レンズ雲 , 撮影者は前頁に同じ .
北氷床の風下に発達するレンズ雲 . 150
突然黒い水面が現 海の穴を見つけて、急降下した。狒き上がる雲の中を浮き沈みしながら突っ込んて行くと、 一面の雲海 われる。サン・ラファエル水河末端から北に延びる細長いフィヨルドのエレファンテス付近だ。 の中を正確にここへ降りて来たパイロットの腕前に感むする。幅三キロメートルぐらいのフィヨルドの上の雲 底と海面の狭い隙間を南下して行くと、行く手に砂州 ( モレーンの一部 ) が現われ、その向う側左手に目指す サン・ラファエル水河が白く輝いている。水河の末端湖の上に出て、流水が一面に浮いて臼浪のたっている湖 の上から東をみると、幅二キロメートルほどの水河がはるか向うの雲の中から流れ出し、高さ百メートル近 もある壁となってのほうにせり出している。飛行機は左岸沿いに超低空て水河を這い上がって行く。水河の 表面は無数のクレバスて縞模様となっている。両岸は黒褐色の岩て、ところどころ小さな支流が流れ込んてい この る。望遠レンズて表面の細部を記録しようか、広角レンズて全容をつかもうかとレンズの交換に忙しい 後水河の上て気象観測をする予定の大畑君は、観測場所とそこへのルートの選択に神経を集中している。 中流部から上に来ると新雪に覆われた水の面の至るところにサファイヤをちりばめたような小さい水韶まり が点々と見える。この水河が大変融水に富んだものてあることを直感した。何度もここへ来たことのあるハイ ロットは、私たちが観察しやすいように水の面すれすれに二度も水河の上を旋回してくれた。最初の計画ては、 この水河を登りつめて北水陸の中央に出て、反対側のソレール水河へ降りることを考えていたが、水河の上流 は雲に閉ざされていて、それは不可能てあることがわかった。やむをえす予定を変更して、再び水床の北側の 雲の下を東へ回り、私たちの目標の一つてある東側のソレール水河の中流へ峠越えに到着する。西側のサン・
白雲の乱舞 太平洋岸には暖かいフンボルト海流 珍しい雲の写真のコレクションをしたい人はパタゴニアへ行けば良い。 が流れていて、充分な水蒸気が大気に供給される。パタゴニアの氷床はアンデス山脈の南端にあって、南半球 、ては定常的な上昇流、アルゼンチン側ては強い下降流を維 の年中強い西風 ( ジェット気流 ) を受けて、チリー側 持している。大昔の水河浸蝕によって大小無数の山々の間には深くえぐれた谷がある。陶芸家がろくろを用い ここてはいろんな形の雲が自由に作られている。 て次々と名器をつくっていくように、 ハタゴニアを象徴するもっとも豪快な雲は、空一杯に東西に延びるレンズ雲てあろう。氷河の麓にやってき た人々は、この巨大なレンズ雲の中に波状の縞が白黒の濃淡て彩どられているのを見て、恐ろしい風が水床を 吹き渡っているのを知る。下から見れば美しい風景だが、飛行機てその上を飛ぶパイロットたちゃ、水床にと りつ、 ( た登山者や調査隊員にとっては死の恐怖を思わせるものだ。私たちが初めてパタゴニアを訪れた二十年 前頃は、プロペラ機て水床上を飛ぶのは極めて危険てあったのて、プエルト・モントからプンタ・アレナスへ 国交が難しくな くだけはアルゼンチン領内を迂回して飛ばせて貰っていた。 飛ぶチリーの国内線も、氷床の近 ったことと、ジェット機時代になったために今は氷床上を一直線に飛んているが、下から見上げていると、ジ ェット機の飛んだ跡には、日本て見られるよりもさらに鮮やかな飛行機雲が空一杯に線を描き、上空に水蒸気 が一杯含まれていることを示している。 Ⅲパタゴニアの自然
風下側のソレール水河の下流から「こま落とし」の八ミリ映写機て小林隊員が撮影した映画を見ると、今ま ぞ青一色だった空の彼方の峠付近に一寸白い雲が見え出したかと思うと、雪崩のように白雲が流れ落ちてきて、 あっというまに水河の上一帯が暴風雪となる。。ハタゴニアては、風は上下方向にも速度が変化するが、峠を抜 ける風と回りの風との間て水平方向にも風速差が生じ、ちょうどろくろて拵えた壺のように、あるいはお正月 の二つ重ねの鏡もちのように 、鉛直方向に軸をもった回転性の雲が出来る。これは地形の影響て出来るため、 一日一出来ると消えることも移動することもほとんど無く、水床の上にあちらに一つ、こちらに一つと居すわる。 私たちはこれを「雲」と呼んだ。この雲はある場合には雄大な石臼のような姿になり、ある場合には白 い碁石のように薄手の可愛い姿となる。またある時には一時的に狼煙のように細長くたちのばる雲になること もある。 熱帯てはないのて雄大な積乱雲になることは比較的に少ないが、時には雷を伴った背の高い、雲底に乳房雲 を持った発達した雲が出来ることもある。水床地帯を北に少し離れると、日本てもよく見られる、蒼空をバッ クにした積雲がのんびりと浮かんている風景が見られ、氷床を離れたことを感じさせられる。 フィヨルドは上空の強い風から山かげに隠されているのて、低くたれこめた層雲が名物てある。フィヨルド 名物シバスコス ( しぐれ ) は、日本の冬の日本海側をおもわせる。夏てもほとんど毎日のように、フィヨルドの 奥深くから、幕のような層雲が近づいてくるかと思うとシバスコスが頬を打つ。。、 ノタゴニアのフィヨルドの中 ては初冬の山陰沿岸のような天気が年中続くと考えればよい。 148
のろしのような雲 . N
北氷床東側の変形したつるし雲 . 146
ー ' 上空 00 るし雲 、タゴ ニアの自殃
分たちてやる。 乱気流をついて飛行 ごとい - フのに強風が吹き、生月れたかと思うとにわか雨がやってくる空を眺めて、何時 今日十一月十五日も夏だ 飛べるのかと気が気てない。水河へ船て出発する予定日が近づいているからだ。公園の近くのリセールという 軽食堂ていつものように昼食をとっていると、十四時に飛行場へ来るようにとのハイロットからの連絡が入る。 双発プロペラ六人乗り、座席へは翼の上を歩いて入る。大事な翼を傷つけないように入り、それぞれカメラを かまえて場所を占める。朝日新聞の松井記者は前のテープルに地図や筆記道具をきちんと並べていたが、飛び 立った飛行機が乱気流にまきこまれると全部ふっ飛んて床の上に散らばってしまった。機は舞い上がると、一 路南西十キロメートルほどの北水床に向う。低い山脈を越えると、イバニエス川の広い川沿いの谷底平野にさ たちまち雲海の中に入って、乱気流のために しかかる。下の牧場やまわりの低い山々に見とれているうちに、 ファインダー 機は上下左右に翻弄される。窓外へ向けたカメラと私たちの身体は振動の周期が異なるらしく、 を覗いたままていることは不可ム月 皀ご。ベルトをしめていても頭は度々天井にぶつかり、カメラたけを何とか窓 外に向けておいて、振動の収まる瞬間にシャッターをきる。 北水床の北端に近づいた頃、雲海の上に最高峰サン・バレンティンの英姿が突き出ているのが瞬時見られた。 ハイロットはちょっとした ~ 云 雲頂は三千メートルぐらいて、私たちの飛行機も雲項近くを飛んているらしい Ⅱ北水床調査紀行
おわりに 0 装丁・レイアウト加藤光太郎 表サン・ラファエル水河末端の夕暮れ 裏上っるし雲下チリー国花コイコビウェ Ⅲハタゴニアの自殃 水河の陰に咲く花風に飛ばされる蝶白雲の乱 舞水の造形水河て知るグロー バルな気候変動 ルバタゴニアの人々 アラカルーフ フェルト・ エデンて働く人達プ ンタ・アレナスの友だち老神父の気象観測国 境 「持てる者と持たざる者」 フェルト・モン トのインディオ達港町アイセン水産加工て賑 わう島