なものである。日本語でも学間的術語や派生語を作るには、大和言葉でやるよりも漢語でやる 方がやりやすいように、英語でもしばしばラテン系の方が造語に便利である。たとえば「誕生」 という単語はアングロ・サクソン系の単語では birth である。しかし、この単語には形容詞 形がない。それで「誕生日」などというときには三 rth に day をくつつけて三 rthday とする。 また派生的に「誕生前の」とか「誕生後の」などといういい方は一つの単語ではできない。 これに反してラテン系の方の単語は、相当にしかつめらしくなるけれども、「誕生」を ネイティヴィティ nativity という。シェイグスビアの「間違い続き』の中にも、「生まれたときからこの瞬間ま で」を from the hour of my ミ一・ to this instant といっている。今では大文字で ネイティヴィティ Nativity と書いて、同じ誕生日でも「キリストの誕生日」、つまりクリスマスの意味に用いる ネイティグ ネイタル ことがある。また「誕生の」という形容詞は natal である。この単語は、 native と同じ意味 カ す になることもあるし、より医学的な色彩をもっこともある。そのほか、ラテン系の方ではいく 出 ネイティグ ネイティグ ネイティヴィズム らでも派生語が作れる。たとえば native から nativism を作れば、「土人」の意味の native 生 が生きて「原住民保護主義」ともなるし、また一方、今のべた innate 一 de 餝 ( 生得観念 ) の方一 自 にかかって、哲学上の「生得観念説」ともなる。 ポスト さらにラテン系の方では、「前に」を示す接頭詞 pre ・や、「後に」を示す接頭詞 post ・をつ
のゴッドに使わないで欲しい」と抗議する一場面があったという。この場合はこの神官の言い 分正しい。だれも仏という観念がゴッドという観念と違うからといって、仏をせめない。言 葉が違うからである。それがなまじっかゴッドを「神」としたために、余分な誤解が生じてい るのである。たとえば靖国神社の問題なども、「神」という言葉が相当な誤解を産んでいる。 ゴッド ゴッズ 靖国神社の礼拝の対象になっているのは、 God 、あるいはその複数形の gods でないことはた ゴウスト ソクル ゴウスッ しかである。しいて英訳すれば ghost あるいはつぎにのべる sou 一の複数である。 ghosts や ソウルズ ら souls ならば話は少し変ってくるのではないだろうか。 スビリトス サンクトス 話は聖霊にもどるが、このラテン語である SpiritusSanctus は、最初英語に入ったときは、 ホウリイゴウスト スビリット Holy Ghost と訳されたのであって、けっして外来語である spirit が用いられたのではなか スピリット った。はじめて聖霊のために spirit が用いられたのは実に十四世紀になってからである。と コンクウエスト いうのは、一〇六六年にいわゆるノルマン征服 (Norman Conquest) があって、王様・貴族・ 司教などがフランス語だけ用いるようになり、教会用語も、大幅に古英語からフランス語 ( っ まりラテン系 ) に変ってしまい、「三位一体」も、「洗礼」も外来語になったからである。今まで ホクリイゴウスト は土着語ばかりであった中心的宗教観念まで、ラテン系に変ったので、聖霊の H01y Ghost スピリット を、ラテン系の spirit にする人も出てきた、というわけなのであった。今日では両方用いら
/ プロメセウス / ミュージッグとミュージア ム / 音楽と数学 / 「記憶」の語源 / 記憶喪失 と特赦 3 ー女性・生まれ・血統 : ・ 包まれたもの / ヴェールと角かくし / 武器も グネ つ人 / 庶民の女 / 女の系統 / ジェントルマン の語源 / ダーシイ先生 / ジェントルマン二例 / 親族を示す k 一 n / 品と柄 / 家柄と国柄 / 日 本人の品性 / 「いき」は外来語 / キング / 工 ンペラー / キングの涙 / ネイション 4 ー自然、ーー生み出す力 ネイチャア / 漱石の卓見 / 自然主義 / 「生ま れ」か「育ち」か / ネイティヴの語感/0@ の定義 / ルネサンス / 先天的と後天的 / ア ングロ・サグソン系とラテン系 / ジェネレ イション / 天才の語源 / 女性性器との関連 / 7 目次
印欧祖語ー インド・イラン衄 ・、ルト・スラブ三ロ アルバニア ーーアルメニア衄 ーーギリシア衄 ー、ラテン衄 ゲルマン語 ケ . ルト五ロ ーフランス ースペイン語 ーポルトガル語 ー・イタリア 東ゲルマン語 ( ゴート語 ) ー北ゲルマン語 ( スカンジナビア諸語 ) ーー・・ー・ドィッロ ー ( 高地 ) ー西ケルマン語 ーオランダ ー英語 ーインド語 ( サンスグリットなど ) ベルシア語 ロシア 176
「生まれ」を示す派生的な単語をみてきたが、つぎに「生む」という基本的 ンエネレイション な動詞にもどってみよう。 「生む」の語根は *gn ・であることにはすでに何度ものべたとおりだが、これから出ている ジェネレイト 「生み出す」という意味の動詞が generate ( ラテン系 ) である。なにを生み出してもよいのだ ジェネレイター 、近代になってからは特に電気や熱を生み出すのを指すようになった。それで generator といえば、「発電機」を指す場合が多い。 ジネテックス 、、、「遺伝学」のことを genetics と また日本語の「遺伝子」のことを英語では gene としし いう。しかし英語の語源からいえば、 gene の意味は、「発生子」ということになろう。親の ジネテッグス 特徴を子供に発生せしめる因子という意味だからである。同じく genetics の語源的な意味 ~ いかなる特徴がその生物に発生するかを調べる学問ということで「発生学」ということに なろう。しかし日本では、いかなる特徴が発生するかと考えるよりも、いかなる特徴が伝わっ たかと考えたらしく、「遺伝学」になった。 普通の場合は、遺伝でも発生でもよいだろうが、しかし「放射能のために、いかなる奇形が 発生したか」を調べる場合、それは親から伝わった特徴でなく、明らかに新しく発生したこと ジネテックス になるから、それを調べる genetics は、やはり「発生学」というように、語源に近く訳して 131 自然ー一生み出す力
こういう思想は、ロッグやヒ = ームを中心としてイギリスの哲学の主流をなしていた観があ つ、 ) 0 オこういう考え方をとれば、子供の先天的素質ということはあまり問題にならず、後天的 インネイト・アイデアズ な環境が重要ということになる。つまり生得観念を否定したところから、ロッグの教育論が エンヴァイロンメンタリズム 出てくるわけで、彼の教育論が環境主義と呼ばれるのはこうしたわけである。これはな にも十七世紀や十八世紀の間題だけでなく、現代のわれわれの教育問題にも直接かかわってい る。「子供の教育環境を改善すればどんな子供でも学科がよくできるようになる」という立場 の主張は、その根はロッグまでさかのばるといってもよい。 インネイト・アイデアズ ところが生得観念を別の面から復興する思想が十九世紀にイギリスで優勢になった。それ ・スペンサーなどの進化論的な考え方である。それは簡単にいって、人間の知的 インネイト 生活を向上せしめるのは、人間に生得的な素質、あるいは傾向があるからだという主張であ インネイト る。このようにみると、われわれにも関係のある英国の哲学論や教育論が、「生得的」あるい インネイトネス はその名詞である innateness ( 生得的なること ) という一つの単語についての論争にすぎない ともみえてくるのである。 アング 0 ・サクソン系英語の単語は、大きくわけるとアング 0 ・サグソン系 ( ゲル「ン系 ) とラテ とラテン系 ン系 ( フランス系 ) になる。ちょうど日本語にも大和言葉と漢語があるよう
ジーナス ジェンズ のがラテン系の単語では genus( 属 ) や gens(l 族 ) であり、さらにその人たちの性質として ジェントル ジェネラス gentle ( 穏和な ) 、 generous ( 気前のよい、高雅な ) という形容詞が生まれ、それに対応するゲル キンドレッド キング マン語系が kin ( 一族 ) 、 kindred ( 親戚 ) 、 king ( 王 ) であり、その人たちの特性を示す形容詞 カインド として kind ( 古い発音ではキーンド、親切な ) ができたのであった。 そして「生む」という行為は、すぐれて女性的なことであるから、これは語源的にギリシア グネ 語の gune ( 女 ) と同根であることも見た。さらに考えると、「生む」ということは、女性に、 特にその性器に関係があるはずである。それははたして言葉に反映されているであろうか。す ジェニタルズ でにこの語根から出ている genitals ( 〔主に男性の〕性器 ) があることはすでに見た。女性性器 についてはどうであろうか。 グスソス クンスス まず考えつくのはギリシア語の küsthos であり、ラテン語の cunnus で チョーサーの用例 ある。特にラテン語の形は、「女」を意味する語根の *gn ・や、ギリシア グネ 語の gune( 女 ) や、英語の k 一 n ( 一族 ) との類似性が一見して明らかである。このラテン語の クンスス クンノ コンノ cunnus ( 女性陰部 ) は、イタリア語の cunno あるいは conno ( 女性陰部 ) 、あるいはフランス 語の con ( 女性陰部 ) の直接の語源になっている。今日、ラテン語の形で直接に用いられる例 カナリンガス としては、 cunnil 一 ngus ( いわゆるクン = リングス ) があげられよう。この単語は、ラテン語の
いる特徴なのである。しかも天才をそれとちょっと似たところのある才能 (talent) と区別す オリジナリ一アイ クリエイティビティ るとき、天才の特徴を「独創性」や「創造性」にありとし、直観的な認識や自発的な活動が 異常に卓越している人をいう。天才とは、カントの定義によっても、努力の痕跡を留めない創 造力のことなのである。ここにも生誕神の原義である「生まれながら」と「生産力」という意 味が、微妙に、しかもまごう方なく反映されているのである。 ジェニタル また genital ( 生殖の ) も同じ語源から出ているが、これが名詞 genitals になると「生殖 器」特に「男の外陰部」を意味することが多い。もちろん女性について用いてもよいのだが、 主として連想が男になるのは、おそらく口ーマの genius ( 生誕神 ) が男と考えられていたこと が、なんとなく影響しているためであろう。 ジェネレイト カ 女性性器「生ませる」という能動的な意味の動詞が、ラテン系の単語では generate である との関連 ことは以上見たとおりであるが、これに相当するゲルマン系の単語は、古英語の出 いケンナン cennan ( 生ませる、創造する ) である。ラテン語の b•0 音が、ゲルマン語の音に対応すること生 ケンナン ジェネレイト は普通であるから、この語頭の o を b0 にかえると、 cennan の語幹部の cen ・が、 generate の ジェン ジェン ( ゲン ) 然 gen ・になることは一見して明らかであろう。そしてこの gen ・も cen ・も、いずれも語根の自 -0 この「生まれ」を同じくするも gn ・から来ていることがわかる。そして前にのべたように、 ジェニタルズ タレント
ドミニア ドミニア れば、それは domineer ( 威張り散らす、高圧的に統治する ) であろう。そしてこの domineer ドミスス も、元来は「主人」 (dominus) から出ていることは一見しただけでも明らかであろう。この 単語は元来は、オランダ人が使い出した言葉である。オランダ語やフランダース語を話す今の オランダ、ベルギーのゲルマン系の人たちは、ラテン系の言葉を話す王朝の支配を受けてい ドミスス た。それで君主 (dominus) というラテン語に、ドイツ語式の動詞語尾をつけて、「威張りく さる、圧制を行なう」などの意味にしたらしいのである。そしてこの単語を最初に英語に輸入 ジ したのは、文献的な記録に残っている限りでは、シ = イグスピアが最初だったということにな メ っている。 の ほねおりぞん 長 彼は『恋の骨折損』 ( ごミ ) s ト 0 ュ s ト os 、 lll, i, 179 ) の中で、生徒に威張っていじめる 父 教師のことを a dominee 「 ing pedant 0 イ 0 the b0Y とい 0 ているのである。この作品が書家 地 かれたのは一五八八年ごろと推定されるから、今から約三九〇年前ごろのことであった。そし ドミニアリング 領 て今でも、この domineering ( 高圧的に、威張 0 た ) という形容詞はよく使われている。 ン 家 注 , ーー印欧語と呼ばれる語族をいかに分類するかについては、いろいろ詳しいものがあるが、ここで は最も簡単な分け方を、次のページに紹介しておくことにする。
古英語においては「女性」ウィーフ・マンに対して「男性」のことをウェープ・マ ウィーフ・マン 武器もつ人 ンという言い方もあった。女性が「蔽われた人」であるのに対して男性は「武器 ウェポン もつ人」であった。ウェープ ( あるいはウェーベン ) というのは今の「武器」の古い形である。 花嫁としてヴェールに包まれた状態が、最も女性らしい姿として表象される一方、武器を持っ た状態が最も男性らしい姿として表象されたのであろう。 それはそれでよいのだが、当時の武器は主として槍か刀である。それらはいずれも敵の肉体 を突きさしたり、切り裂いたりする機能を持ち細長い形をしている。このことはただちに、男 ウェープ 性の性器を連想させるに十分であった。それで古英語時代には、武器には男根という意味があ ったのである。もっとも今日でも俗語として武器はペニスの意味に用いられている。すると男 ひわい 性のことを「武器もつ人」というのは、場合によっては卑猥な意味で用いられたであろうと推 おとこおんな 定してよい。「ふたなり」っまり半陰陽のことを古英語では「男女」の意味で「武器持ちにし ウィーグエストル て蔽われたる者」と呼ぶ。この場合の「武器」は明らかにペニスであり、「蔽われたもの」に も、元来の意味よりもっと卑猥なニュアンスがこめられているように思われる。 ヴェールで蔽われた人が女性であり、花嫁であるという発想法は、ゲルマン人だけでな ナプシャルズ く、ラテン系の人たちにもあったようである。英語で「婚礼」のことを nuptials 、あるいは ウェープ・マン ウェポン ウェーベン・ 8