ケート - みる会図書館


検索対象: めざめれば魔女
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1. めざめれば魔女

火のない暖炉のわきに立ってジャッコのかいた絵を見ているうちに、ケートは靴をぬいでなに げなくそこにおいたのだ。ジャッコの絵は幸福そうな一家の絵だった。それしかジャッコにか だいたん 、かがくて *J けるものはなかったのだ。大胆な、けれど幾何学的な絵で、ローラとジャッコとケートの三人 はどれも頭でつかちで、足は短かく、思いきり大きく笑ったロは顔からはみでていた。ケート えがお はこの笑顔に気分が落ちついて、マントルビースの上にあった靴をはくと、まっすぐ歩き始め / いうことをきいてもどってきた靴に、これ以上腹をたて続ける道理はない。 しかし、現実の世界をはなれてしまっていたローラにとって、もとにもどるのは容易なこと ではなかった。ローラはくすんだ空を見上げた。ほんの十分ほど前まで空はまじりけがなく、 す ざんにん 澄んで、美しかったのに、今は夏が体重全部を家にのしかけてきて、熱い、残忍な息をこちら に吐きかけてきているような感じがした。 、スケットはどこ ? 」ケートカきいた。ジャッコは、、ハスケットをとりに・走って した。バスケットには清潔なジャージーと洗いたてのパンツのほかに、図書館から借りた本 がいく冊かと、ジャッコのお気に人りのトラの絵本、それとフルト製の、ジャッコがローズ ッド ()( ラのつぼみ ) と名づけている、笑っているビンクのワニが人っている。ジャッコはか かえていたフワフワをていねいにたたんで、これらのだいじな持ちものの上に置いた。 だんろ

2. めざめれば魔女

「そんなの、わからないじゃない。」ジャ〉「のけいれんよりケートのヒステリ ' クなもの さけ 言いがこたえて、〔ーラは叫んた。それから急いでことばを足した。「ううん、あたし、わか 0 てるの。だけど、言「た「て、母さん、たぶん、信じてくれないもの。」 ケートは立ち上が「た。はお「ているブルーの部屋着は古ぼけているが、以前はと「てもき れいだ 0 た。 0 ーラは五年前のことをまだおぼえている。ケートがこのブ ~ ーの部屋着を着て いるのに気がいた父さんは、 0 ーラの見ている前でケートを抱きしめ、その金髪をなで始め たのた。。ーラは大人「てなんて不思議なんだろうと思い、胸がわくわくしてきたものだ「こ。 しゅうしふ や「とこれでふたりのけんかに終止符が打たれ、これからはもう二度と悪いことは起こらない だろうと思「たのだ。あの時のケートの目は眠そうに笑 0 ていた「け。。、、 カ今ローラに向けら れたケートの目は不安そうに大きく見開かれ、怒りがこみあげてきているようだ 0 た。 「〔ーラ、あんた、こんどのことで、古物商の男と、その男が押したタ一プがどうとか言 「てたわね ? 」ケートはあやしむようにきいた。 「何かがジ ~ 〉「から出て、あの男の中に人「てい 0 てるのよ。」〔ーラは断定した言い方 をした。「盗みだされているのはジャッ「の生命力よ。」 しいかげんにしてち = うだい ! 」ケートの怒りが爆発した。「ばかげたスペースインべ ツ、カ、 138

3. めざめれば魔女

ラはローラがっかんだ、ソリーの二重人格 ーラはそれが本物の花でないことを知っていた。 "( を示す外にあらわれたふたつめの証拠だった。 「ほとんど一日、病院につめていることになりそうだわ。」ケートはつかれはてたように一言 った。「ねえ、クリス、 いったいあの子、どうしたっていうのかしらね。」 「だからさ、それをはっきりさせるために入院するんだろう。」クリスは言った。 ( この人、こんなところで何してるのよ ? ) ローラはうさんくさそうにクリスを見やった。ど とど うやらクリスはもともとケートになにか本を届けにくることになっていたらしい。ところが午 後いなくなるとわかったケートが、事情を説明するためにクリスのフラットを訪ねたというこ とだった。クリスは事情を聞くとすぐ、病院には自分の車で送っていこう、大きいし、ヒータ と言ってくれたという。クリスはなん ーもあるから、ジャッコもからだがらくかもしれない、 かのじよ たか "( ツの悪そうな顔をしていた。ケートがクリスのところに行ったのは、本当に彼女のいう とおり、クリスをがっかりさせちゃいけないと思ったからだ。クリスはそれほど、ケートにと って大事な人なんだ。たいていは後になって約東を思い出すのが関の山なのに、そう、ローラ は思って、胸がちくちく痛んだ。 「ローラ、どれぐらいかカるか、わからないの : : : 」ケートが言いだした。 しようこ 155

4. めざめれば魔女

もう、あの子は死ぬんたってわかってたような気がするわ。」 ケートは冷静で落ち着いていた。疲れて、顔色も悪く、やつれていた。ローラは、今、この しゅんかん すいみんぶ 瞬間にも自分のからだ全体がバラのような輝きに満ちているのを申しわけなく思った。睡眠不 そく 足と泣いたのとで目が赤くなっていても、いろいろな事のあった三十五年を生きて、しわが見 られるにしても、ケートの美しさにはかなわない。やつれていても、どことなく気品があるの だ。これまでも、よく、ケートがきれいなのをうらやましく思っていたローラは、今もケート のこの気品がいくらかでも自分にあったらと思った。ローラは、また、自分の見るからにエネ かん ルギーあふれるようすがケートの癇にさわっているのもわかっていた。、、、 がこの誤解は時が解 決してくれるのを待っしかないたろう。自分を元気いつばい輝いて見える状態にもっていった のは、ジャッコが具合が悪いからで、悪いにもかかわらす、ではないことを今説明するわけに しし ? 」ローラは」いた。 「ジャッコのそばにいてやっても、 「ええ、ふたりして、そうしましょケートは答えた。 「みんなでそうしよう。」スティー ブンも割って入った。けれど、実際にはスティ そう長くはいっしょにいられなかった。 かがや かがや 、、フンは 312

5. めざめれば魔女

「ああ、なんてこと ! 」ケートはあまりのおそろしさにあえぎながら、つぶやいた。「 0 ー ラ、この子、もうだめよ、死ぬわ ! 」 いや、ジ〉「はまだ死にはしなか 0 た。そうこうするうちジ ~ 〉「はついにぐ 0 たりとし て、一、二度大きく口を開けた。あんまり大きく開けたので、のどの奥までまる見えにな 0 た。 ねむ それからジ ~ 〉「はことんと眠りにおちて、いびきをかきはじめた。ケートはジ ~ , 「のまわ りをうろうろするばかりだ 0 た。起こして抱きしめてやりたい気持ちと、動かしてもしものこ とがあ 0 てはとの不安がケートの中でせめぎあ 0 ていた。 「お医者さんに電話して ! 」ケートがどなった。 「いえ、電話はあたしがかける。ローラは ジャッコのそばについてて。」 「サリーの家へ、さあ、早く , ローラはせかした。 「ため、るすよ ! 」ケートは言 0 た。「土曜の午前中は水泳教室だもの。しかたがない、公 衆電話ね。ええと、小銭は ? 必死の小銭さがしが始ま 0 た。役にも立たない小銭はいつもならこの世に掃いて捨てるほど けいかいしん ありそうに見えるのに、 いざ、本当に必要な時になると、警戒心の強いゴキ。フリみたいに、ち 0 としたすきまや物の下に人りこんで出てこようとしない。それでもケートは、ぐち「ては 136

6. めざめれば魔女

さけ 「髪までセットして ! 」ローラはかっとなって叫んだ。「今週はお財布からつ。ほじゃなかっ たの。」 だいじようふ 「来週にそなえて、倹約してたのよ。もう大丈夫。」ケートは答えた。ケートは現実生活を 生きる母親というより、夫や家族のためにいつも身ぎれいにしていて、新しい洗剤に大よろこ びするテレビに出てくる母親に近い。「あんたたちのことはサリ ーのお母さんに頼んでおいた から。」ケートはローラの気持ちにおかまいなく言った。 ローラが一刻も早く書店にたどりついて、ジャッコのことで負っている責任をほかの人にも 負ってもらいたいとどんなに願っていたか、そして、ケートの関心があらぬほうにいってしま っているのを見て、どんなにがつくりしているかにケートはまるで気づいていなかった。 ふきけん 「あのアメリカ人ね。、ローラは不機嫌に言った。 「そう。クリス・ホリーよ。 いっしょに外出しようって言ってきたの。」ケートはまるでロ ーラをこわがってでもいるように、おすおすと言った。「そんないやな顔しないでよ、ローラ。 外へ遊びにいくなんて、もうすいぶん長いことしてないわ。あたしだって、たまにはコンサー トぐらい行って、 しい音楽に酔いしれてみたいわよ。」 「でも、ジャッコを見てよ ! 」ローラはそう言って弟を前に押したした。自分の声に勝ちほ かみ さいふ せんざい たの

7. めざめれば魔女

「ローラ、そんな心配そうな顔をしないでよ ! 、ケートはつらそうに言った。 「おかしなこと言うのね。」ローラはロ答えした。「自分で心配そうな顔しておいて、あたし にはするな、なんて。 ひそう 「母さんはできることならあんたの分まで引き受けたいの。」ケートは悲愴な声で言った。 「いざとなったら、母さんはなんたって耐えられると思うけど、でも、あんたは守ってやりた いのよ。」 「それで父さんが来ることも知らせてくれなかったってわけね。、ケートは答えなかった。 「必す来るって確信がなかったから。あんたにがっかりさせたくなかったのよ。」ケートは ようやく一言った。 「がっかりするだって ! 」ローラは本気になってわめきだした。「あの人、いったいぜんた ここで何をしようっていうのよ ? ジャッコのことなんて、ほとんどなんにも知らないの たんじようび よ。この前の誕生日だっておぼえていてさえくれなかったじゃない。 むすこ ローラ、」ケートは注意した。「あの人、自分の幼い息子がひどく具合が悪いって 知っても、今は動しないで、無情な男でいなくちゃならないのよ。でも、スティ ーブンは何か っていうといつも心動かされる、やさしい人だったの。ところが、そういうところがあたしは 237

8. めざめれば魔女

したが、ローラに伝言を伝えると、それでもひとこと、うちへ来ていっしょにテレビを見ない か、とさそ「てくれた。ジャッ「が目を覚まして泣いても、大丈夫、となりだから聞こえるわ カローラはそう言われても首を横にふ「た。ジャッコのことが心配 よと、サリーは言った。、、、、 = 」「たし、ケートが遅くなることにが 0 くりしてもいたからだ 0 た。ひょ 0 としたら、また、 とローラは思った。 車の具合でも悪くなったのかもしれない、 げんかん ケートはその晩、いつもより四十五分遅れて帰ってきたが、玄関をあけて入ってきたのはケ ートひとりではなかった。店にひとりたけいたあの長髪の男、立ち読みするだけで、買う気の なさそうに見えた男がいっしょだった。 「お客さまよ。」ケートは言わすもがなのことを言 0 た。ローラは目をみは 0 た。ケートは いたすら「。ほい表情をし、いつもの木曜の夜と比べるとす「と元気で、いきいきしていた。靴 を脱ぎすてていすにへたりこんだりしなかったし、テーブルにひじをついてフィ じまん ・チップスを食べることもしなか 0 た。ケートはレストランのウ = イターが店の自慢の料理 ぎようギ」よう ーで買ってきたフィッシ = ・アンド・チップス のふたをとってみせる時の仰々しさで、ソー さけ の新聞の包みをあけると、「これはいけるわ ! 」と叫んだ。「ローラ、今夜はけ 0 こう、おいし いわよ。」ケートは一言った。 0 、 ちょうはっ たいじようぶ

9. めざめれば魔女

と、クリスが座席の予約をしていてくれたら、その座席番号もね。なんかあったら、二十分以 内にここにもどってこられると思うわ。だから、心配しないで。ひと晩、母さんがでかけるか らって、そんなにかっかすることないでしよ。」 ケートは動じていなかった。ケ ートの言うのも、まあ、もっともだとローラは認めないわけ に。いかなかった。ローラは自分がどうしてこうも腹をたてたのかわからなくなり、なんだか がおろした ひどくみじめな気持ちになった。それで、目で半分あやまり、しばらくしてケート いっちょうら せいいつばい てのストッキングをはき一張羅のドレスを着た時には、すてきよ、と精一杯やさしく言った。 けれど、実際に出てきた声は意図に反して、本心をそのまま映しているかのように少しも心が こもっていす、ローラは自分で言っておいて、おどろいてしまった。 が、少ししてローラはもっとおどろくはめになった。ケートが早目にやってきたクリスに、 ジャッコの具合が悪く、この分では心配でとてもコンサートをたのしめそうもないから、やっ きつぶ ばりでかけるのはよす、と言ったのだ。切符のむだづかいよ、だってこの分ではたぶんあなた まで不愉央にしてしまうもの、とケートは言った。ケートはローラに言われてあれこれ考え、 げんかん また気を変えたのだ。クリスは満面に笑みを浮かべて、うきうきしながら玄関からとびこんで らくたん きたものの、ケートのことばを軽く受け流して落胆をかくそうか、それとも自分の気持ちに正 ふゆかい

10. めざめれば魔女

しゅんかん ったからって、これ以上ケートを傷つけることはないと思ったし、この瞬間、ローラの中で憎 しみの炎が燃え上がったからだ。ローラは、クリスがケートと仲良くするのを見ているうちに、 しりめつれつ ふいに、たとえ支離減裂といわれようが、「さあ、ケートとローラとジャッコ三人だけの幸福 な一年は終わったんだ。二度とふたたびもどってはこないよ。」と言われているような気がし だしたのだった。 ところが、どこのだれだか知らない人といわれて怒りたすかと思ったのに、クリスはローラ の顔をまじましと見て、また腰をおろしてしまった。 「ぼく、きみのことを責めてるみたいに見えるかい ? それからケートのことも ? 」クリス はきいた。 「ええ、見えるわ。母さんのせいじゃないのに、どう見たって母さんのこと、いじめてるみ こいに見えるわよ。」ローラはつんつんしながら言った。 きようみしんしん 本来なら、そんなふうに言われたらむっとしてもよさそうなのに、クリスは今や興味津々、 おもしろ じゃま むすめ ローラがケートの邪魔な娘からローラ自身にもどって、やっと面白くなりだしたといわんばか りの表情で、ローラを見つめだした。 「それが本当だとしたら、ちょっとつらいな。」クリスはややあって言った。クリスが終始 ほのお おこ