せね工んだ。奴等が若し君逹のやうに美顏術を施すやうな混亂を引き起して居た・譯の解らない蜜蜂のモ 1 ターのやうな唸り ら、決して瓧會主義者等になりはしないんだ。僕は一美顔術師に過がそこから立ち上った。 旗は相變らず赤い影をこしらへてゐた。其の下に居る一團の人間 ぎんが、社會的見地から、國民が凡て美顔術を利用することを主張 して居るんだ。美顔術といふものは誰彼の差別なく平等に人間を美は體一面、赤くなったり黒くなったりした。先端の尖った小さな旗 しくするものだからなア。」 が、皮膚から引き找いた角のやうに立ってゐた。それは、處々に頭 ヒルダはテープルに俯したまゝ泣きはじめた。狂暴な態度は一瞬の泡の上に擴がって居る標語を書いた看板と交り合って居た。 歸還兵を戦前の位置に戻せ ! の間に消えて、そこには弱々しい一人の娘が居るだけだった。彼女 勞働組合を公的代表と認めよ ! の肩は微かにふるヘた。眞白な首のあたりに生毛が見えた。亂れた 男女を問はず結社の自由を認めよ ! 金髮のさけ目から二つの耳朶が、紅石のやうにつき出てゐた。 「どうしたんだ。歸らね工か : : : 」 雇傭事務局は勞資平等の委員に依り管理せしめよ ! グレゴリーはさう云ってニャリと笑った。たゞアドルフだけが硬 左翼の黨の指導してゐた一團には、 總盟アイヒ・ホルンの解職反對 ! ばった顏をしてゐた。唇がまだピク / 、ふるヘてゐるらしかった。 が立ってゐた。其處には制服の警官が勞働者の と、ヒルダは突然、サッと立ち上ったかと思ふと、一本の矢のやう と書いたモットー に、テープルや人々の混み合った中を貫いて外へ出て行った。誰も中に交って居た。胸のボタンやヘルメットの尖端がキフ / 、光っ た。水兵服の集團は燕の群のやうに見えた。だが彼等は武裝して居 止めることが出來なかった。 た。そこからは人間の血を一時に凍らせるやうな物妻い緊張した空 氣が溢れ出た。 四勞資協會 公園はいっとはなしに群集に埋められ、潮のやうに盛り上った。 八年間の戦爭と云ふ殺し合ひの苦しさの中を通って來た人逹だっ < 公園 た。集團の中では、個人は薄っぺらな木偶のやうに見えた。彼等を 五十尺餘りの街燈の鐵柱に、眞赤な大旗が風に鳴ってゐた。陽は指導して居るものは組合の黨であったけれども、此處では特別なカ 少し西側から照って、旗を一層濃い紅に輝してゐた。旗は波のやうであって支配してゐるやうに思はれた。 突然、ヴォーン : : : と擴聲器が鳴りはじめた。頭は悉く中央にひ に大きく搖れるので、其の蔭にあるものはタ陽に照されたやうに赤 く染められるのであった。見渡す限り、數萬の群集は遙か彼方の樹立きつけられ、集團の唸りは靜まった。絶えず人々の流れこんで來る 2 3 の方まで擴がってゐた。彼等の頭は、まるで沸いてゐる湯のやうに入口だけは何も聞くことが出來ずに唸りが續いた。然し群集は擴聲
メキシコ共和國の滅亡 3 イ 1 た禪經を刺激しカづけた。食卓の横を、一一頭の牛をつけた荷車が、 數人を仲介として輪送されることになった。だから二人の敵手は、 ホテル・イツルビデで自分の手腕を密かに誇ってゐたのだ。哀れなのろ / \ と通って行った。蜂雀の群が、金綠色の小さな羽を陽に輝 かしながら飛び去った。 大統領ザルモロスは、「殺されるか、生きるか」の危險に曝されて インデアン逹はコーヒーを作ってゐた。彼等は乾かした豆を、ア ゐる自分の運命を知ることさへ出來なかった。 メリカ人の店に持って行くのだった。それは二億弗の資産を持っ 四 た、メキシコで一つしかないアメリカのコーヒー會瓧に集まるの 」 0 濁って動かない空氣。靑々としたサポテン。乾いた熱砂。まばら 彼等は一週間働らいた。インデアンは黍と豆だけを喰って生きて に生えた二寸餘りの灌木ーー・ ゐるにも拘はらず、鷹揚で親切だった。三人はサン・ルイス・ポト 丘に續いた低地に、インデアンの部落が見える。森の間に褐色の シーの衞戍監獄から逃亡して來たのだった。彼等は油田地方でスト 煉瓦の壁がある。 彼等は部落の方に下りて行った。インデアンの女逹は、樹蔭の流一フィキをやったのだ。だが資本家はアメリカ人やイギリス人だった れで洗濯をしてゐた。白い服の裾は水に浸ってゐる。子供等は濡れので、それ等の外國資本に反對する運動に進展しはじめた。メキシ コの勞働者は、 た手で花をいぢってゐた。水甕を頭に乘せた娘が、彼等に笑ひかけ ながら、水邊から去って行った。 「英米の帝國主義的侵略を蹴散らせ ! 」 「第二次世界戦爭の準備のための油田獲得競爭に反對 ! 」 彼等は疲れてゐたが、強ひて「今日は」と女逹に挨拶しなければ そのモットーは世界の各植民地で叫ばれてゐた。でメキシコの官 ならなかった。裸足だった。眼は汗に汚れて臭かった。何よりも空 腹は三人を疲らしてゐた。凹んだ頬には、長い鬚が伸びてゐた。眼憲は指導者を捕縛したのだ。 はグフ / 、してゐた。 二十七人の勞働者のうち、六人がアメリカのマークの入った銃で 虐殺された。彼等三人が漸く逃亡に成功した。殘りは未だ監獄に居 三人は麥藁帽をとって、一軒の家に入って行った。 「何か喰はして下さい。それからタンピコまでの汽車賃も欲しいのた。 です。それに相當するだけの仕事を手傅ひませう。」 汽車賃を稼いだ三人は、二組に分れて出發した。エリドーは北部 油田に、他の二人は南部油田に下って行った。 主人は大きな掌で、長い眞黒なを撫でながら、 「何處から來たのだ ? 」 五 と云った。インデアンとスペイン人の混血兒エリドが、印座に答 へた。 エリドーは北部油田の輸出港タンピコにやって來た。暴動のあと 「サン・ルイスの方からでさア。銀山に居ましたが、潰れさうなんで組織は破壞されてゐた。たゞメキシコ市にある本部からの通信が ですよ。これから油田の方で働くつもりです。」 來るだけであった。然し十二の支部のうち三つと、運搬勞働者が璞、 主人は承諾して奧に入って行った。やがて路傍で玉黍で拵へたってゐた。運搬勞働者は大部分純粹なインデアンで差別待遇をうけ てゐた。彼等は辛抱強く自分逹が解放されるまで闘ふ意志をすてな 煎餅と、黒豆の煮たのを食べた。コーヒーのいゝ匂ひは彼等の弱っ あひのこ
亡 の シェ一フマドレ軍は油田地方に迫ってゐた、五十哩も離れない地域 共 コ で戰鬪が起ってゐた。一氣に肉迫して來た叛軍は、油田に近づくに キ 從って、疲れを忘れてしまった。彼等は米艦が到着しない中にタン ピコを占領しなければならなかった。 政府軍は士氣が衰へてゐた。叛軍は大統領が暗殺された、と喧傅 3 した。すると、それは如何にも眞實のやうに思はれた。政府軍は崩 故なら活動寫眞を通して世界中の若者逹が、其の方法にあこがれてれ出した。將校逹はアメリカ商船に席を求めようとしてゐた。 叛軍の騎兵隊は、二十哩も迂廻して政府軍の側面から猛襲して來 居ると思ってゐたから た。第いた政府軍は。ハタコ河に浩って逃走しはじめた。騎兵逹はそ 同様に「戦爭」も高尚な悲壯な美しいものだと思った彼等は、窓 れを挾んで河畔に追ひ詰めた。多くの政府軍は降伏した。將校逹は の下に寄って來た若者に、 長靴を履いたまゝ、流れの中に飛びこんだ。溺死者は水を呑み大き 「何故あなたは志願しないの ? 」 と迫るのだった。プルデョアの若者逹は志願受付所に集まって行な腹をして浮んで來た。誰もそれに同情する者はなかった。 「油田へ ! 」 った。そしてキッスを交しながら戦地に立った。 北部油田は叛軍の手に陷ちた。メキシコ市は三百哩の處にあっ 表面的には餘り沸き立って見えなかったメキシコ市を搖り動かし た。そこからはコーヒー園の人夫やインデアンやプルヂョアの靑年 たのは勞働者の大デモンストレーションたった。 逹が武器を持って進んで行った。アメリカ人の志願兵は格好のい又 「内亂に絶對反對 ! 」 少年團の制服を着てゐた。雜然として市民兵と政府の軍隊が列車で 「英米帝國主義に反對しろ ! 北部油田に向って運ばれた。 「メキシコ領土から外國の軍隊及軍艦を追ひ返せ ! 」 數萬の勞働者は、一フ・ア一フメダで演説會を開いた。長方形の角々 に立てられた四つの銅像は埋まってゐた。噴水は群集の中に沒し タン・ヒコの沖、三百七十哩のところに四隻の巡洋艦が浮んでゐ 。大統領は代表者と會見しなければならなかった。勿論、大統領 た。ニュ 1 オリャンスから油田地に向って白い波を立てゝ進んでゐ は其の要求の一片すら實行することは出來なかった。で、勞働者農 民は内亂に依る税金を拂はない、と云った。大統領はすべて「軍艦た。メキシコをはアメリカの軍艦にとっては自家の寢臺の上に居る ゃうなものだった。もう少し進めばメキシコ市の裏手にあるポポカ の來るまで ! 」と決心してゐたので默ってゐた。 テベトル火山が見える筈だと、古參將校は言った。 勞働者の運動は、全國に擴がって行った。 水兵逹は、晝の調練をやられた。機關銃や小銃を打っ放した。そ ザルモロスはカノから「大統領を辭職しろ ! 」といふ勸告文を受 れから「陸上に於ける煙幕の效用に就て」講義された。殊に彼等が 取ってゐた。 最もいろ / 、な意味で興味を惹いたのは「毒ガスの用法に就て」の 講義だった。 巡洋艦は急いでゐた。資本家はもう取り返しが付かないと云って ゐる位だ。四隻の軍艦は大きなうねりの上を、飛沫をあげながら進 んだ。若し軍艦といふ物が、本當に人間の幸輻を保護し得る時が來 たら、それこそ「威風堂々たる」ものた !