で伝えます。もし、口先でどんなにていねいなことばを使っても、くらいはなれたところに立 っていなくてはいけない人間が、のような対等な位置に立っていれば、失礼なことを言ってい るのと同じことになります。インギンブレイだといわれるのが、そういうボディー・ランゲージ の誤用によることがすくなくありません。 やりすぎると逆効果 このごろ若い人のあいだの会釈が変わってきました。道で知った人に会うと会釈をします。そ れはいいのですが、しかたが問題です。頭をチョット下げるだけ。軽くうなずくように見えま す。これは「やあ、こんにちは : : : 」というしぐさです。仲間同士でするのです。あるいは年上 のものが年下のものにするのが普通でした。 このごろは、若い人が年上の人に向かってこういう会釈をします。本人は相手に対して、しか るべき敬意をあらわしているつもりかもしれないが、受けたほうは、かってのことを知っている から、からかわれているような気がします。すくなくとも、ていねいな「こんにちは」という意 味にはとらないでしよう。もうすこしゆっくり頭を下げるようにしないと、年輩の人を知らすし らずにおこらせることになります。 日本人はこれまで、あまり、身ぶり手ぶりの話し方をしませんでした。そういうのは上品でな いように思われていたのです。それが、近年は、外国の影響でしようか、日本の若い人たちの精
うちの中では、わりあいにおとなしくしているのに、外へ出ると勇ましくなる。どうしてかよ くわかりません。 いちばんいちじるしいのは大声。ことに若い女性の大声はこのごろの注目すべき現象です。 先日もターミナルのデパートでエレベーターに乗りました。満員だが、ひどく騷々しい。エレ ペーターの奥のほうで何人かがペチャクチャやっています。男もいるらしいが声が低くてよく聞 こえず、女の声がビンビンひびきます。 エレベーター嬢が案内するのもかき消されてさつばり聞こえない。どうせたいしたことを言っ ているわけではないから、まあいいと思っていますと、彼女が突然、叫びました。 「エレベーターの中では、お静かに願います」 その勢いにのまれて、さっと静かになりましたが、明らかに、気ますい空気を運んでエレベー タ 1 は上がっていきました。このエレベーターガ ールはよほど勇気があります。普通なら、うる さくてもなかなか、あのように決然と叱ることはむすかしい。しかも、相手はまがりなりにも 声〃お客さま〃です。 の別のところで、やはりエレベーターに乗っていたら、うしろで、「キャーツ」と言ったようで なした。変なまねをするのがいて何かしたから悲鳴をあげたのでしよう。とっさにそう思いまし 消た。ところがそうではありません。友だちとごく普通の会話を始める出だしだったのです。 っ 道を歩きながらではもっと大声で話しています。もっとも、このごろの都会の街路はひどい騒 3
やさしさが第一 「おじさま、こんにちは、お元気ですかー 「やあ、久子さん、こんにちは。どうせあいさっしてくれるんなら、お元気そうですね、と言っ てもらいたいね」 「あーら、お元気ですか、と聞いてはいけませんか」 「いけないとは言わない。お元気そうですね、と言われたほうがうれしい 「わかんないわ。どうして、そんなことをお気になさるんでしよう」 「きみは、しつけのいいお嬢さんだから、話してあげよう」 「しつけがよろしいかしら」 「さっき、〃お気になさるんでしようと言ったでしよう。そういうところにあらわれる」 「まあ」 「たいていの人が〃気になさるんでしよう々と言うね、このごろは。別れるときにも、クじゃ、 おしゃべり上手は女の天性 じよ - っす -0
一三ロ 「いけませんでしようか」 「なにしろ、急いでおりますものですから、なんとか : : : 」 「うるさいね。そんなにごちやごちや言っては考えるひまもないじゃないか」 「おそれいりました」 「もう一度、案を練り直しまして、また伺います」 「急ぐんだろう ? 」 「ハイ、でも、社長のお考えに合っておりませんでは話になりません。引き下げさせていただき ます。申しわけありませんでした」 「まあ、お茶の一ばいも飲んでいきたまえ」 づ 「いいえ、お忙しいと思いますので、失礼させていただきます」 ム「そう毛嫌いするなよ」 な「じゃ、ちょっとおじゃまします。 : : : ときにこのごろ、ゴルフのほうよ、 。しカカでいらっしゃ ますか。・こ、。 し オしふご上達のように伺っていますが : : : 」 とし 「いいや、それほどでもないがネ。まあまあ歳のわりにはというところかな。だいたいゴルフと 〃 9
上手な電話は五一Ⅱ このごろは電話で用をすますことが多くなりました。 知り合いならとにかく、そうでないとき、まず困るのが、相手はいったいだれか、ということ です。 名乗る本人は、自分の会社と自分の名前を言うのですから、言いよどむこともありません。さ らりとひとロですませてしまいます。それを相手がよくわかってくれたと思うところから誤解が 始まります。 かけるほうからすれば、用件があるからかけているのです。一刻も早く、その用件をきり出し たい。名乗りをあげるのがもどかしいくらいです。 かけられる側からすれば、まさに、ヤ・フから棒。どういう棒か、もうすこしていねいに説明し てもらわなくては、先へすすむこともできないと思います。 「センソウケンのオオタというものですが : : : 」 必要なこと、余分なこと 159
初対面の人との話術 0 、 いくつかのかたまりができています。それぞれのグル 1 。フは日ごろから へい ~ 、と、 しよっちゅう顔を合わせているような人たちばかりらしいのです。 「このあいだはどうも : : : 」 「こちらこそ、あの話はどうなりました ? 」 などという内輪の話を始めます。めずらしい人がいくらでもいるのに、知らない人たちと口を 1 ティーで新しい知り合いをつくるということは、ほとんどないよ きくきっかけがないのか、パ うです。 このごろは、胸にセルロイドの名札をつけさせますが、親しいもの同士でかたまっているのな らば、そんなのはいらない。むしろ、テレくさいくらいです。何かの ( ズミで出た会で知った人 がいないと、実にみじめな思いをします。席がきまっていれば、まだしも、立食形式のパーティ 1 だと、さきのような次第で、あちこちにシができます。そのどのシにも属することのでき コミ、ニケイションをひろげる会話 ル 8
ての女の人のことばは、そういうものでした。やわらかさはそこから生まれました。 ところが、このごろ、すこし変化してきました。女性が会話の中でどんどん漢語、つまり名詞 を使うようになったのです。 「あの〇〇画伯の色彩の感覚、ユニークだわ」 などといっています。すいぶんむすかしいことを言うものです。 「あの〇〇さんという絵かきさん、色の具合がなんとも言えないわ」 と言ってもよいのです。でも、そういう言い方をすると、どこか、近代女性のような感じがし ないように思う人がいるらしい。インテリ女性らしい話し方は名詞構文がいいのでしよう。 電車の中で小学生がお母さんに言っています。 「でも、読書の時間がなくなっちゃうもの」 どうして、 「本を読む時間がなくなってしまう」 ではいけないのか。さらに言えば、 「本が読めなくなってしまう」 でも、 しいはずです。それを小学生にしてすでに " 読書の時間 4 がなくなるという。これは〃本 を読む時間と違うかもしれません。〃読書という、とくべつな時間をとってあるのだとも想 像されます。 176
こでも、トーク・ショップがおもしろくないことに、変わりがありません。 お嫁さんが、何かというと実家のことをもち出して、 「うちの母がこういう料理が上手でした : : : 」 などと言えば、よほどよくできたおしゅうとさんでも、おもしろくありません。お嫁さんにと ってのトーク・ショップは〃里。の話です。 " お里みのことはそっと伏せておいたほうが安全で す。お里が知れるのはよろしくありません。 このごろはババ抜き、ジジ抜きだから、お里まる出しでもかまわない。そういう心がけではい い友だちにめぐまれないと覚悟する必要があります。 「わたしの出た〇〇大学ではね・ : : ・」 「わたしの母校の△△先生がね : : : 」 こういう言い方をするのも、実家の話をするお嫁さんと同じです。相手は大学を出ていないか る け もしれない。〇〇大学ほど有名でない学校の卒業生かもしれない。どうして、余計なことを言わ はなくてはならないでしよう。 。フ 自分のことはできるだけすくなく話す。相手にはなるべくたくさん話させる。とりわけ、いま シ自分にいちばん興味のあることを相手に押しつけることは慎まなくてはいけません。 これが実行できたら、座談の名手と言われるようになるでしよう。 つつし
室内で美しい女のことば うちの中と外とを、間違えているのではないかと思う人がすくなくありません。 このごろのビルのドアはスプリングがついています。部屋から出るとき、手を放すと、自然に しまります。そのスプリングがたいていはつよすぎるから、しまるときひどい音をたてます。た とえスプリングがついていても、ドアのとつ手を最後までもっていなくてはならないのです。 ところが、それを教える人がないものだから、人の出入りのはげしいところでは、たえすバタ イ ( タンといやな音をたてています。それを活気があっていいと思っている事務所があるかもし れませんが、それでは神経のゆきとどいた仕事は無理でしよう。 からかみ 事務所などでは。 ( タイ ( タンとやっている人も、うちへ帰れば、まさか唐紙をそんな調子でし めたりはしないと思います。玄関のガラス戸を、ああいうふうにあけたてしたら、ガラスが破れ てしまいます。よそのドアならこわれてもいいが、うちのは困る。まさか、それほどひどいこと を考えているわけではないでしよう。原因は、内と外の区別にありそうです。 内と外のマナー
ですってね」 、え、それほどでもないんですけど、めずらしいわ」 こういうふうに相手が話そうとしているのを先まわりして、話をさらってしまう。話をする人 はひどくおもしろくありません。どんなにおもしろい話をしても、こういう割りこみをしては落 第です。 クルマで他人の前に割りこむのも、他人の話に割りこなのも、どちらも、英語では、同じ、カ ット・インという語を使います。たいへん、はしたないこととされます。 子どもをつれた婦人が、通りで知り合いに会います。 「まあ、お久しぶりですこと。みなさま、お変わりございませんか」 「ええ、ありがとうございます。みんななんとかやっております。お宅さまはいかがですか。マ リ子ちゃん、かわいいわネ」 しえ、言うことをききませんの、このごろは」 し 「そんなことございませんでしよ。すっかり大きくおなりになって、まあ、まあー に「ご主人さまから、お頼まれしましたこと、あのままになっておりまして、申しわけございま イせん」 「おかげさまで、どうにかやっておりますようです。本当にご迷惑なお願いをいたしましてほん カ とに失礼いたしました」 767