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検索対象: ダンテ神曲物語
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1. ダンテ神曲物語

序曲・第二歌 くらやみの森 ( つづき ) , なっかしい故郷へ帰るためには、もはや地獄界をはじめとして三界を通過する以外に途がない 篇ときかされ、しぶしぶヴィルジリオの後に従 0 て歩きだしたものの、ダンテはやはり地獄界〈降 るのが恐ろしか 0 た。そこで、なんとかして、地獄界へ下降するのをひき延ばそうと思 0 て、 「案内人の詩人よ、危険な旅行で私をためすまえに、私の能力をよく考えてみてください」 地とヴィルジリオへ話しかけた。 つまり、ダンテのいわんとするところは次のようなことであ 0 た。古来、現身のままで、地獄 界へ下降したと伝えられるローマ帝国建設のもとをひらいたトロイアの勇士アイネイアスにも、 地獄界へ降って信仰の確証をえて、帰 0 てきてから布教につとめた聖パオロにも、それぞれ正当 な目的があり、神の許可があ 0 たからこそその旅行も安全だったのである。ところが自分はそん な価値のある人間でもなく、神の加護もないから、そんな危険な旅行をすれば人々から無考えな ことをしたといわれる心配があるというのであった。 そこで、すっかり気が変わり、心配そうに道のまんなかに立ち停ま 0 てしま「たダンテにたい

2. ダンテ神曲物語

はふと近くに上品な長い白いひげを生やした老人がいるのに気がついたが、四つの星が強くその 顔を照らしたので、その顔は太陽のように輝いた。そのとき老人は権威にみちたひげを動かしな がらいった。 「地獄の河をさかのばり、地獄界を脱してや 0 てきた君は誰だ。君の案内をしてくれたのは誰か。 君は地獄の法律を破って、勝手にここまで昇ってきたのかね、それとも天堂界が新しい規則をき めたので、地獄界の者もここへ来るようになったのかね」 そのとき、ヴィルジリオはダンテにむかって一言葉と手真似で、その老人にうやうやしく敬礼す 篇るように命じておいてから、老人にむかっていった。 くだ チェが降り、こ 「私は自分ひとりの意志でここへ来たのではありません。天堂界から・ヘアトリー 罪 の者の案内をするように頼んだので来ることになったのです。もっと詳しく説明しますと、この 浄者はまだ死んではいないのですが、愚かにも地獄の入口に近づき、その中に落ちこもうとしまし たので、私が救助につかわされたのですが、彼を助けるには他の道をえらぶことができず、つい にひとまず地獄界にはいり、そこで罪人たちの呵責を見せましたが、今度はあなたの支配してい る国では身を浄めている魂たちを見せたいと思います。要するに、天堂界の命令で私は彼をあな たにあわせ、あなたの言葉をきかせることとなりました。それですから、彼の訪問を歓迎してや ってください。彼は罪からの自由を求めており、そのためには命をも惜しみません。私たちは永 遠の法律を犯していませんし、この者は生きており、私はあなたの貞節な妻マルツィアのいる辺 獄からきました。彼女の愛にかけて私たちの願いをききいれ、あなたの支配する七つの圏を通る 159

3. ダンテ神曲物語

おお、あなたは他の詩人たちの名誉と栄光なのです。ご著書をながらく研究し深い尊敬を払って いる私を助けてください。あなたは私の先生で、また私の愛好する作家です。私の名前を有名に した美しい文体は、あなただけから学びとったものてす。私がおもわず背を向けたあの野獣を見 てください。有名な賢者よ、私をあの獣から救ってください。あいつは私の血管と脈を震えあが らせますから」 そこでヴィルジリオは三匹の野獣、なかでも取りわけ邪悪な牝狼について説明し、またダンテ が現世へもどるためにはどうしても別の道をとらねばならぬこと、つまり地獄界、浄罪界、天堂 界を通ってから帰国すべきことを語り、そして三界のうち最初の二つの世界の案内は自分がする が、最後の天堂界の案内はもっと高貴な霊にまかせるつもりだなど、こと細かに話してきかせ、 ダンテもそれを承諾して彼のあとに従っていよいよ地獄の入口めざして歩きだした。

4. ダンテ神曲物語

また、いかなる恩寵のためでしようか。しかし、できるなら、あなたは地獄のどの圏から来たの か教えてください」 そこでヴィルジリオが答えた。 「私は地獄界のすべての圏を通ってここまで来たのです。天の威力が私を動かし、私はその威力 をたずさえて来たのです。私はいま辺獄に住んでいますが、そこには呵責はありませんが、暗く ためいき 溜息にみちみちています。そこには原罪から解放されぬ前に死んだ幼児もいますし、信仰、希望、 慈悲の三つの聖なる徳はおさめなかったが、悪徳に染まらず、また他の諸徳をおこなった人たち 篇もいるのです。もし、それを君が知っており、また教えていいのなら、浄罪界のまことの入口ま ではやくいける道を教えてください」 すると、ソルデルロが答えた。 浄「私たちには一定の居場所はないのですが、浄罪界前域から浄罪界にはいる入口の辺までは自由 に歩きまわることができます。だから、私に行けるところまで、案内者としていっしょに行って あげましよう。ごらんなさい、太陽が傾きかけています。夜になるとこの山には登れません。だ から快適に夜を過ごせる場所を今のうちに捜しておいたほうがいいと思います。ずっと先の右の ほうに、魂の一団がいますから、あなたさえよろしかったら、まず彼らの所へおつれしましよう、 知合いになるのも、きっと愉快なことでしよう」 そこでヴィルジリオがいった。 「夜にこの山に登ろうとすると、他人に邪魔されるのですか、また夜は登れないから登らないの 181

5. ダンテ神曲物語

チ .. エ・よ、つ , ) 0 さて徴笑の光でダンテを圧倒しつつべアトリー 「目の向きを変えて聞くがよい、天堂界は私の目だけにあるのではないのだから」 ひとの感情が魂全体を占めるとき、現世においてもそれは目に現われることがあるが、ダンテ がふり向いて見たカッチャグイダの聖なる光明の輝きにも、まだしばらくの間はダンテと話をし ていたい意志があるのを認めた。 そしてカッチャグイダはいっこ。 「根からでなく梢から栄養を得て、つねに実を結び、葉を失わない木ともいえるこの天堂界の第 五天には、幸福なもろもろの魂が住んでおり、彼らは天堂界に来る前に、現世でいかなる詩人を も富ますほど名声が高かった。それゆえ、十字架の腕木を見るがよい、私がこれから名前を呼ぶ 魂は、まるで稲妻のように動くであろう」 そしてカッチャグイダがヨス工という名を呼ぶやいなや、たちまち一つの光が十字架を伝って 動くのをダンテは見たが、言葉と行為のいずれが先であったかわからなかった。また尊いマカべ オの名前が呼ばれるやいなや他の一つの光がくるくる回りながら動きだすのを見たが、その場合 独楽の糸に当たるものは喜悦であった。カルロ・マーニョとオルラ・ンドの名前が呼ばれたとき、あ たかも自分の飛びたっ鷹を追う目のごとく、ダンテの注意深い目は、その二つの光を追った。さ らにグリエ . ルモ、レノアルド、ゴッティフレディ公爵、ロベルト・グイスカルドなどがダンテの 目をひき、十字架を伝わせた。しかしやがてダンテに向かって話をしていた魂も、他の光のあい だに移り、彼らとまじり合って天堂界の歌手の中にあっても、いかにすぐれた芸術家であるかを

6. ダンテ神曲物語

を照覧あれ。大熊星が小熊星とともに回転しながら毎日支配する北方からや 0 てきた未開の人々 は、人間のなす業でラテラーノ宮殿が他に卓越していた時代の 0 ーマとその壮大な事業を眺めて すらたいそう驚いたのであるから。人間界から神界〈、時に制約された現世から、永劫の場所〈、 またフィレンツ = から正しい健康な住民のいる天堂界へ来たダンテよ、、、 。し力に大きな驚きでみた されるべきだろうか、たしかに驚きと喜悦のあいだにあ「て、ダンテは何も聞かず、何もいわず にいたか 0 たのだ。そしてあたかも巡礼が誓願をかけた神殿の中で、あたりを見回しつつ、 心を 慰め、はやくもそのありさまを人に伝えようと考えるごとく、ダンテは純白のばらを形成してい る聖徒と天使たちを眺めながら、もろもろの段階に沿 0 て、あるいは上、あるいは下〈、またあ るいは周囲〈それを移しながら、神の光と自分の微笑にかざられた愛を、他人を愛に導くもろも ろの顔とすべての徳で飾られたもろもろの態度などとい 0 しょに眺めた。 ダンテはすでに天堂界の総括的な形を、すべて眺めてしま 0 たが、その中のとくにどの部分に も目を据えなか 0 た。そこで、新しい願望に燃やされて、ダンテの心に疑いをいだかせたものに ついて、べアトリーチ = に質問しようと思 0 てふり向いてみると、そこにはダンテが想像したの と別の人がいて質問に答えた。ダンテはべアト丿 ーチ = を見るつもりであったのに、目にうつつ たのは、栄光の民と同じ白衣の老人聖ベルナルドであった。 彼の目と頬とには慈愛の深い悦びがあふれ、その憐れみ深い物腰はやさしい父親にと 0 てふさ わしいものであった。 ダンテが「べア ト丿ーチ = はどこへいきましたか」ときくと、その老人は答えた。 460

7. ダンテ神曲物語

浄罪篇 子供のように一刻たりともじ 0 としていない天圏が、第三時の終りと一日の初めのあいだに示 す距離と同じだけの道程を、いまや太陽は日没までに残していた。浄罪界はいまは夕方であ 0 た が、地球はいま真夜中であった。 ヴィルジリオとダンテは、すでに多くの峰を回り、西に向か 0 て真正面から進んでいたので、 太陽の光は彼らの鼻の中央を照らしていた。すると、いきなり一段とつよい光線がさしてきたの で、ダンテは額が圧せられるのを感じた。そこで両手を眉の上にかざしたが、それはどうやら反 射光線のようであった。 そしてダンテはヴィルジリオにたずねた。 「優しい父よ、あの光はなんですか。あの光にうたれると目を蔽 0 ても、さえぎれません。どう やら光は私たちのほうへ進んでくるようです」 第十五歌 浄罪界の第二円 ( つづき ) 兄弟愛の天使。浄罪界の第三円ここでは憤怒の罪が浄められて いる。そのため魂たちは濃い煙に包まれているが、煙は彼らの目をふさぎ、息をつまらせてい る。寛容の実例。聖母マリア、ピシストラート。 217

8. ダンテ神曲物語

全篇の序章四つの星、カトーネ。ヴィルジリオとダンテは浄罪界の海辺に立ち、そこで島の 番人力トーネと会った。カトーネは二人の詩人のここへ来た理由を知り、浄罪山の登山を許す が、同時にヴ , ルジリオに命じて、岸辺の一 1 を抜いて、それでダンテの腰を縛り、顔を沈 0 て地獄の穢れを落とさせる。 さて浄罪界にはいったダンテは、才能の小舟に帆をあげて、第二の王国について述べることと なったが、ここでは人間の魂は浄められ、天堂界に昇るにふさわしくするための準備がなされる のであった。 さて、ここでは地平線にいたるまで、ずっと遠くまで空気が澄みわたり、晴朗な風景の中に漂 う東洋の碧玉をおもわせる快い色彩ま、、 。しままで地獄の風景を見て悲しんでいたダンテの目をよ ろこばせた。そして恋に誘う美しい金星は、東の空を輝かしたので、その供の双魚宮を隠してし まった。そのときダンテが南極のほうを眺めると、いままでアダムとエヴァ以外は見たことのな い四つの星を見た。 やがてダンテが北極のほうに目をむけると、北斗星はすでに姿を消していた。そのときダンテ 第一歌 158

9. ダンテ神曲物語

体との間隙を通って、地球の中心に出て、身体を一回転して南半球に出た。さて、南半球へ出て みると朝の七時半である。ところがついさきほどルチフェロを見たときは夕方であった。そこで ダンテが迷っていると、ヴィルジリオが北半球と南半球とでは時差が十二時間あるので、時刻は 十二時間あともどりして、いまやっと四月九日聖土曜日の午前七時半であると説明したので、や 、つこ。しかし、二人が出たところは、南半球の地下道の中なので、地表へ達す っとなっとくがしオ るまで単調な道をそれからさらに二十一時間歩かねばならなかった。かくして二人が地表に達し、 浄罪山の麓についたのは四月十日復活祭日曜日の午前五時であった。 浄罪界は浄罪山と呼ばれる山からできているが、その麓は浄罪界前域という所であった。草の 露で地獄のけがれをおとし、海岸の穉草で腰をしばり、心を堅固にしたダンテはまず、そこの番 人力トーネの尋問をうけるが、無事通過する。そこへ天使の操縦する舟で多くの魂が到着するが、 その中にダンテの友人の音楽家カゼラがいて、恋歌をうたって一同に披露すると、ふたたびカト ーネが現われて、ぐずぐずしないで登山するように命じる。さて浄罪界前域の第一の高台では怠 慢な魂が岩陰にすわ 0 ているのを眺め、第二の高台では暴力死をとげ、死に臨むまで痛悔しなかっ た魂を眺め、そこでイタリアとフィレンツ = の未来に関する予言をきく。そのうちに、第一夜が やってきてダンテは神秘的な夢を見る、朝になってまた歩いていると、真の浄罪界の入口を発見す るが、抜身の剣をも 0 た天使が門番としてすわっており、ダンテの額にという文字を七個刻む。 それは罪という意味で、やがてこの山の頂上へついたら消えるということであった。そして、金 と銀の二つの鍵で門をあけ、ヴィルジリオとダンテはその中にはい 0 た。浄罪山の第一円では傲慢

10. ダンテ神曲物語

浄罪界前域 ( つづき ) ここには痛悔を怠 0 た諸侯の魂たちが住んでいる。やがて夜がやって きて、ダンテは神秘的な夢を見る。つまり、それは鷲とルチアの夢である。浄罪界の門と門番 の天使、門をはいるための儀式、二個の鍵で門の扉がひらかれる。 アウローラの女神はすでに東の露台で白んでいたが、彼女の額はさそりの形に配置された星で 飾られていた。さて、ダンテたちがこの世界へついてから、すでに二時間五十九分が経過してい 草の上にはダンテ、ヴィルジリオ、ソルデルロ、ニーノ、クルラドの五人がすわっていたが、 その中でただひとり肉体をまだ有していたダンテは、他の者よりも先に眠くなって草の上に臥し 深い睡眠に陥った。しかし、燕が歌い出す朝まだき、ダンテは一つの夢を見たが、夢の中で自分 はどうやらイーダ山頂にいるように思われ、頭上に大空に輪をえがいて飛んでいる一羽の黄金の 翼を見たような気がした。しかし、そのうち鷲はさっと舞い降りるかと思うとダンテをさらって 火炎界へ舞いあがった。しかし、そこでは火があまりにも激しく燃えていたので、そのため夢は ゃぶれダンテは目を覚ました。そして、あたりの風景が一変しているのを見ておもわす身を震わ 第九歌