ンテが心の泉から水を出すことに同意することを態度でしめした。 ダンテは話しはじめた。 「高位の長官の面前で、信仰の告白をすることを許したもうた恩恵よ、それについて十分に私の 考えを述べることを得させたまえ、父よ、ローマを正しい道へつかせるため、汝と協力した汝の 愛する兄弟聖パウロの真実の筆がしめすごとく、そもそも信仰は希望すべき事物の保証、見えな い事物の証拠であります。これが信仰の本質だと考えられるのであります」 するとその魂はいった。 篇「汝の考えは正し い、だが彼はどんな理由で信仰を初めに本体のなかに、つぎには証明の中に置 いたのかわかるか」 堂 そこでダンテは答えた。 天「ここで私にその姿を明示している深い神秘をふくむ事柄は、下界に住む人々の目には隠されて います。それだから、その本体は、下界で私たちの高い希望が基礎としている信仰によってのみ 存在しています、それゆえ信仰は本体のような性格をとるのであります。また、人が他の方法で えんえき 見ても判断できぬので、この信仰から演繹する以外には方法がありません、そのため信仰は証明 のような性格もとるのであります」 そのとき、つぎの質問がとんできた。 「もし何事でも、下界で教義で知られるものが、かく理解されるなら、詭弁家がをもちいる余 地はないはずだ。この貨幣についてはその混合物とその重さはすでに十分しらべた、だが汝がそ
ト ) ; ーチ - 工ま、つ , ) 。 「おん身の考えが幼稚だと思って、私が徴笑したといって怪しんではならない。それはおん身の 足がまだ堅く真理の上に立っておらず、例によ「て空なる考えに向かわせるからだ。いまおん身 が眺めた者は、誓願を果たさなかったためここへ追われた真実の魂なのだ。それゆえ彼らと語り、 またその話をきいて信じるがよい、彼らに平安を与える真実の光は、自分たちから彼らが離れ、 足が迷うのを許さないのだから」 そこで、ダンテはその中でもいちばん話したがっているように見える魂に向か 0 てい 0 た。 「おお、神に向かうように作られた魂よ、味わわねば知ることのできない天上の悦びを神を仰ぎ みることによって味わう者よ、もしもあなたの名前と状態を告げて私の心に満足を与えてくれる ならまことにありがたい」 すると彼女はこころよく目に笑みを浮かべていった。 「私たちの愛はその門を正しい願いにたいして閉じません。それは天堂界の住人を自分に似させ ようと欲する神の愛と同じです。私は現世では聖キアーラ派の修道女でしたが、いまなお昔にま さる美貌をもっていることをあなたに隠そうとは思いません。もしあなたが、。 こ自分の記憶の中 を探るならば、私がピッカルダ・ドナーティであることにお気づきになるでしよう。私はいまこ れらの聖徒とともにおかれて、いちばん歩みの遅いこの天体で恵みを受けています。私たちの願 望は聖意に適うものだけが燃えるのですから、その秩序に従うのを喜びます。また、このように 低い境遇に置かれているのは、私がたてた誓願をなおざりにしたためと、またその一部に欠ける
るものが後から置かれるものの中にはいるこ 一画とが、四が六の中にはいるごとくでなければ、 変更は正しくないと知るがよい それゆえ、自分自身の価値のために重くて 33 一・どんな天秤でもぐ 0 とひき下げるような物は、 一当ン他の捧げ物によって償えないのである。死す ヴべき人間よ、戯れに誓いをたててはならない。 それに忠実であり、イエプテのしたように無 テ 考えな誓願をしてはならない。 ′のと誓いを守り失敗するより、自分はまちが 0 纛チていたといってやめるほうがよい。おん身は ギリシア側総大将アガメムノンがたいそう愚 ツかであったのを知 0 ているであろう。それで たイフィジェニアはおのれの美貌のために泣き、 達その不幸のためかかる祭祀のさまをきいて、 ′物、「賢者や愚者をも泣かせたのである。クリスト 教徒よ、行動は慎重にせねばならない、わず かの風でそよぐ羽毛のごとくであってはなら
まだ浄罪山の上にいるものとばかり思っていたダンテには、なにがなんだかわからなくなり、 その理由を知りたくなった。 そこで、ダンテの気持を察したべアトリー チェは、、質問されるまえに舌しだしこ。 「おん身は間違った考えで、自分を鈍感にしているが、そのような考え方をすてるなら、いま見 ているものも、おん身が考えているようなものでないことに気付くであろう。おん身はまだ地上 にいると思っているかもしれないが、じつは雷電といえども及ばないほど速い速度で天を飛翔し ているのだ」 この説明で、ダンテは第一の疑問から解放されたが、心中に第二の疑惑が起こった。 そこでダンテはいっこ。 「私はいま目に見えている不思議な光景についてはなっとくがいきましたが、なぜ肉体をもつ人 間が空中を飛べるのかわかりません」 ペアトリー チェは溜はをつき、まるで少し気が狂っている息子に話すようにいっこ。 「万物はその間に秩序をもっているが、それは宇宙を神に似させる形式なのである。宇宙の秩序 の最終目的は神に向かうことである。そして神の刻印をその事実の中に発見する。自然のすべて の物は、それが神に近いか遠いかにしたがって、さまざまの段階をもってそのような秩序と一致 している。それゆえ、みな自分の受けている本能にしたがって、存在の大海を渡って多くの異な る港に向かうのである。火を月に送るのもこれ、動物の心を動かすのもこれであり、地をたがい にあわせて重心を一つにするのもこれである。この本能の弓は理性の欠けている被造物だけでな 312
第一天 ( 月天のつづき ) ここには誓願を全うしなか「た魂たちが住んでいる。ピ ' カルダ・ トナーティと白亠妃 . コスタンツア。 チェは、いま正しい考えと誤った考えとを証しな 篇昔ダンテの胸を愛で暖めてくれたべアトリー がら、美しい真理のやさしい姿を彼に示した。 そこでダンテはよく了解したということを口に出していおうと思 0 て、頭をもたげると、ちょ 天うどその時に、あるものがダンテをひきつけたので、喉まで出かか 0 た言葉を忘れてしま「た。 ひとがその姿を透きとお 0 た磨きあげたガラスやまたはあまり深くない澄んだ静かな池に映す とき、私たちの俤ばひじようにかすかに見えるが、それはまるで白い額につけた真珠の玉のよう に目につきにくい。ダンテはそれと同じように、なにかたずねたが 0 ている淡い顔色をした人間 の顔をたくさんそこに認めた。あのギリシア神話のナルキッソは、自分の影を実物と思いこんだ のであるが、ダンテは反対に実物を影と思い誤 0 たのである。つまり、そこに誰かの顔が映 0 て いるのかと思 0 て、振りかえ 0 てみたが、そこになにもなか 0 たので、ふたたび視線を前に移し、 チェを眺めた。 聖なる目を輝かしつつ微笑している・ヘアトリー 第三歌 あか 319
そのために、彼らの観察は、新しいものによって妨げられず、ある観念は、彼らによって分離さ れるので、記憶も必要ないのである。だが、下界では眠らずに夢想し、それが真実を告げると信 じたり、信じなかったりすることがあるが、後者は前者より罪深く、恥も多いのである。下界に あって、おん身らのたどる哲学的行路は一つではない。それは外見を飾る欲と想いとに惑わされ るからなのである。だが、それとても、福音書が疎んぜられ、曲解されるのに比べれば、それが 天上で受ける憎悪はずっと少ないといわねばならない。その書物を広めるために、、かほど多く の血が流されたことか、また謙遜にそれに親しむ者が、いかほど聖意に適うかは下界では考えな いのである。各人は外見のために努力し、さまざまの異説をたてれば、これらの教えを説く者の 議論するところとなって、福音書は沈黙してしまう。ある者はいう、クリストの受難の時、月が あとしざりして中間を隔てたため、日の光が地球に達しなかったのだと。またある者はいう、太 陽はみずから隠れたのであり、ユダヤ人だけでなくスペイン人やインド人も、等しくそれが欠け るのを見たと。フィレンツェにどれほど、ラーポやビンドという名の平凡な市民が多いとしても、 年ごとにあちこちの説教壇から叫ばれるかかる浮説の数にはとうてい及ばない。それゆえ、なに も知らぬ羊は風を食して、牧場へ帰るし、おのれの禍いに気づかないことも、彼らの弁解にはな あだしごと らない。クリストはその最初の弟子たちに向かって、行って徒一一 = 〔を世に述べよといいたもうたの いしずえ いしずえ ではなく、真の礎を彼らに授けたのである。この礎だけを彼らは唱えたのだ。それゆえ信仰 ざれごとたわけ を燃やすために戦うとき、彼らは福音を盾として戦「た。いまや人は戯言や戯謔をも 0 て、教義 を説き、ただよく笑わせるために僧帽は虚栄でふくれあがる、しかも、彼らの求めているのは、 たて
まり羨望のため罪を犯したことがないからです。私はむしろ第一円で罰を受けることのほうが長 いでしようが、そのことが私を不安にしています」 サピアは、つこ。 「あなたはふたたび現世へもどられるとお考えのようですが、こんな高い所まであなたを導いた のは誰ですか」 ダンテは答えた。 「それは私のそばにいてものをいわぬ者です。私は生きています、選ばれた魂よ、あなたが現世 篇になにかをお望みならいってください」 彼女はいった。 罪 「おお、それは今まできいたことのない新しいことです。それは神があなたを愛したもうた証拠 浄です。ときおり、あなたの祈りで私を助けてください。また、あなたが切望する神のみ名によっ 、トスカナへおいでになったら、私の近親の間に私の名誉を回復してください。 てお願いしますが 私はシエナ人が捜しているディアナ河よりも多くの望みをタラモーネの港にかけています。しか しその改修工事を指揮する人は、けつきよく無駄に金を費やし、あまっさえ一命までも失うでし 211
第十六歌 第五天 ( 火星天のつづき ) ここには信仰のために戦った者の魂たちが住んでいる。カッチャ グイダの時代のフィレンツ工とその市民。 「おお、血統の高貴であることなど、はかないものである。人間の情の衰えていくこの現世で、 篇人々がそれについて誇ったって驚くには及ばない。私は真の幸福を追究するところ、つまり天堂 界においてすらそれを誇ったのだから。血統の美は時間が鋏で切り、短くするから、たえず他の 布でつぎ足さねばならない外套のようなものである」とこのようなことをダンテは心の中で考え 天こ 0 ダンテが相手にむかって「ヴォイ」という代名詞を用いて話しはじめようとすると、すこし離 ト丿ーチェは徴笑したが、 れたところで、ダンテとカッチャグイダの会話を見まもっていたペア それは王妃ジネーヴラが最初の過失を犯したとき、咳をして警告した侍女に似ていた。 ダンテは、つこ。 「あなたは私の祖先ですね、あなたは私を励まして語らせ、私をたかめ、私にまさる者になさい ました。さまざまの原因から、嬉しさが私の、いにみちたので、、いは乱れずに嬉しさに堪えること のできたのを喜んでいます。さて、わが愛する先祖よ、どうそ教えてください。あなたの先祖は
第二天 ( 水星天のつづき ) ここには活動的に善行をした魂たちが住んでいる。ジュスティニ アーノ帝が、ローマ帝国の旗印について語り、それを私物化しようとする党派を非難する、美 わぎ 名を求めて多くの業をなした善い魂、ロメオ。 「ラウイナを妻としてめとったアイネイアスがトロイア落城後、イタリアへ行き、ローマ帝国の 基礎をおいたが、コスタンティーン帝がその都を天体の運行と反対の方向にかえた。そして二百 年以上の年月の間、ローマ帝国の旗印の鷲は、トロイアの山々にちかいヨーロッパの東端のビザ ンテイウムにとどまり、そこで聖なる翼のかげで世界を支配していたが、主権は一人の皇帝の手 から他の皇帝の手に移り、ついに私の手に達したのである。 私がいま感じる聖霊の鼓吹により、律法の中からよけいなものと無益なものとをとり除いたが、 さが 私がこのような仕事を手がける以前は、グリストの性は一つで、それ以上はないと信じ、このよ 、こ。しかし、至高の牧者で祝福されたアガビートは、その言葉をもって私 うな考えに満足してしオ を一つの誠実な信仰へ導いてくれた。私は彼を信じていたが、いまになってみると、君が指摘す るごとく、 いっさいの矛盾には、虚偽と真実があるのを知った。私が教会と足なみをそろえて歩 第六歌
ゆた 「神がその裕かな恩恵によって創造したもうものの中で、もっともその徳にかない、かつもっと も重んじたもうた最大の賜物は、自由意志であるが、知恵をもっている被造物は、ことごとく、 またそれらに限って今も昔もそれを授かるのである。 もし、おん身がこのことから推論するなら、誓約の価値なるものは、人が賛同したうえに神の 賛同が加わるなら、 いっそう高くなるのは明白である。それは、神と人間が契約を結ぶにあたり、 不はいま話した宝物つまり人間の自由意志を神のために犠牲に供するが、しかもそれを自山意志 にもとづいて、そうするのである。それゆえ何物をもって償うことができるであろう。捧げたも のをふたたび他に利用しようと思う者は、盗んだもので善事をなさんとする者である。おん身は すでに要点をつかんだはずである。しかし、聖なる教会は誓約のとき、私がおん身にしめした真 にそむいているように見えるから、おん身はまだ食卓に向かってすわり、おん身の食した硬い食 物が消化するようにさらに助けをもとめる必要がある。心をひろくもち、私がおん身にしめすも のを受け、それを心の中に収めるがよい、聞いても覚えておかねば知識とはならないから。自山 を犠牲にする契約は、二つの要素からなるが、その一つはそのために契約の結ばれる目的であり、 その二は契約のとりきめの条件である。後者はそれを果たさねば消えないが、それについては私 はすでにはっきり説明したはずだ。おん身も知っているとおり、エプライスは捧げ物いかんでは、 それをかえることができたが、なお捧げ物をせざるをえなかった。前者つまり契約の内容として とが 知られるものは、それを他の材料でかえても咎にはならない。 しかし、白色の鍵と黄色の鍵を回 すのでないなら、何人もその背負った荷物を自由にとりかえてはならないのである。だが除かれ