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検索対象: ダンテ神曲物語
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1. ダンテ神曲物語

続性をもつものは一つだにないのは事実である。兄弟よ、もろもろの天使とおん身がいま来てい る純粋な国とは、現在のごとく完全な状態で創られたといって間違いないが、水、火、空気など の諸元素とそれから造られたものは、すでに創造された天体の影響で形を与えられたのである。 それらのものを合成する物質が造られたとき、彼らの周囲を回っていた大体の中にある他のもの を形成する力もまた創られたのである。もろもろの天体の光輝と運動とは、すべての野獣とすべ ての草木の魂をば、それらのものになる可能性をもっ原質から引き出したのである。しかしなが ら、神はおん身らの中に直接魂を吹きこみ、自分を愛するようにしむけたので、そのため人は絶 篇えずそれを慕うにいた 0 た。またこのことから、さらにおん身らの復活をも推論することができ るであろう。もし、おん身がアダムとエヴァがともども創造されたときに、人間の肉体はい、 , 堂 創られたかを思うならば」

2. ダンテ神曲物語

は、種々の善行を思い出させる。こちら側はレーテ河、あちら側ではエウノエと呼ばれている。 しかし、こちら側でもあちら側でも、味わ 0 てみなければ功徳はないのである。それは他のすべ ての味にまさり、私が汝にとくに教えなくとも、汝の渇きはもうとま 0 てしま 0 たはずだ。その 上にさらに進んでもう一つのことをつけ加えよう。思うに私の言葉が約東した以外に及んだとて、 汝の喜びには変わりはないであろう。かって黄金時代とその幸福なさまを歌 0 た人々も、おそら くバルナーゾで、この地のことを夢みていたのであろう。ここでは人間の祖先は罪を犯さずに暮 らし、ここではつねに春とすべての果実があ 0 た。またこれは万人がネッターレとよぶものであ 篇る」 そのとき、ダンテはふり向き、二人の詩人のほうに向きなおり、彼らも徴笑をたたえてこの最 罪 後の言葉を聞いているのを見てから、ふたたび目をあの美しい淑女のほうにむけた。

3. ダンテ神曲物語

の性質について説明してください」 ヴィルジリオは答えた。 「知恵の鋭い目を私に向けたまえ、そうすれば、精神的な盲人でありながら他人の道案内をする のは誤りであることが明らかになるであろう。本能的にすぐ愛するようにつくられている魂は、 快楽によって目をさまされて活動しだすと、すぐにその好むすべてのもののほうに動くものであ る。理解力は実在するものから印象をひき出し、それを人々の心中にくり広げて人々の魂をそち らに向かわせるのである。印象へ向けられた魂が、そちらへ傾くなら、この傾斜が愛なのである。 そしてこの自然の愛は、快楽のおかげで、魂の中であらたに固まるのである。 つぎに、火は火炎圏のほうへ登りたがる生来の性質のゆえに、つねに高いほうへ動こうとする のと同じように、実在のものに愛を感じた魂の中には、精神的な動きであるある願いが起こって くるが、この動きは魂が愛の対象に堪能するまで停止しない。愛ならば、どんな愛でも賞賛すべ きだと信じている人には、真理がわかっていないことを諸君はさとったはずである。愛はその材 かた 質においては善いものとみえるであろうが、蝋はよくても、その上に押される印影はつねによい とは限らないのだ」 ダンテは、つこ。 「あなたの説明によって、愛の性質は明白になったが、そのために私の疑惑はいっそう強くなり ました。というのは、愛は外部から私たちに与えられるものであり、魂は他の方法では働けない ものなら、ある人の行き方が正しくとも正しくなくとも、それは魂の責任ではなくなることにな

4. ダンテ神曲物語

ることを求めている。かって彼の見神のために祈るのにまさって自分の見神のために祈ったこと のない私は、いっさいの祈りを捧げ、足らざらんことを恐れている。願わくは、君の祈りによっ て、彼から下界のすべての雑念をとりさり、至上の悦楽を彼に与えたまわんことを。なにごとも たす 意のままになしたもう女王よ、彼が見神の後にも、彼がその情意を健康に保ちうるように援けた まい、また君の守護が世の雑念を減ばしたまわんことを併せて祈りたてまつる。また、べアト丿 ーチェも多くの受福者とともに、私の祈りを援け、君にたいして祈りを捧げるのを御照覧あれ」 やがてダンテは、聖ベルナルドのこのような敬虔な祈りが、しかに聖母マリアの想いにかなっ たかを知った、なぜならば聖母マリアは慈悲深い目でダンテを眺めたからである。 つぎに、聖母マリアは、その目を神のほうへ向けたが、それは神を眺めるすべての被造物の目 にまさって清らかであった。 さて、ダンテは刻一刻と神に近づいていた。そして彼の心の中で燃えていた願望はおさまっ 聖ベルナルドは、ダンテに上のほうを仰ぎ見るように合図して微笑したが、ダンテはいわれる 前にそうしていた。なぜならば、ダンテの目はいっそう澄みわたり、本来それ自身真実である崇 高な光の中に、ますます深くはいりつつあったからである。 その後でダンテが見たものはダンテの言葉よりも強力であったので、言葉は負け、彼の記憶も このように崇高なものには堪えなかった。そのときのダンテの様子は、まるで夢の中でなにかを 確かに見たのに、目がさめると、それによって惹きおこされた感情のみが残り、その他すべてのも あわ 470

5. ダンテ神曲物語

第十一歌 浄罪界の第一円 ( つづき ) 主蒋文、オンベルト・アルドプランデスコ、オデリジ・ダゴッピ オ、プロヴェンツアン・サルヴァーニ。 第傲慢の罪を償う魂たちの唱える祈りの言葉が、そのとき次のように聞こえてきた。 「すこしも限定されず、いまなお天を所有したまい、また最初の被造物への愛のために天にまし ましたもう、われらの父よ、願わくは聖名の尊まれんことを、そは、すべての被造物は汝のやさ 浄しき精霊へ感謝したてまつるべければなり、御風の平和をわれらにもたらしたまえ、そはもし来 みむね たらずんば、すべての才知を傾けるとも、みずから到ることあたわざればなり。聖意の天におこ なわれるため、オザンナを歌う天使によりて犠牲がささげられるごとく、それがわれら人間によ マンナ りて地にもおこなわれんことを。今日われらの日常の糧をわれらに与えたまえ、それなくば、進 まんと努むるとも、かの荒地へ退くこととならん。われらが受けし悪をたがいにひとに赦すごと いさおし く、汝もわれらの勲功に報いるにあらずして、汝の慈悲によりてわれらを赦したまえ。たやすく 征服せられるわれらの徳を古き仇敵の誘惑に引きたまわざれ。われらをそれへうながす者より救 しゅ いたまえ。この最後の祈りは、愛すべき主よ、その必要なきわれらのためにあらずして、われら 197

6. ダンテ神曲物語

その魂は答えた。 「私はロン・ハルディア人で、マルコという名でした。私は世事に通じ、今では誰も欲望の弓を張 らないような徳を愛しました、しかし、上階へ行きたいなら、まっすぐ行きなさい」 そこでダンテはいった。 「私は誓って君の頼みを果たすつもりです。しかし、いま一つの疑問が私の胸に浮かび、そのた め苦しんでいます。初めは疑問は一重だったが、君の確証した言葉とその前の言葉が一致するの で、いまや疑問は二重になりました。世界は君のいうごとく、いっさいの徳を失い、邪悪をはら み、またそれにおおわれています。しかし、私にその原因を教えてくれたまえ。私に教えてくれ れば、他人にも教えましよう。ある人はそれを天のせいにし、ある人はそれを地のせいにしてい ます」 その魂はまず、苦悩のあまり「フィ」と叫んでからいった。 「兄弟よ、世界は肓目ですが、あなたはそこから来たのです。諸君のように生きている者は、い っさいの原因を天に帰し、まるで万物がその影響で必然的に動くと思っています。もし、そうだ とすると、諸君には判断の自由というものはなくなり、善行をしたものには福祉を、悪行をした ものには刑罰を与えるのも正しくなくなります。ところが、じっさいは、天は諸君の世界の運動 に初動を与えますが、すべての運動に関与することはないのです。 しかし人間には善悪判断の理性の光が与えられています。自由意志は本能とたたかいながらネ めは苦闘するかもしれないが、鍛えられればやがてすべての障害にうち勝つはずです。諸君はも

7. ダンテ神曲物語

れた宝物をめぐって人間がとり合いをするみじかい茶番劇をみているのだ。それというのも、今 も昔も世界にあるすべての黄金が、これらの疲れた魂のただ一人さえ休息させようとしないから なのだ」 そこで、ダンテがたずねた。 「いま先生は運命とおっしゃいましたが、それはどうして世界中の黄金をもっているのですか」 するとヴィルジリオが答えた。 「おお、愚者よ、なんと大きな無知が君を妨げていることか、これからは私のいう言葉をよく味 篇わう必要があるね。神はもろもろの天を創造し、それらに指導者を与えたので、すべての階級の 天使は平等に光を配給して諸天を輝かしている。神は同じ方法で世俗的な光についても秩序の遂 獄 行者や案内人を任命したが、運命は人間の知恵のおよばないところで時に応じてはかない富を人 地から人へ、国民から国民へと流転させるのである。そのため、運命の判定にしたがって、ある者 は権力者に、ある者は衰亡者になるのである。君たち人間の知恵はとうてい運命には太刀打ちで きない。運命は他の神と同じく自分の領分で、予見し、判定し、遂行するが、その変転はとどま るところを知らず、必然はそれを迅速化し、ある者はしばしば本来の状態を変えられてしまう。 運命に虐待された者は、運命を不当に軽蔑し、悪口するが、実際はもっと運命を賞めるべきであ る。だが運命は悪口などいわれても平気で、天使たちといっしょに自分の領分を駆けまわり天の 恩寵をうけている。さあ、私たちはもっと哀れなものたちのところへ降ろう。仏たちが出発した とき昇っていた星はすでに落ち、あまりぐずぐずはしていられない」

8. ダンテ神曲物語

「君の叡智はなぜ常になく迷うのだ、そうでないなら君の心はどちらを向いているのだ。君は天 の忌む三つの性質、放縦、邪悪、獸的行為をすべて批判し、そのうち放縦は神の怒りに触れるこ 、もしそれをよくおばえてお とがやや少ないといった『倫理学』のことをおばえていないのかい り、ディーテの都市の上部や外部で罰をうけている者が誰であったか思い出すならば、彼らがな ぜディーテの都市の中の邪悪な者と区別され、その罪もやや軽いのかわかるだろう」 そこでダンテがつづけて質問した。 「私の疑問を解いてくださ 0 たことを感謝します、だが、すこし遡って説明してください、あ 篇なたは高利貸は神意にもとるといわれましたが、それはなぜですか」 そこでヴィルジリオが答えた。 獄 「自然はその法則を、神の知恵と技術に学んでつくったのだと、哲学は一カ所ならず説いている。 地だから『フィジカ』をよく読めば、人間の技術は自然の技術に子供のように従 0 ているのだから、 いわば神の技術の孫に当たると書いてあるのを見いだすだろう、そして、この二つのことからま たさらに「創世記』の初めの言葉を思い出すなら、人間は自然の中に人生の糧をもとめ、他人の 幸福を増進すべきであることがわかるだろう。ところが高利貸は別の道を歩き、自然そのものと、 その技術を軽んじ、望みを他においたのだ。さあ、前進しよう、もうすでに地平線には双魚宮が きらめき、北斗星のすべては北西の上にきてしまっている。ここからの降り口はずっとかなたの 険しい崖のそばにあるのだ」 さかのば

9. ダンテ神曲物語

るからです」 ヴィルジリオは答えた。 「私は理性に関することなら、なんでも君に教えてあげられるが、それから先の信仰に関するこ べアトリーチ = に君が会 0 たときにたずねるがよい。物質とは区別しなくてはならないが、 それとし 0 かり結びついている精神的本体は、自分の中に特別の力をも 0 ているが、その力は活 動が始まらなければ感じられないし、その結果を見なければ知ることができない。それは樹木の 葉が緑色なのを見てはじめて、その木が生命をも 0 ているのを知るのと同じである。それゆえ、 篇蜜蜂のように熱心に働く諸君の才知による知識の獲得や初めに欲望を感じたもの〈の愛着などが、 どこからきたのか人は知らないし、この最初の願望は、賞賛すべきものでもないし、非難すべき ところで、この最初の願望の中に他のすべての願望が統一されているから、それ ものでもない。 浄らを見分けたり、承認の限界をまも 0 たりする生まれつきの能力が人々には備わ 0 ているのであ る。この識別の能力こそ、善い愛と悪い愛を認識したり、排斥したりすることによ 0 て、人々に 功罪の評価を与える原則となるものである。この問題を徹底的に論究した哲学者たちは、人間の 生まれつきの自由とはなにかということを知り、世界に倫理的な原則を残したのである。結局人 々の中に燃えるすべての愛は、必然的に燃えるのであ 0 ても、人間にはそれを抑制する力もある ーチ = はこの尊い力を自由意志と呼んでいる。それだから、彼女がそれにつ のである。ペアトリ いて、君に語るとき、そのことを思い出すとよい」 そのとき、まるで手桶のような月がますます白く輝いたので、私たちに見える星の数はい 0 そ

10. ダンテ神曲物語

第二十二歌 第七天 ( 土星天のつづき ) ここには地上で黙想をおこなった者の魂たちが住んでいる。聖ペ ネデット、マッカリオ、ロモアルド、聖職者の腐敗。第八天 ( 恒星天 ) ここには勝利に輝く 魂たちが住んでいる。双子宮、天と地とを俯瞰する。 篇驚異のあまり、ダンテはその案内者のほうへふり向いたが、そのありさまは、何事か起こると チェは、顔を つねにいちばん信頼する人へ走りよる稚児のようであった。そのとき、べアトリー あおざめて息をはずませている子の心を励ます母親のようにダンテにいった。 天「おん身が天にいることを忘れたのか。天はすべて聖であり、そこでなされることはみな熱い愛 から出ていることを知らないのか。私の叫び声さえおん身をかくも感動させるならば、歌と私の 笑いはおん身をどれほど変わらせることか、いまからおん身には推し量れるはずである。また、 あの叫び声の中の祈りを悟り得たなら、おん身がいずれは見るはずの神の復讐をば、死なないう ちに見たことになるのだ。すべて天上の剣は早すぎも遅すぎもせず斬るのである。それを望みま た恐れつつ待っている者には、そのように見えるのだ。だが、おん身はいま他の者のほうを向く がよい、そして私のいうとおりそちらへ目をめぐらすなら、多くの有名人の魂を見るであろう」 そこで彼女が望むごとく、 . 目をめぐらすと、白の小さな球がむらがってたがいに相手を照らし 413