巨人 - みる会図書館


検索対象: ダンテ神曲物語
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1. ダンテ神曲物語

迂回しながら進んだが、そこから弩弓を射れば届きそうな距離に、もう一人の巨人を発見した。 この巨人は一本の鎖で巧みに縛られていた。つまり、左腕を前で、右腕を身体の後ろで縛 0 た うえ、鎖は頸を一巻きして下へさがり、さらに身体の露出している部分を五重に巻いていた。 ヴィルジリオは彼を説明していった。 「この傲慢な者は、至高の神ジ , ーヴ = に反抗して自分の力をためそうとしたため、こんな酬い をうけている。名前はフィアルテで、巨人が神々の脅威だったころには、腕をふるったが、その 腕ももう使えない」 篇そこでダンテはヴィルジリオに頼んでいった。 「あの計りしれぬ大きさをもっているといわれる巨人プリアレオを私に見せてください」 するとヴィルジリオは答えた。 地「もう少し行くと巨人アンテオがいるから、君は彼を見ることで満足したまえ。彼は話をするこ ともできるし、縛られてもいない、彼はわれわれを、いちばん深い地獄へおろしてくれるはずだ。 君の見たがっているものは、ずっと遠くに繋がれており、形は巨人アンテオとまったく同じだが、 性質はずっと獰猛なのだ」 そのとき、巨人フィアルテが身震いをしたので、地面はひどく揺れ動いた。 やがて二人は前進して巨人アンテオのいるところへ行 0 たが、彼はすばらしく大きく、その身 体は洞窟から外に出ているところだけでも五アルラもあった。 「あのスキピオがアンニバレを撃破したバガラーダ渓谷で千頭以上の獅子をとらえて食べた者よ、

2. ダンテ神曲物語

の技巧はこちらのほうが、はるかにすぐれていた ある個所には他の被造物より高貴に創られた天使が、雷電のように天から落ちる図が、他の個 所には巨人プリアレオが雷電にうたれて冷たい死体とな 0 て地に伏す図が、また武装したまま父 親のまわりに集まり、巨人たちの散乱した肢体をじ 0 とみつめているティンプレオ、パラーデ、 マルテなどの神々の図が、パベルの塔の下で、す 0 かり当惑してセンナールで自分とともに傲慢 だ 0 た人々を眺めているネンプ 0 , トの図が、最後には殺される七男七女の子供たちに囲まれて 、レスティーナのジ = ルポエ山上で自刃するイスラエル王サウルの図が、倣 立っニオ・ヘの図が、。ノ 篇慢にもアテネと技を競 0 た罰として蜘蛛にされ、半分織りあが 0 た布の上で悲しんでいるアラグ ネの図が、驚き恐れて馬車を走らせているロボアムの図が彫られていた。また自分の死を予見し てテーベ攻撃に加わらなか 0 たのに、母親が黄金の頸飾りをもら 0 て夫の隠れ場所を告げたため 浄に、ひ 0 ばり出されて戦死したアルメオーネの図が、また、神殿の中に息子がおどりこみセンナ ケリプを殺した死体を放置したア , シリア王の図が、またベルシア王チー 0 がシティの女王 リスの子供を欺いて殺したとき、女王は彼を殺し、血の袋の中にその首を投げいれて傲慢な言葉 を発している図が、また、ア ' シリアの将軍オ 0 フ = ルネの本営に愛着したふりをして乗りこみ、 彼を殺してア , シリア軍を敗走させた寡婦ジ = ディ ' タの図が、また、焼けて灰になり空洞にな 0 たト 0 ィアの図が彫られていたが、このようなすばらしい影と線を示したのは、いかなる美術 家であろうか。死者は死者らしく、生者は生者らしく描かれていた。 さてダンテがこれらの浅浮彫りを見おわ 0 て、ふたたび前進をはじめたとき、前方に注意しな

3. ダンテ神曲物語

岩礁の上を進んだが、その時すでに時刻は四月九日の聖土曜日の午前七時になっていた。第六嚢 では偽善者が重い鉛の頭巾つきの外套を着せられていたし、第七嚢では盗賊が蛇に噛まれていた。 そして第八嚢では策師が炎に包まれていた。また第九嚢では不和の種をまいた者が悪魔の剣で斬 られていた。そこで、ダンテは血縁のジェリ・デル・ベルロを発見し、ダンテは立ち止まって話をし たい様子をみせるが、ヴィルジリオは残り時間が少ないという理由で許さない。二人はもうそれ までに十九時間を費やし、時刻は四月九日聖土曜日の午後二時になっている。第十嚢では偽造者 かた は癩病や疥癬にかかり、騙りは水腫病にかかって罰せられているが、ダンテはうつかり騙りの会 話に聞きほれてヴィルジリオに叱られる。第八圏と第九圏の中間に深い大きな井戸があり、その 周囲に巨人たちが鎖でつながれている。巨人の一人は二人を井戸の底に降ろしてくれる。第九圏 は氷原で、反逆者を収容しているが、第一円には血族にたいする反逆者が住み、首まで氷に漬け られている。第二円には祖国や自分の党にたいする反逆者が住み、氷に首まで漬けられ、目まで 凍っている、第三円には主人や食客にたいする反逆者が住み、同じく氷に閉じこめられている。 第四円つまりジ = デッカには恩人にたいする反逆者が身体をさかさまにして氷に閉じこめられて いた。ことに三大反逆者ジュダ、プルート、 カシオの三人は、三つの顔と六枚の翼をもっ地獄の 大王ルチフェロのロで噛みさかれていた。 さて地獄の呵責をことごとく眺めた二人は、これから浄罪界へ出ることとなったが、さいわい ルチフロは腰から上の上半身は北半球にあったが、下半身は地球の中にうずまり、南半球にあ ったので、ヴィルジリオはダンテを背負って、ルチフェロの腰にとりつき、氷とルチフェロの身 かた

4. ダンテ神曲物語

そのとき巨人の獰猛な口は「ラフェルマ ィアメグザーピアルミ」と叫んだ。 そのとき、ヴィルジリオは巨人に話しかけ チていった。 ニ「愚かな魂よ、怒りやその他の情念に駆りた のてられるときには、角笛でも吹いて気をまぎ らすがいし 、頸へ手をやってごらん、角笛を い結んである革紐があるのがわかるだろう」 ヴィルジリオはつぎにダンテにむかってい テ ろ「あの巨人は自分で自分を責めているのだ、 彼の名前はネンプロットだ。彼がパ・ヘルの塔 のをたてたため、世界中の人たちは統一された 地唯一の言語を用いられなくなったのだ。だ・、 人彼のことなど今かまうのはやめにしよう。わ れわれには彼の言葉がわからないと同様、彼 地にもわれわれの言葉がわからないから」 そこでヴィルジリオとダンテは左のほうへ どうもう

5. ダンテ神曲物語

はま麦でおおわれるように、おそらく健全な好意で捧げられた鷲の羽毛でおおわれていたが、ま た左右の轅や車輸も、溜息をつくため口をひらくよりも短い間に、す 0 かりそれにおおわれてし ま 0 た。こうして聖なる建造物は姿を変え、そのあちこちからによきによきと頭が出てきた。っ まり轅からは三つ、稜からおのおの一つずつ。そして最初の三つの頭は牡牛のように二本の角を 生やしていたが、他の四つの頭は額に一本の角が生えていた。また山車の残骸の山の頂上に、ひ とりのだらしのない遊女が登て、しきりにあたりを物色しはじめた。すると、誰かが彼女を連 れ去りはしないかと監視するように一人の巨人が、彼女のかたわらに立 0 ており、二人はときど 篇き接吻をかわしだした。そのうち、遊女はダンテのほう〈淫らな秋波をおくりだすと、巨人は怒 0 て彼女を頭の上から足の裏まで鞭う 0 た。そのうち、巨人は嫉妬に怒り狂い、凶暴になり、怪 物に変形したものをうち毀し、森の中にひきずりこんだので、森が盾となり、ダンテの目には遊 浄女も奇妙な獣の姿も見えなくなってしまった。

6. ダンテ神曲物語

さて、見ると、はるかかなたに多くの塔がたち並んでいるようにみえた。 そこで、ダンテはヴィルジリオに、つこ。 「あそこに見える町は、なんという名前なのでしよう」 するとヴィルジリオがいった。 「君はうす誾の中で、あまり遠くまで眺めようとするから、妄想が生じて真実でないものを見て しまうのだ。あそこへついたら、遠くからの感覚がどんなに君を欺くか、よくわかるたろう、た からできるだけ急ぎたまえ」 篇あたかも霧が晴れるにつれて、目が冴えてきて、空中にたちこめていた水蒸気によっていまま で隠されていたものが急に見えだすように、ダンテの目にはそのとき恐ろしいものが見えてきた。 それは一団の巨人の群であった。彼らは、あのシエナの北にあるモンテレッジョ城の城壁の上に 地そびえ立っ塔のように立ち並んでいたが、半身は井戸の中にあり、上半身だけがそとに出ていた。 ダンテはすでに、その一人の顔と肩と胸と腹の一部と、両脇にたれている両腕をみとめた。 自然が、軍神マルテの命令執行者をなくすために、大型の動物を創るのをやめたのはよいこと だとダンテは思った。もちろん、自然は象や鯨を創ったことを後悔してはいないが、彼らの理性 の機能が悪意と暴力によって支配されるなら、人間には勝ち目がないから、大型の動物の創造を やめにしたのは、思慮深いことであった。 巨人の頭は、あのローマの聖ビエトロ教会の前の巨大な松毬ほどもあったし、他の骨もその顔 と鈞合をもって大きかった。巨人の首の付け根から腰までは六・三メートルぐらいだった。

7. ダンテ神曲物語

もし、君が兄弟たちの大戦争のとき、地上軍の味方をしたなら、地上軍が勝ったかもしれないと いう者もいる。あのきびしい寒気がコチトを閉ざしている場所へ、われわれを降ろしてくれたま え。君がやってくれないなら、私はティッイオやティーフォのところへいって頼むつもりだ。こ こにいる男は君が日頃のぞんでいた名誉を君に与えるだろう。しかめ面をやめて、身体を曲げる のだ。この男は生きており、もし恩寵によって時期がくる前に召されないなら、長命を約東され ているから、君の名をふたたび現世で有名にすることもできるはずだ」 このヴィルジリオの言葉をきくと、あのエルコレさえ締めつけて苦しませた両手をさしのべて ヴィルジリオをつかんだ。 ヴィルジリオは巨人の手が彼をつかむのを見るとダンテにいっこ。 「ここに来たまえ、私は君を抱えるから」 こ、フいって彼はダンテと一体になるよ , つにしこ。 ボローニヤのガリセンダの塔を、その傾いているほうから眺めると、そのとき塔の上を雲が飛 ぶと、塔が頭の上へ落ちかかってくるような錯覚を抱くものだが、ダンテがアンテオが身をかが めるのを見たときも、そんな感じがした。そして、ダンテはそのとき、できるものなら、別の方 法で地獄の底に降りたいと思ったが、そのときはもう巨人は二人を軽々ともちあげ、ジュダやル チフェロのいる地獄の底に二人をそっとおくと、しばらくそのままの姿勢をしたあとで、ふたた び船の檣のようにまっすぐ身体を起こした。

8. ダンテ神曲物語

ェロの姿が見えるところへダンテをひつばっていった。 、 , ミ、巨人をその腕と比べるよりは、ダンテと巨 彼はその身体を胸半分まで氷の外に出してしオカ 人を比べるほうがやさしか 0 た。そのくらいルチフ = ロは巨人であ 0 た。彼はいまはひじように 醜い容貌をしているが、かってはそれと同じくらいに美しい顔をしていたのである。この者が創 造主〈反逆をしたのだから、彼がい「さいの悪の根源とな 0 たことも容易にわかるであろう。 ダンテは彼が三つの顔をも 0 ているのを見たときたいそう驚いたが、前向きの顔は赤色で、左 右を向いている白と黒の顔とは肩のところで付いていた。顔の下には二枚の大きな翼がついてい ・一うもり 篇たが、翼には羽毛はなく、まるで蝙蝠の翼に似ていた。 そのとき、ルチフ = 口が翼をばたばたさせたので三つの風が起こ 0 た。このコチトの氷原を凍 らすのもこの風であ 0 た。彼は六つの目で泣き、涙と血とよだれは、三つのあごをつた 0 てした 地た 0 ていた。ルチフ = ロの三つのロは一人ずつの罪人をくわえ、歯で砕いていたが、そのありさ まはまるで砕麻機のようであ 0 た。このようにして、彼は三人の極悪人を呵責していたのである。 三人の中でいちばん残酷に噛みくだかれ、ときには背中の皮が破けることもあ 0 たのは、前向き の顔にあるロにくわえられているジ = ダだった。 そのときヴィルジリオが説明した。 「ほら、あの高い所で最大の刑罰をうけているのは、ジ = ダ・スカリオットで、頭はロの中にあ るのに、その四肢は外に出ている。黒い顔のロにくわえられているのは、プルートだ、見たまえ、 もがいているが一言も発していない太 0 た身体つきの者はカッシオだ。しかし、夜は迫 0 ている

9. ダンテ神曲物語

ロヴ = ンツア人にも笑いはこなか「た、というのは他人の善行を自分の不幸とする者は邪道を歩 べリンギの四人の娘はつぎつぎにみな王妃となったが、それは賤 く者だからである。ラモンド・ ざん しい位の他国者のロメオの力によるものであ「た。しかしその後、王は讒言に動かされて、十で 七と五を得させた正しい人にたいして、清算するように要求した。ここにおいて、彼は貧しく老 いた身で去 0 ていった。だが、世人がもし一口一口と食をもとめながら、歩いたときの彼の堅い 心を知っていたなら、たいそう賞めてはいるが、もっと賞めるべきである」

10. ダンテ神曲物語

の性質について説明してください」 ヴィルジリオは答えた。 「知恵の鋭い目を私に向けたまえ、そうすれば、精神的な盲人でありながら他人の道案内をする のは誤りであることが明らかになるであろう。本能的にすぐ愛するようにつくられている魂は、 快楽によって目をさまされて活動しだすと、すぐにその好むすべてのもののほうに動くものであ る。理解力は実在するものから印象をひき出し、それを人々の心中にくり広げて人々の魂をそち らに向かわせるのである。印象へ向けられた魂が、そちらへ傾くなら、この傾斜が愛なのである。 そしてこの自然の愛は、快楽のおかげで、魂の中であらたに固まるのである。 つぎに、火は火炎圏のほうへ登りたがる生来の性質のゆえに、つねに高いほうへ動こうとする のと同じように、実在のものに愛を感じた魂の中には、精神的な動きであるある願いが起こって くるが、この動きは魂が愛の対象に堪能するまで停止しない。愛ならば、どんな愛でも賞賛すべ きだと信じている人には、真理がわかっていないことを諸君はさとったはずである。愛はその材 かた 質においては善いものとみえるであろうが、蝋はよくても、その上に押される印影はつねによい とは限らないのだ」 ダンテは、つこ。 「あなたの説明によって、愛の性質は明白になったが、そのために私の疑惑はいっそう強くなり ました。というのは、愛は外部から私たちに与えられるものであり、魂は他の方法では働けない ものなら、ある人の行き方が正しくとも正しくなくとも、それは魂の責任ではなくなることにな