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検索対象: ダンテ神曲物語
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1. ダンテ神曲物語

ダンテがその男をじっとみつめた。彼は金髪の美男子で優雅な容貌をもっていたが、打撲傷の ために、眉はまっ二つに切れていた。ダンテはまだ会ったことがないと答えると、彼は「見たま え」といって胸をひらいて、その創痕を示し、微笑しながらいった。 「私はコスタンツア女帝の孫マンフレデイだ。そこで君にひとつお願いがある。上の世にもどっ たとき、アラゴーナとシチリアの王ピエトロ三世の妃となっている私の娘のところへいって、私 の死について誤り伝えられているなら訂正してほしいものだ。戦争で重傷をうけ、私の身体が二 つに砕けたとき、私は魂を快く罪をゆるしたもうた者へ返したのである。もし、あのとき、教皇 グレメンテ四世の命令で私の死骸を捜していたコゼンツアの大司教が、聖書の中に記されたこと をよく読んでいたなら、私の遺体はいまなおベネヴェントの近くの橋のたもとに残っていること であろう。だが、じっさいに現在私の遺体がガリリアーノ河の岸辺に近いナポリ王国の国境の外 で雨に洗われているのは、彼がそれをそこに移したからである。聖なる教会から破門されて死ん だ者は死に臨んで痛悔したからといっても、神に反抗して暮らした期間の三十倍の年月の間この 山の外部にとどまらねばならない。もちろん、このような罰がよい祈りによって短縮される場合 は別であるが。君が私に会った場所や禁制のことなど、私の娘のコスタンツアに話してやってく れたまえ。そして今後とも君が私を喜ばすことができるかどうかやってみてくれたまえ、ここで は上の世の助けがたいそう役にたつのだから」

2. ダンテ神曲物語

地獄篇 呵責をうけているポローニヤ人は、私一人だ けではなく、たくさんいます」 このように話している間にも一匹の鬼が彼 を皮の鞭でうって叫んだ。 ぜげん 「いっちまえ、女衒、ここにはお前にだまさ れるような女はいないぞ」 ダンテがふたたびヴィルジリオのところへ もどり、数歩進むと岩礁が橋のように堤から 突き出ている場所へついた。ダンテはやすや イすとその上にのばり、ばろばろになった岩を 女渡ってから右のほうへまがって、この永遠の 園に別れをつげた。しかし、鞭うたれる者を 通すために橋の下が中空になっている場所に をさしかかると、ヴィルジリオがいった。 呵「身体をささえて振りむき、ここにいる不幸 なものと君の顔が向かいあうようにしたまえ、 彼らは私たちと同じ方向に歩いているので、 君は彼らの顔を見ていないから」

3. ダンテ神曲物語

「逃げないようにいってください、そしてどんな罪でここへ落ちたのかたずねてください、不。 彼が盗賊で殺人者であることを知っていますから」 この言葉をきいたヴァンニ・フッチは悪事を犯したことを恥じて、赤面してからいった。 「私は生命を失ったことよりも、あなたにこんな場所で発見されたことのほうを悲しんでいます。 だが、あなたの願いは拒むことはできません。私はこんな低い地獄におとされたのです。それは 美しく飾られた聖器庫から、盗みをはたらき、その罪を他人になすりつけたからです。だが、あ なたがこの暗い場所を出るまえに、ひとっ面白い予一言を教えてあげましよう。ピストイアは黒党 を失って、弱るでしよう、フィレンツェは人と統治の方法を改めるでしよう。マルテの神はマグ ラの渓谷から火の気をひき出し、烈しい嵐をともなって、カンボ・ピンチェの上で戦うでしよう。 だがそのうち彼は霧をはらい、白党の者はみんな傷つくでしよう。このような私の予言をきけば あなたもすこしは悲しむでしようね」 112

4. ダンテ神曲物語

に両方の唇があけつばなしになり、渇きのため片方の唇はあごまで垂れさがり、もう一方の唇は 上にめくりあがっていた。 その奇怪な姿をした亡霊は、やがてヴィルジリオとダンテに話しかけこ。 「諸君は苦患の世界に来ながら 、いっこう罰をうけていないようですね。この私、マエストロ アダモの悲惨なさまを見てください。私は生きていたころ、たいがいの欲望をみたすことができ ましたが、今では一滴の水でもよいから手に入れたいと望んでいます。そしてカゼンティーノの 緑の止を流れくだり、アルノ河に注ぐ月カ 、ー : 、しばしば私の目の前にちらっき、その水路を見て 篇いるうちに、激しい渇きを感じ、そのため私の頬はげつそり肉が落ちてしまいました。私の罪を 問責する正義は、私がかって罪を犯した場所によりどころを求めて、私になん度も溜息をつかせ ます。それらの場所の一つに、ロメーナという場所がありますが、そこで私はフィオリーニ金貨 地を贋造し、そのため火刑に処せられました。もし、私が私に贋造をすすめたグイド伯爵とアレッ サンドロ伯爵にここで会えるなら、私はなんでも惜しみなく与えたでしよう。しかし手足の不自 由な私にいったい何ができるでしよう。もし、もっと身軽であり、百年間に一オンチャでも進め るなら、この嚢の大きさが周囲十一マイル、幅が半マイル以上あっても、亡者たちをかき分けて、 まぜかね 二人を捜しに出かけたでしよう。私は二人の命令で贋造者の一味に加わり、三カラットの合金を いれたフィオリーニ金貨をつくったのです」 そこでダンテはマエストロ・アダモに話しかけこ。 「君の右側によりそって臥せっている、まるで冬の濡れ手のように湯気をたてている二人は誰で

5. ダンテ神曲物語

をはずれたぞ」と叫んだときの恐怖も、ダンテの身体がすつばり大気につつまれ、すべての視界 がとざされ、見えるものはジェリオーネだけになったときの恐怖にくらべれば、けっして大きく なかったであろう。 ジェリオーネはゆっくり泳ぎながら進み、ぐるぐる回転しつつ下降したが、そのことはダンテ の顔を下から吹きつける風によってのみ感じた。 ダンテの右側では滝の音がきこえていたが、それはダンテたちの下のほうで恐ろしい淵をつく っていた。そのときダンテは頸をのばして下方を眺めたが、火が見え嘆声がきこえたので、ジェ リオーネに乗ったときよりもっと臆病になり、震えあがって股を締めつけた。 そのときダンテは四方からきこえてくる大きな嘆声によって、それまではっきりと気づかなか った回転と下降をはっきりと意識した。 長い間飛んでみても鳥一羽も見つからず、下からの合図もなく、そのうち「おい、私のところ へ下りてこい」と鷹匠にいわれた鷹は、もとの場所へ輪をかいて舞いおり、怒ってひとを小馬鹿 にしたように、わざと主人から離れた場所にとまるものであるが、そんなエ合にジェリオーネは、 ヴィルジリオとダンテを谷底の切りたった岩すれすれのところにおき、二人をおろすやいなや弓 をはなれた矢のように飛び去った。

6. ダンテ神曲物語

第十六歌 第七圏 ( つづき ) 第三環ここでは神または神の娘自然にたいする暴力者の魂たちが火の雨 の下を走り回っている。グイド・グエルラ、テッギアイオ・アルドプランディ、ヤコボ・ルス ティグッチ、グリエルモ・ポルシェレ。象徴的な綱と不思議な姿をした者の出現。 ヴィルジリオとダンテはすでに第八圏へ落ちる滝の轟音のとどろく場所へきたが、その音は蜜 蜂の羽音に似ていた。そのとき、烈しい呵責の火の雨の一団の中から三人の亡者がこちらをめが けて走ってきた、そして彼らは口々に叫んだ。 「止まれ、身なりから想像すると、君は邪悪なフィレンツェの都市の者にちがいない」 見ると彼らの手足の古い傷も新しい傷もみな火傷によるものであった。そのときヴィルジリオ が足をとめてダンテにいっこ。 「待ちたまえ、あの人たちは高い地位にいた人たちだ、ここが火の雨の降る場所でなかったら、 君のほうが彼らのほうに走り寄らねばならないところだ」 ヴィルジリオとダンテがたちどまっていると、彼らはふたたび悲鳴をあげはじめたが、そのさ まはまるで相手のすきをねらってぐるぐる回る拳闘士に似ていたが、頸だけはつねにこちらのは うにむいていたので、頸と足とが反対の方向、ヘむく結果になった。

7. ダンテ神曲物語

第十八歌 第八圏ここには欺罔者の魂たちが住んでいる。第一嚢ここでは他人のための婦女誘拐者 ( ヴ , ネディコ・カッチャネミーコ ) 、自分のための婦女誘拐者 ( ジャソーネ ) などが、二つの ついしようしゃ 別々の群をなして嚢の中をまわり、悪魔に鞭うたれている。第二嚢ここでは追従者たちは糞 尿に漬けられている ( アレッシオ・インテルミネイ、タイデ ) 地獄にはマレポルジャという場所があるが、その周囲をとり巻く堤防と同じく、すべて鉄色の 獄 石でできている。 地この悪の広場の中央に、広くて深い井戸が口を開けていた。井戸と高く堅い堤の根もととの間 の地面は円形で、その底部は十個の谷に切り割られていた。 このような景観は、城壁をまもるために城の周囲に多くの濠をめぐらすのに似ていた。この種 の要塞には閾ど外濠の岸をつなぐ多くの小さな橋がっきものであるが、ここでも同じく切りたっ た岩壁の根もとから岩礁がはえており、濠をつないで井戸にまで達していたし、井戸は切断され た岩礁を自分の周囲にあつめていた。 ダンテがジェリオーネの背中から振りおとされたのは、このような場所であった。 ヴィルジリオは左のほうへ道をとって進み、ダンテもそのあとに従ったが、ダンテの右手には、

8. ダンテ神曲物語

第四歌 浄罪界前域 ( つづき ) 第一の高台ここには怠慢な魂が岩陰にすわっている、べラグア。 世間には人間は三つの魂をもつ、つまり肝臓にやどる植物的魂と心臓にやどる感覚的魂と頭脳 篇にやどる知的魂とをも 0 ているという人が多い。もし、そうならば人間は同時に二つ以上のこと に集中できるはずである、だが、事実はそれに反して、魂が一つの喜びや悲しみのために強い感 罪 銘をうけると、魂はそれに関心をあつめ他の働きをやめてしまう。このことは人間の内部に一つ 浄以上の魂があるという説がまちがいである証拠である。 人が魂を強くひきつけるものを聞いたり、見たりするとき、時がた 0 てもひとはそれに気がっ かない。それは一方の力は時の経過を感じさせるものであり、他の力は魂のすべてをつなぎとめ る力なのだが、後者は魂につないであるのに反して、前者はつないでないからである。ダンテが マンフレディの話に夢中になっているとき、ふと自ら反省してみると、このようなことをさとっ たのである。なぜならば、例の魂たちが異ロ同音にヴィルジリオにむかって「君たちのたずねた 場所はここだ」と叫んだ場所へついたとき、気がついてみると太陽はすでに五十度はど昇「てし まっていたから。

9. ダンテ神曲物語

の技巧はこちらのほうが、はるかにすぐれていた ある個所には他の被造物より高貴に創られた天使が、雷電のように天から落ちる図が、他の個 所には巨人プリアレオが雷電にうたれて冷たい死体とな 0 て地に伏す図が、また武装したまま父 親のまわりに集まり、巨人たちの散乱した肢体をじ 0 とみつめているティンプレオ、パラーデ、 マルテなどの神々の図が、パベルの塔の下で、す 0 かり当惑してセンナールで自分とともに傲慢 だ 0 た人々を眺めているネンプ 0 , トの図が、最後には殺される七男七女の子供たちに囲まれて 、レスティーナのジ = ルポエ山上で自刃するイスラエル王サウルの図が、倣 立っニオ・ヘの図が、。ノ 篇慢にもアテネと技を競 0 た罰として蜘蛛にされ、半分織りあが 0 た布の上で悲しんでいるアラグ ネの図が、驚き恐れて馬車を走らせているロボアムの図が彫られていた。また自分の死を予見し てテーベ攻撃に加わらなか 0 たのに、母親が黄金の頸飾りをもら 0 て夫の隠れ場所を告げたため 浄に、ひ 0 ばり出されて戦死したアルメオーネの図が、また、神殿の中に息子がおどりこみセンナ ケリプを殺した死体を放置したア , シリア王の図が、またベルシア王チー 0 がシティの女王 リスの子供を欺いて殺したとき、女王は彼を殺し、血の袋の中にその首を投げいれて傲慢な言葉 を発している図が、また、ア ' シリアの将軍オ 0 フ = ルネの本営に愛着したふりをして乗りこみ、 彼を殺してア , シリア軍を敗走させた寡婦ジ = ディ ' タの図が、また、焼けて灰になり空洞にな 0 たト 0 ィアの図が彫られていたが、このようなすばらしい影と線を示したのは、いかなる美術 家であろうか。死者は死者らしく、生者は生者らしく描かれていた。 さてダンテがこれらの浅浮彫りを見おわ 0 て、ふたたび前進をはじめたとき、前方に注意しな

10. ダンテ神曲物語

ですか」 するとソルデルロは地面に指で線をひいていった。 「いいですか、太陽が沈むと、あなたはこの線一本さえ越えられませんよ、別に登山の邪魔をす る人はいませんが、夜の闢が登山を不可能にし、人間の意志を沮喪させるのです。人間は誾とと もに下に降ってしまい、山の斜面をさまよい歩くことにさえなりかねませんからね」 そこでヴィルジリオはソルデルロに央適に夜を過ごせる場所へ案内してほしいと申しこんだ。 ソルデルロとヴィルジリオとダンテがうちそろって進んで行くと間もなく窪んだ場所に出たが、 そこには断崖と平原の間を一筋の小径がうねっていた。その山を進むとやがて谷の側面に出たが、 谷のふところには黄金色、輝く銀色、洋紅色、純白な色、黒檀色、エメラルド色など色とりどり の草花が咲き、千以上の爽快な芳香がひとつにまじりあって、なんともいえない良いかおりを漂 わせていた。 見ると、その草地の上には多くの魂たちがすわって、日没のとき歌う聖歌「サルヴェ・レジー ナ」を歌っていた。そのときソルデルロがいった。 「ここからのほうがあそこにすわっている魂たちの姿がよく見えますよ、ほらごらんなさい、他 人が歌っているのに自分だけはロをつぐんでいるのは、イタリアに致命傷を与えたハプスプルグ 家のロドルフォ皇帝です。彼をいろいろ慰めようとしているのは、オットカーロ二世です。彼の 領地はモルタ河がアルビア河へ、アルビア河が海へ注ぐ地帯でした。しかしながら彼はポヘミア 王ヴェンチスラオ四世よりはすぐれた人物でした。また、ごらんなさい。あそこにアラゴーナ 182