として、い得ておいた方がよいであろう。 この woman の語源が長い間不明だったところから、いろいろなこじつけが行な ウ・オウ ウオウ・マン 庶民の女 われていた。たとえば女性は男性にとって災厄 ( woe ) であるから、 woe ・ man だ、 というのもある。これには多少、旧約聖書の影響も見られる。なにしろ人類が楽園を追放され たのは、女性であるイヴのためだったのだから。そして独身男性の快適な日々を、生活に追わ れる苦しい境遇に変えたのが、ほかならぬ女性であるとすると、まことに女性は男にとって ウオウトウマン ウオウ・マン 「悲しいかな」 (woe t0 man ) という痛恨のもとにもなるし、「災いなる人」 (woe-man) とも こじつけたくなる男が、昔から英米人にも少くなかったことを示していておもしろい。 クーマン ゥーム・マン もう一つ woman の通俗語源をあげると、 womb ・ man ( 子宮人 ) が原形だったというのが ある。子宮は女性特有の器官であるから、ウーマンを「子宮を持った人」と解釈したのは、発 音の類似性から見ても、かなり自然のことであったといえよう。 戦前の『少年倶楽部』には、ウーマンがつぎのような形で登場する。 太郎「英語と日本語は丁度逆になっているね。」 次郎「どうして」 8
太郎「英語ではドーロ ( 道路 ) のことをロード (road) と言い、子供を産むはずの女のこ とを産まんと言うちゃないか」 これはまったくの駄洒落であるが、女性にとって子供を産むことが本質的だと考えている点 ゥーム・マン が、「 woman の語源は womb ・ man だ」とした昔のイギリス人と同じ連想基盤に立っている といってよかろう。 ウィーフ ワイフ woman の wo- の部分が、元来は wif ( 後の wife) であり、それは「蔽われたもの」という ワイフ ことで「女」という意味であった。英語の wife は今ではもつばら「結婚した女性」、つまり 「妻」を意味するようになったが、もともとは結婚してない女性でもワイフといわれていた。 ヴァイプ ワイフに相当するドイツ語 Weib は、「妻」の意味に使われることははとんどなく、普通は 「女」を意味する。英語でもその名残りが、商売を持っている女たちを指す名称に見られる。 アップル・ワイア フィッシュ・ワイフ ェイル・ワイフ たとえば alewife ( ビール屋のおかみ ) 、 applewife ( リンゴ売りの女 ) 、 fishwife ( 魚売りの女 ) 、 ミッド・ワイフ ワイフ オイスター・ワイフ oysterwife ( かき売りの女 ) 、 midwife ( 助産婦 ) などがそれである。この場合、いずれも wife オウルドワイフ には「妻」の意味はなく、単に「女」という意味である。同じ使い方に oldwife があるが、 これは「老妻」ではなくて、「老婆」、特に「おしゃべりの老婆」の意味になる。かえって「老 ゥーマン 81 女性・生まれ・血統
あろうか。ゲルマン人が「母なる大地」といったとき、森の中で白く鮮かな白樺のイメージを それに関連させたとしても不思議はない。そして母を文字にしようとしたとき、乳房の形で象 徴したのである。 ここでもう一度、英語で女性を示す別の単語を思い出さなければならない。 ゥーマン ワイフ 授乳からの派生 おお 前にあげたのは woman ( 女 ) にしろ wife ( 女、妻 ) にしろ、いずれも「蔽 われた人間」というイメージから生じた単語であった。それはおそらく結婚式の習慣とも関係 していたらしいということものべた。しかし女性の機能として考えれば、どうしても「出産」 と「育児」ということがある。「出産」の方は第 3 章で詳しくのべたからくりかえさないが、 「育児」に語源を持っ単語で「女性」を意味するものはないであろうか。そういう単語はもち ろんあるのである。 フェミニン フェ それは、「女性的」を意味する feminine である。この単語の語幹部の *fe ・は、「吸う」あ るいは「吸わせる」という意味で授乳用語である。それに古い分詞形 ( ・ meno-) がついて、 フェミナ 「授乳する者」という意味のラテン語 femina ( 女性 ) という単語ができた。それが形容詞形 feminine ( 女性の、女性的 ) として中世に英語に入ってきたのである。 この「授乳する」という語根よ e ・から、「豊かさ」を示すいろいろの単語が出てきた。たと フェミニン 182
を結ぶのである。西脇氏は巧妙に訳しておられるが、原文はずい分と露骨な表現である。この クエイント queynte はその後も使われ続けたらしく、十六世紀のはじめころに出たジョン・フロリオ べッ の『伊英辞典』 ( 正式の表題は「アン女王の単語の新世界』で一六一一年ロンドン出版 ) の中で、 Bec ・ キイナ アウーマンズプリグイティオアグエイント china という単語に、 a womans privitie 0 quaint ( 女性の陰部、あるいはかくしどころ ) とい コンノ う解釈を英語で与えているのである。またフロリオは conno ( 女性性器 ) というイタリア語に ア ゥーマンズ クエイント も a womans quaint ( 女のかくしどころ ) とい、フ英語を対応させている。このことは、エリザ クエイント ベス女王 ( 一世 ) のころのイギリスでは、 quaint ( 女のかくしどころ ) という単語を印刷するこ とが可能であったことを示すものである。 クエイント この quaint ( 女のかくしどころ ) は俗語として十七世紀まで使われ、イギリスの南部、中部の グエイント 諸地方では、今日も方言として使われることがあるそうである。この quaint と、「奇妙な」 クエイント という意味の形容詞とは語源が違う。「女のかくしどころ」という意味の quaint ( チョーサー クエイント カント の綴りでは queynte) の異形、あるいは同根語には cunt ( 女性陰部 ) がある。この単語は、語感 が最も強烈であるため、十八世紀以降はこの単語を印刷することは法に触れることであった。 したがって、あの『オッグスフォード英語辞典』にも、その補遺 ( 一九三三年 ) にも入っていな かったが、ようやく新補遺第一巻 ( 一九七二年 ) に収められた。それまでは俗語辞典ですらも、
オウルドウーマン 妻」というときは、 01d woman を使うことがあるが、教養ある階級ではあまり使わないよう オウルド・ワイヴズ・ティル だから、外人に向って自分の奥さんを指すのには不適当である。ちなみに oldwives'tale と いえば、無学な老婆たちの間に伝わっているような、たわいもない迷信とか言い伝えを指すの に用いられる。 ワイフ 以上の例でもわかるように、 wife が「女」の意味に用いられたときは、昔でいえば身分の 低い女たちに限られているといってよい。では身分の高い女たちを示すにはどんな単語がある 、 0 ・こつ、つカ ワイフ グネ 庶民の妻が w 一 fe であるならば、国王の妻、あるいは国家元首である女性は queen 女の系統 である。この単語の語源は単に「女」という意味であったが、文献時代に入ってか らは、つねに「女王」というような意味で使われてきた。しかし同一語源から出て、スペリン グが少し違う quean の方は、同じ女でも悪い意味を持ち、「あばずれ女」とか、「売春婦」で ある。もっともスコットランドでは単に若くて元気のよい「少女」を意味している。 ところがこの queen あるいは quean は一見、関係のなさそうな言葉と結びつく。医学用 ガイネ ( ジネ ) コロジー 語で「婦人科学」のことを gynecology という。医学関係者はドイツ語読みを短縮して、婦人 グネ 科学を単にギネなどといったりする。この gyne は、ギリシア語の「女」から来たものであ
pastor, 194 pasturage, 199 pasture, 194 , 198 , 199 , 201 patri-, 196 patriarch, 196 patrician, 196 patriot, 198 patriotism, 198 patron, 196 patron saint, 197 pattern , 197 perspiration, 33 perspire, 34 *pi-, 192 plenary inspiration, *po-, 192 pope, 39 post, 129 postnatal, 130 postnatalist, 130 pre-, 129 prenatal, 130 prenatalist, 130 ・ 0 quean , 82 queen, 82 queynte, 137 re-, 125 Rebirth, 125 rebirth, 126 relations, 93 relatives, 93 reminiscence, 68 scenery, 119 self-willed, 168 31 soul, 36 , 42 soul-house, 50 species, 83 spirit, 27 , 36 , 38 , 42 , 59 , 130 spiritism, 36 spiritist, 36 spiritualism, 35 spiritualist, 35 sweat, 34 talent , 135 tame, 166 , 169 tame animal, 166 , 168 timber, 163 , 166 -tom, 68 transpiration, 33 trinity, 39 tyrannical, 173 tyrannize, 174 tyrant, 174 verbal inspiration, 31 villein, 123 war, 152 ward, 151 warden, 151 wife, 74 , 81 , 182 wild, 168 wild animal, 168 , 169 wo-, 81 woe, 80 woe-man, 80 woman, 80 , 102 , 182 womb-man, 80 3 く索 引 >
king, 103 , 136 kinsfolk, 92 kinship, 93 kinsman, 92 kinswoman, 92 knee, 142 lady, 152 , 157 landscape, 119 loaf, 150 , 151 , 154 loaf-eater, 153 loaf-guardian, 152 loaf-keeper, 152 lord, 150 , 159 , 162 , 174 *ma-, 187 *mad-, 189 , 190 madam, 156 , 158 , 159 mama, 187 mamma, 187 mammal, 188 mammalia, 188 mammalogist, 188 mammalogy, 188 man, 54 , 102 marquis , 109 mast-, 191 , 199 mastectomy, 189 mastodon, 189 mastoid, 189 mathematics, 64 meat, 190 , 191 mechanical inspirati on *men-, 58 , 59 , 62 , 67 mental, 59 mention, 59 mentor, 63 , 32 midwife, 81 mind, 59 mnemonic system, 67 monitor, 59 monstor, 60 monument, 68 moral inspiration, 32 mother, 187 mother superior, 159 mud, 191 museum, 65 music, 64 natal, 129 -nate, 126 nation, 110 native, 122 , 123 nativism, 129 nativity, 129 naturalize, 122 nature, 83 , 114 , 115 nature-book, 115 natural history, 188 noble, 85 nobleman , 85 nunnery, 159 nuptials, 78 nurture, 120 ・ 0 01d woman, 82 oysterwife, 81 *pa-, 192 , 194 panic, 193 pannage, 199 pantry, 199 p 叩 a, 192 204
ジェントル この単語は語源的には gentle とまったく同じであるが、フランス語から英語に入ってきた ジェントル 時期が違う。すなわち gentle の方はすでに十三世紀のはじめごろにすでに英語に入っている ジェンティール ジェントル のに、 genteel の方は十六世紀の末ごろに取り入れられた。歴史的にいうと、 gentle という 単語が英語に人ったころ、イギリスはノルマン王朝であり、フランスのノルマンデイから来た 人たちが王位や宮廷の高い地位を占めており、したがって宮廷での用語はフランス語であっ ジェントル た。その意味では gentle という単語は、イギリスの上流階級 たとえフランス語しか使わ ジェントル なかったにせよーーーの自分たちの単語であったのである。だから gentle は外来語とはいえ、 ゥーマン 多分にイギリスの土の臭いがしており、それが man( 男 ) とか woman( 女 ) というアングロ ジェントルマン ジェントルウーマン サクソン語と一緒になって、 gentleman とか gentlewoman という形を取れば、まったく英 語そのものの感じがする。 ジェンティール これに反して genteel が入 0 たときのイギリスは、チ = ーダー王朝のエリザベス一世の治 世で、国家意識がはなはだしく高揚し、シ = イクスビアをはじめとし、偉大な詩人や作家が続 続と出た時期である。こうしてイギリスでは英語が国語としてはっきり成立していたのである ジェンティール から、 genteel は、はじめから外来語として英語に入ってきた。パ リのフランス語を知ってい ジェントル るインテリが、洒落たつもりで入れたのであろう。そしてまったく gentle と同じ意味に用い 102
ところで「神聖ローマ帝国」のことであるが、その正式の名称は「ドイツ民族の ネイション ホウリイ ジャーマン エン・ハイアオグザ 、不イション 神聖なローマ帝国」 (H01y Roman Empire 0f the German Nation) という ネイション のである。この「民族」を意味する nation 自体が、また「生まれ」を意味しているのであ ジーナス ジェントル る。前に genus ( 種族 ) や gentle ( 生まれのよい、穏和な ) の語根として *gn ・が考えられると ネインヨン いったが、この語頭の音が落ちて、音からはじまった派生語が nation ( 民族 ) なので ネインヨン ジェンズ ジーナス ある。もとをただせば、 genus ( 種族 ) あるいは gens ( 氏族 ) も nation ( 民族 ) も同じ根にも ジェンズ ジーナス どるのである。今では genus は動物学上の「属」に、 gens はローマ史などの「氏族」 , ネインヨン nation は現在では「国民」に用いられ、その適用範囲に差が出ているが、よく考えて見れば、 その核となる観念は「生まれ」であることがわかるであろう。 ネインヨン このようなわけで、 nation という言葉も、はじめのうちは人種的な意味で多く用いられて 政治的統一体とか政治的独立団体としての「国家、国民」の おり、近代になってからしだいに 意味で用いられるようになったのである。中世にはほとんど氏族や家族に近い意味でさえ用い ネインヨン られていた。つまり nation を kin と解釈することさえ可能な場合もあったのである。『カ ネインヨン ンタベリー物語』で有名なチョーサーにも、 nation が「一族」の意味で用いられているとこ ネイション ろがある。そして nation と kin は、今日の英語の形から見れば、まったく類似性がないに 110