ない、歓喜をつくしたのち、あたかも目の前に好むものが現われると、目がともに閉じたり開い たりするのと同じように、光も同時に合意の上でしずまった。そのとき、新しい光の中から一つ の声がでて、まるで星を指ししめす磁針のようにダンテをそのほうに向かわせるように、そのほ うに向かわせた。それはポーナヴェントウーラの魂の声であったが彼はいった。 「私を美しくする愛が私をうながして、もう一人の案内者聖ドメニコのことを語らせたが、その ために私の師聖フランチ = スコはたたえられている。一方のいるところには、他の者も招ぜられ、 さきに二人が心をあわせて戦ったように、栄光をともに輝かすのを善しとしている。武備を新し 篇くするため、あんな高価な代価を払 0 たキリスト教信者が、ゆっくりと十字架のうしろから、ま ばらに進んでいたころ、神は信者たちが不確かなので、彼らの助けによらずに、ただ自分の恩恵 堂 によって備えをなし、さきにいわれたごとく、二人の勇士を送って、自分の新婦ともいうべき教 天会をたすけたまい、彼らの言葉と行為により、迷っていた人たちは正しい道へもどった。若葉を ひらいて、それでヨーロッパの衣替えをした爽やかな西風がおこるあたり、時としてその背後に おいて太陽が長い遁走の後で、どの人からも姿を消す波打ちぎわのグワスコニア湾からあまり遠 くないあたりに、カラロガ ( カラホルラ ) という村があり、城塞の上と下に獅子のついた紋章で 飾られた盾で保護されている。この村で、グリストの信仰を慕う熱烈な恋人で、味方には優し 、敵にはつれない聖なる戦闘者である聖ドメニコが生まれたのである。 はつらっ 彼が創造されたとき、彼の心は剌たる力でみたされ、母の胎内にいるときに、彼を予一「〔者と させたのである。聖ドメニコと信仰との続は、聖水盤のかたわらで結ばれたが、そこで両者がた
目と五番目の魂が、天堂界の中で、天使たちによって描かれるのを見て、君は怪しんでいるが、 彼らが肉体を出たときは、君が信じているごとく異教徒ではなくて、グリスト教徒であって、一 あがな 方の者はグリストの受難を、他方の者はグリストの贖いを信じていたのだ。すなわち、一方の者 は善意にもどる者がないはずの地獄からその肉体へもどったが、そもそもそれが生きる望みの報 いであって、この生きる望みこそ、彼のよみがえりであり、その思いが移りうるため神に捧げる 祈りに力を添えたものであったのだ。私の語るこの尊い魂は肉体へもどり、しばしそこに宿って いたが、おのれを助けうるグリストへの信仰をもっていたのである。また信じつつ真実の愛の火 に燃えていたから、一度死んでから第二の死に臨んだとき木星天へ行く楽しみを享けるのにふさ わしくなっていたのである。またリフェオのほうは、被造物がいまだかって目をその最初の起源 に及ばしたことがないほどいとも深い泉つまり神から流れでる恩寵によって、その愛を現世にお いて正義にむけたのである。そのため恩寵の上に恩寵がくわわり、神は彼の目を開き、私たちの 未来の贖いをしめしたもうたのだ。それゆえ、彼はそれを信じ、以後異教の悪臭を我慢すること なく、またそのことについて多くの悖れる人々を責めたのであった。君が勝利の戦車の右の輪 のそばに見た三人の淑女は、教理の三徳、信、望、愛をあらわしているが、それは、洗礼の儀式 がつくられる千年も前にリフェオの洗礼となったものである。おお、永遠の定めよ、第一の原因 をば見きわめることのできない人の目からは、汝はなんと遠いことであろう。また汝ら人間よ、 裁くには慎重であれ、それは神を見うる私たちですら、すべての救済をうけて天上の福をうける はすの魂を知っていないからである。人間が神の永遠の定めの玄義を知らないという欠陥をもっ
見ると、君にはグリスト教の信仰が不足していたように思われる。それならば、いかなる神の 導きや、人の教えが、君の心の迷妄をとり除き、グリスト教徒となることができたのか話したま スタッイオは、つこ。 「あなたは初め私をパルナッソの山へ導き、その後カスタリアの泉の水を飲ませ、その後私を神 に近づけました。あなたのやり方は、夜道を歩く人が、灯火を自分の後ろに携えて、自分には役 立たないが、後ろから来る人のために道を照らすのに似ている。あなたは『世はあらたまり、正義 くだ 篇はもどってきて、人類原始の時となり、新しい種族が天から降る』と書いているが、私はあなた のおかげで詩人となり、あなたのおかげでクリスト教徒となりました。しかし、私が描くものを あなたがよく見ることができるように、詳細に話してみましよう。すでに世界には、神の王国の 浄使者たちによ 0 て蒔かれた種によ 0 て、真の信仰が実っていました。そして、上述したあなたの 言葉が新しい宣伝者たちと同調したので、私はしばしば彼らを訪問しました。彼らは私の目には たいそう神聖に見えましたので、ローマ皇帝ドミツィアンが彼らを迫害したときも、グリスト教 徒の嘆きは私の涙を誘いました。私は現世にあるあいだ彼らを助け、彼らの習慣の正しさに感服 し、他の宗教を軽蔑しました。私はテーベ人を歌った詩を書く前に洗礼を受けましたが、それ を公表するのが恐ろしかったので、長いあいだ異教を信じているような振りをしていました。こ のような、あいまいな態度のために、私は四百年間も浄罪界の第四円をぐるぐる回らせられまし た。あなたは隠されていたあの大きな宝の蓋をとってくれましたが、私たちが登る道が残ってい
一圏には、つこ。 そこで聞こえるものは、不思議なことには、永遠の大気をふるわせる深い溜息だけで、泣き声 ひとっ聞こえなかった。その溜息はべつに貴苦をくわえられていない、幼児や男女のおびただし い群が苦悩を胸から吐きだすためにおこるのであった。 ヴィルジリオはふり向いていった。 「これらの魂がどういうものなのか、なぜ君は質問しないのかい。先に進むまえに、あらかじめ 知っておいてもらいたいのだが、彼らは罪も犯さず、中には生前かなりの功績のあった人もいる が、それだけでは十分ではないのだ。なぜなら、彼らはクリスト教の洗礼を受けなかったか、あ るいはグリスト教以前に世にあって、十分神を崇めることができなかったからだ。こういう私だ って、その一人なのだよ。だから、他の罪のためでなく、その欠如のために私はここへ落ちたし、 その欠如のために念願だけはするが希望のない生活をしているのだ」 これをきいたダンテは、世間的に偉大な価値があった者が、辺獄に落ちて賞もなければ、罰も なく、宙ぶらりんの状態にいることを知って悩んだ。そこで、さっそく質問した。 「自分の功徳か、他人の功徳のおかげでここから出て天堂界へ行った者がいますか」 それにたいしてヴィルジリオは答えた。 「私がこの辺獄へ来てまもない頃、グリストがここへ降って、アダム、アベル、ノア、モーゼ、 アプラハム、ダヴィデ王、イスラエル、イサクおよびその子供たちやラケレその他旧約聖書にの っている多くの魂を連れだして天堂界へ伴ったことがあったが、それ以前にここから出た者はい
さて歌も舞踏もまったく終わったので、これら聖なる光はみなダンテに注目し、あれからこれ へと関心を動かすのを喜んだ。 すると、相和す聖徒たちの中にいて、さきに聖フランチェスコの奇しき一生を話してきかせた 聖トーマスの魂が沈黙を破っていった。 「一つの麦の穂が砕かれ、その実はすでに貯えられたので、美しい愛は私を招いてさらに残りの 穂を打たせた。そのロが犯した罪のため全人類にまで禍いがおよんだ美しいエヴァの頬をつくる っさいの罪の重さにさえ ために、アダモの胸の中にも、また槍に刺されそのあとにもまえにも、 うち勝つあがないをなしたもうたグリストの胸の中にも、この二つのアダモとグリストをつくっ た神の力は、人類が授かることのできうる限りのいっさいの知恵を吹きこみたもうたのだと汝ら は信じている。それゆえ私が上にいったように、サロモーネの光に包まれる幸福にかなう者はな いといったことを変だと思うのであろう。さあ、私の答えることに、い眼をひらくがよい、しからば 汝の意見と私の話は円心のごとく真理において一致するのを見るであろう。天使、人間の魂、天体 などすべて減びぬものも、土、水、火、空気やそれらの混合物のような滅びうるものも、みな愛 によって、われらの主の生みたもうたかの観念の光輝にほかならぬものである。それは、その光 の源から出て、父からも、彼らを三位一体として結びつける聖霊からも離れないあの活気ある光 が、みずから永遠に一体として残りながら、その恩寵のカでおのれの光線をさながら鏡にうっすご とく九つの天使の合唱の中に集めるからだ。またこの天使の合唱から次々と天を降ってついにも っとも劣ったものに及んだその力は、しだいに弱り、短い生命しかもたない者を作った。短い生命
「汝が私の歌を理解しないごとく、汝ら人間は永遠の審判のことを理解しないだろう」 ローマ人に世界じゅうの尊敬を集めさせたあの象徴の形をまだ保ちつつ、燃えて光をはなっ魂 たちがしずまったあとで、それはいった。 「クリストを信仰しない者で、彼が十字架に懸けられたもうた前にも後にも、この天堂界に昇っ た人はいない。 しかし、見るがよい、多くの人はクリスト、グリストと叫んだが、最後の審判の 時グリストを知らぬ人より彼を遠く離れる人の数のほうが多いであろう。だが、人々が永遠に富 んだ組と貧しい組の二つの組に分かれたとき、異教徒はかかるクリスト教徒を罪におとすであろ 篇う。彼らの非難すべきすべてのことが記してある「生命の書」が開かれているのを見る時は、 異教徒は君たちの王になんというだろう。天使はそれらの人のことについて速やかに筆を運ぶ であろう。プラーガを首都とするポヘミアを荒らした皇帝アルプレヒト一世の所業がそこに記さ 天れているのを見るだろうし、猪に突き殺される運命のフランス王フィリップ四世が、せっせと贋 金を作らせてセンナ河畔の住民を苦しめたことも記されているのを見るだろう。そこにはまた、 スコットランド王ロ・ ート・プルースやイギリス王エドワード二世を領土拡張の貪欲で狂わせて、 国境内にとどまらせなかった傲慢が記されているのを見るであろうし、不道徳なカスティア王フ エルナンド四世とポヘミア王ヴェンチェスラウスの淫楽に耽った懦弱な生活が記されているのを 見るであろう。そして跛者のエルサレム王カルロ二世の善は一つだけ、悪行は百と記されている のを見るであろう。アンキーゼが長命な一生をおえた火の島シチリア王フェデリゴ二世の貪欲と ろう 怯惰も記されているのを見るであろう。さらにその陋劣をさとらすため、それらの記録は狭いと 401
グルラドグルラド ( コンラート ) ・マラスビーナ、ヴ私欲のため、使徒たちを欺き、ビエトロに貴められ、倒れて死 んだ。 イラフランカ侯爵フェデリゴの子で、一二九四年没した。 や * * ペアトリーチェニーノの妻。 エリオドーロ ( ヘリオドロス ) 彼がシリア王セ アウローラの女神ローマの曙の女神、ギリシア名はレウコスの命令で、エルサレムの神殿の宝物を奪おうとしたと エーオース。 き、一人の騎士が現われて彼を追払った。 * オザンナ神またはグリストを賛美する聖歌。 * * * * ポリドーロ ( ポリュドロス ) トロイア王の末 期 * オレステ ( オレステス ) トロイア戦争のギリシア軍子、トロイア落城のとき、ポリネストロ ( ポリュメストロ ) の 総司令官アガメムノンの子、アイギストスが彼を殺そうとしたために殺され、死体は海に投じられた。 とき、親友のピュラデスは自分がオレステスだと叫んで身代り * * * * * クラッソ ( マルグス・リキニウス・クラッス になろうとした。 ス ) 彼はカエサルとポンペイウスとともに三頭政治をおこな アグラウロ ( アグラウロス ) アテネ王ケクロップスった。 の娘。その妹ヘルセがヘルメスに愛されたのを蔆望したため、 * エレシトーネ ( エリュシグトン ) ギリシア神話によ 神罰で化石にされた。 れば、テッサリアの人で、デーメーテールの神聖な森へ芹を入 潮 * 半レガ一レガは四哩に相当する。 れたため、神罰で飢餓に悩まされ、最後には自分のからだを食 4 * レヴィレヴィティ、 つまりイスラエルの神官のこと。べた。 娘ガイアダンテ時代の有名な不品行な娘。 * フォレーゼ・ドナーティフィレンツェの名士シモー シレーナ ( セイレン ) ギリシア神話の中のイタリアネ・ドナーティとテッサの子、黒党の首領、ダンテの政敵コル 西南の海の島に住む妖女、彼女は美しい声で航海者を迷わすとソ・ドナーティの弟であると同時にダンテの妻ジェンマ・ドナ 信じられていた。 ーティの親戚。 跚 * ドアジオ ( ドウェー ) 、リルラ ( リール ) 、グアント * エリグリストの言葉。「エリ、 エリ、ラマ、サバク ( ギャン ) 、プルッジャ ( プルージュ ) いずれもフランドル地タニ」 ( わが神、わが神、なんぞわれを捨て給うや ) 方の都市。 川 * ヴェーネレ ( ヴィーナス ) 恋の女神、その毒とは色 * * ゥーゴ・カペ 1 ト ( ューグ・カ・ヘー ) 九九六年か欲を指す。 らダンテの時代まで、代々のフランス王は彼の子孫である。 エリーチェ ( カリスト ) 処女性を象徴する女神デ 灰色の衣聖職者の衣服。 ィアナ ( アルテミス ) に仕えたニンフェ、彼女はジョーヴェ ピラートフィリッポ四世、彼はグリストを敵の手に ( ゼウス ) に辱められたのでディアナの森から追放された。 売渡したポンテオ・ピラトに似ているので、このように呼んだ。ソド・マとゴモラ男色に耽ったパレスティナの町 サフィーラ ( サッビラ ) 彼女とその夫アナニ . アは g..æ-* グイド・グイニツェルリダンテ以前の有名なイタリ
第七歌 浄罪界前域 ( つづき ) 第二の高台ここには痛悔を怠った諸侯の魂たちが住んでいる。皇帝 ロドルフォ、ポヘミア王オットカーロ二世、フランス王フィリッポ三世、ナヴァールラのアリ ーゴ一世、アラゴーナのピエトロ三世とアルフォンゾ三世、アンジョ家のカルロ一世、英国王 アリーゴ三世、モンフェラートのグリエルモ七世。 ヴィルジリオと堅い抱擁をしたソルデルロは、さらに三度ばかり会釈を繰り返し、あとしざり してからヴィルジリオに向かっていった。 「あなたがマントヴァの人であることはわかりましたが、お名前を明かしてください」 そこでヴィルジリオがいった。 「私はアウグストウス皇帝の時代に死んだヴィルジリオです。私が天堂界にはいれなかったのは、 単に私がグリスト教の信仰をもっていなかったという理由からです」 ソルデルロはそこで、うやうやしくヴィルジリオに近づき、ひざまずいてヴィルジリオの両脚 を抱いた。 そして彼はいった。 「おお、故国の永遠の誉れよ、私があなたに会うことができたのは、私のいかなる功績のため、
天篇 「貧困』のために父と争い、さらにこの町の 司教の法廷において、司教と父親の面前で、 、父親の財産の相続権放棄を宣言して、「貧困』 と結婚した。この『貧困』という女は、最初 の夫たるグリストを失ってから、千百余年の 画 あいだ卑しまれ、人々にうとんぜられていた 、 ~ , ため、彼以前には誰も招いてくれる人はいな かったのである。彼女がアミグラーテととも 、のにいて、全世界を恐れさせた者にも驚かなか コ スったという風聞さえ、なんの役にもたたなか チった。また『貧困』という名の女は決心が堅 く勇敢であったので、マリアを下に残してお 聖 きクリストとともに十字架へあがったのだが、 、 ~ ~ " ) 朝。 ~ 天それも益とはならなか 0 た。さて、ここで譬 いま評して 喩的な言葉を使うのをやめれば、 いる物語の二人の男女は聖フランチェスコと 『貧困』なのである。彼らの和合や、たがい にむつまじく愛しあう様子は、それを眺める
ってくるグリストの勝利の行列と会うとき、おん身の心ができるだけ喜ばしくなっているためで ある」 そういわれて、ダンテは目をもどして七つの天体を足下に眺め、ついでに地球の姿を眺めたが、 それがひどくみすばらしいのを見て微笑した。しかし、それを卑しいものと判断する心はいいこ とであるが、同時に諸天の事物へ心を向ける者は正直であるといえよう。 ついで、ダンテは月が、さきにその一部が粗で他の一部が密であると思わせた原因となったあ の影をもたずに輝いているのを眺めた。ダンテは飛びながら水星天と金星天が太陽の周囲で動い 篇ているのを見た。ついで、木星天が土星天と火星天の間の熱を調和してやわらげているのを見た。 そしてこの三つの天体が天における居場所を変えるのが明白になった。またこれら七つの天体は 堂 みな、大きさと速さと、その場所がたがいに隔たっているのを知った。ダンテは永遠の双生児と 天ともに回っているあいだに、人をひどく猛々しくする小さな地球が、その山と河の全貌とともに チェのほうをふり向いた。 目の前に現われた。そこでダンテはべアト ) ー 417